遺言書が偽造されているかもしれないが、どのように確かめればよいのだろう……。
「親が遺言書を残しているが、その筆跡がどうも本人のものではないような気がする」
「特定の相続人にだけ有利な内容になっている」
など、遺言書の偽造が疑われるケースは案外少なくありません。
そこで今回は、
- 遺言書の「偽造」の定義
- 遺言書に偽造の疑いがあるときの対応手順
- 偽造された場合の相談先
について、それぞれ詳しくご紹介していきます。
すでに遺言者が亡くなっている場合はもちろん、親族間に揉め事があり、これから作成される遺言書が偽造されそうな場合にも、この記事が相続トラブルを避けるためのお役に立てば幸いです。
遺産相続のトラブルについて、知りたい方は以下の記事をご覧ください。
目次
1、遺言書の「偽造」とは
まず、遺言書の「偽造」の意味について、しっかり確認していきましょう。
(1)遺言書を作成する権限者
遺言書を作成するのは、被相続人です。
自分で書く遺言書を「自筆証書遺言」といいますが、自筆証書遺言の場合、被相続人以外の方が代筆することはできません。
また、「公正証書遺言」では、公証人となります(自筆証書遺言と公正証書遺言については(4)参照)。
(2)「偽造」とは権限のない者が「書く」または「書き換える」こと
遺言書の「偽造」とは、上記の権限者以外の者が作成したり、本質的な部分について書き換えることを言います。
自筆証書遺言では、被相続人は「訂正」をすることができます(一定の方式が必要です)。
そのため、被相続人が訂正をしたように見せかけて第三者が書き換える、ということも物理的にはできてしまうのです。
(3)偽造や変造の問題が残る遺言書の種類は「自筆証書遺言」
遺言書は、作り方によって3種類に分けられます。
1つめは「自筆証書遺言」といい、被相続人(亡くなった方)自らが自筆で書く遺言書です。
2つめは「公正証書遺言」といい、公証役場において公証人という人が被相続人の意思に基づき作成する遺言書です。
3つめは「秘密証書遺言」といい、公証役場において作成するものの、公証人が内容を把握せずに作成する遺言書です。
「公正証書遺言」と「秘密証書遺言」は、被相続人が書いたものを公証役場で保管するため、偽造の心配は低いと言えます。
一方「自筆証書遺言」は、遺言書は被相続人自らが保管することもあるため(令和2年7月10日からは、法務局での保管制度も開始します)、実際誰が書いたのか客観的に判断することが難しく、また被相続人が書いたとしても、偽造・変造される余地が残されてしまうのです。
2、偽造された遺言書は無効
(1)偽造された遺言書は「自署」の要件を満たさない
自筆証書遺言が有効となるための要件は、次の通りです。
- 全て自署(被相続人が自分で書いたもの)であること
- 作成日付が書かれていること
- 被相続人の署名があること
- 押印(実印でなくてもOK)があること
- 記載内容が他人が読んでも意味がわかるものであること
- 被相続人が15歳以上であること
- 遺言書を作成したとき、意思能力(自分の行為を判断する能力)があること
- 訂正がされている場合は、訂正に関する所定の方式で行われていること
(2)偽造された遺言書は無効
権限を持たない者が作成した、または本質的な部分を書き換えた自筆証書遺言は、「全て自署であること」という要件を満たさないことになります。
有効となるための要件を欠いている、つまり、偽造された遺言書は、無効となってしまうのです。
その他、先程の要件を満たしていなければ無効となります。
3、「偽造」を証明する方法
偽造された遺言書であるとして無効を訴えたい場合、偽造されたという証明をしなければなりません。
偽造されたことの証明方法には、どのような方法があるのでしょうか?
(1)筆跡鑑定
遺言書が偽造されたものかどうかを確かめるのに、最もよく用いられる方法が筆跡鑑定です。
筆跡は、同一人物のものであってもその日の体調や使用した筆記具、文字を書いたときの姿勢などによって微妙に変化するため、本当に本人のものなのか、それとも他人が本人の筆跡を真似ているものなのかは専門家でなければ見分けることができません。
一般的に、筆跡鑑定では本人が書いた手紙などの筆跡と遺言書の筆跡を比較しますが、偽造した人の目星がついている場合は、偽造者の普段の筆跡が分かる資料も用意できると、さらに鑑定の精度を上げることができます。
ただし、現在のところ筆跡鑑定に公的な資格があるわけではないため、鑑定人の能力によって結果が異なるケースのあることも事実です。
裁判前にあらかじめ行った筆跡鑑定で「筆跡が一致しない(=偽造)」という結果が出ていても、相手方からの請求で改めて裁判所の選任した鑑定人が鑑定を行った際には逆の結果が出ることもあります。
裁判前の資料として筆跡鑑定を行うときには、鑑定人の実績などを参考に慎重に依頼先を検討する必要があるでしょう。
(2)その他
①被相続人の生前の様子から不自然さがある
被相続人であれば使わない道具(ペンの種類、色、紙など)が使われていたり、言葉遣いに不自然さを感じたり、作成の時期の様子からは書けないような内容であったりと、身近な方であればこそ感じる不自然な点も偽造を推認させるものとなり得ます。
②被相続人と相続人・受遺者との関係に不自然さがある
被相続人と遺言書に書かれた相続人や受遺者との関係性から、こんな遺言残すかしら・・・という不自然な点も偽造を推認させるものとなり得ます。
③遺言書の発見に不自然なことがあった
自宅で保管された自筆証書遺言では、遺言書があるのかないのかすら、公言されていなければ周囲が知るところではありません。
そのため、その存在を誰も知らなかったという場合は、誰かが「発見」したということになるのですが、この「発見」において、なんらかの不自然な点があれば、それも偽造を推認させるものとと言えるでしょう。
4、偽造かもしれないと思ったときの対応手順
(1)家庭裁判所で検認手続き
そもそも自筆証書遺言は、家庭裁判所で「検認」という手続きを経なければその内容を法的に有効にすることができません。
偽造が疑われる場合、「偽造された遺言書が有効になってしまっては困る!」ということで検認を避けたいと思われるかもしれませんが、たとえ偽造の可能性があったとしても、手続き上は一旦検認を行う必要があるので注意してください。
また、遺言書が封印されている場合、その中身を確かめるためには家庭裁判所で相続人全員の立ち会いのもと開封しなければなりません。
勝手に開封してしまうと、上記を定めた民法1004条違反になってしまいますので、あわせて気を付けましょう。
(2)無効確認の訴えの提起
検認後、偽造が疑われる遺言書については無効確認の訴えを起こすことができます。
原則としては訴訟の前に家庭裁判所で家事調停を申し立てる流れになりますが、相続における遺言書のトラブルは多くの場合関係者間の対立が激しく、話し合いでは解決できないケースがほとんどなので、すぐ訴訟に進むことも少なくありません。
この調停や訴訟の中で偽造と疑った証拠を提出し、結果偽造と認められれば、その遺言書は「無効」となります。
(3)無効が確定したら遺産分割協議を
無効となった暁には、全相続人であらためて遺産分割協議をし、遺産をどのように配分するか、話し合いで決めていくことになります。
5、偽造者にペナルティはあるの?
遺言書を偽造し、様々な手間をかけさせた偽造者。
本来、偽造者が法定相続人であれば、遺産分割協議に参加する権利を持ちます。
しかし、裁判によって遺言書の偽造が認められた場合、偽造を行った者は相続人としての資格を失い、一切の財産を相続することができなくなります。
これを、相続欠格といいます(民法891条)。
相続欠格者は、遺産分割協議に入れなくても問題ありません。
欠格者とするための審判などは一切不要です。
6、偽造されない遺言書を残すにはどうすれば良いか
ここまで見てきたような偽造トラブルを招かないためには、遺言書自体を自筆証書遺言ではなく公正証書遺言で作成しておくのがおすすめです。
公正証書遺言は、遺言を残す本人と公正証書を作成する公証人、そして証人2人の立ち会いのもと公証役場で作成する遺言のことで、公証人は遺言者の本人確認を済ませてから作成に取りかかる決まりになっています。
また、完成した遺言書の原本は公証役場で保管されるため、第三者による盗難や紛失のリスクは極めて低いでしょう。
そんな公正証書遺言でも、本人の実印と印鑑証明書を持っていれば、本人に成りすまして作成することができてしまうことから偽造を完全に防げるわけではありません。
しかし、本人だけで作成でき、保管場所の安全性も不確かになりがちな自筆証書遺言に比べれば、生前にできる偽造対策としてはベストな選択肢であると考えることができます。
7、2020年7月10日から自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる
「公正証書遺言ではなく、やっぱり自筆証書遺言を残したい」という場合にも、2020年7月10日からは偽造のリスクを軽減することができるようになりました。
民法改正により、これまで保管場所に困る人の多かった自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになるため、改ざんや紛失の心配が不要になるのです。
この制度は、必ず本人が法務局に出向くことが利用条件のひとつになっており、代理人による申請もできません。
保管中の遺言書の閲覧や、保管の撤回(遺言書の返還)も本人にしかできない決まりになっているため、遺言書の秘匿性や安全性を守ることができるでしょう。
8、偽造かもしれない、偽造された場合は弁護士へ相談を
残された遺言書が偽造されたものかどうかを確かめるには、筆跡や遺言書が書かれた経緯、保管状況など様々な事実を検討する必要があり、各ステップで専門家による判断が欠かせません。
また、実際に遺言書を無効とするためにはそれらの事実を裁判で主張しなければならず、手続きをスムーズに進めていくためにも、まずは弁護士への相談がおすすめです。
弁護士は、偽造に関連したその他の相続トラブルにも迅速に対応することができます。
何かお困りのことがある際には、ぜひあわせてご相談ください。
まとめ
遺言書の中でも、自筆証書遺言は特に偽造されるケースが多く、あらかじめ偽造のリスクを軽減しておきたい場合には公正証書遺言を選ぶのが安心です。
ただし、公正証書遺言も万能ではなく、作成に費用がかかることや証人の立ち会いが必要なこと(=証人には遺言の内容を知られてしまうこと)など、デメリットもあります。
2020年7月からは自筆証書遺言を法務局で保管できるようになることから、自筆証書遺言でもこれまでよりは偽造のリスクを抑えられるようになりますので、作成の手軽さやどの程度遺言の秘匿性を重視するかなど、本人の希望に合わせて形式を選択しましょう。
また、すでに作成された遺言書に偽造の疑いがあるときには、まず弁護士までご相談ください。
無効を争う裁判の準備も含めて、トータル的にみなさんのサポートをさせていただきます。