旧優生保護法の何が悪かったのか?当時の法律と救済制度について

旧優生保護法の何が悪かったのか?当時の法律と救済制度について

1996年(平成8年)まで存在した「優生保護法」は、障がいや疾病を抱える人々に不妊手術を強制した法律です。明らかに人権侵害にあたるこの法律を巡っては、約20年経過した今になって、やっと国家賠償や一時金支給法の運用が始まりました。

これより先は旧優生保護法と呼ぶものは、一体何が問題だったのでしょうか。

規定について解説すると共に、身の回りの当事者に教えてあげられるよう、補償の状況も案内します。

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1、旧優生保護法とは~内容と成立の歴史

旧優生保護法とは、人工妊娠中絶もしくは不妊手術の条件を定める法律です。当時の条文を見ると、今日の法律に見られる母体保護の目的だけでなく、別に「優生上の理由」で手術することもあると規定されています。これが多くの人を苦しめ、法改正に至った原因です。

“第一条 この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。”

優生上の理由による手術は、行える条件によって2種類に大別できます。1つはこれまで取り沙汰されてきた強制不妊手術、もう1つは母体保護等の目的と並んで任意とされる優生手術等です。

※条文は国会の制定法律情報(リンク)で確認できます。

(1)強制不妊手術【第4条型・第12条】

今日の不妊手術は本人の同意に基づいて行われるべきとされますが、旧優生保護法には例外があります。遺伝性かつ強度の障がい等を負う人については、医師または保護義務者等からの申請により、都道府県優生保護委員会の審査だけで不妊手術はできるとされていたのです。

なお、不妊手術の呼び方に関して、当時の法律は「優生手術」で統一しています。

▼強制優生手術の対象となる人

別表の分類

現在の定義による病名等

①遺伝性精神病

統合失調症、双極性障害、真性てんかんと診断された人

②遺伝性精神薄弱

知的障がい者

③強度且つ悪質な遺伝性精神変質症

性犯罪を起こす可能性がある人、および性加害を行った人

④強度且つ悪質な遺伝性病的性格

①の病前の状態にある人

⑤強度且つ悪質な遺伝性身体疾患

ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等

⑥強度な遺伝性奇型

多指症・合指症等

(2)任意の優生手術等【第3条・第14条】

本人同意の下で行う人工妊娠中絶および優生手術は、諸々の理由から手術を望むケースと並び、一定の要件を満たす人も対象者とされました。遺伝性疾患を有する人と、長らく遺伝性と信じられて差別されてきたハンセン病を有する人です。該当者の親族も、配偶者と4親等以内の血族まで手術の範囲に含められています。

この後触れますが、手術について実際に「任意」だった確証はありません。事実、未成年者と精神・知的障がい者については、保護義務者の同意をもって本人の同意に代えられる規定があります。

(3)旧優生保護法が成立した理由【何のためにできたのか】

旧優生保護法の成立背景になったのは、戦後の急速な人口増加です。当時の日本では、経済的復興が進まないうちに国外からの大量帰還を受け入れたことで、雇用や福祉が行き渡らなくなっていました。この状況を受け、産児制限(=誕生する子どもの数の抑制)で対応しようと考えられ始めたのです。

具体案として当時の国会で議論されたのは、既に戦前から存在する「国家優生法」につき、優生手術を受けるための手続きを簡単にする方法でした。この時、障がい等を理由に子どもを産めなくする考え方にはほとんど異論がなく、むしろ奨励されるべきとさえ言われています。

(4)母体保護法に改正された理由【何が悪かったのか】

旧優生保護法は1990年代に「母体保護法」へと改められ、障がい者を対象とする条文は全て削除されています。現在行われる不妊手術および人工妊娠中絶は、健康上の問題や経済的事情、あるいは性被害によるものです。

改正に至った直接のきっかけは、女性団体や障害者団体による人権侵害との指摘です。実態としては、たったその一言では済ませられない大きな苦しみに満ちていたと考えられます。以下で旧優生保護法の問題点を4つに整理してみましょう。

参考:旧優生保護法下における優生手術及び人工妊娠中絶等に対する補償立法措置に関する意見書(日弁連/2018年)

①障がい者の生存権を侵害する

まず言えるのは、健康な子孫(=優生)だけ選り分けて残すべきとする価値観が根底にあることです。

学術的には「優生思想」と呼ばれ、障がい者の生存権の否定に繋がるとの考え方が1970年代までに固まりました。個人としては色々な考え方がありますが、政治や行政に用いるのは決して許されない思想です。

②子どもを産む/産まないに関わる自己決定権を侵害する

旧優生保護法と人権の関係として、他の角度から憲法13条の幸福追求権を侵害すると指摘できます。正確には、幸福追求権に含まれる自己決定権、そのうち「出産するかしないか自分で決める権利」です。出産にかかるこの権利は、国際的にはリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)と扱われます。

③事実上ほとんど手術が強制されていた可能性がある

優生手術等の対象者の状況を考えてみると、本人の同意に基づくように見せかけて、実際には大半が強制的に受けさせられていた可能性があります。

あり得るのは、未成年者に説明なく手術が行われ、成長してから「子どもを作れなくなった」と自ら気づいて愕然とするケースです。他にも、手術の同意が福祉施設入所の条件だと迫られ、障がい者支援のため泣く泣く受けるような場合もあったと思われます。

④障がい者等に対する不当な差別・偏見の原因となった

当時優生手術を受けた人は、その事実を結婚相手に通知する義務を負いました(第26条)。また、結婚や受胎調整の相談に対応する「優生保護相談所」が設置され(第20条~24条)、障がい者等とその親族を“色分け”するような措置も行われています。

上記の事実から、出産を元々望んでいたかそうでないかに関わらず、多くの人が不当な差別や偏見にさらされたと考えられます。

2、旧優生保護法下の被害について~手術対象者と実施期間

旧優生保護法は約50年も存在し、70年代に入る頃までは毎年数百人単位で手術を受けていました。

なお、1人ひとりの特定は現在までほとんど進んでいません。以下の情報から、周囲の人が「優生手術を受けたことを胸に秘めたままかもしれない」と気づいてあげたいところです。

(1)優生手術はいつまで行われていたのか

障がい者等に対して優生手術が行われていたのは、旧優生保護法が存在した1948年(昭和23年)9月11日から1996年(平成8年)9月25日までの間です。

上記期間に生殖機能に関する処置を受けた人は、この後説明する一時金支給制度を利用できる可能性があります。

(2)法改正までに優生手術を受けた人の数

旧優生保護法が存在した約48年の間、障がい等を理由に優生手術を受けた人は約2万5千人に及びます。統計情報から国立国会図書館の専門調査員がまとめたレポート(リンク)に基づいて計算してみると、内訳は以下のようになります。

  • 遺伝性疾患を有する人…21,531人
  • 非遺伝性精神疾患を有する人…1,909人
  • ハンセン病を患う人…1,551人

3、旧優生保護法一時金支給制度について

旧優生保護法がなくなってから23年目の2019年(平成31年)4月24日、ついに「心から深くおわびする」の一文から始まる一時金支給法が成立しました。当時不妊手術を受けざるを得なかった人々は、申請および認定により、一定の金額をもらえるようになります。

注意したいのは、当面は施行日から5年経過する日が請求期限である点です(法第5条3項)。後日延長される可能性はありますが、当事者らしき人が身の回りにいれば、気持ちに配慮しながら早めに情報提供してあげると良いでしょう。

(1)一時金の金額

法律により優生手術等を受けた人に支給される額は、一律320万円とされています(法第4条)。2022年5月現在だと、金額加算の条件等は一切設定ありません。

なお、請求にあたって診断書作成料がかかった場合は、申請後認定が下りた場合に限って上限5千円まで別に全額支給されます(法第23条)。

(2)一時金の支給対象となる人

一時金の請求ができる人については、旧優生保護法に存在した期間に「優生手術を受けた人」または「生殖を不能にする手術等を受けた人」と指定されています。いずれも生存する本人であることが条件で、相続人等による申請は出来ません。

また、母体保護や疾病の治療、出産を望まない等の理由で受けたことが明らかな人は、当然申請の対象から外されます。

(3)一時金請求の手続き方法

上記対象者からの一時金請求は、保健所もしくは各都道府県庁の担当窓口で受け付けています。必須提出物のうち手術痕に関する診断書等は(下記②)は、受診にあたって心理的ストレスが大きい場合、申請窓口と相談して提出を省くことも可能です。

  • 請求書(所定の様式1)
  • 診断書+領収書(所定の様式2~3)
  • 氏名および住所や居所を証明するもの(住民票の写し等)
  • 請求書記載の振込先口座が確認できるもの(通帳やキャッシュカードの写し)
  • 請求の事実に関する証明書類※

※障害者手帳、戸籍謄本、当時の関係者の陳述書、都道府県や医療機関から入手した優生手術の実施に関する書類等が挙げられます。

(4)記録散逸による認定の難しさ

一時金支給の認定では、支給対象者であるか確認するため、提出された書類を確認すると共に役場・医療機関・福祉施設等の記録が調査されます。それでも一時金支給対象者であるとはっきり分かるものが出てこなければ、厚生労働大臣から認定審査会に案件が送られ、そこで「明らかに不合理ではなく、一応確からしいこと」を基準に審査する流れになります。

ここで厚労省サイトの一時金支給法ページ(リンク)にある審査情報を見ると、2021年の審査件数は149件です。このうち同年中に90件の認定が下りており、保留となったケースを追跡せずに計算すると、6割程度の認定率に留まっています。

恐らくですが、差別や偏見を恐れて長らく沈黙を守っていたことや、本人にとって身近な人が鬼籍に入り始めて客観的証言が取りづらくなっている状況が関係していると思われます。

4、旧優生保護法訴訟の最新ニュース~国家賠償はしてもらえるのか~

ここまで解説した一時金支給法は、2015年頃から始まった国家賠償を求める動きに由来しています。どの裁判でも旧優生保護法が違憲であることは認められてきましたが、しかし肝心の損害賠償については、20年の時効(正確には除斥期間/現行民法724条2項)を理由にもらえない状況が続いていました※。

しかし最近になって、除斥期間を認めず国に支払いを命じる判決が出始めています。

※仙台地裁令和元年5月28日判決等

(1)大阪高裁令和4年2月22日判決【控訴審】

近畿地方の3人の男女が計5,500万円を請求するも認められず、控訴審で計2,750万円の支払いが命じられた、旧優生保護法訴訟では初めてのケースです。

争点になった除斥期間については、本判決は、除斥期間の適用を制限しました。これは、旧優生保護法の規定による人権侵害が強度であり、除斥期間の適用をそのまま認めることは、著しく正義公平の理念に反すると評価されたためです。

金額については、基本的人権に含まれる「幸福追求権」を侵害されたことに加え、弁護士費用が考慮されています。

※判決文全文はこちら(リンク

(2)東京高裁令和4年3月11日判決【控訴審】

14歳で不妊手術を受けた男性が3,000万円を請求し、控訴審で1,500万円の支払いが命じられて逆転勝訴となったケースです。

争点になった除斥期間について、その経過を認めることは「著しく正義・公平の理念に反する」と裁判所は認めました。その理由として、一時金支給法の制定を受けてようやく被害を明確に認識できたと認められること、そして上記法律の請求期限等が挙げられています。

金額については、交通事故の慰謝料相場を参照し、不妊手術の結果が後遺障害等級7級相当であることをベースに加算する形で考えられています。

※判決文全文はこちら(リンク

5、旧優生保護法について相談したい時は

優生手術等の当事者は、ただでさえ障がいや疾患のため出来ることに制限を受けており、高齢化も相当進んでいます。救済されるべき事実が20年以上前にある点で、状況や質問したいことが自分でも分からなくなっているかもしれません。

旧優生保護法について少しでも気になることがあれば、以下の窓口に問い合わせるとスムーズです。

(1)自治体の受付・相談窓口

優生手術の実施状況を含めた本人や家族の相談は、概ね市区町村役場の保健福祉を担当する窓口で対応してもらえます。一時金支給法に関する質問なら、厚生労働省の特設サイト(リンク)でまとめられている都道府県別の受付・相談窓口に問い合わせましょう。

(2)各地の弁護士会および法律事務所

当事者1人ひとりの状況に合わせた対応を細かく聞きたい時は、弁護士への相談がベストです。各地の弁護士会でも、電話相談会やFAXによる質問受付を行うことがあります。

弁護士が法律トラブルの専門家として対応できる可能性が高いのは、次のようなケースです。

  • 高齢もしくは障がいのため、各種手続きに不安がある
  • 優生手術等について証明する手段がない(方法を教えてほしい)
  • 関係施設(病院や福祉施設)が情報開示に応じてくれない
  • 関係者と連絡を取りたいが、心理的ストレスのためできない
  • 国家賠償について知りたい

旧優生保護法に関するQ&A

Q1.一時金の金額は

法律により優生手術等を受けた人に支給される額は、一律320万円とされています

Q2.一時金の支給対象となる人とは

一時金の請求ができる人については、旧優生保護法に存在した期間に「優生手術を受けた人」または「生殖を不能にする手術等を受けた人」と指定されています。

Q3.一時金請求の手続き方法とは

  • 請求書(所定の様式1)
  • 診断書+領収書(所定の様式2~3)
  • 氏名および住所や居所を証明するもの(住民票の写し等)
  • 請求書記載の振込先口座が確認できるもの(通帳やキャッシュカードの写し)
  • 請求の事実に関する証明書類

まとめ

旧優生保護法下では多くの人が選択肢を制限され、社会的な差別・偏見にもじっと耐えてきた歴史があります。

被害者の多くは既に高齢です。もし当事者になっている可能性があれば、弁護士等の相談窓口へ早めに問い合わせましょう。

▼旧優生保護法で理解しておきたいこと

  • 不妊手術は1996年9月25日まで行われていた
  • 申請+認定で320万円もらえる救済制度がある(一時金支給法)
  • 一時金の申請期限は施行日から起算して5年(延長される可能性あり)
  • 身の回りに当事者らしき人がいれば、差別や偏見を恐れる気持ちに配慮する

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