ゲーム条例はどこが問題?3つのポイントでわかりやすく解説

ゲーム条例

スマートフォンが普及したことによって、わたしたちの生活はとても便利になったといえます。
もっとも、その弊害も徐々に目立ち始めています。その典型例の一つは、歩行中・運転中などの「ながらスマホ」の類ですが、スマホやスマホアプリ・ゲームへの依存も社会的な問題として認識されています。

今回紹介する「ゲーム条例」は、主として子どものスマホ・ゲーム依存を予防する目的で香川県が制定したものですが、その内容や制定過程には問題があることも指摘されています。

さらには、今年(令和2年)4月には、香川県内の高校生が「本条例は憲法違反にあたる」として、香川県を相手に損害賠償請求訴訟を提起したことでも大きな話題となっています。

そこで今回は、

  • このゲーム条例の内容
  • 現在指摘されている問題点

などについて解説していきます。本記事がお役に立てば幸いです。

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1、ゲーム条例とは?

ゲーム条例とは?

「ゲーム条例」とは、令和2年3月18日に香川県議会で可決され、4月1日から施行された「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」のことをいいます。

この条例は、その名前のとおり、未成年のゲーム依存症を予防する目的で制定されたものですが、行政による私生活(プライベート)への干渉にあたるとも考えることができることや、条例制定のプロセスにも疑義があることなどから、マスメディアでも大きく取り上げられ話題になりました。

2、ゲーム条例の主な内容

ゲーム条例の主な内容

香川県が制定したゲーム条例は、全20条の規定で構成されています。
具体的には、条例の目的・定義規定や県や学校などの責務などについての規定が設けられていますが、その中でも、最も注目されているのは、下記に引用する第18条の規定についてです。

ゲーム条例18条(子どものスマートフォン使用等の制限)

保護者は、子どもにスマートフォン等を使用させるに当たっては、子どもの年齢、各家庭の実情等を考慮の上、その使用に伴う危険性及び過度の使用による弊害等について、子どもと話し合い、使用に関するルールづくり及びその見直しを行うものとする。

2 保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が 60 分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後  10時までに使用をやめることを基準とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない

3 保護者は、子どもがネット・ゲーム依存症に陥る危険性があると感じた場合には、速やかに、学校等及びネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等に相談し、子どもがネット・ゲーム依存症にならないよう努めなければならない。

※下線は筆者によるもの

この18条は、子どもにスマートフォン等を使用させる保護者に対して、次の努力義務を課しています(違反した場合の罰則はありません)。

  • 子どもにスマートフォンを使用させるときには、年齢等の事情に応じたルールづくりをしなければならない
  • スマーフォン等を使用できる時間に制限を設け、子どもに遵守させる
  • 子どもがネット・ゲーム依存症に陥る危険があると感じたときには、学校などに相談するなどの対応をとる

 特に、子どもによるスマートフォン等の利用について、

  • 「利用時間は1日60分まで(休日は90分まで)」
  • 「義務教育終了前の子どもは午後9時まで(それ以外の子については午後10時まで)」

という具体的な基準を明示したことは、メディア報道などを通じて大きな話題となりました。

3、ゲーム条例の問題点

ゲーム条例の問題点

ゲーム条例が目的としている「子どものスマホ依存の予防」は、確かにこれからの社会のなかでは、重要な政策目標のひとつであるといえるでしょう。
たとえば、WHO(世界保健機構)も、2019年(令和元年)にゲーム依存を疾病のひとつとして認定し、その予防や克服に向けた施策を打ち出しはじめています。

また、家庭生活に目を向けてみても、スマホ・ゲームへの依存症は、不登校などの原因になるばかりか、子どもを狙った悪質な犯罪被害にあってしまうリスクを高めてしまうこともあり、スマホやゲーム依存を予防するために、何かしらの施策を講じていく必要性があることには間違いがないかもしれません。

しかし、今回香川県が制定したゲーム条例には、その目的はさておいたとしても、いくつかの重要な問題があることも指摘されています。

(1)条例の内容面での問題点

ゲーム条例の問題点の第一は、条例の内容それ自体に疑義がある可能性があるということです。
たとえば、香川県弁護士会は、このゲーム条例について次のような問題点があるとして、令和2年5月25日付けで条例の廃止を求める会長声明を発しています。

①立法事実の欠如

制定過程における説明によれば、このゲーム条例は次のような事情を理由に制定されたものであるとされています。 

  • 香川県の小中学生の学業成績が全国平均と比べて低下していること
  • 子どものネット・ゲーム依存は成人の薬物依存と同様の危険性の高い問題であること
  • WHOがゲーム障害を疾病として認定したこと

しかし、これらの立法事実は必ずしも明確な根拠のあるものとはいえない部分もありそうです。

そもそも、小中学生の学業成績とインターネット・ゲームに興ずる時間に明確な因果関係が認められるという研究などがあるわけではありませんし、ゲーム・ネット依存と薬物依存とを同じレベルの問題として取り扱うべき根拠についても、条例制定の際には明確な根拠が示されているとはいえませんでした。

さらに、WHOによる疾病認定についても、WHOにおけるゲーム障害は、インターネット回線への接続の有無を問わないものであるので、オンラインゲームやインターネット利用を規制の対象としようとする本条例の定義とは必ずしも一致しているわけではありません。

②インターネットやコンピューターゲームの有用性を無視していること

次に、本条例は、子どもによるインターネット利用やオンラインゲームを、客観的な検証を抜きに「悪いこと」であると一方的に決めつけている点にも問題があるといえそうです。

そもそも、現代社会において、インターネットやパソコン・スマートフォン・タブレットなどの端末を利用することは、必須のスキルといえ、これらによるサービス抜きには社会生活も成立しづらくなっています。

つまり、本条例は、「子どもだからネットすべきではない」、「スマートフォンを持つべきではない」という価値観に偏っているきらいがある点で大きな問題があるというわけです。

実際にも、インターネットやコンピュータゲームがきっかけで新しい知的好奇心がはぐくまれることもあるわけですから、「ゲームやネットは子どもにとって悪影響でしかない」という価値観をベースに利用を規制するという発想は「時代錯誤である」との批判を受けても仕方がないように思われます。

③憲法に違反している可能性があること

本条例で最も話題となっている18条2項(子どものインターネット・ゲーム利用に時間制限などを設ける努力義務を親に課す規定)は、憲法や国際条例に違反している可能性がないわけではありません。

たとえば、本条例18条2項は、憲法13条が定めている自己決定権を侵害しているおそれがあるといえます。
この自己決定権というのは、簡単に言えば、「私生活上の重要事項は、公権力の干渉なしに自分の自由意思で決めることができる基本的人権」のことです。

それが子どもであっても、(保護者の監督下で)余暇の時間をゲームやインターネットを自由にすることができるということは、当然の自己決定権といえますから、本条例(特に18条2項の規定)は、行政のあり方としても問題があると考えることもできるわけです。

④国際条例の趣旨にも反している可能性があること

日本は、1999年に「子どもの権利条約」を批准しています(批准国は条約を遵守すべき義務があります)。
子どもの権利条約は、31条において条約締結国に対し、児童に

  • 休息
  • 余暇
  • 遊び
  • レクリエーション活動
  • 文化的生活及び芸術的活動

を行う権利が保障されることを求めています。
子どもがインターネットを通じてウェブサイトを閲覧したり、オンラインゲームで遊ぶことは、この子どもの権利条約31条によって保護されるべき対象といえます。

したがって、明確な論拠や正当性(立法事実)もないままに、「スマートフォンでのインターネットやオンラインゲームは1日○時間まで」というような形で、子どもの余暇の過ごし方に強い制約を課すような本条例18条2項は、この子どもの権利条約とも抵触するものと評価できる余地があるわけです。

また、条例によって具体的な数値目標(21時以降は一律禁止すべきといった内容)をあげて、その遵守を親の努力義務とすることは、行政の定めたルールを子どもに押しつけるものと評価しうる余地がある点で、子ども自身の意見を尊重すべきことを定めている子どもの権利条約12条とも抵触している可能性があります。

(2)条約制定プロセスにおける問題点

このゲーム条例は、その内容だけでなく制定の過程においても次のような問題があるのではないかとの指摘をうけています。

  • 本条例制定のための検討委員会が非公開・議事録作成なしの密室審議で行われたこと
  • ゲーム業界やインターネット関連事業者へのヒヤリングが行われなかったこと(回線通信事業者のみがヒヤリングの対象)
  • パブリックコメント実施における不手際

上記のうち、本条例におけるパブリックコメントについては、同一IPアドレスの端末から同内容の書式・誤字まで同じ文章で書かれた賛成意見が多数提出されたことは、パブリックコメント実施結果の正当性にもかかわる重大な問題であるといえそうです。

まとめ

子どもを抱えた親御さんには、「子どもがスマートフォン・インターネットに夢中になりすぎたら困る」という不安をもっている人も多いと思います。
そのため、今回のゲーム条例のような規制があった方がよいと考える保護者の方もいるかもしれません。

しかし、子どものインターネットやスマホアプリ(オンラインゲーム)の利用は、本来的には家庭内で決めるべき問題といえ、それを具体的な数値基準を掲げた上で行政が規制するということは、本来の行政のあり方との関係でも行き過ぎた対応であるように思われます。
損害賠償請求訴訟の行方も含め、今後の展開にも注目が必要です。

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