労災保険で給付される金額はいくらでしょうか。
業務災害または通勤災害にあった場合には労災保険から給付が受けられる制度があります。実際にはどれぐらいの金額になるのか気になる人は多いはずです。
今回は、
・労災保険、実際の給付がいくらもらえるのか
について、具体例も交えて弁護士がわかりやすく解説します。
いざというときの労災の補償(給付)の額を知っておくことは、万一のときにきっと役に立つでしょう。この記事が皆様方の参考になれば幸いです。
(金額については、変動があり得ます。また説明の便宜上、細かな端数処理などについて説明を省略している部分があります。)
目次
1、労災保険の給付金額の前に|給付の支給事由と内容
はじめに、労災保険給付の種類と内容を一覧で確認しておきましょう。
「○○補償給付」というのが業務災害の場合の給付、「○○給付」というのが通勤災害の場合の給付です。
給付の内容は基本的に同じです。
個別の項目については、次項以下でご説明します。
種類 | 支給事由 | 保険給付の内容 | 特別支給金の内容 |
療養補償給付 療養給付 | 業務災害または通勤災害による傷病により療養を必要とするとき | 必要な療養の給付又は必要な療養費の給付 | |
休業補償給付 休業給付 | 業務災害または通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき | 休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額 | (休業特別支給金) |
障害補償年金 障害年金 | 業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から131日分の年金 | (障害特別支給金) (障害特別年金) |
障害補償一時金 障害一時金 | 業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残ったとき | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日分から56日分の一時金 | (障害特別支給金) (障害特別一時金)障害の程度に応じ、算定基礎日額の503日分から56日分の一時金 |
遺族補償年金 遺族年金 | 業務災害または通勤災害により被災者が死亡したとき | 受給資格のある遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245日分から153日分の年金 | (遺族特別支給金) (遺族特別年金) |
遺族補償一時金 遺族一時金 | (1) 遺族(補償)年金を受け得る遺族がないとき (2) 遺族(補償)年金を受けている人が失権し、かつ、他に遺族(補償)年金を受け得る人がない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき | 給付基礎日額の1000日分の一時金(ただし(2)の場合は、すでに支給した年金等の合計を差し引いた額) | (遺族特別支給金) (遺族特別一時金) |
葬祭料 | 業務災害または通勤災害により死亡した方の葬祭を行うとき | 315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額 | |
傷病補償年金 傷病年金 | 業務災害または通勤災害による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過した日または同日後において次の各号のいずれにも該当することとなったとき | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から245日分の年金 | (傷病特別支給金) (傷病特別年金) |
介護補償給付 介護給付 | 障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち第1級の者または第2級の精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害を有している者であって、現に介護を受けているとき | 常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(105,130円を上限とする) | |
随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(52,570円を上限とする) | |||
二次健康診断等給付 | 事業主が実施する定期健康診断等の結果、脳・心臓疾患に関連する一定の検査項目(血圧、血中脂質、血糖、肥満)のすべてについて異常の所見があると認められたとき※既に脳・心臓疾患の症状を有すると診断されている場合・労災保険特別加入者には給付なし | (1) 二次健康診断 (2) 特定保健指導 |
(注)
1 表中の金額等は平成29年4月1日時点におけるものです。
2 給付基礎日額とは、原則として被災直前3か月間の賃金総額をその期間の暦日数で除した額です。
3 算定基礎日額とは、原則として被災直前1年間の特別給与総額(ボーナスなど)を365で除した額です。
4 労災保険による補償は、保険給付と社会復帰促進等事業に大別されます。
いくつかの保険給付では「特別支給金」が上乗せされます。例えば、休業[補償]給付の場合、社会復帰促進等事業から休業特別支給金も支給されます。
すなわち、休業[補償]給付から給付基礎日額の6割、休業特別支給金から2割、合わせて8割相当の補償が行われます。
(出典:厚生労働省労災保険に関するQ&A 1-2 各労災保険給付の支給事由と内容について教えてください。)
注5については(社) 安全衛生マネジメント協会 労災保険の基礎知識 – 具体的な補償内容
2、療養補償給付・療養給付
業務災害または通勤災害による傷病により療養するときに、必要な療養の給付又は必要な療養の費用が給付されます。
次の点に注意しておいてください。
(1)療養費は傷病が治癒(症状固定)するまでの補償
ここで「治癒」というのは、傷病の症状が安定し、これ以上医療効果が期待できなくなった状態、ということです。
完治しなくても、これ以上治療しても治りようがないならば「治癒」とされます。
それで障害が残った場合には障害(補償)年金・一時金が給付されます。
(2)通院費も要件を満たせば実費全額が支給
労働者の方の居住地又は勤務地から、原則として、片道2kmを超える通院で以下の場合に支給されます。
1 同一市町村内の診療に適した医療機関へ通院した場合
2 同一市町村内に診療に適した医療機関がないため、隣接する市町村内の医療機関へ通院した場合
3 同一市町村内及び隣接する市町村内に診療に適した医療機関がないため、それらの市町村を越えた最寄りの医療機関へ通院した場合
3、休業補償給付・休業給付
(1)給付の内容
休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の80%が支給されます。(休業(補償)給付=60%+休業特別支給金=20%)
なお、所定労働時間の一部だけ労働した場合には、次のように計算します
(「その日の給付基礎日額」-「実働に対して支払われる賃金の額」)×80%(60%+20%)
(注)休業3日目までは会社が、労働基準法の定めに基づき、一日につき平均賃金の60%を休業補償として支払います。社員の心理的負担を減らすために全額支給する企業も少なくありません。
(2)具体的な計算方法
具体的な計算方法を事例で見てみましょう。
【具体例】
賃金月20万円(賃金締切日は毎月末日)
事故が10月に発生した場合
①まず「給付基礎日額」を計算
給付基礎日額は、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額です。
平均賃金は、原則として、次のように計算します。
事故発生日(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額を、その期間の歴日数で割った、1日当たりの賃金額
(「賃金」には、臨時に支払われた賃金、賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まれません。)
給付基礎日額= 20万円×3か月÷92日(7月:31日、8月:31日、9月:30日)
≒6,521円73銭。
給付基礎日額の1円未満の端数は1円に切り上げて、6,522円となります。
②給付基礎日額を元に休業(補償)給付を計算
休業4日目以降の労災保険から支給される1日当たりの給付額
保険給付 (6,522円×0.6)=3,913円20銭・・・・・・・・・(1)
特別支給金 (6,522円×0.1)=1,304円40銭・・・・・・・・(2)
1円未満の端数を生じた場合は切り捨て
合計 (1)+(2)=3,913円+1,304円 =5,217円
(出典:厚生労働省労災保険に関するQ&A>3-5 休業補償の計算方法を教えてください。)
4、障害補償年金・障害年金、障害補償一時金・障害一時金
(1)給付の内容
業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)したとき、身体に一定の障害が残った場合には、その障害の程度によって障害(補償)給付が支給されます。
給付の一覧は次の資料を参照してください。
障害の等級1級~14級とそれに応じた給付のうち年金・一時金の部分が一覧化されています。
これのほかに、障害特別支給金や障害特別年金が支給されます。
(厚生労働省「障害(補償)給付の請求手続」に掲載されています。)
(2)具体的な計算方法
給付基礎日額は上記「3」と同じとします。
このほかに「算定基礎日額」にもとづく年金・一時金も支給されます。
算定基礎日額は、前述1(注)3の通り、原則として被災直前1年間の特別給与総額(ボーナスなど)を365で除した額です。
ここでは仮に4,000円としておきます。
①(計算例1)障害等級1級
(例)「両眼が失明」「神経・精神の著しい障害で常時介護が必要」「両下肢全廃」等。
1.障害(補償)年金:給付基礎日額6,522円×313日分=2,041,386円(年金)
2.障害特別支給金:342万円(一時金)
3.障害特別年金:算定基礎日額4,000円×313日分=1,252,000円(年金)
従って、はじめに342万円の特別支給金(一時金)が支給され、さらに毎年3,293,386円の年金が支給されることになります。
②(計算例2)障害等級8級
(例)「一眼が失明、または視力0.02以下」「1手の母指を含む2指を失う、または母指以外の3指を失う」「1下肢に偽関節を残すもの」等)
1.障害(補償)一時金:給付基礎日額6,522円×503日分=3,280,566円(一時金)
2.障害特別支給金:65万円(一時金)
3.障害特別一時金:算定基礎日額4,000円×503日分=2,012,000円(一時金)
従って、一時金として合計5,942,566円が支給されることになります。
これは一時金ですから、これ以後の支給はありません。
5、傷病補償年金・傷病年金
業務災害または通勤災害による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過した日または同日後において次の各号のいずれにも該当することとなったときに支給されます。
これは労働監督署長の職権で決定されます。
本人の請求手続きは必要ありません。
① 傷病が治癒(症状固定)していないこと
② 傷病による障害の程度が傷病等級1級から3級までに該当すること
計算の考え方は、前述「4」、障害補償年金・障害年金、障害補償一時金・障害一時金と同様です。
重い障害が残ってなお治癒(症状固定)しないときに、休業(補償)給付から切り替えてる形で支給が行われるものです。
症状が固定すれば「4」の障害(補償)年金・一時金に移行します。
詳細:厚生労働省「休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続」を参照
6、遺族補償年金・遺族年金、遺族補償一時金・遺族一時金、葬祭料・葬祭給付
(1)給付の内容
給付の内容を一覧にしました。
次項で具体的な計算方法をご説明しますので、こちらでは概要をご確認ください。
①遺族(補償)年金
<請求できる遺族(受給資格者)>
被災労働者の死亡当時、その収入で生計を維持されていた次の方です。
配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹
(上記が請求できる順序です。但し、妻以外の遺族については、被災労働者の死亡当時に一定の高齢または年少であるか、あるいは一定の障害の状態にあることが必要です。)
<支給内容>
受給資格者のうち最先順位者に対し、遺族(受給権者および受給権者と生計を同じくしている受給資格者)の数などに応じて、以下のとおり支給されます。
また、1回に限り、年金の前払いを受けることができます。
遺族数 | 遺族(補償)年金 | 遺族特別支給金(一時金) | 遺族特別年金 |
1 人 | 給付基礎日額の153日分(ただしその遺族が55歳以上の妻、または一定の障害状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分) | 300万円 | 算定基礎日額の153日分(ただしその遺族が55歳以上の妻、または一定の障害状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分) |
2 人 | 給付基礎日額の201日分 | 算定基礎日額の201日分 | |
3 人 | 給付基礎日額の223日分 | 算定基礎日額の223日分 | |
4人以上 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
②遺族(補償)一時金
<支給要件・支給内容>
・被災労働者の死亡当時、上記①の遺族(補償)年金を受ける遺族がいない場合
→ 給付基礎日額1,000日分が、亡くなった方の遺族のうち下記のア~エのうち最先順位の方に支給されます。
ア 配偶者
イ 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
ウ その他の子・父母・孫・祖父母
エ 兄弟姉妹
・遺族(補償)年金の受給権者がすべて失権してしまったときで、受給権者であった遺族全員に対して支払われた年金と年金前払一時金の合計額が給付基礎日額および算定基礎日額の1,000日分に満たない場合
→ 給付基礎日額の1,000日分および算定基礎日額の1,000日分から既に支給された遺族(補償)年金などの合計額を差し引いた額が、亡くなった方の遺族のうち最先順位者に支給されます。
遺族 | 遺族(補償)一時金 | 遺族特別支給金(一時金) | 遺族特別一時金 |
労働者の死亡当時、遺族補償年金(遺族年金)の受給資格者がいないとき | 給付基礎日額の1,000日 | 300万円 | 算定基礎日額の1,000日分 |
遺族補償年金(遺族年金)の受給権者が最後順位者まですべて失権した場合に、受給権者であった遺族の全員に対して支払われた年金の額及び前払一時金の額の合計額が給付基礎日額(算定基礎日額)の1,000日分に達していないとき | 合計額と給付基礎日額の1,000日分との差額 | - | 合計額と算定基礎日額の1,000日分との差額 |
③葬祭料・葬祭給付
315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額
(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)
(2)具体的な計算方法
①(計算例①)(年金の例)
被災労働者の死亡当時、その収入で生計を維持されていた方が配偶者(45歳)、お子さま2人(16歳と10歳)の場合
遺族数は3人なので次のように計算し、最先順位者の配偶者に支給されます。
(給付基礎日額、算定基礎日額は前項と同様とします)
1.遺族(補償)年金:給付基礎日額6,522円×223日分=1,454,406円
2.遺族特別支給金(一時金):300万円
3.遺族特別年金:算定基礎日額4,000円×223日分=892,000円
1.と3.の年金は、配偶者が再婚されたり、お子様が18歳に達するまで支給されます。
2.は一時金ですので、1回限りの支給です。
②(計算例②)(一時金の例)
被災労働者の死亡当時、お子様2人(30歳と25歳)※死亡時に離婚済み。既に独立しており、被災労働者の収入で生計を維持されてはいなかったという場合。
遺族(補償)年金の受給権者ではないので遺族(補償)一時金などが支給されます。
1.遺族(補償)一時金:給付基礎日額6,522円×1,000日分=6,522,000円
2.遺族特別支給金(一時金):300万円
3.遺族特別一時金:算定基礎日額4,000円×1,000日分=4,000,000円
③(計算例③)(葬祭料・葬祭給付)
315,000円+給付基礎日額6,522円×30日分=510,660円
この金額は給付基礎日額6,522円×60日分=391,320円よりも多い。
従って、510,660円が支給されることになります。
詳細:厚生労働省「遺族(補償)給付 葬祭料(葬祭給付)の請求手続」を参照
7、介護補償給付・介護給付
これについては、前述1、の表の通りです。
障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち第1級の者または第2級の精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害を有する者であって、現に介護を受けているときに支給されます。
介護の費用実額が一定の上限の範囲内で支給されるものです。
常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(105,130円を上限とする)
随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(52,570円を上限とする)
まとめ〜困ったときは弁護士に相談!
以上は、労災金額のイメージをつかみやすいように簡略化して説明したものです。
実際には、さらに細かな注意が必要です。
たとえば、労災年金と厚生年金の両方が支給される場合どうなるか、会社が休みのときでも休業給付はもらえるのか、介護が必要な場合というのは具体的にどんなことか、など細かなことを考えていくと結構大変です。
ネット上の情報でも、不正確なものが見受けられるようです。
たとえば、遺族(補償)年金・一時金について、遺族特別年金・一時金の説明が漏れている、などです。
支給額の計算については、基本的には会社から得た情報を基に労働基準監督署が行いますので、あまり神経質になりすぎる必要はありませんが、請求の手続き自体も簡単なことではありません。
実際に労災の手続きをする場合には、会社や労働基準監督署の担当者に相談しながら、間違いのないように対応されることをお勧めします。
この記事が、労災の金額のイメージをつかむためにお役に立てれば幸いです。