
媒介契約とは、土地や建物といった物件の売却や賃貸借の仲介を不動産会社に依頼するときに結ぶ契約のことです。
不動産の売却を個人が適切に行うことは容易ではないので、不動産会社と媒介契約を結んで販売活動を任せることが一般的となっています。
媒介契約の種類は、次の3つです。
- 一般媒介契約
- 専任媒介契約
- 専属専任媒介契約
不動産の売却をスムーズに、かつ希望どおりの条件で成功させるためには、どの媒介契約を選択するかが鍵となります。
そのためにはまず、3種類の媒介契約の特徴を正確に理解することが重要です。
今回は、
- 媒介契約とは
- 3種類ある媒介契約の選び方
- 媒介契約でよくあるトラブルと対処法
を中心として、媒介契約について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説していきます。
この記事が、不動産会社を利用して物件を売却しようとお考えの方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、物件売却で締結すべき「媒介契約」とは?
まずは、「媒介契約」の内容について詳しくみていきましょう。
(1)媒介契約の概要・目的
媒介契約とは、冒頭でもご説明したとおり、不動産の売買や賃貸借の仲介を不動産会社に依頼するときに交わす契約のことです。
「媒介」と「仲介」はほぼ同じ意味で、不動産を「売りたい・貸したい」人と「買いたい・借りたい人」の間を取り持って、引き合わせることをいいます。
不動産業界の実務では、売買の事案において「媒介」という言葉を使用することが一般的です。
物件の所有者が売却の媒介を不動産会社に依頼するにしても、依頼内容が不明確であればトラブルが発生する可能性があります。
不動産会社(宅建業者)には、不動産売買の媒介の依頼を受けたときには、「媒介契約」を締結し、一定の事項を記載した契約書を作成することが義務づけられています(同法第34条の2第1項)。
3種類の売買契約には、以下のような違いがあります。
①一般媒介契約
依頼者が複数の不動産会社に依頼しても差し支えありません。
②専任媒介契約
依頼者は特定の不動産会社のみにしか依頼できません。
ただし、自分で見つけた買い手に売却することは差し支えありません。
③専属専任媒介契約
依頼者は特定の不動産会社のみにしか依頼できず、かつ、依頼した不動産会社が見つけた買い手にしか売却することができません。
(2)媒介契約で不動産会社と決めなければならない事項
媒介契約で不動産会社と決めなければならない事項(媒介契約書に記載しなければならない事項)は、宅建業法第34条の2第1項に列挙されています。
国土交通省では、これらの事項を網羅した「標準媒介契約約款」を策定しています。
ほとんどの不動産会社は「標準媒介契約約款」を雛形として媒介契約書を作成していますので、こちらに目を通しておかれるとよいでしょう。
参考:宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款|国土交通省
特に重要な事項は、以下の6つです。
- 媒介契約の種類
- 指定流通機構(レインズ)への登録
- 売主への業務報告
- 契約の有効期間
- 報酬
- 違約金や費用償還
2、3種類ある媒介契約の特徴とメリット・デメリットを比較
3種類の媒介契約のメリット・デメリットを解説する前に、それぞれの特徴を表にまとめました。
| 一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 |
他社への依頼 | 可 | 不可 | 不可 |
自分で見つけた買主との取引(自己発見取引) | 可。ただし、他にどの業者に依頼しているか明示する明示型では通知義務あり。 | 可。ただし、通知義務あり。
| 不可
|
指定流通機構への登録 | 登録義務なし | 契約後7日以内に登録が必要 | 契約後5日以内に登録が必要 |
売主への業務報告 | 制約なし | 14日に1回以上の報告が必要 | 7日に1回以上の報告が必要 |
契約の有効期間 | 法律上の規定なし | 3ヶ月以内 売主からの申出により更新可 | 3ヶ月以内 売主からの申出により更新可 |
報酬(仲介手数料) | 売買代金に応じて以下のとおり上限額が定められている ・200万円以下…5%以内 ・200万円超~400万円以下…4%+2万円以内 ・400万円超…3%+6万円以内 ※売買代金、仲介手数料とも、いずれも税抜きの金額 | ||
違約金や費用償還 | 明示型の場合は、明示していない業者によって契約した場合や自己発見取引で通知を怠ると費用償還を求められる可能性がある。 | 他の不動産会社に依頼して売買すると違約金が必要。依頼者による契約解除や自己発見取引については費用償還を求められる場合がある。 | 他の不動産会社に依頼して売買した場合、自己発見取引は違約金が必要。依頼者による契約解除については費用償還を求められる場合がある。 |
では、それぞれのメリット・デメリットをみていきましょう。
(1)一般媒介契約
一般媒介契約のメリット・デメリットは以下のとおりです。
①メリット
一般媒介契約には、売主にとって自由度が高いというメリットがあります。
売主は複数の不動産会社と媒介契約を結べるので、人気物件の場合は、競争原理を利用してより良い条件で売却できる可能性があります。
複数の不動産会社に売却を依頼すれば、それだけ売却できる確率が上がりますので、失敗するリスクも下げることができるのです。
「レインズ」という全国の不動産会社が利用できるネットワークに登録する義務はありません。
知り合いや親戚、近隣の人たちに知られることなく物件を売却することも可能です。
②デメリット
一方で、一般媒介契約は不動産会社にとっても自由度が高く、そのことが売主にとってはデメリットにもなります。
条件のよくない物件の場合は、不動産会社の販売活動が積極的に行われず、なかなか売買できない可能性があります。
不動産会社から売主に対する業務報告の義務がないので販売状況を把握しにくく、そのため価格の見直しなどの検討がしにくい場合もあるのです。
多くの不動産会社では、一般媒介契約ではオプションサービスを付けていないことが多く、この点もデメリットといえるでしょう。
(2)専任媒介契約
専任媒介契約のメリット・デメリットは以下のとおりです。
①メリット
専任媒介契約では、売主は1社に絞って依頼し、不動産会社から14日に1回の報告を受けるだけです。
売却活動の内容がシンプルになり、手間や時間の負担が軽減されます。
専任媒介契約なら、ハウスクリーニングなどのオプションサービスを付けている不動産会社が多いので、サービスを受けることで物件が売れやすくなるでしょう。
買取保証サービスが付いていれば、売れないという心配をする必要もなくなります。
専属専任媒介契約とは異なり、自分で買主を見つけた場合には直接取引も可能です。
②デメリット
1社のみと媒介契約をするということは、その不動産会社にのみ販売活動を委ねることになります。
不動産会社の力量や担当者の対応などによって売却の成否が左右される可能性があるのです。
不動産会社にも、物件の種類やエリアなどによって得意・不得意があります。
売却したい物件との相性がよくない不動産会社を選んでしまった場合は、よい条件で売却することは難しくなるかもしれません。
(3)専属専任媒介契約
専属専任媒介契約のメリット・デメリットは以下のとおりです。
①メリット
専属専任媒介契約では、依頼を受けた不動産会社が見つけた買主との取引のみが認められます。
不動産会社も強い責任感を持ち、積極的に販売活動を行うことが期待できます。
不動産会社は契約後5日以内にレインズへ物件を登録し、売主にも7日に1回の報告が義務づけられていますので、スピード感のある販売活動も期待できるでしょう。
結果として、迅速に、かつ、よい条件で物件を売却できる可能性が高まります。
専属専任媒介契約では不動産会社のオプションサービスが充実していることも、メリットといえるでしょう。
②デメリット
専任媒介契約の場合と同様、不動産会社の力量等に売却の成否が左右されやすいというデメリットがあります。
専属専任媒介契約では自分で見つけた買い手との直接取引は禁止さていますので、このデメリットはより大きなものとなるのです。
自分で見つけた買い手に売却したい場合には、専属専任媒介契約を結んだ不動産会社を通して契約することになるため、仲介手数料を負担しなければなりません。
3、媒介契約はどれを選べばいい?
3種類の媒介契約には、それぞれ異なるメリット・デメリットがありますので、状況に応じて選択することが大切です。
どのような場合にどの媒介契約を選べばよいのかについて、解説します。
(1)迷ったら専任媒介契約
前項でご紹介したメリット・デメリットを確認しても迷ってしまう場合には、専任媒介契約を選ぶとよいでしょう。
専任媒介契約なら、1社に絞って販売活動を任せつつ、自分でも買い手を探すことが可能で、他2つの媒介契約のメリットを併せ持った媒介契約であるといえます。
物件の売却をプロに任せたいけれど、自分でも買い手を見つける可能性があるという場合には、専任媒介契約がおすすめです。
(2)条件の良い物件の場合は一般媒介契約
条件の良い物件は、さほど苦労しなくても売却できますが、一般媒介契約を利用することでより高額での売却が期待できます。
「条件の良い物件」とは、一般的に築年数が浅い、駅から近い、人気のエリアにある、などの条件を備えた物件のことをいいます。
このような物件を売却する場合には、一般媒介契約を利用して不動産会社間の競争原理を利用するとよいでしょう。
他にも、知り合いや周囲の人などに知られずに物件を売却したい人、時間がかかってでも良い条件で物件を売却したい人にも一般媒介契約が向いています。
(3)早く売ってしまいたい場合は専属専任媒介契約
売却条件よりも、「早く売却したい」という点を重視する場合は、専属専任媒介契約を選びましょう。
条件があまり良くない物件の場合も、専属専任媒介契約で不動産会社の手厚いサポートを受けることをおすすめします。
他にも、
- 不動産売却に詳しくないので不動産会社に全てを任せたい場合
- 自分で買い手を見つける予定は全くない場合
なども、専属専任媒介契約が向いています。
4、媒介契約でよくあるトラブルと対処法
媒介契約を巡り、不動産会社とトラブルになることも珍しくありません。
ここでは、媒介契約に関してよくあるトラブルとその対処法を紹介します。
(1)契約を自動更新されてしまった
専任媒介契約と専属専任媒介契約では、契約の有効期間(3ヶ月以上)が定められ、契約書に記載されます。
契約の更新は可能ですが、依頼者(売り手)からの申出が必要とされています。
申出がない場合は有効期間の経過をもって契約は終了するのです。
しかし、不動産会社の中には、有効期間内に売買契約が成立しなければ売り手に対して「契約は自動的に更新されます」と説明する業者もいます。
売り手に法律の知識がなければ、「そういうものか」と考え、更新に応じてしまうことでしょう。
このような業者の狙いは、いったん媒介契約を結んだ売り手を手放さず、仲介手数料を獲得することです。
売り手も更新を希望するのであれば実害はありませんが、他の不動産会社に乗り換えたい場合には、更新の無効を主張できます。
(2)契約を解除したら費用償還を請求された
専任媒介契約と専属専任媒介契約では、契約で定めた有効期間(3ヶ月以上)内に契約を解除すると費用の償還を請求されることがあります。費用の償還や違約金に関することは契約書に記載されているはずですので、その条項を確認しましょう。
契約書に記載されている範囲内の費用の償還、違約金は、支払う必要があります。
(3)相場より高額の媒介手数料を請求された
媒介手数料の上限額は宅建業法で定められています(前記「2」に掲げた表をご参照ください)。
相場より高いと感じたとしても、請求額が上限額以内であれば、支払いを拒否することはできません。
ただ、悪質な業者は売り手の無知に乗じて以下のような請求をしてくることがあります。
- 宅建業法上の上限を超える媒介手数料を請求する
- 媒介手数料とは別に広告宣伝費等を請求する
(※不動産会社の媒介によって売買契約が成立した場合、広告宣伝費等は媒介手数料に含まれます。)
以上のような請求を受けても、応じないようにしましょう。
5、媒介契約でトラブルになったら弁護士に相談を
媒介契約を巡るトラブルは、
- 売り手が無知で契約違反の行為をしてしまう
- 不動産会社が売り手の無知に乗じて虚偽の説明をする
のどちらか、または両方を原因として発生するケースがほとんどです。
トラブルが発生した場合には、まず、正しい法律関係を確認することが先決です。
そのためには、弁護士への相談が有効です。
ご自身に非がある場合でも、不動産会社との交渉を弁護士に依頼すれば穏便な解決も期待できます。
違約金を支払わなければならないとしても、交渉によって減額できる可能性があります。
不動産会社に非がある場合は、弁護士を通じて不当な請求を拒否すれば安心できることでしょう。
まとめ
物件の売却を不動産会社に依頼するなら、媒介契約を避けて通ることはできません。
不動産会社は専任媒介契約または専属専任媒介契約を勧めてくることが多いです。
しかし、状況によっては、一般媒介契約の方が売り手にとって有利な場合もあります。
媒介契約の種類によって売却の成否が左右されることもあるので、どの媒介契約を選択するかは重要な問題です。そのためには、正しい法律知識が要求されます。
媒介契約について分からないことがあるときや、不動産会社とトラブルになったときは、弁護士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。