他人の名義を借りて借金をし、スマホ・携帯の契約をするなどの事例が報告されています。
名義貸しは返済だけでなく、罪に問われたり犯罪に巻き込まれたりと、大きなリスクを抱える可能性があり、最近では名義貸しに関する詐欺の手口も増えています。
そこで今回は、名義貸しのリスクやデメリット、法律関係の重要なポイントについて詳しく解説します。
1、名義貸しとは?
「名義貸し」とは、言葉のとおり「自分の名前を他人に貸す」ことをいいます。
他人に自分の名前を使わせるということは、非常に危険な行為といえますが、家族や親しい友人、大切な取引先に頼まれて断りづらいということも多いと思います。
そのような事情もあってか、実際には、以下に挙げるケースのように、名義貸しが行われているケースは少なくないといえます。
- 過去に債務整理をしていて借金できない人が家族や友人の名義を借りて借金する
- 配偶者控除などの恩恵を失わないために、別居している別の家族名義で副業を行う
- 営業職の友人から「ノルマ達成」ために名義貸しを頼まれる
- 家族や友人が設立した会社の役員として名義を貸す
- 資格のない者が資格のある者の名義を借りて違法営業する
2、名義貸しの5つのリスク|他人に名義を貸す危険性とは
名義貸しは、これから解説するようにたくさんの大きなリスクがあります。むしろ、リスクしかないと言ってもよいといえるでしょう。
「相手のことを信頼しているし大丈夫だろう」、「自分にもメリットがあるかもしれない」といった安易な判断で名義貸しをすることは非常に危険なので、絶対にやめましょう。
(1)名義貸しは犯罪になりうる
他人に名義を貸すということは、「偽装行為」の一種ですから、多くの人がそう感じているように非常にリスクの高い行為です。
特に、「借金の名義貸し」に同意した場合には、「名義を貸した側」が詐欺罪(刑法246条)に問われる可能性があります(名義を借りた側も共犯として罪に問われます)。
(2)詐欺などの犯罪被害に遭うケース
最近では、「名義を貸してくれたら謝礼をする」といった詐欺の手口も増えています。実際にあった手口としては、次のようなものがよくしられています。
- 老人ホームや介護福祉施設の入居権を購入するための名義貸し
- 地域限定商品券などを購入するための名義貸し
- 社債や証券の購入のための名義貸し(特に新株など)
「甘い話」には必ず裏があるものです。怪しい勧誘には、決してのらないようにしましょう。
(3)犯罪行為に巻き込まれるリスク
次のような名義貸しは、比較的よく見られるものといえますが、実は犯罪に巻き込まれるリスクの高い危険な名義貸しの可能性があります。
- 銀行やFx口座などを開設するための名義貸し
- 不動産を借りるための名義貸し
- スマホ・携帯を契約するための名義貸し
名義貸しによって開設された銀行口座、スマホ・携帯電話などは、暴力団などのマネーロンダリング(資金洗浄)などに利用されるだけでなく、振り込め詐欺・闇金行為などの犯罪に使われる可能性があります。「自分まで追跡の及ばない口座や携帯端末」は犯罪を行う上で必須のツールといえるからです。
ところで、これらの目的のための名義貸し行為は、犯罪収益移転防止法・携帯電話不正利用防止法に違反する行為なので、名義貸しをした人が罪に問われる可能性もあります。さらに、名義貸しによって開設された銀行口座が犯罪行為に利用された場合には、他銀行・他支店を含むその名義人の全ての口座が凍結の対象となりますし、「暴力団員と密接な関係がある」と金融機関に認識されると、今後の銀行取引などに大きな不都合が生じる可能性もあります。最悪の場合は、今後二度と銀行口座を開設できないこともあるので注意する必要があります。
(4)責任を負うリスク
名義貸しをした場合には、犯罪などのリスクだけでなく、「他人に対する責任を負う」というリスクを抱えることになります。
たとえば、自動車が交通事故を起こした場合には、その「所有者」は運転手と同様に被害者に対して損害賠償責任を負うことになります(自動車損害賠償保障法3条)し、土地の工作物(建物など)の所有者は、その工作物によって生じた損害を賠償する責任があります。
また、自動車や不動産の所有者名義人となれば、それに応じた税金の納付義務も負うことになります。
「会社の役員として名義貸しをした」という場合であっても、その会社が他人に損害を与えた場合には、「役員としての責任(善管注意義務違反など)」が問われ、損害賠償義務を負担しなければならない可能性もあります。
「名義を貸す」というのは、「他人が自分になることと等しい」と考えておくべきといえるでしょう。
(5)名義を貸した人の与信枠が減るリスク~信用情報への登録
金融機関から借金をした場合には、借金の金額や返済状況などが信用情報として登録されます。したがって、他人の借金のために名義貸しをした場合には、そのことによって、時分の信用情報が悪化するリスクを抱えることになります。総量規制(年収の1/3を超える貸付が禁止されるルール)の下では、本当は他人がした借金であっても、自分名義が増えることによって与信枠(借金可能な金額)は確実に減少するからです。
さらに、借金返済に長期滞納があれば、いわゆる「ブラックリスト入り」してしまうこともあり得ます。
信用情報は、カードローンなどの借金だけでなく、クレジットカードの利用にも大きく関係しますから、「自分はローンを組まないから大丈夫」というわけにはいかない点にも注意しておくべきです。
3、借金のための名義貸しが行われた場合の法律関係
過去に債務整理の経験があったり、他社借入れが多くてローンの審査に通らない家族・恋人・友人・取引先などから、「借金のための名義貸し」を依頼されるケースは、名義貸しの典型例のひとつといえます。
ここでは、Aが友人Bの名前を借りて、C銀行のカードローンを申込み、100万円借り入れたというケースにおける法律関係について解説していきます。
(1)債権者に借金を返済する義務を負うのは誰か?
このケースでは、C銀行に借金を返済する義務を負うのは、借金の名義人であるBということになります。
したがって、Aが借金の返済を怠ったという場合には、C銀行はAにではなく、Bに対して返済を請求してきます。
この場合に、Bが「自分は名義を貸しただけで本当の債務者はAである」と反論をしても通用しません。C銀行が「名義貸しの事実を知っていた」という場合はその例外といえますが、通常は名義貸しの事実を把握していれば、融資してくれることもないでしょう。
なお、C銀行からの融資が行われた後に、名義貸しの事実が発覚した場合には、C銀行に対する背信行為があったといえますので、C銀行によって借金の契約が強制解約される可能性があります。その場合には、Bには借金残額すべての一括請求がなされます。
(2)Aが100万円ではなく500万円借金していた場合の返済義務
「名義貸し」が行われるケースは、何かしらの「訳あり」の場合がほとんどです。そのため、AがBも裏切って、100万円ではなく500万円の借金をしてしまったということもあるかもしれません。
この場合にBが「わたしが承諾したのは100万円の借金の名義貸しだけ」という反論をしても認められません。名義貸し行為は、「自分の名前で契約しても良い」というお墨付きを与えたようなものですから、契約の名宛て人としての責任を免れることはできないからです。
(3)名義貸しの当事者であるAとBの関係~Bが借金を返済した場合
このケースの場合には、「借金の名義貸し」についてAとBとの間に合意があるときには、基本的には「名義貸しで借りた借金はA自身が返済する」ということについても、AとBとの間で合意があるのが普通といえます。
したがって、Aが返済を滞納して、C銀行からの督促に応じてBが借金を返済した場合には、BがAの返済義務を肩代わり(借金の立て替え)をしたと考えることができます。
その場合には、BはAに対して「実際に立て替えた金額の返済」を求めることができます。このような権利を「求償権」といいます。
しかし、実際に名義貸しがなされるケースでは、「名義を貸したことの証拠」が残されていない場合も少なくないといえ、後々大きなトラブルになる可能性があります。
(4)名義を借りた人(A)が自己破産した場合
「他人の名義を借りなければ借金できない」という人は、すでに多額の借金を抱えているということも多いといえますから、名義を借りて借金をした後に、自己破産などの手続で自分名義の借金を債務整理することもあり得るでしょう。
債務整理のうち、個人再生・自己破産が行われたときには、金融機関からの借金だけでなく、友人や知人などからの借金も含めたすべての借金が債務整理(減額・免除)の対象となります。つまり、今回の説例の場合であれば、BがC銀行への返済をAに代わって行った場合の求償権も個人再生・自己破産による減免の対象となるというわけです。
Aに破産免責が認められた場合には、Bは100万円全額を立替払いしたとしても、「Aから1円も回収できない」可能性も高いといえますので、「借金の名義貸し」は、「自分自身の借金と同じ」と考えておくべきでしょう。
まとめ
ここまで解説してきたように名義貸しは、リスクばかりの非常に危険な行為です。借金の名義貸しを頼まれた際には、「全額の返済を負わされる可能性がある」ということを強く意識しておくべきでしょう。
また、借金に比べれば心的なハードルの低いスマホ契約などの名義貸しであっても、法律違反となり罰せられる可能性がありますので、安易な気持ちで応じることは非常にリスキーです。
万が一、名義貸しが原因でトラブルが生じてしまった、トラブルになりそうと感じたときには、問題をさらに大きくしないためにも1日も早く弁護士に相談するとよいでしょう。