薬機法改正について知るための4つのポイントを弁護士が解説

薬機法改正について知るための4つのポイントを弁護士が解説

薬機法が改正されたが、具体的にどのようなポイントに気を付ければよいのだろう……。

薬剤師や薬局のスタッフとしては、日常の業務内容が大きく変わる可能性のある改正であるため、ポイントを押さえましょう。 

今回は、

  • 薬機法の概要
  • 薬剤師や薬局スタッフが知っておくべき薬機法の改正ポイント

について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。他にも、今回の法改正で変更となった「信頼確保のための法令順守体制の整備」についても紹介します。

この記事が、薬機法改正でどのような点に気を付ければよいか悩んでいる薬剤師や薬局スタッフの方々のご参考になれば幸いです。

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1、薬機法改正について知る前に|薬機法とは

薬機法とは、どのような法律なのかをご存知でしょうか。

薬機法の改正点を知る前に、まずは薬機法の概要について説明します。

(1)薬機法の概要 

薬機法の正式名称は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」です。

名称のとおり、医薬品などの品質と有効性および安全性を確保するために、医薬品などの製造・販売・流通・表示・広告などについて規制している法律です。そのため、医薬品に関わる薬剤師や薬局スタッフなどにとっては、日常的に関わりのある法律であるといえます。

もともとは「薬事法」と呼ばれていた法律が、2014年に改正された際に名称変更したものです。
長年薬剤師として勤務していた方にとっては、薬事法という名称の方が馴染み深いかもしれません。

(2)2019年薬機法改正の背景

2014年に薬事法が改正されてから5年が経過し、医薬品などを取り巻く環境は大きく変化してきました。 

厚生労働省によると、今回の改正の趣旨は次のとおりです。

国民のニーズに応える優れた医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するとともに、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができる環境を整備する

引用:「令和元年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について」―厚生労働省

2019年11月27日の国会において薬機法の改正案が成立し、同年12月4日に交付されました。

改正薬機法については、原則として2020年9月1日が施行日とされています。

ただし、改正法附則1条2号に掲げる規定については、2021年8月1日、同条3号に掲げる規定については、2022年12月1日が施行日とされています。

(3)薬機法の改正ポイント

2019年の薬機法改正によって、多岐にわたる内容が改正されています。

今回の薬機法の改正では、以下の4つのポイントがあります。

  • ①医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善
  • ②住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し
  • ③信頼確保のための法令遵守体制等の整備
  • ④その他

次項より、上記①から③までの改正ポイントについて、重要度の高いものを取り上げて解説していきます。

2、改正ポイント①|医薬品等を提供するための開発から市販後までの制度改善

「医薬品等を提供するための開発から市販後までの制度改善に関する事項」としては、「先駆け審査指定制度の法制化」と、「条件付き早期承認制度の法制化」が重要です。

以下では、これらの重要な改正内容とその他の改正内容を併せて説明します。

(1)先駆け審査指定制度の法制化

①「先駆け審査指定制度」とは

先駆け審査指定制度とは、早期の治験段階で著明な有効性が見込まれる医薬品などを優先的に指定して承認までの期間を短縮するものです。

世界に先駆けて、最先端の医薬品などを提供することを目的としています。

これまでは、厚生労働省発出の通知に基づいて先駆け審査指定制度が施行的に実施されていました。

法律に基づく制度にすることが求められていたことを受けて、今回の薬機法改正によって導入されることになりました。

②法制化の内容

先駆け審査指定制度の対象品目として指定された場合には、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による承認審査の手続きにおいて優先的な扱いを受けられます。

これによって、医薬品の場合、通常であれば12か月かかる審査機関を6か月に短縮することが可能になります。

先駆け審査指定制度によって指定される医薬品は、以下の4つの要件をすべて満たすことが必要です。

  • 治療薬の画期性

原則として、既に承認されている医薬品と異なる作用機序であること

  • 対象疾患の重篤性

以下のいずれかの疾患に該当するものであること

ⅰ生命に重大な影響がある重篤な疾患

ⅱ根治療法がなく症状が継続している疾患

  • 対象疾患に係る極めて高い有効性

既承認薬が存在しない、または既存の治療薬もしくは治療法に比べて有効性の大幅な改善が見込まれること

  • 世界に先駆けて日本で早期開発および申請する意思・体制

日本における早期からの開発を重視し、世界に先駆けて日本で申請される予定のものであること

なお、先駆け審査指定制度の法制化にあたっては、以下のような附帯決議がなされています。

  • 先駆け審査制度において、指定を受けた後に要件を満たさないことが明らかになった場合には、速やかに指定を取り消すこと
  • 先駆け審査制度により製造販売承認を受けた抗インフルエンザ薬について、耐性ウイルスを発生しやすいことが指摘されていることから、その有効性、安全性等の状況を監視すること

(2)条件付き早期承認制度の法制化

①「条件付き早期承認制度」とは

条件付き早期承認制度は、患者数が少ないなどの理由で治験に長期間を要する医薬品などを、一定条件付きで早期に承認する制度です。

これまでは、患者数が少ない疾患については、多数の患者への検証的臨床試験を行うことが困難であり、実用化までには長期間を要するものでした。

今回の改正によって、条件付きではあるものの、その実用化に長期間を要する医薬品などを早期に実用化することが可能になりました。

②法制化の内容 

条件付き早期承認制度の対象となった医療品は、臨床試験の試験成績に関する資料の一部の提出を要することなく、早期に申請を行うことができます。

申請後は優先審査が適用され、審査期間も短縮が可能です。

ただし、条件付き早期承認制度の適用を受けた医薬品には、有効性および安全性を確認するために必要な調査の実施が条件として課されることになります。

条件付き早期承認制度の法制化にあたっては、以下のような附帯決議がなされています。

  • 条件付き早期承認制度の対象となる医薬品等の適応疾患について、生命に重大な影響がある疾患(致死的疾患)、病気の進行が不可逆的で日常生活に著しい影響を及ぼす疾患、希少疾病といった重篤なものや、申請時に有効な治療法が確立していないものを中心とすること。また、ワクチンを含む予防薬について、条件付き早期承認制度の対象としようとするときは、特に慎重に検討すること。
  • 条件付き早期承認制度により製造販売の承認をした場合は、速やかに有効性・安全性を再確認するために厳格な製造販売後調査等を実施すること。また、承認を受けや医薬品・医療機器の使用に際しては、通常の医薬品・医療機器と異なり、一定程度の有効性及び安全性が確認されたものにとどまることから、製造販売後に再確認を必要とするものであることについて、患者に対して適切な情報提供がなされるよう努めること。さらに、承認を受けた医薬品等の評価に係る調査等結果の提出期限については、実施に必要な最低限の期間を品目ごとに定めること。
  • 条件付き早期承認制度によって承認の際に付された条件を満たさなくなった場合には、速やかに承認の取消し又は承認事項について変更を命ずること。

(3)その他の改正ポイント

その他の改正ポイントとしては、以下のものがあります。

①医療機器の特性に応じた承認制度の導入

医療機器などの承認を受けた者は、承認事項のうち性能、製造方法等の変更に関する計画について厚生労働大臣の確認を受けられるようになりました。

厚生労働大臣の確認を受けた者は、定められた日までに変更を行う旨を届け出たときには、変更に係る承認を不要としています。

②「医薬品等の製造方法等変更についての届出制」の見直し 

医薬品などの最終的な製品の有効性や、安全性に影響を及ぼさない製造方法などの変更については、事前に厚生労働大臣に計画を提出して、確認を受けられるようになりました。 

これによって、当該確認に沿って変更する場合は、承認ではなく届出で足りるものとしています。

③「添付文書の電子的方法による提供」の原則化

医薬品など添付文書については、電子的な方法による提供を基本とし、添付文書をウェブサイトなどで公表しなければならないこととされました。

当該最新の添付文書情報へのアクセスを可能にする符号など(QRコードなど)を、容器や外箱に記載しなければなりません

3、改正ポイント②|薬剤師・薬局の在り方の見直し

改正ポイント②については、薬剤師や薬局スタッフとしては、特に重要なポイントです。

(1)薬剤師による継続的な服薬状況の把握及び服薬指導の義務の法制化

①制度導入の背景

改正前の薬機法では、医薬分業化が進む一方、患者の服薬情報の一元的な把握ができていなかったり、患者本位の医薬分業になっていなかったりなどの指摘がありました。

改正薬機法では、薬剤師による服薬指導が義務化され、対人業務の重要性が再認識されるようになりました。 

継続的な服薬状況の把握などについても、法制化されています。

②法制化の内容

薬剤師に課される義務は、薬剤の適正な使用のために必要がある場合には、継続的かつ的確な服薬状況の把握および服薬指導を行うことです。

薬局薬剤師に対しては、患者の薬剤などの使用情報を他の医療提供施設の医師などに提供する努力義務が課されます。 

薬局開設者に課される義務は、調剤時以外でも薬剤の適正な使用のために、継続的かつ的確な服薬状況の把握と服薬指導を必要に応じて薬局薬剤師に行わせることです。

(2)地域連携薬局と専門医療機関連携薬局

①制度導入の背景

改正前の薬機法では、医薬分業化推進による患者の負担が増加しているのに、患者の負担に見合うサービス向上や分業化の効果などを実感できていないとの指摘がありました。

改正薬機法では、機能別薬局として専門医療機関連携薬局および地域連携薬局に関して都道府県知事による認定制度が導入されることになりました。

患者が、自分に適した薬局を選択できることを目的としています。

②改正の内容 

他の医療提供施設と連携して、地域での適正な薬剤などの使用推進や効率的な提供に必要な機能を有する薬局は、「地域連携薬局」と定められます。

以上のような薬局が「地域連携薬局」の名称を使用するためには、都道府県知事の認定が必要です。

他の医療提供施設と連携して専門的な薬学的知見に基づいた指導を実施するために必要な機能を有している薬局は、「専門医療機関連携薬局」と定められます。

以上のような薬局は、がんなどの傷病の区分に応じて都道府県知事の認定を受けて、「専門医療機関連携薬局」の名称を使用できます。

「地域連携薬局」及び「専門医療機関連携薬局」については、名称独占です。

認定を受けていない薬局は、これらの名称または紛らわしい名称を用いてはならないとされています。

(3)オンライン服薬指導の導入

①制度導入の背景

改正前の薬機法では、薬剤師の服薬指導に関しては、対面で行うことが法律上明記されており、テレビ電話などを使用して服薬指導を行うことは認められていません。そのため、改正前の薬機法では、遠隔診療のニーズに対応することができませんでした。

改正薬機法では、薬剤師の服薬指導についても、医師の診療行為のようにオンラインで行うことが可能です。遠隔診療の発展が、期待できるでしょう。

②改正の内容

テレビ電話などで映像および音声を送受信することによって、相手の状態を相互に認識しながら薬剤師による服薬指導が可能となりました。

詳細な要件・方法などについては、厚生労働省令などで定められています。

4、その他の改正ポイント

改正ポイント③およびその他の改正ポイントとしては、以下のとおりです。

(1)許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け

①改正の背景

これまでは、適切な業務運営体制や監査体制が構築されていなかったために、違法行為を発見または改善できない事案がありました。

そもそも、役員が違法行為の存在を認識していながら、黙認していたという事案もありました。

再発防止に向けては、製造販売業者、役員および選任された責任者・管理者などが責務を果たすことを担保する措置が求められています。

今回の改正では、以下のとおり、業者に対して法令遵守体制というガバナンス面の整備を求める内容となっています。

②改正の内容

「許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け」に関する改正の主な内容は、以下のとおりです。

以下の法令遵守体制の整備は、薬局についても同様に求められています。

  • 製造販売業者などの法令遵守に責任を有する者の範囲を明確にするために、「薬事に関する業務に責任を有する役員」の設置(許可申請書の記載事項)
  • 総括製造販売責任者などによる、製造販売業者などに対する意見申述義務
  • 業務が法令を遵守して適正に行われるために必要な社内規程などの整備
  • 教育訓練などを通じた社内規程などの周知・徹底
  • 従業者が行った業務の内容が適時かつ正確に記録される体制などの整備
  • 法令遵守のための整備が不十分な場合に、必要な措置を命ずる権限を厚生労働大臣に付与

(2)虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設

①改正の背景

改正前の薬機法では、虚偽・誇大広告に違反した場合には、個人・法人ともに200万円以下の罰金が科されることになっていました。

しかし、以下のような指摘がありました。 

  • 罰金だけでは抑止効果が低い
  • 薬機法上の営業許可がない事業者の違反行為は、許可取消しや業務停止命令などの行政処分ができず抑止効果が働かない

そこで、改正薬機法では、新たに以下のような課徴金制度が導入されています。

②改正の内容

虚偽・誇大広告による医薬品などの販売を行った者に対して、違反行為を行っていた期間における対象商品の売上額の4.5%が課徴金として課せられることになります。

課徴金は、罰金のような刑事罰ではなく行政罰ですが、違反による課徴金額が高額になることから、一定の抑止効果が期待されるでしょう。

(3)薬監証明制度の法制化、麻薬取締官等による捜査対象化

これまでは、虚偽の申請により、受給した薬監証明に基づいて未承認医療機器を輸入または販売していた事業者に対する取締りが困難という実情がありました。

薬機法改正によって、現在厚生労働省の通知によって運用している薬監証明制度を法制化することとし、違反行為に対しては罰則が科せられることになります。

輸入手続の違反や偽造医薬品に関する事案については、麻薬取締官・麻薬取締員の捜査対象に追加されました。

(4)医薬品として用いる覚せい剤原料についての携行輸出入許可制度

パーキンソン病患者団体からの要望などを踏まえて、医薬品として用られる覚せい剤原料は、自己の疾病の治療目的による携帯輸出入の許可制の導入などを行いました。

医薬品として用いられている麻薬の規制との整合性を図ることを目的としています。

まとめ

今回の薬機法改正は、薬剤師や薬局スタッフの方々にとって重要な内容を含むものとなっています。

日常の業務にも影響を及ぼすものであるため、改正薬機法に対応できるような体制整備を進めていかなければなりません。

薬剤師や薬局のスタッフの方々は、今回の記事を参考に適切な体制整備を進めていくようにしましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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