念願のマイホームに入居したところ「自分の敷地だから通らないでほしい」とクレームを入れられる……こんな事態に巻き込まれてはいないでしょうか。
今回は、
- 私道通行権とは
- 私道通行権の種類
- 私道の通行トラブルを解決する方法
などについて解説します。
目次
1、 私道通行権とは?
私道通行権とは、ある土地の所有者にとって他人の敷地を通行できないと困る場合に、実際に通路として利用させてもらうための権利の総称です。
ここでいう通路は「私道」と呼ばれます。
トラブル対処のための基礎知識として、まずは私道とその通行権の意味について確認しておきましょう。
(1) 私道と公道の違い
私道と公道の区別は、誰がその道路を所有・管理しているかで行います。
ごく簡単にいえば、個人や民間の企業が所有し管理しているものであれば「私道」、国や地方公共団体が所有し管理しているものであれば「公道」と理解しておくと良いでしょう。
厳密に私道か公道かを見分けるためには、法務局で公図と登記簿を閲覧することが最も確実です。
(2)私道を通行するには所有者の許可or法的権利が必要
私道を通行できるのは、①所有者の許可を得て権利設定した場合、または②法律に権利の根拠となる条文がある場合に限られます。
土地の事情により「出入りに障りがあるから仕方ないじゃないか」と主張しても、ただそれだけで正当に通行できるわけではありません。
(3)私道トラブルが起きるタイミングとのその原因
「私道を通行させてもらえない」とのトラブルの多くは、土地を購入したタイミングで起きます。
その主な原因は、前の所有者が口約束や慣習で近隣の私道を通行していたものの、書面化して後に引き継ごうとしなかったことにあります。
たとえしっかり私道通行権について白黒つけていたとしても、購入した土地の活用方法に応じて通行状況が変化すれば、私道所有者としては、敷地利用のさせ方を一考せざるを得ません。
私道を通らないと公道に出られないような土地は、普通なら不動産会社から説明があるはずですが、全件漏れがないとは言い切れません。
土地相続や親の土地に建設するようなケースでは、説明がない方がむしろ多いと考えられます。
そこで整理しておきたいのが、これから説明する私道通行権の法律上の考え方です。
2、私道通行権の種類
私道通行権は4種類に分類でき、土地や道路そのものの状況によって判断が分かれます。
私道通行権の取扱いについて初めにまとめておくと、下の表のようになります。
私道通行権の種類 | 権利の性質(どうやれば権利を得られるのか) |
囲繞地通行権 | 法律に基づき、所有者の意思とは無関係に生じる(協議は必要) |
通行地役権 | 合意による契約締結+登記が必要 |
使用貸借・賃貸借契約 | 合意による契約締結が必要 |
通行の自由権 | 判例上、建築基準法上の適用を受ける私道について認められる |
(1)囲繞地通行権
囲繞地通行権とは、他の所有者の土地又は崖等に囲まれている土地(=囲繞地/いにょうち)の所有者(囲まれてる所有者)につき、公道に出るため他人の土地を通ることが認められる権利のことです。
土地所有者同士のトラブルを避けるべく民法第210条各項で定められていますが、一方で、権利について以下のような制限もあります。
特に第211条1項の規定を巡っては、自転車や自動車での通行可否を巡り、相手方にとって不利益が大きくなる点で調停や裁判に発展するケースも多々あります。
- 通行の場所や方法は、必要な範囲で、かつ私道所有者に損害が少ないものを選ぶ(第211条1項)
- 土地の分割で囲繞地となった場合を除き、償金が必要(第212条・第213条)
(2) 通行地役権
通行地役権とは、目的を決めて土地に設定する権利(=地役権/民法第280条)のうち、その目的を通行とする権利のことです。
基本的には承役地権者と要役地権者※との間で合意して設定します。
ただし、合意がない場合でも、通行実績が長期間に及んで時効取得したり(民法第162条)、暗黙の了解で通行地役権が成立していたと裁判所が認めたりする場合もあります。
※用語解説
- 承役地:通行地役権を設定する対象の土地
- 要役地:通行を必要とする土地
ここで重要なのは、通行地役権は物権のひとつである点です。
通行のために「借りる」わけではなく「目的の範囲内で自分の土地に付いている権利として通行させてもらう」ものなのです。
このことから、以下のポイントに注意することが必要となります。
- 設定のために権利金が必要(設定契約)
- 設定後は登記が必要(承役地権者や第三者に権利を主張するための条件)
- 固定資産税がかかる
(3)使用貸借契約・賃貸借契約
私道について、所有者と契約して貸してもらう考え方もあります。
契約の種類は、無償の「使用貸借契約」と有償の「賃貸借契約」に分かれます。
注意したいのは、契約自由の原則に基づいて生じる「債権」の扱いである以上、通路として利用し続ける上で不安がある点です。
以下の性質から、私道所有者の気持ちが変わったり、土地の譲渡で新しい隣人がやってきたりすると、再び紛争が生じる可能性があることに注意しておく必要があります。
- 登記できない(※有償の賃貸借契約には申請可能だが、登記請求権はない)
- 無償の使用貸借契約は、比較的緩やかに解約が認められます(第597条~第598条※)
※相当の期間経過、借主の死亡等
(4)通行の自由権
建築基準法第42条で定められている道路のうち「位置指定道路」と「みなし道路」については、開設済みの道路部分の通行が妨害された場合で日常生活に不可欠である場合、例えば、道路の所有者が封鎖した場合には、人格権(正確には生活を)侵害されたものとして、妨害排除請求が認められる可能性もあります。
① 位置指定道路とは(建築基準法第42条第1項5号)
位置指定道路とは、建築の際に必要な接道義務(建築基準法第43条第1項)を果たすため、特定行政庁の指定を受けて開設する道路のことです。
典型的なものとして、宅地を分ける時に新しく開設された道路が挙げられます。
上記のような道路については「通行できること=日常生活上不可欠な利益」と「敷地所有者が被る損害」を検討します。
その結果、後者の損害が著しいものでない限り、通行妨害の排除・禁止を請求できると考えるのです(最高裁平成9年12月18日判決)。
② みなし道路とは(二項道路とも/建築基準法第42条第2項)
みなし道路(二項道路)とは、やはり接道義務の関係で、幅4メートル未満の狭い道を法律上の道路として扱うものです。
建築基準法施行前の小道がたくさんある状態を想定しており、こうした土地に建物を建てる場合は、道路中心線から左右2メートル以内にはみ出さないようにする「セットバック」を行わなければなりません。
つまり、みなし道路の端は否応なしに個人や法人の所有・管理する敷地ということになります。
上記の道路についても、平成9年の最高裁判決と同じく「敷地所有者が被る損害」が著しくない限り、敷地所有者に通行妨害の排除・禁止を請求できます(最高裁平成12年1月27日判決)。
③自動車の通行を求めるのは難しい
位置指定道路・みなし道路を自動車で通行できるかどうかですが、これに関しては難しいと言わざるをません。
先で紹介した平成12年の最高裁判決によれば、自動車の通行可否に関して次のような判断基準が示されています。
- 道路の状況(自動車が通行できるように舗装されているか)
- 実際の利用状況(日常的に車で通行しているか)
- 主な通行人(要役地権者自身か、賃借人か)
付け加えていえば、徒歩や自転車等で通行する場合と比べて通路として利用する範囲が必然的に広がることから「敷地所有者が被る損害」の方が重視されると考えられます。
3、私道の通行トラブルでよくある事例と解決方法
実際に「私道を通行させてもらえないトラブル」が起きた時は、権利や賃借の状況がどうであれ、その道路の所有者と一度話し合ってみる他ありません。
話し合いでは、通行に関して法的権利を主張したり、あるいは新たに契約を結んだり、あまりにもめるようなら調停・裁判で解決を図るといった対応をします。
ここで具体例を3つ挙げ、何を話し合うべきか確認してみましょう。
(1) 袋地を取得したケース
他の土地に囲まれた「袋地」の取得でトラブルが発生した場合には、民法に基づき囲繞地通行権を主張します。
ただし先ほどもご説明したように、必要最低限の道幅を伝えつつ、私道所有者側に損害が出るようなら相当額の償金を提示しなければなりません。
他には、やはり権利金の有無や金額を提示して、通行地役権などの設定について交渉することも考えられます。
(2)今まで通路として利用されてきた私道の通行を拒否されたケース
土地譲渡や使用方法変更のタイミングで私道通行を拒まれたケースでは、これまでの利用状況から「黙示の通行地役権」もしくは「通行地役権の時効取得」を主張できる可能性があります。
(ア)黙示の通行地役権とは
通行地役権は、契約書や登記がなくても「黙示的」に成立するとされています。
注意したいのは、私道所有者の黙認だけでは足りず「客観的に見ても合理的であると考えられるような特別な事情が必要」(東京高裁昭和49年1月23日判決)も必要である点です。
ここにいう特別な事情は、これまでの使用状況、地役権の必要性、土地購入時に通路として説明を受け、そのように認識していたか等から判断されます。
(イ)通行地役権の時効取得について
舗装等によって外形上認識できる通路であり、かつ相当長期間に渡って(継続的に)通行が黙認されてきた私道については、通行地役権の時効取得を主張できます(民法第283条)。
ここでいう期間は、私有地であるとは認識しようがない「善意無過失」の状態であれば10年、そうでなければ20年とされています(民法第162条)。
(3)みなし道路の通行を拒否されたケース
セットバックによって他人の敷地を通行せざるを得ず、これを拒否されたケースでは、通行の自由権を主張して話し合うことになります。
注意したいのは、最初にみなし道路(二項道路)であるかどうかを役所で確認しておく必要がある点です。
加えて、通行したい側・通行させる側の意見を取りまとめる際にも、具体的に「夜間は迷惑にならないよう自動車のエンジンを切る」等と細かい条件を取り決めることが重要となってくるでしょう。
4、私道の通行トラブルを解決する方法
私道の通行トラブルは民事の領域の問題であるため、警察は介入できません。
あくまでも近隣トラブルとして、裁判所で決着をつけることも視野に入れて、当事者間で話し合っていくことが基本となります。
私道通行権を巡るトラブルの解決の実践的な部分を押さえると、次のようになります。
(1) 警察に相談しても解決できない
まず理解しておきたいのは、私道トラブルを警察に相談しても「民事不介入の原則」により取り合ってもらえないことです。
警察が取り扱えるのは道路交通法違反となるケースですが、私道には原則として道路交通法の適用はありません。
従って、私道に交通の妨害となるような物をみだりに置く行為(第76条第2項)をされたとしても、警察に取り締まってもらうことはできないのです。
(2)私道の所有者と交渉する
繰り返し説明するように、私道の通行トラブルは所有者と交渉するのが基本です。
ところで、私有地を通行される側としては、ただ単に気分が良くないというよりも「交通騒音で睡眠が妨害されるかもしれない」「事故を起こされて建物に被害が出るかもしれない」とのような心配をしています。こうした点を踏まえ、どういった権利や契約の話をするにせよ、双方気持ちよく敷地利用できる提案を考えるべきです。
(3)民事調停や訴訟を起こす
私道所有者との交渉がまとまらなければ、民事調停や訴訟で決着をつける他ありません。
この時、道路の状況・実際の交通状況・今後の通行の必要性等について、詳細な資料を証拠として提出する必要があります。他に、土地を譲渡または相続した時の資料も必要でしょう。
全てを自力で揃えるには多くの労力が必要で、不足が生じるかもしれません。
そこで検討したいのが、弁護士への相談です。
5、私道の通行トラブルで困ったときは弁護士に相談を
私道を通行させてもらえないトラブルが起きた時は、隣人と接触する前に弁護士に相談しておくと安心です。
裁判手続で解決しなければならない事態も織り込んで、法律上の取扱いから話し合いの進め方まで丁寧に教えてもらえるからです。
▼弁護士に相談・依頼するメリット
- 私道通行権を主張するために必要な証拠の種類が分かる
- 通行権に関する合意の手続きを正しく進められる
- 対立が見込まれる場合、代理人になってもらい隣人との直接対決を避けられる
- ケース別に双方の妥協点を見極め、良好な隣人関係の維持が期待できる
私道通行権に関するQ&A
Q1.私道通行権とは?
ある土地の所有者にとって他人の敷地を通行できないと困る場合に、実際に通路として利用させてもらうための権利の総称です。
Q2.私道と公道の違いは?
私道と公道の区別は、誰がその道路を所有・管理しているかで行います。 ごく簡単にいえば、個人や民間の企業が所有し管理しているものであれば「私道」、国や地方公共団体が所有し管理しているものであれば「公道」と理解しておくと良いでしょう。 厳密に私道か公道かを見分けるためには、法務局で公図と登記簿を閲覧することが最も確実です。
Q3.私道通行権の種類は?
- 囲繞地通行権
- 通行地役権
- 使用貸借契約
- 賃貸借契約 ・通行の自由権
私道通行権は4種類に分類でき、土地や道路そのものの状況によって判断が分かれます。
まとめ
私有地だからと言って道路を通行させてもらえないトラブルは、個別のケースに応じて「私道通行権」の主張・交渉を行うことで解決できます。私道通行権をまとめると、次のようになります。
- 公道に接していない土地→囲繞地通行権or通行地役権
- ある時から通行を妨害されるようになった→通行地役権の黙示or時効取得
- みなし道路・位置指定道路の場合→通行の自由権
いずれの権利を主張するにせよ、隣人と大なり小なり対立することになる上に、調停や裁判を見越した証拠なども用意しなければなりません。
万一の時は、直接話をしに行く前に相隣関係(=隣人トラブル)に詳しい弁護士に相談し、今後の隣人関係も見越したきめ細かなアドバイスを受けましょう。