自己破産をすると、財産のほとんどを失ってしまうというイメージをお持ちの方は多いと思いますが、実際には自己破産をしても意外に多くのものを手元に残すことができます。現金や預金、不動産、車両、家財道具など、残せるものはさまざまです。しかし、どのようなものが残せるのか、どうやって増やすことができるのか気になるところでしょう。
自己破産しても残せるもの、増やす方法、注意すべきことについて、自己破産手続きに詳しいベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。自動車や家電、貯金、預金、保険、年金など、免責されない可能性のある資産を理解し、将来の生活に影響が及ばないようにするためにも、正確な知識を持つことが大切です。
この記事は、自己破産を考えている方や財産をなるべく残したい方々のお手伝いになれば幸いです。自己破産を理解し、専門家のアドバイスを受けながら、より良い未来を築く一助となることを願っています。
目次
1、自己破産しても残せるもの6つ
自己破産をしても残せるものの範囲は、法律の規定と裁判所の運用によって決められています。
具体的には、裁判所によって若干は異なることもありますが、一般的に以下の6つのものを残すことができます。
(1)99万円以下の現金
ほとんどの裁判所で、現金については自己破産をしても99万円までは残せます。
これは、破産者の生活を守るために裁判所の運用によって定められたルールであり、3か月分程度の生活費に相当する金額は破産者の手元に残されるのです。
なお、現金を隠しておけば裁判所にバレないだろうと考えて99万円を超える現金を残そうと考える人もいるかもしれませんが、この考え方は極めて危険です。
自己破産手続きでは、いくらの収入があり、そのお金を何にいくら使ったのかということを細かく申告する必要があります。
多額の現金を隠していると、裁判所や破産管財人に不審に思われ調査が行われますので、高確率でバレてしまいます。
財産隠しは「免責不許可事由」に該当しますので(破産法第252条1項1号)、発覚すると免責が許可されず、自己破産に失敗する可能性が高いです。
したがって、自己破産を申し立てる際は現金を隠すことなく、正確に所持金額を申告すべきです。
タンス預金も、「現金」として正確に申告しましょう。
(2)20万円以下のその他の財産
現金以外の財産については、評価額20万円以下のものは手元に残せます。
20万円という基準も、破産者の生活に必要なものとして裁判所の運用によって決められたルールです。
預貯金や生命保険、自動車、パソコンなどの財産がある場合、20万円分までは残すことが可能です。
財産を評価する方法は、預貯金については口座の残高、生命保険については解約返戻金見込額がそのまま評価額となります。
自動車については、買取業者の査定書を取得するか、中古車市場で同車種・同程度の車の本体価格を調べるなどして評価します。
その他の動産については、基本的に「時価」が評価額となりますが、生活で使用している動産のほとんどは時価がつくとしても微々たる金額であることがほとんどなので、あまり気にする必要はありません。
タンスやベッドなどの家具や調理用具、エアコンや冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、テレビなど生活に必要な家電は次にご説明する「差押え禁止財産」に該当しますので、「20万円分まで残せる財産」には含まれません。
(3)差押え禁止財産
差し押さえることが法律上禁止されている財産は、自己破産しても取り上げられることはありません(破産法第34条3項2号)。
家財道具のうち、通常の日常生活に必要なもの(タンス、ベッド、調理用具、食卓セット、食器棚など)は差押えが禁止されているため、手元に残せます。
家財道具であっても、ある程度高価なものは自己破産で処分される可能性があります。
たとえば、エアコン、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、給湯器、テレビ、ビデオデッキ、ステレオなどについては、同種のものは1台しか残せないこともあります。
また、年金や生活保護の受給権も差押えが禁止されているので、自己破産することで年金や生活保護を受け取れなくなることはありません。
(4)新得財産
自己破産を申し立てて、裁判所による「破産手続開始決定」が出た後に取得した財産は、そのまま手元に残せます。このような財産のことを「新得財産」といいます。
自己破産で処分の対象となるのは、破産手続きが開始される時点で債務者が有している財産に限られます。その後に取得した財産は対象外となるので、そのまま保有できるのです。
具体的には、開始決定後に受け取った給料や報酬、そのお金で購入したものや、贈与されたものは新得財産となります。
(5)自由財産拡張が許可された財産
以上の基準に従って破産者の手元に残せる財産のことを「自由財産」といいます。
自由財産に該当しないものは破産手続きにおいて処分されることになります。裁判所から「自由財産拡張」が許可されることによって手元に残せる場合もあります(破産法第34条4項)。
現金以外の財産については総額20万円分までしか自由財産として認められないのが原則ですが、現金と合わせて総額が99万円以内であれば、すべての財産が自由財産として認められる可能性があります。
たとえば、現金50万円預金20万円と生命保険の解約返戻金25万円がある場合、「自由財産拡張の申し立て」を行って許可されると、これらのすべてを手元に残すことができます。
ほとんどの裁判所では、財産の総額が99万円以内であれば、比較的柔軟に自由財産の拡張を認めています。
ただし、自由財産の拡張は破産者の生活状況、収入を得る見込み、財産の種類や額、その他の事情を考慮して判断されるものです。そのため、個別の事情によって総額99万円以内であっても自由財産拡張が認められない可能性もあることに注意が必要です。
(6)換価不能な財産
自由財産として認められず、処分の対象となる財産であっても、換価不能なものは債権者への配当に充てることができませんので、結果として破産者の手元に残せることがあります。
財産の換価処分は破産管財人が行いますが、価値が乏しいために買い手がつかないものや、高価ではあっても特殊なものであるために買い手が容易に見つからないと破産管財人が判断した場合は、その財産を破産財団から放棄します。
破産財団とは、債務者が破産手続開始の時点で有していた財産で、債権者への配当の引き当てとなる財産のことです。
破産財団からの放棄が裁判所によって許可されると、その財産は処分されることがなくなるため、破産者の手元に残されます。
その他にも、換価処分をするために過大な費用がかかるものや、処分するまでに過大な維持費がかかる場合は、換価できたとしてもかえって破産財団が減少してしまうため、早い段階で破産財団からの放棄が行われることになります。
2、自己破産で残せるものと残せないものがある理由
自己破産をしても残せるものの種類をざっとご説明しましたが、そもそもなぜ、自己破産で財産を処分されてしまうのでしょうか。また、すべての財産が処分されるわけではなく、残せるものがあるのはなぜなのでしょうか。
その理由を知っておくことで、納得して自己破産手続きを進めることができるようになると思いますので、ここで解説しておきます。
(1)原則として財産の処分が必要
まず、破産法の規定では、すべての財産を処分することが原則とされています。
第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
引用元:破産法
この規定のとおり、破産者が破産手続開始の時点で有する「一切の財産」が「破産財団」として債権者への配当の引き当てとされるのが原則です。
その理由は、債権者と債務者(破産者)との権利関係を適切に調整する必要がある(破産法第1条)からです。
自己破産で免責が許可されると、破産者はすべての借金の返済義務を免除されます。この結果は、破産法で定められているとはいえ、債権者にとっては一方的に不利益を被ることになり、著しい不公平が生じているともいえます。
そこで、破産者に財産がある場合には、その財産を換価して債権者に配当することで、最低限の公平を図るというのが破産法のルールです。
(2)債務者の生活の再生のために一定の財産は残される
しかし、すべての財産を処分したのでは、破産者は生活していくことができません。
破産法の目的は、債権者と債務者との権利関係を調整するとともに、債務者の経済生活の再生を図ることも目的としています。
後者の目的を実現するためには、通常の日常生活に必要な財産は破産者の手元に残す必要があります。
そこで、前項でご説明した6種類の財産は自己破産によっても処分されず、破産者の手元に残すこととされているのです。
3、自己破産で残せるもの・残せないものの具体例
それでは、さらに具体的に、自己破産で残せるもの・残せないものをみていきましょう。
ここまでのご説明と重複するものもありますが、できる限り細かいものまでご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
(1)金銭や金融商品
現金は、99万円まで残せます。タンス預金も「現金」に含みます。
以下のものは、20万円までは残すことができ、それを超える部分は処分されます。
- 預貯金
- 積立金
- 生命保険(解約返戻金)
- 学資保険(解約返戻金)
- 賃貸住宅の敷金や保証金
- 退職金(支給見込額の8分の1が対象)
生命保険や学資保険については、解約返戻金見込額が20万円以内の場合は、そのままかけ続けることもできます。20万円を超える場合は解約し、解約返戻金が配当の引き当てとなります。
退職金については、破産手続開始時点での支給見込額の8分の1に相当する金額が20万円を超える場合は、支給見込額の8分の1に相当する金額を破産管財に預けることによって、配当の引き当てとされます。退職をする必要はありません。
電話加入権は、以前は処分の対象でしたが、現在ではほとんど市場価値がないため、残すことができます。
(2)不動産
マイホームなどの不動産は、一般的に残すことはできません。別荘についても同様です。
住宅ローンが残っている場合は、破産管財人によって処分される前に、債権者が抵当権を実行することによって競売にかけられるか、任意売却されてしまいます。
なお、マイホームであっても立地条件が極めて悪く、価値も低くて買い手がつかないような物件の場合は、破産財団からの放棄によって残せることもあり得ます。
山林や原野などの土地は、一般的に買い手がつかないため、残せる場合が多くなっています。
(3)車その他の乗り物
自動車とバイクは、査定価格が20万円を超えるものは残せません。
ただし、法定耐用年数が過ぎているものは財産的価値がないものとみなされるので、残せるのが一般的です。
法定耐用年数は、普通車が初度登録から6年、軽自動車は4年、バイクは3年となっています。
自転車については、特に高価なものでない限り、残すことができます。
電動機付き自転車、車椅子、電動車椅子なども残せます。
(4)家具
以下の家具は、差押え禁止財産に含まれないものであっても価値が低いため、残すことができます。
- タンス
- 衣装ケース
- ベッド
- 布団など寝具
- ソファー
- テーブル
- 椅子
- 食器棚
- 本棚
- テレビ台
- カーペット
- カーテン
- ブラインド
- 靴箱
- 傘立て
鏡台も残せますが、複数台持っている場合は、高価なものについては残せない可能性もあります。
(5)家電
以下の家電は残すことができますが、複数台持っている場合は、高価なものについては残せない可能性もあります。
- テレビ
- ビデオデッキ
- ステレオやコンポ
- CDラジカセ
- DVDプレイヤー
- パソコン
- プリンター
- コピー機
- シュレッダー
- 電話機
- 携帯電話
- スマホ
- タブレット
- ドライヤー
- マッサージ機
(6)冷暖房機器
以下の冷暖房機器も残すことができますが、エアコンについては、複数台持っている場合、高価なものについては残せない可能性もあります。
- エアコン
- 扇風機
- 冷風機
- ファンヒーター
- 電気ストーブ
- 石油ストーブ
- 電気カーペット
(7)衣類や身の回り品
以下の衣類は残すことができます。
- 日常生活に必要な衣類全般
- スーツ
- 礼服
- ネクタイ
- シャツ
- 靴
- 鞄
- スーツケース
着物については、高価なものは処分の対象となりますが、現実には買い手がつかずに残せる場合が多くなっています。
(8)アクセサリー
以下のアクセサリーは価値が高いため、時価20万円を超えるものは残すことができません。
- ブランド時計
- 指輪(金やプラチナ製のものや、宝石が付いているもの)
- ネックレス
- ブレスレット
(9)趣味の用具
以下に掲げる趣味の用具は、基本的に残すことができます。
ただし、新しいもので価値が高いものは残せない可能性もあります。特にゴルフクラブのセットやピアノ、電子ピアノ、オルガン、カメラなどは注意が必要です。
また、絵画や骨董品、アンティーク品などでそれ自体の価値が高いものについても、残せない可能性があります。
- ゴルフクラブ
- ゴルフバッグ
- 釣り具
- スキー用品
- スノーボード
- サーフボード
- バーベキューセット
- テント
- ルームランナー
- エアロバイク
- その他トレーニング用品全般
- 健康器具全般
- ピアノ
- 電子ピアノ
- オルガン
- ギター
- バイオリン
- 尺八
- ペット
- 水槽
- 虫かご
(10)子ども用の玩具等
子ども用の玩具は、全般的に残せます。以下のものも残すことができます。
- ベビーカー
- チャイルドシート
(11)祭祀・礼拝用の財産
以下の祭祀。礼拝用の財産は残すことができます。
- 仏壇
- 位牌
- 仏像
- 神像
- 掛け軸
ただし、仏像・神像・掛け軸について、観賞用のものと認められる場合には、時価20万円を超えると残すことができません。
4、自己破産で残せるものを増やす2つの方法
ここまで、自己破産で残せるものと残せないものについてご説明してきましたが、できる限り多くのものを残したいと誰しも思うことでしょう。
以下の2つの方法をとることで、自己破産で残せるものを増やせる可能性があります。
(1)自由財産の拡張を申し立てる
1つめの方法は、前記「1」(5)でご説明した自由財産の拡張を申し立てることです。
財産総額99万円以内であれば比較的柔軟に自由財産の拡張が認められやすいですが、99万円を超える場合でも、事情によっては自由財産の拡張が認められることがあります。
たとえば、
- 居住地の交通の便が悪く、通勤や生活のために車が不可欠である
- 足が不自由なため、車がなければ生活が成り立たない
このような場合には、自由財産の拡張を申し立てることで車を残せる可能性があります。
他にも、
- 重病を患っており、生命保険を解約してしまうと二度と保険に加入できない
- 現に通院中で保険金を受け取っており、その保険を解約すると生活できなくなる
このような場合にも、自由財産の拡張が許可されれば保険を残すことができます。
他にもさまざまなことが考えられますので、自由財産の拡張を希望する方は弁護士に相談して確認してみることをおすすめします。
(2)破産管財人から親族が買い受ける
2つめの方法は、破産管財人が破産者の財産の換価処分を行うときに、親族がその財産を買い受けることです。
親族であっても第三者ですので、破産管財人から買い受けることに問題はありません。ただし、あくまでも相場に見合った適切な価格で購入してもらう必要があります。
親族が買い受けることで、その財産を引き続き破産者の手元に残すことも可能になります。
その後、破産者から買い受け人である親族へ賃料を支払うかどうかは、当事者同士で話し合って自由に決めることができます。
住宅や車、その他の財産の処分を免れない場合に、この方法を検討するとよいでしょう。
5、自己破産で残すものを増やしたくてもやってはいけないこと
自己破産で残すものを増やしたい場合、以下のような行為を考えてしまう人がいますが、決して行ってはならない行為ですので、くれぐれもご注意ください。
(1)財産隠し
前記「1」(1)でもご説明したように、財産隠しは「免責不許可事由」に該当し、借金を免除してもらえない原因となります。
自己破産を申し立てる際には、現金だけでなく、他の財産についても漏れなく正確に申告するようにしましょう。
(2)不当な処分
所有財産を不当な価格で処分することも、財産隠しと同様に免責不許可事由に該当します。
財産を不当に処分することで現金は増えますが、発覚した場合には破産管財人が「否認権」を行使して、その売買をなかったことにしてしまいます。その上に免責不許可の危険があるので、決して行わないようにしましょう。
たとえば、現金80万円と時価50万円の車を所有している場合、このまま自己破産を申し立てると車が処分されてしまいます。
しかし、申し立て前に車を15万円で売れば、現金は合計95万円となりますので「現金99万円以下のケース」として95万円を残せるようにも思えます。
しかし、この行為は上記のとおり許されないことなのです。
(3)偏頗弁済
偏頗弁済とは、特定の債権者のみに優先して返済を行うことをいいます。この行為も「免責不許可事由」に該当します(破産法第252条1項3号)。
たとえば、車の法定耐用年数が過ぎているものの、まだローンが残っているという場合、そのまま自己破産を申し立てると車はローン会社に引き揚げられてしまいます。
申し立て前にこのローンを完済すれば引き揚げられることはなく、法定耐用年数が過ぎていますので、自己破産しても車を残せるかのようにも思えます。
しかし、偏頗弁済が発覚すると、上記と同様に破産管財人に否認権を行使されるうえに、免責が不許可となるおそれがありますので、決して行わないでください。
6、自己破産で残せるものが気になるときは弁護士に相談しよう
この記事では、自己破産で残せるものと残せないものや、残せるものを増やす方法などについて解説してきました。
しかし、実際にご自身が自己破産の申し立てを検討する際には、判断に迷われることも多いと思います。
そんなときに、自己判断でことを進めると、知らずに過ちを犯してしまい、自己破産手続きに失敗するおそれがあります。
そのため、ひとりで悩まずに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談することで、残せるもの・残せないものを的確に判断することが可能となりますし、残せるものを増やす方法についてもアドバイスが受けられます。
また、他の債務整理を選択することで、財産を残しつつ借金問題を解決できる可能性もあります。
弁護士に相談すれば、あなたの状況と希望に応じて最適な解決方法を提案してもらえますので、早めに相談した方がよいでしょう。
まとめ
自己破産を検討している方なら、誰しも「残せるもの」が気になることでしょう。
自己破産をしても、一般の方がイメージしているよりは多くの財産を残せるものですが、それでも残せるものは限定的となってしまいます。
できる限り多くのものを残すためには、自己破産の申し立て方法や、他の債務整理の選択も含めて、弁護士に相談することが第一歩となります。
まずは、無料相談を利用してみてはいかがでしょうか。