自己破産の手続きについて調べると、簡易的に完了する手続きに「同時廃止」と「少額管財」というものがある中でも、「同時廃止の方がより簡単に終わる」という情報を得ている方も多いのではないでしょうか。
手続きが長引くと、手続き中の制限も長引きますし、できれば簡単に終わらせたいものです。
そこで今回は、
- 自己破産手続きにおける「同時廃止」とは?
- 「同時廃止」と「少額管財」との違い
- 自己破産手続きを「同時廃止」で終わらせる方法
について、ベリーベスト法律事務所の弁護士監修のもと、徹底的に解説してまいります。
この記事がお役に立てれば幸いです。
目次
1、自己破産手続きの同時廃止とは
同時廃止はどのようなものなのでしょうか。
(1)同時廃止とは
同時廃止とは、自己破産手続きの種類の一つで、破産手続き開始決定と同時に、破産手続きを終了(廃止)するものです。
破産手続きは、財産が本当にないか調査したり、財産がある場合には債権者に平等に配当し、さらに免責をすることができるかを判断するために行われます。
しかし、申立て書類から判断して、財産がない状況であることが明らかで配当ができず、免責不許可事由になりそうなものがなく、そもそも調査の必要がないのであれば、わざわざ手続きをする必要はありません。
そのため、破産法第216条で、破産手続の開始と同時に手続きを廃止することを定めており、これを「同時廃止」と呼んでいます。
(2)その他の自己破産手続きの種類
自己破産の、他には次のような手続きがあります。
① 少額管財
破産手続き開始決定をするとともに、裁判所から管財人が選任される手続きで、その中でも本人の財産の額が一定程度の場合に利用されます。
破産手続きは、上記のように、
- 財産についての調査
- 財産の債権者への配当
- 免責不許可事由があるときに裁量免責が適切かどうか
の調査を行うことになっています。
この審査は、裁判所から選任される管財人主導で行うことになります。
ただ、財産の調査の要否・財産の額・免責不許可事由がある場合に裁判所の裁量で免責をすることができる裁量免責が適切かどうか、といった事情によって、管財人の業務量も大きく異なります。
そこで、管財人の業務量が少なくて済む一定の財産がある場合には、少額管財という手続きで行うことになっています。
少額管財は管財人の負担を減らして簡易迅速に手続きを進めるものです。
そこで、主に管財人の報酬となる予納金が低く抑えられます(東京地方裁判所に申し立てをする場合には20万円~)。
- 個人事業主で財産関係の調査をする必要がある
- 預金や高額な自動車など一定の資産がある
- 免責不許可事由がある
というような場合には、少額管財となることになります。
なお、少額管財という運用が存在しない裁判所もあるので、その場合には後述する通常管財によることなります。
② 通常管財(特定管財)
①の少額管財は簡易なもので、資産が多い・財産の調査が複雑・裁量免責の可否の判断のための調査に時間・労力がかかりそうな場合には、通常管財となります。
通常管財は、東京地方裁判所などにおいて特定管財と呼ばれることもあります。
通常管財では、予納金が少額管財よりも高くなります(東京地方裁判所では50万円以上)。
(3)法人の破産には同時廃止はない
この同時廃止は、あくまで簡易迅速に手続きを終わらせることが目的となっています。
法人の場合には、債権者・株主などの利害関係者が多数いる上に、負債の額・債権者の数も多く、財産関係の調査にも時間がかかることが通常です。
そのため、法人が破産をする場合には、同時廃止の手続きで終わらせることはできません。
(4)同時廃止の件数
自分が自己破産手続きをするとしたら、なるべく簡易に手続きが終わり、予納金もかからない同時廃止にしたいのではないかと思います。
では、どれくらいの件数の自己破産が同時廃止になるのか、裁判所で取り扱われる案件についての統計である、司法統計を見てみましょう。
令和元年に終了した破産事件の件数は、総数で79,318件となっており、うち個人の破産については72,590件です。
72,590件のうち同時廃止で終了となった件数は45,971件で、約63%の破産事件が同時廃止で終了をしています。
(5)同時廃止と少額管財の手続きはいつ決まるのか
同時廃止と少額管財はいつ決まるのでしょうか。
正式な決定は、裁判所に自己破産の申し立てをして、申立て書類で財産も免責不許可事由もないと審理をされて決まることになります。
しかし、同時廃止にしたいと申立をして、申し立てをした結果同時廃止で終わらせることが不可能と判断され、少額管財で処理されると決定すると、直後に予納金の支払いをする必要があり、この準備ができていないと破産手続きを進められません。
そのため、自己破産をする際は、同時廃止で終了できそうか、少額管財になる可能性があるのかを吟味してから申し立てを行うと良いでしょう。
同時廃止となるかどうかが微妙である場合には、少額管財となって予納金を納める必要がある場合を見越して、ある程度お金を貯めてから申し立てをすることになります。
2、こんなに違う!同時廃止と少額管財
個人が自己破産をする場合には、ほとんどの場合に同時廃止か少額管財になります。
本項では、同時廃止になるか、少額管財になるかで、大きく異なる点について確認しましょう。
(1)面談する手続きの回数
自己破産の申し立てをすると、申立人が直接面談しなければならない手続きがあります。
同時廃止では、裁判所で行う免責審尋と呼ばれる手続きが1回あるのみです。
これに対して、少額管財では、管財人と面接をする管財人面接と、裁判所で行う債権者集会及び免責審尋(二つの手続きを1回で行います)の2回があります。
この面談は平日夜間や土日に行うことができないので、平日に仕事をしている人であれば、平日にお休みをとる回数が1回増えるかどうかは大きい方も少なくないでしょう。
(2)予納金の要否
上述したように、同時廃止では管財人がつきませんので、予納金の納付が不要であるのに対して、少額管財では予納金の納付が必要です。
東京地方裁判所では20万円~、他の裁判所では50万円というところもあるので、この差は大きいといえます。
(3)郵送物の転送
家族に内緒で自己破産をしたい人にとって影響があるのが、郵送物の転送です。
少額管財では、管財人が選任されると、郵送物が一度管財人のところに送られて、封を開けて中を確認した上で、本人に返送することになっています。
管財人のところに届けられた郵送物は、ある一定量集まると、本人に転送されてくることになります。
申し立てをした人からすると、申し立てをした後に郵送物がこなくなる期間があり、2週間程度すると、レターパック一杯に封が開いた郵送物が管財人名義で届けられる、という状態です。
同居の家族で自宅の郵送物を見る可能性がある場合には、家族に内緒で自己破産を進めることは難しくなります。
そのような場合は、管財人事務所に受け取りに行くとか、いったん管財人から申立代理人の事務所に送ってもらって、申立代理人事務所に受け取りに行く等の方法が取れないか相談してみるのもいいでしょう。
(4)住居移転の制限
少額管財の場合には、居住地を離れることが制限されます(破産法37条)。
この住居の移転には、宿泊を伴う旅行や出張も含まれます(東京地方裁判所の場合2泊以上)。
なお、裁判所の許可を得れば居住地を離れることも可能です。
(5)弁護士費用
自己破産手続きは、通常弁護士に依頼して行います。
少額管財手続きは、管財人との折衝が手続きに加わるため、弁護士費用が同時廃止よりも高い場合があります。
3、同時廃止でも少額管財でも変わらないもの
一方で、自己破産をすると同時廃止でも少額管財でも変わらないものは次の通りです。
(1)官報公告
自己破産手続きを行うと、官報に公告されます。
官報は国が発行しているもので、法律の公布や会社の決算報告などの、法律で公にすることが定められている手続きで利用されます。
自己破産手続きも破産法10条で官報に公告することが定められており、これは同時廃止でも少額管財でも1度行われます。
(2)ブラックリスト
自己破産に限らず、債務整理をするような場合や、支払いが一定期間遅れると、ブラックリストとなります。ブラックリストというのは、信用情報に債務整理をしたこと、支払いが延滞したことが記録される状態のことをいいます。
これによって、新たな借入やクレジットカードの作成・更新、スマートフォンの分割での購入など、信用情報を利用してする手続きについては出来なくなります。
同時廃止でも少額管財でも信用情報に登録され、その期間は同じです。
(3)資格制限
自己破産をして、免責がされるまで、警備員・保険募集人・宅建士のような資格については、欠格事由として登録ができなくなります。
少額管財のほうが面接の回数が1回多い分手続きの期間が長いので、その分期間は長いのです。
(4)債務が免責される
同時廃止でも少額管財でも債務は免責されます。
同時廃止・少額管財の場合にだけ免責されない債務がある、ということはありません。
(5)免責されない債務がある
原則として債務は免責されるのですが、税金・一部の慰謝料・養育費といった非免責債権があります(破産法253条)。
同時廃止でも少額管財でも、同条に該当する債務については免責されません。
4、同時廃止が利用できず少額管財になる可能性のあるもの
では、自己破産手続きを検討している場合に、同時廃止が出来なくなって、少額管財になってしまうのはどのような場合でしょうか。
(1)一定額以上の資産がある
同時廃止は、「財産がないことが明らかな場合」に利用できます。
そのため、一定額以上の資産があるような場合には、配当をすべきかどうか吟味する必要があるので、少額管財となります。
どの程度の資産があると少額管財となるかは、裁判所の運用次第なのですが、おおむね20万円以上の資産がある場合に少額管財となる可能性が高いと考えておきましょう。
東京地方裁判所の場合には、預金・自動車・解約返戻金など、一つの財産として20万円以上ある場合に少額管財となります。
(2)明らかな免責不許可事由がある
「免責不許可」とは、自己破産の目的である借金の免除の効果を受けられないことになります。
免責不許可事由があることが明らかである場合には、裁量免責をすることができるかどうかを吟味する必要があるので、少額管財になります。
免責不許可事由とは、破産法第252条1項に規定されているもので、これらの事情があると免責ができないとするものです。
代表的なものとしては、
- 財産の隠匿(1号)
- 特定の債権者にのみ債務を返済した(偏頗弁済:3号)
- ギャンブルや遊興で借金をした(4号)
といった場合に免責不許可となります。
ただし、裁判所が反省をしているか、手続きへの積極的な参加をしているかなどを総合的に判断して、免責をしても良いといえる状況であると判断されれば、裁判所の裁量で免責をすることができます(裁量免責:破産法252条2項)。
実際には、きちんと手続きに協力をしているならば、この条項に従って免責をしてもらえますので、免責不許可事由があるからといって破産ができないわけではないことを知っておいてください。
借金の原因は一様ではなく、多少浪費があるような場合でも、その多くが生活費の補填あるなど、免責不許可といえるかは状況次第になります。
(3)客観的に説明をすることができない事項がある
自己破産の申し立てには、申立書のほかに添付書類を提出して申し立てを行います。
ここには、預金通帳のコピー2年~3年分の添付・給与明細を添付するなど、資産や債務についての情報を提供し、資産がない・免責不許可事由はない、ということを客観的に示すことになります。
しかし、この添付書類の中に客観的な説明をすることができない事項があると、裁判所で調査をしなければならないと判断することがあります。
例えば、預金口座の中に、個人名での現金での取引が頻発しているとしましょう。
例えばインターネットオークションを副業で行っているような場合にこのような状態になっていることがあるのですが、同時に個人間の貸し借りを頻発に行っている場合や、闇金融からの借入をしているような場合にも同じように個人名での現金の取引が頻発します。
インターネットオークションを利用しているような場合は、その履歴を詳細に添付して説明すれば良いのですが、個人間の貸し借りがあるような場合や闇金融からの借入をしているような場合にはこれを説明することができません。
個人間であっても弁護士に依頼してから返済を行うことは、上述した偏波弁済で免責不許可事由となるものですし、弁護士に依頼してからの借入・闇金融からの借入も免責不許可事由です。
また、給与明細を見ると、職場からの前借金が差し引かれているのを確認されると、職場に借入がありそれを返済していることが判明し、同じく偏波弁済として免責不許可事由になります。
このような不自然な事項についてきちんと説明できない状態で申し立てをすると、調査の必要性ありとして、少額管財となることがあります。
(4)自分で申立をする・司法書士に依頼をする
裁判所の運用では、弁護士の代理によらず自分で自己破産の申し立てをすると、少額管財となるところがあります。
そのため、自己破産は弁護士に依頼して行うようにしましょう。
なお、債務整理については司法書士も依頼を受けていますが、司法書士は書類の作成のみを行い、申立代理人にはなれないので、自己破産についてはあくまでも自分で申立てをした場合と同様に取り扱われます。
5、同時廃止で簡単に手続きを終わらせたい場合の注意点
自己破産を依頼する際に同時廃止で終わらせたい場合、どのような点に注意すべきでしょうか。
(1)司法書士ではなく弁護士に依頼をする
上述したように、司法書士は自分で申立てをしたのと同様に取り扱われるため、同時廃止をしたいのであれば弁護士に相談・依頼をすべきです。
(2)自己破産手続きに詳しい弁護士に依頼をする
弁護士であれば誰に依頼をしてもいいというわけではありません。
弁護士にも得意・不得意な分野があり、自己破産が不得意な弁護士に依頼をすると、同時廃止にできずに少額管財となってしまうことがあります。
自己破産手続きは、個人法務と呼ばれる個人の法律問題を取り扱う弁護士が取り扱うことが多いです。
ただ、借金に関する問題については避ける弁護士もいるので、ホームページで自己破産・債務整理を取り扱っていることを明確に示している事務所に依頼をするようにしましょう。
(3)どのような事情があっても弁護士には包み隠さず打ち明ける
弁護士に相談・依頼をする際には、どのような事情があっても弁護士に内緒にせずに打ち明けるべきです。
たとえば、親族・友人・交際相手から借り入れをしていて、返済をしないわけにはいかないので、弁護士に依頼をしながらも黙って返済をしているようなことがあります。
上述しましたが、これは偏波弁済となるものであり、免責不許可事由にあたって少額管財になってしまいます。
弁護士はこのことを知っていれば、希望をそのまま叶えることが難しくても、代わりになる方法を提示してもらえます。
しかし、弁護士がこれを知らなければ、対応のしようがありません。
同時廃止で自己破産をしたい場合には、弁護士には包み隠さず状況を話すようにしましょう。
まとめ
このページでは同時廃止についてお伝えしました。
自己破産手続きの一つの方法である同時廃止は、お金もかからず手続きが簡単に終わるものです。
自己破産手続きに詳しい弁護士に依頼するようにしましょう。