裁判を起こされることは、ほとんどの人にとって精神的に大きな負担となるものです。債権者から裁判されたことで「給料が差し押さえられる」、「家族にばれてしまう」といった不安を感じる人も多いでしょう。
そこで今回は、
- 弁護士に任意整理を依頼したにもかかわらず、債権者が裁判を選択する具体的ケース
などについてまとめてみました。
目次
1、弁護士に任意整理を依頼したのに債権者から裁判される?
弁護士に任意整理などの債務整理を依頼した場合であっても、債権者から裁判を起こされることは、実は珍しいことではありません。
なぜ弁護士に任意整理を依頼したにもかかわらず、債権者から裁判を起こされてしまうのか説明します。
(1)債務整理後の取り立て禁止との関係
債務者が弁護士に債務整理の依頼をすると、貸金業者などの債権者へ「受任通知」が送付されます。
受任通知を受け取った債権者は、債務者に対して任意の返済を求める直接の取り立て(連絡行為)が、法律に基づき禁止されています。
しかし、法的な手続き(訴訟提起・支払督促の申立て・担保権の実行・仮処分の申立て)による債権の回収まで禁止されているわけではありません。
支払期限の過ぎた借金を返済してもらうことは、債権者に認められた当然の権利でもあるからです。
したがって、債権者が弁護士から受任通知を受け取った後でも、貸金請求の訴訟を提起することはできるわけです。
(2)任意整理依頼後に裁判を起こされる原因3つ
債務者からの依頼を受けた弁護士が任意整理に着手した後に債権者が裁判を起こす理由としては、主として次のようなことが原因となります。
①受任通知送付から時間が経っても和解がまとまらない場合
受任通知の送付から時間が経っても、和解の交渉が始まらない、進展がないという場合には、債権者が訴訟の提起などに踏み切ることがあります。
受任通知の送付から時間が経っても和解が進まない理由としては、債権者の数が多い、対応が悪い業者がいる場合などがあります。
また、債務者が債務整理の着手金などの費用を、分割払いにしている場合には、着手金を払い終わらなければ、受任通知を送付した後の手続(和解の交渉)に着手してくれないのが一般的です。
たとえば、着手金の分割払いのために半年以上かかってしまったというような場合には、「これ以上対応を待てない」と判断した債権者が訴訟に踏み切るというケースもあるので注意する必要があります。
②債権者が「任意整理には応じない」と決めている場合
債権者が「任意整理には応じない」と会社の方針で決めている場合もあります。
簡単に任意整理に応じてしまうと、株主から責任追及される、すぐに債務整理をしてくれる金融機関だと顧客に思われると困る(顧客のモラルハザードが生じやすくなる)といったリスクが生じることもあるからです。
また、以前に特定の弁護士(法律事務所)と揉めていて関係が悪い場合には、その弁護士(法律事務所)の任意整理には応じないという債権者もいないわけではありません。さらには、借金の返済状況が悪すぎる場合には、債権者の判断で「任意整理に応じないだけでなく訴訟での強行回収」をあえて選択するということもありえます。
③任意整理の依頼と債権者による訴訟提起が入れ違いになる
債務者が、弁護士に任意整理の依頼をする前に、すでに返済を長期間滞納していたという場合には、受任通知の送付と債権者による訴訟提起が「入れ違い」になってしまうこともありえます。
2、裁判を起こされたら任意整理は意味がなくなる?
裁判を起こされてしまったからといって、任意整理が無意味になってしまうのではないかと不安に感じる人もいるかと思います。
しかし、裁判を起こされた場合でも、訴訟外で和解を成立させて、訴えを取り下げてもらうことは不可能ではありません。一般的な民事裁判では、このように処理される事件も決して少なくありません。
ただし、訴訟提起をしてくる債権者のほとんどは、債務者の差押え可能な財産を把握している場合が多いので、訴訟外で和解をするということは、簡単なことではありません。そのような対応を希望する場合には、やはり任意整理の経験が豊富な弁護士などの専門家に依頼する必要があるといえます。
また、債権者が提起した裁判手続きの中で和解をすることも可能です。
債務者に分割返済の意思があれば、判決を下すよりも事案が簡易・迅速に処理できるので、ほとんどの裁判所が和解を勧めてくれます。裁判所としても、判決を下すよりも和解の方が簡易・迅速に事案を処理できるため好都合といえるからです。債権者としても裁判官から和解を勧められたことで、しぶしぶ和解に応じてくれるということは少なくありません。
したがって、裁判を起こされたからといって、必ず「強制執行される」と諦めてしまう必要はありません。
3、裁判を起こされたことによって生じるデメリット4つ
債権者に裁判を起こされたことによって、任意整理で解決するよりも、債務者にとってはデメリットが多く生じます。
ここでは、債務者にとっての4つのデメリットを紹介します。
(1)家族などに借金問題を知られてしまう
債権者に裁判を起こされてしまうと、訴状が債務者の自宅に送られてくる可能性が高いといえます。
債務者に同居の家族がいて、任意整理のこと(借金があること)を家族には内緒にしている場合には、訴状が届いたことが原因で借金のトラブルがあることを知られてしまうこともあります。
(2)和解の主導権を債権者に握られてしまう
債権者が訴訟提起をするケースのほとんどは、債務者の給料などの差押え可能な財産に検討がついている場合です。強制執行できる見通しもないのに訴訟を提起しても債権者にはあまり利益がないからです。
強制執行で回収できるという見通しが立っている以上に、債権者は、(過払い金がある場合などの例外的なケースを除けば)訴訟で負ける可能性はほとんどないので、わざわざ自分が納得できない条件で和解に応じる必要がないといえます。
したがって、裁判を起こされてしまった場合には、和解で解決するという場合でも、債権者が主導権を握ることになり、債務者にとっては裁判外で解決するよりも不利な条件で和解に応じなければならない可能性が高くなるといえます。
(3)強制執行されてしまうリスク
上でも触れたように、債権者が債務者に対して訴訟提起をするのは、強制執行を実施するためです。強制執行を行うためには、確定判決などの「債務名義」を得なければならず、民事訴訟や支払督促といった裁判所の手続を申し立てなければならないのです。
なお、裁判上の和解をした場合には、その和解調書は「債務名義」となります。
したがって、裁判上の和解の後に債務者が返済を怠った場合には、強制執行される可能性があります。
任意整理(訴訟外の和解)の場合には、債務名義は作成されない(和解契約書は私的な契約書なので公正証書にしない限り債務名義にならない)ので、万が一、その後に返済できなくなってしまってもすぐに強制執行されることはありません。
その点でも、裁判を起こされてしまうと債務者にとっては不利な状況になってしまうといえます。
(4)追加の弁護士費用が必要になる場合も
訴訟での債務整理となった場合には、追加での弁護士費用が必要となる場合も少なくありません。
任意整理の着手金は、「訴訟外の和解のみ」を前提とした金額になっていることが多く、債権者から訴えられた裁判でも代理人を引き受けてもらうためには、追加の着手金を支払う必要が生じる場合が多いからです。
4、任意整理後に裁判されないためには「早期対応」が大切
債権者から裁判を起こされないためには、借金の状況が悪くなりすぎないうちに1日でも早く弁護士に相談し、任意整理を進めていくことが大切です。
(1)借金の状況が悪いほど債権者も態度を硬化させやすい
借金の返済が苦しく、債務者が長期に渡って何度も滞納をしているような場合には、債権者が厳しい態度をとることもあります。
逆をいえば、滞納が全くない状況であれば、債権者が厳しい対応をする可能性は低く、残債務や借入件数が少なければ少ないほど、任意整理も早く成立させやすくなります。
(2)万が一裁判を起こされてしまったら
万が一、任意整理を弁護士に依頼した後に裁判を起こされてしまったら、すぐに任意整理を依頼した弁護士に報告・相談しましょう。
「裁判を起こされた」と1人で慌ててしまい、無理な金策をすると、誤った対応をして状況をさらに悪化させる原因になってしまいます。
そもそも、弁護士が債権者へ受任通知を送付した後は、金融機関から新たな借入れをすることは、信用情報の問題から不可能に近いといえます。
したがって、無理な金策は、闇金などの危険な取引と関わってしまう原因になりかねません。闇金からお金を借りることは、借金の問題解決にはなりませんし、返済・利息の支払いの代わりに犯罪に協力させられるケースもあるので、状況がさらに悪くなるリスクを抱えるだけといえます。
ここまで解説してきたように、任意整理に着手した後に債権者が裁判を起こすことは珍しいことではありませんし、裁判されたからといってすぐに給料などが差し押さえられてしまうというわけでもありません。債権者から裁判を起こされてしまったら、慌てずに落ち着いてすぐに弁護士に相談しましょう。
まとめ
債権者から裁判を起こされてしまった場合でも、裁判上の和解ができる可能性は十分に残されています。
「差し押さえられてしまう」と諦めずに、1日も早く弁護士に相談しましょう。
また、債権者から裁判を起こされないためには、できるだけ早く債務整理に着手することが何よりも大切です。
返済が苦しいと感じたら、借金を滞納してしまう前に、できるだけ早く弁護士に債務整理の相談をすることをお勧めします。