海賊版ダウンロードに対する規制を強化する改正著作権法が2020年6月5日に成立し、2021年1月1日から施行されています。
今までも、音楽や映像については違法にアップロードされたもののダウンロードは規制されていました。
改正後は漫画や書籍をはじめとして、新聞、論文、コンピュータープログラム、その他すべての著作物が規制の対象となり、悪質な場合は刑事罰の対象にもなります。
いまや、インターネットから様々な著作物をダウンロードすることは、私たちの生活の一部となっています。知らないうちに違法な行為を行うことのないよう、改正著作権法の内容はしっかりとチェックしておく必要があるでしょう。
そこで今回は、
- 海賊版のダウンロードが違法になるケースとは
- 違法ダウンロードをしてしまうとどうなるのか
- 海賊版を違法にダウンロードしないための注意点とは
などを中心に、改正著作権法による海賊版ダウンロードの規制強化について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説いたします。
インターネットをご活用の皆様に、本記事がご参考になれば幸いです。
目次
1、海賊版ダウンロードに対する規制とは
まずは、そもそも海賊版とはどういうものなのかについて確認しておきましょう。
併せて、なぜ海賊版ダウンロードが規制され、さらに規制が強化されることになったのかについてもご説明します。
(1)海賊版とは
海賊版とは、何からの著作物について著作権者の許可を得ることなく無断で複製され、販売されるなどして流通する非合法商品のことをいいます。
例えば、著作権者に無断でYouTubeなどの動画投稿サイトにアップロードされた音楽や、無断で映画をダビングしてオークションサイトなどで販売されているDVDなどが海賊版に該当します。
(2)海賊版ダウンロードが規制される背景
著作物を使用する権利は、本来は著作権者が独占して有しています。他の人がその著作物を使用する場合は、著作権者に対して著作権使用料を支払わなければなりません。
アーティストや作家、漫画家、映画の制作者などの著作権者は、印税や著作権使用料などを受け取ることによって収益を得ます。収益が上がることによって、その著作権者はさらに優れた作品を生み出し、公開することが可能になります。
そうすることによって消費者も良い作品を楽しむことができますし、日本の文化の発展にもつながります。
しかし、海賊版がダウンロードされる場合、著作権者には印税も著作権使用料も支払われません。消費者が対価を支払ったとしても、そのお金はすべて、海賊版を違法にアップロードした人が受け取ることになってしまいます。
これでは著作権者に多大な損害が発生しますし、優れた作品は生み出されにくくなってしまいます。そうなると、日本の文化が衰退することにもなりかねません。
このような事態を防止するために、海賊版ダウンロードは規制されているのです。
(3)著作権法等の改正による規制の強化
以前から、音楽や映画などの映像については海賊版が出回っていたため、そのダウンロードは規制されていました。
しかし、インターネットが普及するに伴い、漫画や書籍、ゲームなどの海賊版も広まってしまいました。そこで、今回の改正著作権法ではすべての著作物が規制の対象となります。
2、現行法で規制されている海賊版ダウンロード
海賊版ダウンロードの規制に関する著作権の改正内容をご紹介する前に、現行法における規制内容を確認しておきましょう。
(1)違法にアップロードされた音楽や映像のダウンロード
まず、著作権者に無断で音楽や映像をインターネットにアップロードすること自体が規制されています。この行為に対しては、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)という刑罰が科せられています。
そして、このようにして違法にアップロードされた音楽や映像をダウンロードすることも規制されています。
たとえ個人的に利用する目的であっても、
- 違法にアップロードされたものであることと、
- 販売または有料配信されていること
の両方を知りつつダウンロードした場合は、その人にも2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金(またはその両方)という刑罰が科されます。
ただし、違法アップロードや海賊版のダウンロードは親告罪であり、著作権者から告訴された場合に限って処罰されることになります。
(2)違法配信であることを知らなかった場合は違法でない
現在でも、海賊版の音楽や映像は多数出回っているのが実情です。そのため、知らないうちに犯罪に及んでしまうのではないかという不安をお持ちの方も多いことでしょう。
しかし、違法にアップロードされたものであることを知らずにダウンロードした場合は、違法とはなりません。
もっとも、明らかに非合法なサイトからダウンロードをした場合は、違法にアップロードされたものであると知っていたと推認される可能性があるでしょう。その場合、違法にアップロードされたものだとは知らなかったという弁解は通らない可能性があります。
(3)動画を視聴するのみなら違法ではない
また、海賊版であっても「ダウンロード」しなければ、そもそも違法とはなりません。
ダウンロードとは、対象となるコンテンツを自分のパソコンなどに録音または録画することをいいます。
したがって、動画投稿サイトにアップロードされた音楽や映像を視聴するだけなら、違法にアップロードされたものであることを知っていたとしても違法ではありません。
3、改正法で新たに規制される海賊版ダウンロード等
次に、今回の改正著作権法によって新たに規制される主な内容についてご説明します。
(1)著作物のダウンロードに対する民事上の規制
違法にアップロードされたものであることを知りつつ、海賊版をダウンロードすると、民事上違法となります。
したがって、著作権者から損害賠償を請求される可能性があります。
現行法では違法となる対象は音楽と映像のみですが、改正法ではすべての著作物に対象が拡大されます。
(2)反復・継続したダウンロードに対する刑事上の規制
違法にアップロードされたものであることを知っていたことに加えて、正規版が有償で提供されている著作物の海賊版を継続的にまたは反復してダウンロードすると、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金(またはその両方)という刑罰が科されます。
この刑事上の規制も、現行法では音楽と映像のみが対象ですが、改正法ではすべての著作物に対象が拡大されます。
(3)リーチサイト・アプリに対する規制
リーチサイトとは、違法にアップロードされた海賊版コンテンツの利用にインターネットユーザーを誘導するサイトのことをいいます。同様の働きを持つアプリのことをリーチアプリと呼びます。
今回の改正法では、このようなリーチサイト・リーチアプリも規制の対象となります。
具体的には、リーチサイト・リーチアプリ においてユーザーを海賊版に誘導するリンクを提供する行為は違法となります。
違反した場合は、著作権者から民事上の差止め請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。
また、刑事罰として3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金(またはその両方)が科されます。
さらに、リーチサイトの運営者やリーチアプリの提供者も、海賊版に誘導するリンクを削除できるにもかかわらずしなかった場合は違法となります。
著作権者から民事上の差止め請求や損害賠償請求を受ける可能性がありますし、刑事罰として5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(またはその両方)が科されます。
4、改正法の施行後も合法な海賊版ダウンロード等
では、改正法の施行後は、どこまでの行為が合法なものとして許されるのでしょうか。
(1)違法配信であることを知らなかった場合
まず、現行法と同様に、違法にアップロードされたものであることを知らずにダウンロードした場合は、違法とはなりません。
「知らなかった」と言い訳すれば許されるというわけではありませんが、海賊版をダウンロードしたユーザーが次々に逮捕されるという状況にはならないと考えられます。
(2)二次的著作物
他人の著作物をそのままアップロードするのではなく、加工して創作されたものを二次的著作物と呼びます。
二次的著作物を原著作者の許可なく無断でアップロードする行為は違法ですが、それをダウンロードする行為は、違法にアップロードされたものであると知っていたとしても違法とはなりません。
(3)軽微な著作権侵害
違法にアップロードされたのが1冊の漫画の中のひとコマのように、ごく少量の場合や、画質が悪くて不鮮明な場合などは、著作権侵害が軽微なため、違法とはなりません。
また、スマホでスクリーンショットを撮った場合に他人の著作物が写り込んでしまった場合なども、規制の対象外となります。
(4)著作権を不当に侵害しない特別な事情がある場合
著作者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合についても規制の対象外となり、違法とはなりません。
どのような場合に特別な事情が認められるかについては、
著作物の種類や経済的価値などによる保護の必要性の程度と、ダウンロードする目的や必要性などを総合的に考慮して判断されます。
典型的なケースとしては、以下のような場合が考えられます。
- 詐欺集団が作成した詐欺マニュアルを防犯目的でダウンロードすること
5、海賊版ダウンロードで違法にならないための対処法
最後に、海賊版ダウンロードによって違法にならないためにどうすればよいのかをご紹介します。
(1)著作物は無料で手に入るものではないことを意識する
まず、そもそも著作物は無料で手に入るものではないことを知っておきましょう。
インターネットの普及によって、様々なコンテンツが容易に手に入りやすくなったのは事実です。しかし、著作物を生み出した人が印税や著作権使用料を受け取ることによって自身の生活を守っていることには変わりありません。
最初から無料で提供されているコンテンツも数多くありますが、その場合は別途、広告料などで収益が得られる仕組みが施されていることも多いです。
海賊版をダウンロードすると著作権者に収益が入らないため、優れたコンテンツが生まれにくくなってしまうことを意識しましょう。
(2)海賊版サイトやリーチサイトを利用しない
海賊版を主に紹介しているサイトやリーチサイトなどは、違法なコンテンツの温床なので、利用しないようにしましょう。
このようなサイトのほとんどは広告料収入を得ることを目的としたものですが、利用すればするほど著作権者以外の人が収益を得る仕組みとなっています。
最初からこれらのサイトは利用しない方が安全です。
(3)適法マークが付いたコンテンツを利用する
改正法では、著作権者は自社のコンテンツに適法マークを表示するなどして、ユーザーが安心してインターネットを利用することができるようにすべき努力義務が課されます。
既存の制度として、音楽や映像に関する「エルマーク」や、電子書籍に関する「ABJマーク」などが、正規コンテンツであることを示すものとして利用されています。
これからは、著作物をダウンロードする際には、このような適法マークが付されたものを選ぶようにしましょう。
まとめ
改正著作権法によって海賊版のダウンロードに関する規制が強化されますが、一般のダウンロードユーザーは悪意がない限り、それほど怯える必要はありません。
一方、著作物をアップロードする場合には著作権法を正確に理解し、違法でないかを慎重に判断しなければなりません。
不安なときは、著作権法に詳しい弁護士に相談の上で、適切に対処すべきでしょう。
著作権法によって著作者が守られてこそ、優れた著作物が生み出されます。それによってこそ私たちも良い作品を楽しむことができます。
そのことを頭に置いた上で、インターネットを活用し、様々なコンテンツを楽しみましょう。