労災による死亡事故の慰謝料の相場と具体的な請求方法についてご存知ですか?
工場で鉄骨を釣り上げていたクレーンの留め金が外れて落下し、作業員がその下敷きになって死亡してしまった、というような、痛ましい労災死亡事故の報道をお聞きになったことがある方も多いと思います。
もし、家族がこのような事故に遭ってしまったとき、ご遺族の方々としては、勤務先の会社に対して、何をどうやって請求していけばいいのかもわからず、途方に暮れてしまうのではないでしょうか。
そこで今回は、労災による死亡事故の際に大きな問題となる、死亡慰謝料の相場とその請求方法について、ご説明させていただきます。
もちろん実際には、被害者の方それぞれのケースで解決までの道のりは異なりますが、大まかな流れだけでも知っておくことで、労災による死亡事故に遭われた方のご遺族の不安を、少しでも取り除くことができれば幸いです。多数の労災事件で慰謝料を獲得した実績をもつベリーベスト法律事務所の弁護士が説明します。
労災の認定について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
目次
1、労災の死亡事故の場合に慰謝料請求は可能?
労働者が勤務中に、会社が行うべき安全対策を怠っていたことが原因で、又は会社の他の労働者の故意若しくは不注意によって発生した事故により怪我を負ってしまった場合には、被害者は会社に対して、治療費や休業損害、慰謝料、後遺障害が残存した場合の逸失利益(元気に働いていたら得られたはずの利益)等、様々な費目の損害賠償請求をすることが出来ます。
さらに、労災事故により被害者が死亡してしまった場合、被害者のご遺族は、被害者自身が持っていた会社に対する請求権を相続することになりますので、ご遺族は会社に対して、これら慰謝料等を請求することが出来ます。
2、労災の死亡事故の場合の慰謝料の相場は?
労災事故により被害者が死亡してしまった場合、これまでの裁判例等から認められることの多い一応の目安となる金額としては、遺族にとってどのような方が亡くなられたのかによって、以下のような死亡慰謝料を請求することが出来ると考えられます。
- 一家の支柱 2,800万円
- 母親、配偶者 2,500万円
- その他 2,000万円~2,500万円
もちろん、これらの金額はあくまで目安ですので、事故の態様や会社側の過失の大きさ等によって、事案ごとに増減します。
なお、先に述べたように、遺族が請求することのができる慰謝料は被害者本人の慰謝料請求権を相続したものもありますが、遺族固有の慰謝料も請求することもできます。上記金額は、被害者本人から相続した慰謝料請求権と遺族固有の慰謝料請求権の総額としての目安です。
3、労災の慰謝料は労災保険の支払いの対象ではない!
ここで、労災事故については、労災保険から保険金を支払ってもらえるということをご存知の方も多いかと思います。
たしかに、労災保険からは、
- 治療費を補償する、療養補償給付
- 休業損害を補償する、休業補償給付
- 後遺障害が残った場合の逸失利益を補償する、障害補償給付
- 死亡による逸失利益を補償する、遺族補償年金
- 葬祭諸費用を補償する、葬祭給付
等、様々な補償を受けることができます。
しかし、ここで気をつけなければならないこととして、労災保険の保険金では、慰謝料を補償するものは給付されないということです。
つまり、労災の死亡事故に遭ってしまったときでも、その死亡慰謝料については、労災保険からは支払ってもらえないのです。
4、労災の場合に死亡慰謝料を請求する方法は?
上記のとおり、死亡慰謝料は労災保険からは支払ってもらえませんので、遺族としては、被害者の勤務先の会社に対して、死亡慰謝料を請求していくことになります。
ただし、労災事故であれば必ず勤務先の会社が死亡慰謝料を支払ってくれるわけではありません。
労災保険は、労働基準監督署の調査により、労働者が会社に指示された業務を行っているときに(これを、「業務遂行性」といいます。)、その業務を行っていたせいで事故が発生した(これを、「業務起因性」といいます。)ということさえ認められれば、その事故を労災事故と認め、保険金を支払ってくれます。
他方で、勤務先の会社が、その事故についての損害賠償責任を負うかどうかについては、単にこの業務遂行性と業務起因性が認められるだけでは足りず、その事故を防ぐために、会社として整備しておかなければいけなかった安全設備を、過失によって整備していなかったということ(これを「安全配慮義務違反」といいます。)等を、被害者が立証しなければなりません。
この「安全配慮義務」の内容については、作業現場での指揮系統の在り方、被害者が行っていた具体的な作業の内容、事故現場の物理的な状況等によって、誰が、何を、どこまで整備しておかなければいけなかったのか、整備できていなかったことにやむを得ない事情はないのか、といった点で、事案ごとに千差万別であり、一つ一つ個別に判断をしていかなければならないものですので、わかりやすい明確な基準があるわけではありません。
そこで、労災の死亡事故について、勤務先会社に対して、「安全配慮義務違反」に基づく損害賠償請求権として死亡慰謝料を請求するためには、このような「安全配慮義務違反」の有無、内容を事案に応じて具体的に主張・立証していかなければなりません。
また、会社の他の労働者が、業務中に故意又は不注意によって事故を発生させた場合には、会社は使用者責任として被害者に発生した損賠を賠償する責任を負います。
この場合、労災の死亡事故について、勤務先会社に対して、「使用者責任」に基づく損害賠償請求権として死亡慰謝料を請求するためには、他の労働者が負うべきであった注意義務の内容、その注意義務の違反の具体的な内容及びその注意義務違反と労災の死亡事故との因果関係等を事案に応じて具体的に主張・立証していくことになります。
5、より高額の慰謝料を獲得する方法は?
上記のとおり、労災の死亡事故において勤務先会社に対し安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求として慰謝料を請求するためには、勤務先会社が、どのような安全対策をしていなかったことが「安全配慮義務違反」にあたるのかということを主張・立証していかなければなりません。
また、労災の死亡事故において勤務先会社に対し使用者責任に基づく損害賠償請求として慰謝料を請求するためには、勤務先会社の他の従業員が負っていた注意義務の内容、注意義務違反の内容及び因果関係を主張・立証していかなければなりません。
いずれの場合にも、労働局に対する保有個人情報開示という手続きで、当該労災事故に関して労働基準監督署が調査した調査復命書という書類を取得したり、警察が作成した実況見分調書を取り寄せたりして、当該労災事故の発生状況に関する資料を出来るだけたくさん集めなければなりません。
そして、具体的な事故の状況等を把握できたら、今度は、労働安全衛生等の関係法令法等を調査して、法的にみて勤務先会社が安全配慮義務違反又は使用者責任を負うのかを検討していかなければなりません。
このように、労災の死亡事故に関して、より高額な慰謝料を獲得するためには、適切な情報収集を行い、その情報に基づいて考えられる最大限の慰謝料額を算出し、勤務先会社との交渉を行っていくという、非常に専門的な知識・ノウハウが必要となってきますので、お早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
6、慰謝料以外に労災の死亡事故の場合に請求することの出来るお金は?
ここまで、主に労災の死亡事故の際に請求できる死亡慰謝料についてご説明してまいりましたが、労災の死亡事故に遭ってしまった場合、遺族は、勤務先の会社に対して、この死亡慰謝料以外にも請求できる可能性があります。
例えば、労災事故に遭ってしまってから亡くなるまでの間に入院、通院をしていれば、その治療費や交通費、休業損害、逸失利益のうち労災保険で補償されなかった部分がある場合には当該部分、また、労災保険では補償されない入通院に対する慰謝料等、様々なものが請求できる可能性があります。
これら慰謝料以外に請求できるものの中でも、金額が大きくなることが多く、特に問題となるのは、死亡逸失利益です。
死亡逸失利益とは、労働者が死亡してしまったことによって、その労働者が将来得られるはずだったのに得られなくなってしまった収入に相当するものをいいます。
この逸失利益の計算方法は、
基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
という計算式で算定するため、亡くなった方が事故前にもらっていた賃金額、家族構成、年齢等によって大きく異なりますが、働き盛りの男性が亡くなった場合等には、数千万円という金額になることもあります。
7、労災の死亡事故の場合に請求できる賠償金のシミュレーション
実際に労災の死亡事故に遭ってしまった場合に、その賠償金がどれくらいの金額になるのかということは、残された遺族の方々の生活に直接関わってくる大きな問題です。
そこで、一般的な家族を想定して、労災の死亡事故に遭ってしまった場合に請求できる賠償金の金額について、シミュレーションをしてみたいと思います。
まず、被害者ご本人を、38歳の男性会社員(年収500万円)として、この被害者の方には奥様とお子様が2人いたとします。
そして、被害者が会社で勤務中に、労災事故(被害者には全く落ち度がないものとします。)に遭い、病院に搬送される前に死亡してしまったとします。
このような労災の死亡事故において、遺族が請求できる賠償金の金額は、概要、以下のようなものになります(労災保険からの受給は考慮しないものとします)。
- 逸失利益
- 500万円(事故当時の年収)×(1-生活費控除率30%)×15.1411(67歳までの年数分のライプニッツ係数)=5299万3850円
- 死亡慰謝料
- 2800万円
- 葬祭費用
- 120万円
- 合計
- 8219万3850円
8、最後に
このように、労災の死亡事故に遭ってしまった場合には、突然家族を亡くし、悲しみに暮れ、今後の生活に対しても大きな不安を抱えている中で、労災の手続きや勤務先会社に対する損害賠償請求の手続き等、慣れない手続きを行っていかなければなりません。
残されたご遺族の方々が、安心して生活していけるよう、十分な賠償を受けられるようにするためにも、お早めに専門家に相談されることをお勧めします。