寸借詐欺(すんしゃくさぎ)とは「財布を忘れた」などと嘘をつき、相手の善意につけ込んでお金をだまし取る行為のことです。
今回は、寸借詐欺について分かりやすく解説し、寸借詐欺の手口や被害に遭った際の対処法、そして予防策について、弁護士が詳しくお伝えします。
目次
1、寸借詐欺とは
まずは、寸借詐欺とはどのような犯罪であるのか、犯人にはどれくらいの刑罰が科せられるのかについてご説明します。
(1)少額の現金を騙し取る犯罪
寸借詐欺とは、手持ちのお金がなくて困っているように装い、少しの間だけお金を貸してほしいと頼み込んで、お金を騙し取る手口の犯罪のことです。
「財布を落としてしまい、電車の切符が買えない」
「注文した料理を食べた後に、お金を忘れたことに気付いた」
「カードをなくしてATMが使えず、帰省できない」
といった口実で、「あとで返す」という約束の下に、現金を少しだけ貸してほしいと頼むケースが典型例です。
本当に困っていて、実際に返す意思があれば単なる借金であり、何ら違法な行為ではありません。
しかし、返すつもりがないのに嘘を言ってお金を受け取る行為は、刑法上の詐欺罪(刑法246条1項)に該当します。
(2)寸借詐欺の刑罰
寸借詐欺は、れっきとした「詐欺罪」ですので、有罪となれば10年以下の懲役刑に処される可能性があります。
もっとも、被害金額が小さいケースが多いこともあり、初犯であれば不起訴となり、実際には刑罰が科せられないことも少なくありません。
しかし、常習犯が逮捕されたようなケースでは、起訴されて刑事裁判で懲役の実刑判決が言い渡されることもあります。
2、寸借詐欺の手口
寸借詐欺の手口は、返すつもりがないのに、返す意思と能力があるように装って嘘をつき、お金を騙し取るという点では、一般的な詐欺罪の事例と同じです。
しかし、以下の点は寸借詐欺に特有の手口といえます。
(1)人の善意に訴えかける
寸借詐欺の犯人は、人の善意に訴えかけてお金を出させようとします。
見知らぬ人に対して、いきなり「お金を恵んでほしい」と言ったところで、なかなか相手にされないことでしょう。
しかし、「財布を落とした」「お金を忘れた」「カードをなくした」などと言って困っているそぶりを見せられればどうでしょうか。普通の人なら「かわいそうだ」「自分にできることなら助けてあげたい」と思うはずです。
このように、人の善意を逆手にとってお金を出させる理由を設定するのが、寸借詐欺の手口の第一段階です。
(2)少しのお金を貸してほしいと頼む
寸借詐欺では、お金を貸してほしいといっても大金ではなく、少額を頼んでくるケースがほとんどです。
電車賃や飲食費などでは数百円~数千円程度、帰省費用などでも数万円程度といった金額を貸してほしいと言ってきます。
具体的な金額は事案によってまちまちですが、数十万円や数百万円といった大金を寸借詐欺で騙し取られることは考えがたいです。
数千円~数万円程度のお金なら、多くの人が持ち歩いていますし、「その程度なら貸してもいいか」と思える金額でしょう。
このように、大した頼みではないと思わせて実際にお金を出させるのが、寸借詐欺の手口の第二段階です。
(3)虚偽の連絡先を伝える
寸借詐欺は「お金を恵んでほしい」とは言わず、「必ず返すので今だけ貸してほしい」といいます。
見ず知らずの人に返済を約束するためには、連絡先を交換しなければなりません。
しかし、寸借詐欺の犯人はお金を返すつもりなどないのですから、虚偽の連絡先を伝えます。
大企業の肩書が記載された名刺を渡してくる詐欺犯もいますが、会社名から氏名、連絡先まで架空のものであることがほとんどです。
お金を貸した側は、後日、返してほしいと思って連絡をとろうとしてもつながらず、そのときにようやく詐欺の被害に遭ったことに気付きます。
このようにして、怪しまれることなくお金を持ち逃げすることにより、寸借詐欺の犯行が完成するのです。
3、寸借詐欺が事件化されにくい理由とは
実際のところ、寸借詐欺の事案は警察に通報しても事件化されず、被害者は泣き寝入りせざるを得ないことが少なくありません。その理由は、以下のとおりです。
(1)1件当たりの被害が少額だから
寸借詐欺の事案では、1件当たりの被害が少額であるため警察が真剣に動かず、事件処理を後回しにされやすいという事情があります。
被害者としても、諦めのつきやすい金額であることが大半であると考えられます。
事件化してもらうために警察の事情聴取などに時間と労力を費やすよりも、諦めてしまおうと考えることが少なくありません。
犯人としても、「これくらいの金額なら訴えられることはないだろう」と考えて犯行に及んでいる可能性が大いにあります。
(2)詐欺の立証が難しいことが多いから
法律上、寸借詐欺の事実の立証が難しいことが多いということも、事件化のネックとなっています。
仮に犯人が検挙されたとしても、「本当に返すつもりだった」と弁解されてしまうと、警察または被害者側で「返すつもりがなかったこと」を追究しなければ、詐欺罪で立件することはできません。
しかし、このような犯人の内心における事情は立証が難しいことが多いのです。
(3)犯人の行方が分からないことが多いから
事件化するためには、犯人の居場所を突き止めなければなりません。
しかし、犯人が見ず知らずの人であり、教えられた連絡先が虚偽で遭った場合には、被害者にとっては事実上、どうしようもないでしょう。
犯人の居場所を突き止めるためには警察の手を借りなければなりませんが、警察に相談してもなかなか動いてもらえないのが実情です。
結果として、被害者は諦めの心境となり、泣き寝入りすることになりがちです。
4、寸借詐欺で逮捕された事例
寸借詐欺の犯人が実際に逮捕された事例もありますので、すぐに諦めるべきではありません。
例えば、2020年8月、福岡県で「ひったくりに遭って財布などを盗まれた。帰宅するための交通費と宿泊するためのホテル代を貸してほしい」という口実で通りすがりの人から1万円を騙し取った男が逮捕されました。
この男は、他にも10人以上から同様の手口でお金を騙し取っていたとのことです。
参照:西日本新聞|「ホテル代貸して」善意につけ込む“寸借詐欺”…狙われる若者
さらに、2019年12月から2020年1月にかけて、佐賀県内の理髪店や病院、運送会社を男が訪れ、「娘が交通事故に遭ったので急いで熊本に帰りたいが、お金がないので貸してほしい」という口実で合計3万円を騙し取ったという事件もありました。
この男は他にも9人から同様の手口で合計15万円を騙し取っており、2021年1月、刑事裁判で懲役3年8ヶ月の実刑判決が言い渡されています。
参照:寸借詐欺の男 懲役3年8カ月の実刑判決【佐賀県】|サガテレビ
決して「警察は寸借詐欺では動かない」というわけではありませんので、被害に遭ったら警察に被害届を出しましょう。
5、寸借詐欺に遭ったら警察に被害届を出すことが重要!
寸借詐欺が事件化されにくいことは否定できませんが、被害に遭ったらダメ元でも警察に被害届を出すことが重要です。
上記の事例もそうですが、寸借詐欺で逮捕される事例の多くは、犯人が同種の犯行を繰り返していたというケースです。
実際、寸借詐欺の犯人が「出来心で一度だけ詐欺を働いてしまった」ということは少なく、何度も寸借詐欺を繰り返していることが多いものです。
1件当たりの被害金額が小さくても、繰り返されると合計額は大きくなります。
常習的に犯行に及んでいるという点でも犯情が重くなるので、警察が動きやすくなるのです。
また、同一の犯人に対して複数の被害者が被害届を出せば、警察も無視はできなくなります。
被害者が申告しなければ警察が犯行を認知することは困難ですので、まずは被害に遭ったあなたが警察に届けることが重要であるといえるでしょう。
(3)現行犯なら逮捕の可能性が高まる
比較的軽微な犯行であっても、現行犯なら逮捕の可能性は高まります。
寸借詐欺の場合、後になって被害に気付くことがほとんどですので、現行犯で警察に通報することは難しいという問題はあります。
しかし、寸借詐欺の犯人が「電車賃を貸してほしい」と言ってお金を受け取っておきながら、実際には電車に乗らず、近辺を徘徊していることはよくあります。そればかりか、同じように「電車賃を貸してほしい」と、別の人に打診しているケースもあります。
そんな犯人を見つけたときは、警察への通報を検討しましょう。
6、寸借詐欺の被害に遭わないための注意点
寸借詐欺の被害は、未然に防ぐに越したことはありません。
詐欺犯は人の善意につけ込んできますが、以下の点に注意しておけば被害に遭う危険性を極限にまで抑えることが可能です。
(1)見ず知らずの人にお金を貸さない
そもそも、見ず知らずの人にお金を渡すことは危険です。
あなた自身にお金がなくて困った場合、どのように対処するでしょうか。
おそらく、まずはスマートフォンや携帯電話で家族、友人、知人などに連絡して助けを求めることでしょう。
それにもかかわらず、赤の他人に対していきなり、「お金を貸してくれ」という人がいたら、おかしいと思わなければなりません。
お金を貸すのであれば、戻ってこないことを覚悟すべきです。
しかし、寸借詐欺の犯人はまさにそれを狙っているのですから、基本的にはお金を渡さないように心がけましょう。
(2)本当に困っている人は警察に案内する
中には、本当に財布を落として困っている人もいるかもしれません。
そんな人を見捨てると良心の呵責にさいなまれるということもあるでしょう。
そんなときは、その人を警察に案内することをおすすめします。
財布を落として交通費が払えないような場合には、交番で相談すれば貸してもらえることがあります。
本当に困っている人に対しては、あなたがお金を出さなくても、このように解決策を教えてあげればよいのです。
(3)その場で連絡先を確認する
見ず知らずの人にお金を貸してくれと言ってくるような人の言葉を、そのまま鵜呑みにすることは禁物です。
連絡先として携帯電話の番号を教えてもらった場合には、その場で電話をかけて通じるかどうかを確認すべきです。
その他にも、免許証など顔写真入りの身分証明書の提示を求めたり、その人の顔をスマホなどで撮影したりすることも有効です。
相手が詐欺犯なら、足がつくことを恐れて立ち去ることでしょう。
7、寸借詐欺に遭ったかも…と思ったら弁護士に相談を
万が一、見ず知らずの人にお金を渡してしまい、寸借詐欺に遭ったのではないかと思ったときは、すぐ弁護士に相談しましょう。
警察に被害届を出すことも大切ですが、併せて弁護士に相談することをおすすめします。
刑事事件の対応経験が豊富な弁護士は、警察に動いてもらいやすい被害届や刑事告訴のやり方などをアドバイスしてくれます。
犯人を許せない場合には、被害金額にもよりますが、弁護士に対応を依頼することも考えられます。
弁護士に依頼して刑事告訴をしてもらえば警察が受理する可能性が高まり、受理されると警察の捜査が始まります。犯人が検挙された場合には、弁護士が返金交渉もしてくれます。
一人で悩むよりも、弁護士に相談だけでもして、専門的なアドバイスを受けた方がよいでしょう。
寸借詐欺に関するQ&A
Q1.寸借詐欺とは
寸借詐欺とは、返すつもりもないのに「ちょっとお金を貸して欲しい」と装い、お金を騙し取る詐欺のことです。被害金額は少額にとどまるケースが多いですが、数万円単位のお金を失うことも少なくありません。
Q2.寸借詐欺の刑罰
寸借詐欺は、れっきとした「詐欺罪」ですので、有罪となれば10年以下の懲役刑に処される可能性があります。
もっとも、被害金額が小さいケースが多いこともあり、初犯であれば不起訴となり、実際には刑罰が科せられないことも少なくありません。
しかし、常習犯が逮捕されたようなケースでは、起訴されて刑事裁判で懲役の実刑判決が言い渡されることもあります。
Q3.寸借詐欺の手口
寸借詐欺の手口は、返すつもりがないのに、返す意思と能力があるように装って嘘をつき、お金を騙し取るという点では、一般的な詐欺罪の事例と同じです。
しかし、以下の点は寸借詐欺に特有の手口といえます。
①人の善意に訴えかける
寸借詐欺の犯人は、人の善意に訴えかけてお金を出させようとします。
見知らぬ人に対して、いきなり「お金を恵んでほしい」と言ったところで、なかなか相手にされないことでしょう。
しかし、「財布を落とした」「お金を忘れた」「カードをなくした」などと言って困っているそぶりを見せられればどうでしょうか。普通の人なら「かわいそうだ」「自分にできることなら助けてあげたい」と思うはずです。
このように、人の善意を逆手にとってお金を出させる理由を設定するのが、寸借詐欺の手口の第一段階です。
②少しのお金を貸してほしいと頼む
寸借詐欺では、お金を貸してほしいといっても大金ではなく、少額を頼んでくるケースがほとんどです。
電車賃や飲食費などでは数百円~数千円程度、帰省費用などでも数万円程度といった金額を貸してほしいと言ってきます。
具体的な金額は事案によってまちまちですが、数十万円や数百万円といった大金を寸借詐欺で騙し取られることは考えがたいです。
数千円~数万円程度のお金なら、多くの人が持ち歩いていますし、「その程度なら貸してもいいか」と思える金額でしょう。
このように、大した頼みではないと思わせて実際にお金を出させるのが、寸借詐欺の手口の第二段階です。
③虚偽の連絡先を伝える
寸借詐欺は「お金を恵んでほしい」とは言わず、「必ず返すので今だけ貸してほしい」といいます。
見ず知らずの人に返済を約束するためには、連絡先を交換しなければなりません。
しかし、寸借詐欺の犯人はお金を返すつもりなどないのですから、虚偽の連絡先を伝えます。
大企業の肩書が記載された名刺を渡してくる詐欺犯もいますが、会社名から氏名、連絡先まで架空のものであることがほとんどです。
お金を貸した側は、後日、返してほしいと思って連絡をとろうとしてもつながらず、そのときにようやく詐欺の被害に遭ったことに気付きます。
このようにして、怪しまれることなくお金を持ち逃げすることにより、寸借詐欺の犯行が完成するのです。
まとめ
寸借詐欺に遭っても被害金額は小さいことが多く、お金を取り戻そうとすると費用倒れになってしまうという実情もあります。
そのため、今回は諦めて、二度と寸借詐欺に引っかからないように注意するという対処法も考えられます。
納得できない場合には、弁護士にご相談の上、最善の対処法を検討してみてはいかがでしょうか。