配偶者の浮気が発覚した際、多くの人が「不倫相手を訴える」と考えるでしょう。
この記事では、不倫問題に詳しい弁護士が、不倫相手を訴えるための手続きやポイントを具体的に解説していきます。ただし、不倫相手を訴えることは簡単ではなく、感情に任せず冷静に対処する必要があります。不倫相手を訴える際には、以下の5つの重要なポイントに注意しましょう。
・法的知識を身につける
・専門家の助言を仰ぐ
・訴訟費用と手続き期間を理解する
・心理的な負担と家庭への影響を考慮する
・証拠の収集と適切な訴状の提出
これらのポイントについて、詳しく解説します。配偶者の不倫による傷を癒すためにも、不倫相手を訴えることを検討している方は、ぜひ本記事を参考にしてください。また、慰謝料請求の方法についても別の記事で解説していますので、併せてご覧ください。
目次
1、不倫相手を訴える手順
まずは、不倫相手を訴える場合の手順・流れについて確認しておきましょう。
(1)不倫相手との交渉
不倫相手を訴えたいと考える場合でも、まずは相手との話し合い(交渉)から始めるのが基本です。相手方の出方によっては、訴訟をするまでもなく満足のできる結果(慰謝料や謝罪)を得られる場合もあるからです。
また、話し合いが上手くいかなかった場合であっても、不倫相手の言い分を事前に把握できることは、訴訟を起こす場合に非常に役に立ちます。
さらに、最近の不倫では、SNSなどで連絡はとれるけれども、相手の氏名・住所はわからないというケースも増えていますから、直接連絡をとり、相手の情報を得ることが重要となる場合もあります。
(2)訴訟の準備
不倫相手を訴える(慰謝料を請求する訴訟を提起する)ときには、裁判に先立って証拠を確保しておくことが大切といえます。
慰謝料請求訴訟では、
- 不貞行為(配偶者と不倫相手の肉体関係)があったこと
- その不貞行為について不倫相手に故意または過失があったこと
- 原告に損害が発生していること(婚姻関係が破たんしていないなどの事情)
について、原告が証明しなければならないからです。
建前としては、裁判の審理が終わるまでに証拠が集まれば良いのですが、勝訴の見通しもないままに裁判を起こすのは不効率ですから、証拠の確保は裁判を起こす準備作業として非常に重要といえます。
必要な証拠が揃えば、それに基づいて基本的な主張内容(請求額など)を定め訴状を作成します。
(3)訴えることのできる裁判所はどこ?
民事訴訟を提起するためには、作成した訴状を作成し裁判所に提出する必要があります。
訴状の提出先は、被告(不倫相手)の住所地を管轄する裁判所(請求額が140万円を超える場合には地方裁判所、140万円以下の場合には簡易裁判所)が原則ですが、不法行為地(不貞行為のあった地域)を管轄する裁判所や、被告と合意のある裁判所に提出することも可能です。
したがって、配偶者が単身赴任先で不倫をしたというようなケースでは、相手方の住所地も不法行為地も遠方になることもあり得ます。
なお、訴えを提起する裁判所には、地方裁判所と簡易裁判所がありますが、これは請求する慰謝料額に応じて下記のように異なります。
- 請求額が140万円を超える場合:地方裁判所
- 請求額が140万円以下の場合:簡易裁判所
(4)訴状が不倫相手に送達される
提出された訴状に不備がない場合には、裁判所によって訴状が被告に送達され、第一回目の口頭弁論期日が指定されます。
(5)口頭弁論が実施される
第一回目の口頭弁論期日は裁判所の(都合で)日時が指定されます。原告はこれに必ず出席するのが原則です。なお、相手方である被告は、答弁書を提出していれば欠席しても特に不利益は生じないことになっています。
それ以降の裁判は、裁判官の判断によって進められ方が異なってきます。
一般的には、最初に争点の整理を行います。たとえば、相手方が不貞行為の存在それ自体を争うのか、慰謝料額だけを争うのかでも裁判の進め方が違ってくるので、その点についての認識を裁判所と当事者間で共有しておく必要があるわけです。
争点整理が終了すると、その争点について証拠調べ(証人尋問など)が実施されることになります。
したがって、裁判にかかる期間などは、事案によってかなりの違いがでるといえますが、相手方が不貞行為それ自体を争ってきた場合には長期化する可能性も高いといえるでしょう。
(6)判決が言い渡される
民事裁判における審理は、裁判官が判決するのに熟した(判決を書ける)と判断した段階で結審となります。
判決言い渡しは公開の法廷で行われますが、必ずしも裁判所に出向かなければならないわけではありません。当事者には、裁判所から判決文が送達されることになっているからです。実際、弁護士の大半は判決言渡期日に出席することはありません。
なお、裁判官は判決を言い渡すまでの間であれば、当事者間に和解を勧めることができます。不倫慰謝料を請求する場合も、ほとんどの事件で裁判官から和解を勧められるのではないかと思われます。
(7)上訴・判決の確定・損害賠償の支払い(強制執行)
言い渡された判決に不服がある場合には、判決を受け取ってから2週間以内であれば上訴(控訴・上告)することができます。当事者の一方から上訴があった場合には、引き続き上訴審(第一審よりも上位の裁判所)で審理が行われます。
当事者からの上訴がなかった場合や上告審(3審)が判決を言い渡したときには、判決が確定します。
原告勝訴判決(被告に慰謝料の支払いを命じる判決)が確定してもなお、被告が慰謝料の支払いに応じない場合には、原告は強制執行によって慰謝料を回収することができます。
2、不倫・浮気の相手を訴えることができない場合
配偶者の不倫があったという場合でも、次のような場合には、そもそも訴えることができません。
(1)不倫相手の氏名・住所がわからない場合
他人を訴える場合には、裁判の相手方(被告)となるその他人の氏名と住所を正しく把握している必要があります。裁判を始めるためには、裁判所から被告に訴状を送達しなければならないからです。
最近では、ウェブを媒介して不倫相手と出会うケースも増えていますので、不倫相手の住所がわからないどころか、「本当の氏名もわからない」というケースも多いといえるので注意が必要でしょう。
(2)不倫相手を罰したい、不倫相手に謝罪させたいと考えている場合
「不倫相手を罰して欲しい」
「不倫相手に謝罪してもらいたい」
といった目的で訴えることはできません。
いまの日本には「不倫を罰する法律」は存在しません(戦前の刑法には姦通罪が規定されていましたが廃止されています)。
また、「謝罪させる」ことを目的に不倫相手を訴えることもできません。
法律には、「謝罪を要求する権利」は存在しませんし、そもそも謝罪というのは、その人の自由意思に委ねられるべき行為なので、強制することもできないからです(憲法19条)。
3、不倫相手を訴えても勝訴することが難しい2つの場合
不倫相手を訴えるとすれば、不貞行為をされたことによって精神的な苦痛を受けたことに対する損害賠償(慰謝料)を請求することになります。
しかし、次の場合には、不倫相手に慰謝料請求をしても勝訴できない可能性が高いといえるので注意する必要があります。
(1)相手方に故意・過失がなかった場合
不倫相手方に対する慰謝料請求は、法律上は民法709条あるいは民法710条に基づく損害賠償請求ということになります。
そのため、慰謝料請求が認められるためには、不倫相手に、不倫についての「故意」また「過失」がなければなりません。
不倫についての「故意・過失」がある場合というのは、関係を持った相手に「配偶者がいる」ことを知っていた場合か、「配偶者がいると気づけるだけの事情があった」という場合ということになります。
不倫の相手方の故意・過失が問題になりそうな具体例としては、次の場合を挙げることができるでしょう。
①自分の配偶者が「独身である」などと偽っていた場合
不倫の相手方に故意・過失がない最も典型的なケースは、訴えようとしている人の配偶者の方が「自分は独身である」、「妻とは別居していて関係が完全に破綻している」と積極的に嘘をついていたという場合です。
ただし、この場合でも、配偶者が「独身であることは嘘である」と一般の人であれば簡単に見抜けてしまうような言動をとっていたというようなときには、不倫相手の過失を問えることもないわけではありません。一般論としては、不倫関係が長期になるほど「本当は既婚者なのではないか」と疑うべき事情が発生する確率が高くなるといえます。
②出会い系サイトやマッチングアプリなどで知り合った相手の場合
出会い系サイト・マッチングアプリ・テレホンクラブ(いわゆるテレクラ)などを介して、不倫相手と知り合ったという場合も、不倫相手には不倫について故意・過失がない場合が多いといえそうです。
これらのケースでは、不倫の当事者同士に生活上の接点がない(相手の素性をそもそも知らない)ことの方が多いといえるからです。
③配偶者が不倫を強要していた場合
配偶者が社内での立場や相手の弱みなどを利用して、不倫を強要していたという場合も、不倫相手は自分の意思で不倫していたわけではなく、故意・過失はないといえます。
(2)不倫の前に夫婦関係が破綻していた場合
不倫の前から「すでに夫婦関係が破綻していた」という場合には、不倫相手に対する慰謝料請求は認められない可能性が高いといえます。
最高裁判例に、夫婦の婚姻関係がその当時すでに破たんしていたときは、特段の事情がない限り不倫相手は不法行為責任を負わないと示したものが存在するからです(最高裁判所平成8年3月26日判決民集50巻4号993頁)。
「不倫前から夫婦間で離婚に向けた協議をしていた」という場合はもちろんですが、不倫前から長期間の別居状態にあるという事情がある場合にも、婚姻関係が破たんしていると評価される可能性が高いといえるので注意が必要です。
(3)不倫を明らかにできる証拠がない場合
不倫相手を訴えて慰謝料を支払ってもらうためには、不倫行為を明らかにできる「証拠」がなければなりません。
テレビやドラマなどでもしばしば登場する「ラブホテルに出入りする二人の写真」は不倫を明らかにする典型的な証拠といえます。
SNSやメールの証拠となる場合がありますが、その内容によっては「証拠として十分とはいえない」というケースもないわけではありません。
(4)すでに消滅時効が完成してしまっている
不倫相手に対する慰謝料請求権も、金融機関からの借金などと同様に消滅時効の対象となります。
民法724条は、不法行為(慰謝料請求権)の消滅時効を「損害及び加害者を知ったときから3年」または「不法行為(最初の不倫行為)のときから20年」としています。
したがって、大昔の不倫を問題とする場合や、不倫を知ってから3年以上経ってしまったという場合には、訴えを起こしたとしても不倫の相手方に消滅時効の援用をされてしまえば、勝訴することはできません。
なお、過去の不倫に対する慰謝料請求については下記の記事で詳しく解説していますので、そちらも参考にしてください。
4、不倫相手を訴えることで得をしないケース
不倫相手に故意過失があり、それなりの証拠があり勝訴の見込みがある場合でも、その結果が満足に値しないというケースもないわけではありません。
(1)慰謝料が少ない
不倫の慰謝料は「思っていたよりも少ない金額しか認められない」というケースも少なくないといえます。
裁判の場合の不倫慰謝料は、次の要素の総合判断で決められるとされています。
- 結婚期間の長さ
- 不倫期間の長さ
- 不倫をきっかけに離婚・別居となったかどうか
- 夫婦仲
- 子の有無
- 不倫を主導したのはどちらか
- 反省・謝罪の有無
相場額としては数十万円~200万円前後の金額となるケースが多いと言われていますが、夫婦に子がなく、自分の配偶者の方から不倫を持ちかけたといったケースでは、慰謝料がわずかしか認められないという可能性も低くはないでしょう。
(2)不倫相手に資力がない
不倫相手に対する慰謝料請求が認められたとしても、不倫相手に支払い能力が全くない場合も考えられます。
もちろん、裁判で慰謝料が認められたときには、不倫相手の財産(預貯金や給料など)を差し押さえることも不可能ではありませんが、差押えするためには、さらに裁判所での手続を行わなければなりませんし、そのための費用もかかります。不倫相手が未成年・学生であったような場合には、差し押さられる財産・給料も存在しないというケースもあるかもしれません(不倫相手の親への慰謝料請求は認められない可能性が高いです)。
また、不倫相手が自己破産・個人再生をした場合には、慰謝料それ自体が免除・減額されてしまいます。
(3)不倫相手に求償権を行使されてしまう
不倫行為は、不倫相手と自分の配偶者の二人による「共同不法行為(民法719条)」であると解されています。
共同不法行為者は加害者に対して「連帯して賠償義務を負う」ことになっています。この場合、共同不法行為者のうちの1人が被害者に対して損害賠償の全額を支払った場合には、他の共同不法行為者に対して、それぞれの責任に応じた負担を求めることができるとされています。これを「求償権」といいます(民法442条1項)。
つまり、不倫相手に慰謝料の支払いを求めた場合には、不倫相手が配偶者に対して求償権を行使される場合もありうるというわけです。
たとえば、不倫相手から100万円の慰謝料を受けとれたとしても、その責任の半分は配偶者にあるとして、50万円の求償が認められれば、夫婦の手元に残るのは50万円でしかないということになります。
(4)ダブル不倫の場合
不倫相手にも配偶者がいた場合には、不倫相手を訴えることで問題がさらに大きくなってしまうことも考えられます。
不倫相手が事前に弁護士を立てていたという場合でなければ、裁判所は不倫相手の自宅に訴状を送達することになり、そのことがきっかけで不倫相手の家庭にも不倫の事実を知られてしまう可能性もあるといえるからです。
不倫相手の配偶者からこちらの配偶者が訴えられるようなことになれば、事態の収拾がさらに難しくなってしまう可能性も高くなるといえます。
5、弁護士に相談する3つのメリット
「不倫相手を訴えたい」と思ったときには、まず弁護士に相談してみるのが良いといえます。
弁護士に相談すれば、それぞれのケースに見合った最善の対応方法をアドバイスしてもらえるからです。
(1)不倫相手の氏名・住所を調査できる
不倫相手の氏名などがわからないという場合には、弁護士にその調査を依頼することも可能です。
弁護士は「弁護士照会」という制度を利用することで、スマホ・携帯会社やSNS業者などに情報発信者についての照会を行うことができ、相手方の住所等を確認できる場合があります。
(2)事前に裁判の見通しを立てられる
不倫相手に対して慰謝料の支払いを求める裁判を起こす際には、勝訴の見込みやそのために必要となる証拠の確保、裁判所が認めてくれる慰謝料の金額について、きちんとした見通しを立てておくことが重要といえます。
不倫相手の故意・過失を立証できる見込みがないのに裁判を起こせば、それまでの手間がすべて無駄になってしまいますし、認容される額を遙かに超える請求をすれば訴訟費用に無駄が生じてしまいます。訴訟費用は請求額に応じて高くなるからです。
弁護士であれば、それぞれのケースを過去の判例などに照らし合わせながら、裁判を起こすにあたって必要となる情報について可能な限りの見通しを立てることができます。
(3)示談で解決できる可能性
不倫相手からの慰謝料は訴えなければ受け取れないというわけではありません。弁護士に依頼をすれば、裁判をすることなく不倫相手との示談交渉で慰謝料の支払いを求めることも可能です。
証拠確保の難しいケースや、婚姻期間・不倫期間が短いといった事情がある場合には、裁判よりも示談の方が有利に話を進められるケースもないわけではありませんし、不倫相手からの反発が小さくなることもあるといえます。
不倫相手を訴えるに関するQ&A
Q1.不倫・浮気の相手を訴えることができない場合は?
(1)不倫相手の氏名・住所がわからない場合
(2)不倫相手を罰したい、不倫相手に謝罪させたいと考えている場合
Q2.不倫相手を訴えても勝訴することが難しい2つの場合
(1)相手方に故意・過失がなかった場合
(2)不倫の前に夫婦関係が破綻していた場合
Q3.不倫相手を訴えることで得をしないケースもある?
(1)慰謝料が少ない
(2)不倫相手に資力がない
(3)不倫相手に求償権を行使されてしまう
(4)ダブル不倫の場合
まとめ
配偶者の不倫を知った場合には、悲しさや怒りといった感情から冷静な判断ができない場合も多いと思います。しかし、不倫相手を訴えるというときには、さまざまな情報を集め、客観的な見通しを立てることがとても重要であるといえます。
しかし、これらの情報を集める正しく分析することをひとりで行うことは簡単ではありません。感情にまかせて対応すれば、不倫相手を訴えたことで状況がさらに泥沼化し、余計に辛い思いをしてしまうこともあるかもしれません。
弁護士に相談すれば、不倫相手の氏名・住所、類似ケースの判例についての調査だけでなく、それぞれの事案について一定の見通しを立てた上で、最善の対応方法についてアドバイスしてもらうことができます。
また、その後の対応を依頼すれば、裁判を起こさずに示談などの方法で問題の解決を目指すことも可能となります。