過去の不倫に関連する問題は、その発覚から年月が経っていても存在することがあります。実際、何年も前の不倫が理由で離婚を求められるケースも珍しくありません。過去に不倫を経験した方々にとって、不倫相手の配偶者からの慰謝料請求に対して不安を抱えている方も多いことでしょう。
しかし、過去の不倫に基づく慰謝料請求は消滅時効の対象となる可能性があります。この点について、令和2年4月から施行された改正民法の関連性を踏まえながら、過去の不倫に対する慰謝料請求と消滅時効について解説していきます。さらに、慰謝料請求の手続きや費用についても詳しくご紹介します。
過去の不倫による慰謝料請求に不安を抱えている方や、過去の不倫に関して慰謝料を請求したいと考えている方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
目次
1、過去の不倫の慰謝料請求と消滅時効
不倫を理由とする慰謝料の請求権は、民法709条が定めている不法行為に基づく損害賠償請求権のひとつです。
この不法行為に基づく損害賠償請求権は、借金などの他の金銭の請求権と同様に消滅時効の対象となり、民法724条が2つの消滅時効を定めています。
(1)3年の消滅時効
不倫を理由とする慰謝料請求権は、「損害及び加害者を知った時から3年間行使されなかった」場合に消滅時効が完成します。
消滅時効期間が進行するためには、損害と加害者の両方を知らなければならない点に注意が必要です。
①損害を知った時とは?
判例は、損害を知ったというためには「被害者が損害を現実に認識したとき」としています(最高裁判所平成14年1月29日民集56巻1号218頁)。
したがって、不倫慰謝料の場合であれば、具体的な不貞行為があったということを認識したときが該当するといえます。
②加害者を知った時とは?
加害者を知った時について判例は、「被害者において加害者の氏名、住所を確認するに至つた時」であると判断しています(最高裁判所昭和48年11月16日民集27巻10号1374頁)。
なお、この判例のケースは、被害者は加害者の職業や性別、容貌については知っていたものの、氏名・住所については認知していなかったという事案でした。
したがって、「配偶者が不倫していることは明らかだが、その相手の氏名・住所はわからない」というケースでは、何かしらの経緯で不倫の事実に気づいたとしても、消滅時効は進行しないといえます。
最近の不倫は、SNSやアプリなどの普及に伴って、元々は全く接点のなかった相手と行われるケースや不倫相手が本名を名乗っていない(不倫相手同士ですら氏名・住所を知らない)ケースも多いといえますので注意が必要でしょう。
(2)20年の消滅時効
不倫の慰謝料請求権は、「不法行為の時(不貞行為の時)から20年間行使されなかった時」にも消滅時効が完成します。
こちらの消滅時効は、被害者が「損害及び加害者を知っていたかどうか」を問わずに、不貞行為から単純に20年が経過したということで完成するものです。したがって、「大昔の不倫を最近知った」という場合には、すでに消滅時効が完成してしまっているという場合もあるというわけです。
なお、改正前の民法においては、20年の規定は、消滅時効ではなく「除斥期間」であると解釈されていました。消滅時効と除斥期間の一番の違いは、除斥期間は時効の更新(従来における時効中断)の対象とならない点にあります。しかし、令和2年4月から施行された改正民法ではこの20年の期間も時効期間であると規定されることになった点に注意が必要です(この点についての詳細は下で別に解説します)。
(3)配偶者の不倫が原因でPTSDを発症した場合
配偶者の不倫は精神的にも大きな負担となることが少なくありません。ケースによっては、配偶者の不倫が原因でPTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまうこともあるかもしれません。
この場合のPTSDを原因とする慰謝料請求権の時効は、「損害及び加害者を知った時から5年」もしくは、「不法行為の時から20年」となります。
2、不倫発覚から3年過ぎたら慰謝料請求できないのか?
不倫が発覚した場合でも、「配偶者が謝罪している」、「二度と不倫しないと誓ってくれた」、「問題を大きくしたくないと思った」とことなどを理由に、慰謝料請求などの具体的なアクションが起こされないことは珍しいことではありません。
しかしその他方で、「そのときは許したけど……」と後になって怒りの感情がわいてきてしまうケースも多いといえます。
(1)消滅時効の援用
不倫慰謝料の消滅時効は、「時効期間が完成しただけ」では法律上の効果は発生しません。消滅時効によって慰謝料請求権を失わせるためには、慰謝料の支払い義務を負う者(不倫相手・配偶者)が「消滅時効の援用」をする必要があります(民法145条)。
したがって、不倫の被害者としては「不倫を知ってから3年以上経ってしまった」、「大昔に不倫があったことを知った」という場合でも、それだけで諦める必要はないといえます。
(2)離婚慰謝料の消滅時効は不倫から3年では消滅しない
過去の不倫について消滅時効が完成していることで慰謝料請求が難しい場合でも、過去の不倫を理由に離婚に至ったという場合には、離婚による慰謝料を配偶者に請求できる可能性があります。離婚を原因とする慰謝料請求の消滅時効は、離婚の時が起算日となるからです。
ただし、過去の不倫から離婚せずに長期間が経過してしまったことで、相手を宥恕した(過去の不倫を許した)と評価される場合もあり、慰謝料が認められない・減額される場合もないわけではないことは注意しておく必要があります。
3、消滅時効の完成が迫っているときの対処法と改正民法の注意点
過去の不倫について相手方などに慰謝料を請求したいけど消滅時効の完成が迫っているという場合には、適切な対応をすることで、時効期間の進行を一時的にストップさせたり、消滅時効をゼロに戻すことができます。
(1)裁判を起こす
不倫相手などに慰謝料の支払いを求める裁判(もしくは支払督促手続)を申し立てた場合には、裁判が終了するまでの間の時効の完成をストップさせることができます(民法147条)。
この訴訟に勝訴した場合には、勝訴判決確定の時点から新たに10年を時効期間とする消滅時効の進行がはじまります(民法169条)。
しかし、過去の不倫を理由に裁判を起こすケースでは証拠不足になりやすい点に注意する必要があります。裁判で慰謝料を請求するためには、支払いを求める被害者の側が不貞行為があったことを証明しなければならないからです。
なお、不倫相手を訴える場合の注意点などについては下記の記事で解説していますので参考にしてみてください。
(2)内容証明郵便を送付する
慰謝料請求の時効は、相手方に対して催告を行うことで完成を6ヶ月遅らせることができます(民法150条1項)。つまり、「相手方に慰謝料を支払って欲しい」と伝えることで、時効の完成を一時的にストップさせられるというわけです。
民法は催告の方法については具体的な条件を定めていませんので、建前としては「口頭(電話)やメールなどでの催告」であっても時効の完成をストップさせることができます。しかし、これらの方法では「催告をしたことを明らかにする証拠」として不十分といえる場合が多いことに注意する必要があるでしょう。実務の上でも、時効完成を阻止するために催告をする場合には、内容証明郵便を用いることが一般的です。
なお、催告による時効完成の猶予は1度しか使うことができません(民法150条2項)。
(3)相手方と話し合い(示談)をはじめる
慰謝料の支払いについて相手方と協議(示談)をはじめられたという場合には、そのことを書面にしておくことで、消滅時効の完成を一時的にストップさせることができます(民法151条)。
この場合に時効の完成をストップさせられるのは、次のうちで最も早く到来する時点までです。
- 合意のときから1年が経過したとき
- 当事者が1年未満の協議期間を定めていたときにはその期間が経過したとき
- 当事者の一方が協議の続行の拒絶を書面で通知したときから6ヶ月が経過したとき
なお、(2)で解説した催告による時効完成の猶予と協議の合意による時効完成の猶予を重複させることはできません。
(4)民法改正による注意点
令和2年4月1日から債権法の内容が大幅に改正された新しい民法が施行されていて、時効に関する規定についても多くの改正がなされています。
不倫の慰謝料に関して注意すべき改正点は次の通りです。
①時効中断の再構成
改正民法では、それまでの時効中断・時効停止の仕組みを「時効の更新(従来は時効中断)」、「時効の完成猶予(従来は時効停止)」として再構成しなおすことになりました。
不倫行為が改正民法施行前にあったというケースでも、時効の更新、完成猶予については、令和2年4月1日以降に生じた事実については改正民法が適用されることになります。
②除斥期間の廃止
改正前の民法では、すでに触れたように、不法行為請求権については不法行為時から20年で除斥期間が完成すると解されていましたが、改正民法では不法行為時から20年が経過した場合にも「消滅時効」が完成するものと改められることになりました。
これによって、「不法行為時から20年」の期間についても、時効の更新(これまでの時効中断)、時効の完成猶予(これまでの時効の停止)の規定が適用されることになります。
4、不倫慰謝料については弁護士に相談ください
過去の不倫について慰謝料を請求することは、一般の人が思っているよりも難しいケースといえます。消滅時効が完成してしまっている場合も少なくありませんし、証拠がすべてなくなってしまっているということも考えられるからです。また、時効や証拠に問題がなくても数年間請求しなかったことが「相手を許した」と評価されてしまうこともありうるでしょう。
したがって、不倫相手を訴える前に、それぞれのケースが抱える状況について、専門知識に基づいた十分な調査・検討を行う必要があります。
他方で、時効が完成している、証拠がないというケースであっても、相手方への対応によっては示談によって慰謝料を支払ってもらえる可能性も十分に残されています。
不倫問題に詳しい弁護士であれば、十分な調査を行った上で、最善の方法で対応することが可能です。過去の不倫の慰謝料を請求したいというときには、まずは弁護士までご相談ください。
過去の不倫の慰謝料まとめ
過去の不倫の慰謝料は、比較的短期間で消滅時効が完成してしまいます。時効完成が間近に迫っているというケースでは、正しい対応を迅速にとる必要があり、専門知識のない人では対応が難しい場合も多いでしょう。
また、最近の不倫のケースでは、不倫相手の特定が難しいケースも少なくありませんので、過去の不倫というだけで諦めてしまう必要もありませんので、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。
不倫の慰謝料請求についてお悩みの方はこちらの関連記事もご覧ください。