「子どもが大学への進学を希望しているけれど、養育費はいつまでもらえるのかな……」
「子どもが高校を卒業して就職したら、もう養育費はもらえないの?」
離婚した元パートナーから養育費をもらっていても、子どもが成長するにつれて「いつまでもらえるのか」「期限って、いつまで?」と思われている方は多いことでしょう。
基本的に、養育費の支払いは、子どもが成人する20歳までと考えられています。
ただし、法律で「20歳まで」と定められているわけではないので、事情によっては20歳未満で養育費の発生が終了するケースもあれば、20歳以降も発生し続けるケースもあります。
たとえ当事者間でいつまで支払うかを取り決めていたとしても、事情の変更があれば途中で支払いを終えたり、逆に支払い延長の請求が認められる可能性がありますし、支払い続けられる場合でも金額が変更されることもあります。つまり「子どもがこの歳になるまで」と設けられた期限が確実に守られるという保証はないのです。
そこで今回は、
- 養育費はいつまでももらえるのか
- 一度取り決めた養育費の金額を変更できるケース
- 養育費の支払延長を請求する方法
などを中心に、弁護士が解説していきます。
この記事が、離婚後の子どもの養育費をいつまでもらえるのかが気になる方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、離婚後の養育費がもらえるのはいつまで?
未成年の子どもがいる夫婦が離婚すると、子どもを引き取った側の親(親権者)は元パートナー(非親権者)に対して養育費の支払いを請求できます。
この権利は、民法の規定に基づいて認められているものです。
そこで、「養育費がいつまでもらえるのか」という問題についても、民法の規定に従って考えていきましょう。
(1)養育費は「子ども」を育てるためのお金
離婚後の子どもの養育費の支払いについて、民法では次のように定められています。
第766条1項 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
引用元:民法
第877条1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
引用元:民法
民法第766条1項には養育費(子の監護に要する費用)の分担について定められているものの、子どもが何歳になるまで養育費が発生するのかについて明確に定められてはいません。
そもそも養育費は、根本的には民法第877条1項が定めている親族間の扶養義務を根拠として発生するものです。
つまり、「子どもを」扶養する「親」の法的な義務が養育費ということになります。
この民法の趣旨からすると、養育費が発生するのは、子どもが親に頼らずとも自活して生活できるようになるまで、と考えられます。
(2)原則として取り決めに従う
では具体的に子どもが何歳になるまで養育費をもらえるのかというと、原則として両親の取り決めに従うことになります(民法第766条1項)。
両親の話し合いによって合意する限り、自由に定めることができます。
一般的には「成人するまで」「20歳まで」と取り決めるケースが多いですが、「高校を卒業するまで」「18歳まで」、あるいは「大学を卒業するまで」「22歳まで」で取り決めるケースもよくあります。
取り決めの内容に制限はありませんので、「25歳まで」、「結婚するまで」としても、当事者が合意する限りは有効です。
ただし、養育費としての性質上、あまりにも社会常識からかけ離れた取り決めの場合は、後に支払者側からの主張によって変更が認められてしまうリスクもあります。
(3)取り決めがない場合は基本的に20歳まで
両親が特に「いつまで」と取り決めていない場合は、養育費の支払いは基本的に20歳までと考えられます。
なぜなら、子どもが自活できるようになるのは、一般的には成人する20歳ころと考えられているからです。
ただし、「20歳まで」というのも絶対的な基準ではなく、子どもが18歳で自活できるようになれば養育費の支払いが終了することもありますし、逆に20歳を過ぎても自活できない場合は養育費の支払いが継続することあるということになります。
(4)成人年齢が18歳に引き下げられたらどうなる?
2022年4月から、民法改正により成人年齢が18歳に引き下げられます。
しかし、これによって自動的に養育費も18歳までに限られるわけではありません。
養育費は、あくまでも子どもが自活できるようになるまで支払われるべきものです。
そのため、法律で成人年齢が引き下げられたとしても、子どもが自活できる年齢が下がったという実態が認められなければ、養育費の支払い期間を短縮する理由はないのです。
したがって、現在の取り決めで「20歳まで」「成人するまで」としているケースでは、上記の民法改正後も子どもが20歳になるまで養育費をもらえることになります。
民法改正後も取り決めがないケースにおいても、少なくとも当面の間は「原則として20歳まで」という考え方は変わらないであろうと考えられます。
(5)20歳以降の養育費の相場は?
子どもが大学に進学したような場合は、20歳を過ぎても自活は難しいケースが多いので、養育費をもらえる可能性がありますし、実際にもらっている世帯も少なくありません。
そうすると、20歳以降も養育費をもらえる場合、その金額の相場はどれくらいなのかが気になることでしょう。
しかし、この相場を示すことは困難です。
子どもが20歳までのケースでもらえる養育費の相場は、裁判所が公表している「養育費算定表」を見れば分かりますが、20歳以降の養育費は法律的には例外であり、金額の基準は定まっていないからです。
参考までに、大学の4年間にかかる学費の平均は以下のようになっています。
- 国公立大学に進学した場合:748.1万円
- 私立大学文系に進学した場合:965.7万円
- 私立大学理系に進学した場合:1,070.4万円
参考:日本政策金融公庫|令和元年度「教育費負担の実態調査結果」
また、一般的な大学生への仕送りの平均額は1か月あたり9万9,716円となっています。
ただし、この金額の中には授業料も含まれています。
参考:独立行政法人日本学生支援機構|平成30年(2018年)度学生生活調査
したがって、20歳以上の大学生の養育費の相場としては、以上の金額を考慮して両親の収入に応じて分担した金額、と考えることができます。
2、取り決めがない場合、いつまで養育費をもらえるかはケースバイケース
これまでご説明してきたように、取り決めがない場合は、基本的に養育費をもらえるのは子どもが20歳になるまでと考えられています。
もっとも、実際に子どもが何歳になれば自活できるのかついて、一律に判断することはできません。それぞれの子どもの事情に応じて柔軟に判断すべきです。
そのため、結局のところ、いつまで養育費をもらえるかはケースバイケースということになります。
ここでは、どのような事情があれば20歳以降も養育費をもらえるのか、また逆に20歳未満で養育費の支払いが終了するのかについて解説します。
(1)20歳以降も養育費をもらえるケース
20歳以降も養育費が発生する典型的なケースは、子どもが大学に進学する場合です。
大学を卒業するまでは学業があるため自活することは難しいので、扶養義務が続く可能性が高いからです。
その他にも、子どもが何らかの資格の取得を目指して勉強中であったり、障害があるなどの事情で十分に働くことができないような事情があるときは、20歳以降も養育費が発生するケースがあります。
ただし、20歳を過ぎても養育費が発生することは一般的とまではいえないため、当然に養育費が発生するわけではありません。
大学を卒業するまで養育費を支払ってもらうためには、元パートナーに請求をして新たに取り決めをするか、裁判所に決めてもらう必要があります。
なお、子どもが幼い段階で請求する場合、たとえ親権者や子ども自身が将来大学への進学を希望していても、裁判所では養育費は「20歳まで」と判断されるのが通常です。
一方、すでに大学への進学が決まった段階で請求した場合には、裁判所も「大学を卒業するまで」と判断する可能性が高いといえます。
もっとも、法律上は20歳以上の子どもの学費や大学の学費はあくまでも例外的な部類に属しますので、20歳以上も養育費をもらうためには裁判所の判断を求めるよりも、できる限り元パートナーとの話し合いで理解を求める方が得策といえます。
(2)20歳未満で養育費が終了するケース
一方、子どもが高校を卒業して就職した場合は、その時点で子どもが独立したと考えられるので、高校卒業をもって養育費の支払いが終了するのが一般的です。
高校卒業に限らず、中学卒業や高校中退でも子どもが就職して自活できるようになったと判断されれば、養育費の発生は終了します。
ただし、20歳までは子どもが十分に成熟したとはいえない面もあるので、実際の収入や生活状況によっては養育費をもらえることもあります。
ただし、その場合は子ども自身の収入に応じて養育費が減額される可能性が高いでしょう。
3、取り決めたが事情が変わった場合、養育費はいつまで?
養育費をいつまで支払うのかを取り決めた場合は、その内容を一方的に変更することはできません。
しかし、取り決めた後に事情が変わることも多々あります。事情が変われば、養育費をいつまで支払うかについても変更が可能となる場合もあります。
以下では、子どもの事情が変わったケースと、親の事情が変わったケースに分けてご説明します。
(1)子どもの事情が変わったケース
例えば、子どもの進学について特に考慮せずに両親が「20歳まで」と取り決めたものの、その後に子どもが努力して勉強し、大学への進学を決めたというケースがよくあります。
このような場合は、養育費をもらう側の親が延長を求めて話し合うことができます。
その他にも、さまざまな理由で子どもが20歳を過ぎても自活できていない場合には、養育費の支払い延長が認められる可能性があります。
一例として、両親の離婚後に子どもが大きな病気やケガをして、その影響で20歳を過ぎても十分に働くことが難しいような場合です。
後遺障害が長期間残るような場合に、いつまで「養育費」として生活費や医療費をもらえるのかについては難しい問題がありますが、これは呼び方の問題に過ぎません。
民法第8771項に基づく親の子に対する扶養義務は、必要性がある限り一生続きますので、「扶養料」は事情に応じて年齢の制限なく請求することができます。
扶養料は、子どもが20歳を過ぎれば子ども自身から直接請求が可能です。
一方で、子どもが20歳になるまで養育費を支払うと取り決めたものの、子どもが高校を卒業して就職した場合、養育費を支払う側の親から減額や終了を求められることがあります。
このような場合も、誠実に話し合う必要があるでしょう。
当事者間の話し合いがまとまらない場合や、話し合いができない場合は、家庭裁判所へ調停を申し立てることができます。
調停とは、家庭裁判所で話し合いを行う手続きのことです。
調停では、専門的な知識を持った調停委員が中立公平な立場で話し合いを仲介するので、話し合いがまとまりやすくなります。
調停でも話し合いがまとまらない場合は、審判によって家庭裁判所が判断を下します。
子どもが就職して給料をもらうようになっていれば、養育費の支払いは終了すると判断されるのが通常です。
(2)監護権者(請求権者)の事情が変わったケース
親の事情の変更に応じて、養育費に関する取り決めが変更されることもあります。
まずは、監護権者(請求権者)の事情が変わったケースについてみていきましょう。
監護権者(請求権者)とは、離婚して子どもを引き取り、養育している側の親のことです。
①収入の増加
養育費の金額は、基本的に両親それぞれの所得に応じて決められます。
相場については、裁判所の「養育費算定表」をご参照ください。
養育費の取り決めをしたときよりも監護権者(請求権者)の収入が増えた場合は、そのぶん、相手方(支払者)が負担すべき養育費の金額は少なくなります。そのため、相手方から養育費の減額を請求される可能性があります。
もちろん、当事者間の話し合いで合意ができれば、算定表とは無関係に養育費の金額を定めることができます。
しかし、家庭裁判所では原則として算定表の基準に従って養育費が算定されるため、調停や審判になれば養育費が減額されてしまう可能性が高くなります。
②再婚
監護権者(請求権者)が再婚したとしても、それだけでは相手方(支払者)が負担すべき養育費の金額が減るわけではありません。
しかし、再婚相手が子どもと養子縁組をした場合は、再婚相手にも子どもに対する法律上の扶養義務が発生します。
この場合でも相手方(支払者)の扶養義務は消滅しませんが、第一次的な扶養義務者は再婚相手ということになります。
そのため、相手方(支払者)から養育費の減額を請求されると、減額が認められる可能性が高くなります。
(3)監護権者でない親(支払者)の事情が変わったケース
一方、監護権者でない親(支払者)の事情が変わったケースについてもみていきましょう。
①収入の減少
裁判所の「養育費算定表」を見ていただければおわかりいただけると思いますが、相手方(支払者)の収入が少なければ少ないほど、その負担すべき養育費の金額も少なくなります。
そのため、養育費を取り決めた時よりも相手方(支払者)の収入が減少した場合、相手方から養育費の減額を請求されると、減額が認められる可能性が高くなります。
②再婚
相手方(支払者)が再婚して新たに子どもが生まれるなどして扶養家族が増えた場合は、現実的に前の配偶者との間の子どもに対して支払える養育費の金額は少なくなってしまいます。
この場合も、相手方(支払者)から養育費の減額を請求されると、減額が認められる可能性が高いといえます。
4、子どもの養育費の支払い延長を請求する方法
いったん取り決めた内容を変更して養育費の支払い延長を求めても、相手が簡単に応じるとは限りません。
そこで、ここでは支払い延長を認めてもらうためのコツをご紹介します。
(1)必要な金額と理由を明確にして話し合う
最大のコツは、元パートナーとの話し合いで決着をつけることです。
20歳以降の養育費や学費の支払いは、法律上は例外に該当するため、裁判所に判断を求めるとどうしても限定的に決められてしまう可能性が高いからです。
話し合いで元パートナーの理解を得るためには、必要な金額とその理由を明確に伝えることが大切です。
例えば、養育費は20歳までと取り決めたものの大学卒業まで支払延長を求める場合は、学費がいくらかかって、いくら不足するのかを明確にすることです。
場合によっては、ご自分の収入や家計の状況も開示して、現状ではどうしても○万円が不足するというように具体的に主張することも必要になります。
このような事情を伝えるときには、「子どものため」ということを強調するようにしましょう。
単に「生活を助けてほしい」「あなたも親でしょう」などと言うだけでは理解を得ることは難しいでしょう。
「自分でも精一杯の努力をしているけれど、このままでは子どもの夢が果たせなくなってしまう」ということを訴えかけるのがポイントとなります。
(2)話し合いがまとまらなければ調停・審判を申し立てる
話し合いがまとまらない場合、そのままでは取り決めに従って養育費の支払いは終了してしまいます。
ですので、どうしても話し合いで元パートナーの理解が得られない場合は、調停または審判で裁判所に決めてもらうことも大切になります。
具体的には、家庭裁判所に「養育費増額請求調停」を申し立てて、その調停の中で養育費の支払い延長や延長後の金額を話し合うことになります。
調停では、調停委員に対して、上記のように必要な金額と理由を明確にした上で、「子どものためにどうしても必要である」ということを伝えるようにしましょう。
調停委員に事情を理解してもらえれば、元パートナーを説得してくれることも期待できます。
調停がまとまらなければ自動的に審判に移行しますが、その場合は裁判官によって限定的な判断が下されてしまう可能性が高くなります。
そのため、調停段階で調停委員にしっかりと事情を伝えて理解を求めることがポイントとなります。
5、養育費をいつまでもらえるかが気になったら弁護士に相談しよう
養育費の支払い延長や増額を求めても、必ずしも希望がそのまま通るわけではありません。
少しでも有利な結果を得たいなら、当事者だけで話し合うよりも弁護士に相談・依頼するのがおすすめです。
離婚問題に詳しい弁護士に養育費の問題解決を相談・依頼することで得られるメリットは、以下のとおりです。
(1)元パートナーとの交渉を代行してもらえる
元パートナーとの話し合いが重要とはいっても、そもそも元パートナーとは話しにくい、あるいは話したくないという場合も多いことでしょう。
その点、弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人としてあなたに代わって元パートナーに請求し、交渉してくれます。
あなたは元パートナーと直接やりとりする必要がないので、精神的負担が軽くなります。
(2)話し合いにより希望の実現が期待できる
元パートナーと話し合うにしても、当事者同士ではお互いに感情的になりがちでしょう。
そうでなくても元パートナーにも生活がありますので、支払い延長や増額の話し合いはそう簡単にまとまるものではありません。
そんなとき、弁護士の力を借りれば、専門的な見地から冷静に話し合いを代行してもらえます。
法律の知識はもちろんのこと、豊富な経験に基づいたノウハウを活用して粘り強く交渉してもらえるので、話し合いによってあなたの希望が実現することが期待できます。
(3)調停・審判でもサポートが受けられる
どうしても話し合いがまとまらず、家庭裁判所での手続きが必要となった場合でも、弁護士がついていれば全面的にサポートしてもらえます。
調停や審判では、必要書類を準備した上で申し立て手続きを行い、法的に有効な主張や証拠も提出しなければなりません。
これらの複雑な手続きは、すべて弁護士に任せることができます。
調停期日にも弁護士が同席してくれるので、話し合いを有利に進めることが可能になります。
調停が成立せずに審判に移行する場合でも、弁護士から家庭裁判所に意見書や証拠を提出することによって、あなたの希望の実現に大きく近づくことになります。
まとめ
養育費が発生するのは、基本的には子どもが20歳になるまでですが、一律に決まっているわけではありません。
子どもの事情や両親の事情に応じて、柔軟に取り決めるべきものです。
そうであるからこそ、事情が変わった場合には元パートナーにしっかりと事情を伝えて、理解を得ることが重要となります。
元パートナーの理解が得られない場合は、離婚問題に詳しい弁護士のサポート受けて、適切に対処していきましょう。