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新型コロナでの労災請求〜労災認定の基準とその他の5つの救済方法を弁護士が紹介

コロナ 労災

新型コロナウイルスの労災についてお調べですか?

感染経路が不明確な場合、満員電車の通勤や不十分な3密対策での職場、命じられていた取引先への訪問や接待、出張など、仕事を原因とした新型コロナウイルスへの感染を疑うケースでは、労災請求ができないか考えることと思います。

この記事では、

  • 新型コロナウイルス感染症が労災として認められる要件
  • 新型コロナウイルス感染症について労災以外の損害補償制度

について、わかりやすく弁護士が紹介いたします。あなた自身とご家族を守るためにこの記事がお役に立てることを切に祈っています。

新型コロナウイルスをめぐる状況は次々と変化しています。厚生労働省も労災認定について真摯に検討しています。窓口の労基署で断られたとか、ネット情報で「労災認定は難しい。」と書かれていても、決して諦めないでください。

労災の認定に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。

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1、コロナの労災について知る前に|労災の基礎を確認しておこう

コロナの労災について知る前に|労災の基礎を確認しておこう

はじめに労災と労災保険について簡単に確認しておきましょう。

(1)労災とは何か

労災(労働災害)とは、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」のことをいいます。

労働災害については、労働者が業務上負傷した場合には、会社が治療費を払ったり、休業中の賃金の一定の割合を支払わなければなりません(労働基準法第75条、76条)。

(2)労災保険とは何か

ただし、会社に支払能力がなかったり、大きな事故などで会社だけでは支払いが難しくなることもあります。そのため、会社(事業主)が保険料を負担し、国が労災についての補償などを行う「労働者災害補償保険(労災保険)」という仕組みが作られています。国が事業主に代わって必要な補償などを行う公的な保険制度です。

全国の会社がお互いに保険料を出し合い、労働者が労災事故にあったときに助け合う仕組みです。これにより、労働者は、安心して仕事をすることができます。

業務災害だけでなく、通勤のときのケガや病気、不幸にして亡くなったりしたときも(通勤災害)、労災保険でカバーされます。業務のために通勤するのですから、これも保険の対象にしようという考え方です。

業務災害、通勤災害の要件は次のようになっています。

この中で「病気」については職業病リストとして具体的に定められています(「2」で詳しく解説します)。

①業務災害

業務上の事由により発生した災害(業務災害)です。労働者が、業務が原因で、ケガや病気になったり、不幸にして亡くなったりすることです。

実際に作業をしているときだけでなく、仕事の準備や後片付け、出張中の事故なども含まれます。

②通勤災害

通勤のときにケガや病気になったり不幸にして亡くなったりすることです。

「通勤」とは、基本的には仕事のために住居と就業場所との間を往復することを指しますが、単身赴任をしている人が帰省先から赴任先住居に帰ってくる場合なども含まれます。

2、新型コロナウイルス感染症が労災として認められる要件を把握しよう

新型コロナウイルス感染症が労災として認められる要件を把握しよう

(1)新型コロナウイルスは労災保険の対象の「職業病」のひとつとして定められている

労災保険制度の補償の対象となる疾病は、「職業病リスト」で定められています。

新型コロナウイルス感染症については、このリストの第6号1または5に該当するものであり、業務起因性が認められれば労災保険給付の対象になるとされています。

【参考】

新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて(4月28日厚生労働省労働基準局補償課長通達)(以下「通達」)

職業病リストより抜粋

第6号 細菌、ウイルス等の病原体による次に掲げる疾病

1 患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務による伝染性疾患

(2から4は特別な病気なので記載省略)

5 1から4までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に起因することの明らかな疾病

第6号1は医療や介護などの従事者等を対象とした定めです。一般の企業の方などで問題になるのは第6号5と考えられます。

(2)実際の労災認定の要件は「通達」で詳しく定められ、個別に慎重に判断される

実際にどのような場合に労災として認定されるのかについては、「通達」で詳しく定められています。

さらに「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)(5月8日版)」「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(5月7日版)」でも補足して解説されています。

以下、概要をご説明します。

①業務起因性の認定については通常より広く認められる

新型コロナウイルス感染症については、症状がなくとも感染拡大のリスクがあり、これを考慮した対応が必要とされています。すなわち、「症状が明確な人がいてその人から感染した」など感染経路が特定できるとは限りません。様々な可能性を考える必要があります。

通達では、当分の間、先の第6号5の運用について、次の通りとされています。

「調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とする」

しかも、請求についての支給・不支給の決定については「当分の間、事前に当課職業病認定対策室職業病認定業務第一係に協議すること。」とされています(通達末尾)。

現場の労働基準監督署で即断してはならない、必ず本省と相談して、個別に慎重に判断していく、という方針が明確に示されています。

②医療・介護等従事者の場合

医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります(通達2(1)ア参照)。

病院、診療所などだけでなく、介護施設、社会福祉施設などでこれに該当する場合も多いと思われます。

③医療従事者等以外の労働者で感染経路が特定されたもの

感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となります(通達2(1)イ参照)。

④医療従事者等以外の労働者で感染経路が特定されない場合

この場合でも、労働環境をふまえた感染の蓋然性等を考慮して個別に適切に判断されます。

「自分はこの項目の該当者ではないか。」と関心を持たれる方が一番多いと思われます。

大事な箇所なので、原文をそのまま掲載します。

「感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。

この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断すること。

(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務

(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務」

この(ア)(イ)については、「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)(5月8日版)」「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)5月7日版」で、更に詳しく解説されています。

以下では、「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(5月7日版)」に基づいて解説します。

(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務Q&A5労災補償問5)

労災保険の請求をした人を含め、2人以上の感染が確認された場合です。

請求人以外の他の労働者が感染している場合だけでなく、例えば、施設利用者が感染している場合等を想定しています。

ただし、同一事業場内で複数の労働者の感染があっても、お互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もないような場合は、これに当たらない、とされています。

例えば、会社の同じ事務所で複数の感染者が出た場合などが該当しうるでしょう。

(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務Q&A5労災補償問6)

小売業の販売業務、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務等が想定されています。

ただし、Q&A で示されているのはあくまで例示です。他にも顧客と接触する機会が多い業務は多数あるでしょう。銀行などの窓口担当者、市区町村の役場の窓口、宅配便の配達担当者なども該当することがあるのではないでしょうか。

更にQ&Aでは、(ア)(イ)以外の業務でも、「感染リスクが高いと考えられる労働環境下の業務に従事していた場合には、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務との関連性(業務起因性)を判断します。」とされており、個別の事情をできる限りしっかり把握して判断していく、という姿勢が明確になっています(Q&A5労災補償問7)。

⑤国外の場合

海外出張者等の場合には、出張先が多数の感染者発生国など明らかに高い感染リスクを持っている場合には、出張業務に内在する危険が現れたかどうかを、個々の事案に即して判断するとされています(通達2(2)ア参照)。

(3)労働者としては可能性があれば労災請求してみること

上記の通達や Q&A などをご覧になっていかがでしょうか。

「ひょっとしたら、自分は労災認定基準を満たすかもしれない。」と思えば、労基署に相談してみる、あるいは、労災請求の手続きをしてみる、ということが適切でしょう。

ネット情報などに振り回されて「業務起因性の認定は難しい。」等とで決めつけない方がよいでしょう。会社が「労災認定は無理ではないか」等といっても諦める必要はありません。

認定するのは労働基準監督署です。特に、新型コロナウイルス感染症に関しては、厚生労働省本省が労働基準監督署と個別に協議してくれるのです。

なお、上記の通達やQ&A では、通勤災害には特に触れていないようです。

しかし、満員電車などで感染する可能性は十分ありますし、通勤災害と認定される可能性もないわけではありません。個別に労基署と相談してみましょう。

①会社は労働者の労災請求に助力する義務、必要な証明をする義務がある

感染症に罹患した労働者が自分で請求するのが難しければ、会社に助力を求めましょう。

会社は助力する義務があります。また労災の請求書への証明の義務もあります。

Q&A5労災補償問8にも明記されています。省令も記載しておきます。

(参考)労働者災害補償保険法施行規則第23条(抄)

(事業主の助力等)

第23条 保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。

2 事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。

②会社が協力してくれないなら労働者が自分で請求すればよい

この点は次の厚生労働省の資料で明記されています。ご自身の体調や感染拡大のおそれなどで自ら手続きができないなら、社会保険労務士などに相談して手続を代行してもらうことも検討してもよいでしょう。

【参考:厚生労働省の資料より】

請求(申請)のできる保険給付等」の「共通事項」Q15・A15

「労災保険の手続きは原則として、被災された方が自ら行っていただいて問題ありません。会社が事業主証明を拒否するなどやむを得ない場合には、事業主の証明がなくても、労災保険の請求書は受理されますのでご安心ください。」

(4)労災の給付は手厚い

労災の給付は、療養については全額給付(自己負担なし)、仕事ができないときの休業給付はボーナスを除く賃金の80%程度が支給され、重い傷病や障害が残ったとき、不幸にして亡くなったときにも手厚い給付があります。

また業務災害であれば、休業中に解雇されることも原則としてありません(労働基準法19条)。

新型コロナウイルスは治療が長引いたり、症状が急変したり不幸にして死亡する可能性もあります。労災の給付を受けられるならそれに越したことはないのです。

労災保険の詳細については、リーガルモールの次の記事をご覧ください。

3、労災認定以外にも救済の道があることを知っておこう

労災認定以外にも救済の道があることを知っておこう

以上、労災保険法による保険給付の説明でした。

これ以外に労働者にとっての支援・救済はないでしょうか。

(1)健康保険の給付(療養給付、傷病手当金)

労災保険の認定請求をしても、認定されるには数ヶ月かかります。とりわけ新型コロナウイルスへの感染は新しい事態であり、厚生労働省が個別に判断しながら認定のルールを模索している段階と思われます。認定には時間がかかるでしょう。

健康保険の傷病手当金は、療養のために仕事ができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2相当額が、支給されます(Q&A6健康保険法等における傷病手当金)。

いったんは健康保険で療養の給付を受け(医療費の3割は自己負担となります。)、休業するなら傷病手当金を申請しましょう。労災の認定を受けられれば、健康保険からの給付は返却しましょう。

次のパンフレットでは医療費に関しての手続きの説明があります。

(参考)厚生労働省パンフレット

業務中や通勤途中のケガに、健康保険は使えません!!お仕事でのケガ等には労災保険!

(2)民間医療保険・生命保険など

医療保険だけでなく、生命保険でも特約で入院や通院の給付などが定められていることがあります。保険会社に相談して、受けられる給付は受けましょう。

(3)会社への請求

仮に労災認定が受けられなくても、会社が感染しやすい環境を放置していたなどとして、安全配慮義務違反、健康配慮義務違反として債務不履行責任を追及したり、不法行為責任を追及することも考えられます。

また、労災認定が受けられたとしても、更に会社の責任を追及することも可能です。労災保険の給付は、迅速公正な給付のための定率定額のものです。それだけで、会社がすべての責任を免れるわけではありません。精神的損害への慰謝料などはその代表的なものです。

例えば、会社が社員に対して「少しぐらい熱が出ても出社して来い」と指示し、その結果新型コロナウイルスに感染している人が出社して会社内で感染が拡大した場合などは、感染原因を特定することができれば、会社に責任を追及することができる可能性があります。

会社としては、顧客と直接向き合う業務ならば、レジなどに透明シールドを設置する、従業員にマスクや消毒薬を配布する、レジの列の間隔を空けるよう顧客に求める、など様々な対応をとることが適切です。そのようなことが不十分な場合、感染時の会社への責任追及が可能になることもあるでしょう。

(4)コロナに感染して仕事を休む場合には休業手当は支給されない

会社の責めに帰すべき事由によって会社が従業員を休業させる場合、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う必要があります(労働基準法第26条)。従業員の最低生活保障のための罰則つきの定めです(罰則:30万円以下の罰金。労働基準法第120条)。

しかし、労働者が新型コロナウイルスに感染して、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当せず、休業手当は支払われません。前述(1)の傷病手当金で対応すべきものとされています。

(参考)

Q&A2労働基準法における休業手当、年次有給休暇 問1<感染し休業する場合>

(5)様々な公的支援がある

新型コロナウイルス対策として次々と公的支援策が打ち出されています。
労災の被災者に限った問題ではありませんが、代表的なメニューと一覧表を掲げました。これも日々更新されています。本項末尾の内閣官房や東京都のサイトをご確認ください。

①給付

「特別定額給付金」:一律1人当たり10万円
「子育て世帯への臨時特別給付金」:児童1人あたり1万円(申請手続き不要)
「住居確保給付金」:休業による収入減で住居を失ったまたは失う恐れがある方に原則3ヶ月最長9ヶ月の家賃相当額を支援

②貸付

「緊急小口資金・綜合支援資金」:収入減で生活が苦しい方に最大80万円(2人以上世帯)、最大65万円(単身世帯)を貸付。

③保険料や公共料金等の減免猶予

国民健康保険料、介護保険料、国民年金保険料などの減免。
国税、地方税、各種公共料金等の支払い猶予。

【資料1】内閣官房:新型コロナウイルス感染症に伴う各種支援のご案内

【資料2】東京都 新型コロナウイルス感染症 支援情報ナビ

検索の仕方が工夫されており、ご自分に合った制度を探すことが容易にできます。
また、東京都独自の支援策もまとめられています。

4、新型コロナウイルスによる支援制度で困ったときの相談先

新型コロナウイルスによる支援制度で困ったときの相談先

以上の通り、新型コロナウイルス感染症にかかった場合に、労災認定請求をはじめ様々な救済の仕組みについて、労働者がすぐに理解して対処できるものではないと思います。

以下、困ったときの相談窓口をまとめました。

(1)都道府県労働局の相談窓口

各都道府県労働局に特別労働相談窓口が設置されています。各都道府県労働局のページ

(2)各地方自治体などの相談窓口

都道府県市区町村などのホームページで相談窓口が設置されています。

労働災害の問題だけでなく、治療や生活面などでお困りごとがあれば、地方自治体の窓口にもぜひ一度ご相談ください。以下は東京都の例です。(東京都保健福祉局)

新型コロナウイルス感染症にかかる相談窓口について

(3)労働関係の弁護士

新型コロナウイルス感染症に関しては、労災保険の認定請求での労働基準監督署とのやりとりや、会社との交渉・場合によっては訴訟に至ることもあります。

会社に対する請求をお考えの方は、早い段階で一度労働関係の弁護士と相談されることをお勧めします。

まとめ

不幸にして新型コロナウイルス感染症に罹患した場合、先が見えず不安な思いでいっぱいになるでしょう。
今はまず、ゆっくり休んで治療に励んでください。本項で説明したように厚生労働省をはじめとする官公署では、市民の生活を守るため日々懸命の努力を続けています。

日を追うごとに支援の仕方が改善され進歩しています。決して諦めずにしかるべき窓口に相談し、サポートを受けてください。
回復した時には、その時に受けたサポートを忘れず、今度はあなたがお困りの人々をできる限り助けて差し上げてください。

皆で助け合い支えあうことで、このときを乗り切りましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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