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危険運転致死傷罪とは?罰則や逮捕された場合の対処法9つ

危険運転致死傷罪とは、自動車の飲酒運転、暴走行為、過度のスピード違反などの危険運転や、昨今話題になっているあおり行為や幅寄せ行為等の悪質運転で人身事故を起こしてしまった場合に成立する可能性がある犯罪です。世間からは厳罰化を求める声も多くあります。

ここでは、刑事事件に積極的に取り組んでいるベリーベスト法律事務所の弁護士が、危険運転致死傷罪の内容や法定刑について詳しく説明するとともに、危険運転致死傷罪の被害者になってしまった場合の対処法等について説明します。

この記事が、危険運転致死傷罪に関して悩まれている方のご参考になれば幸いです。

交通事故の加害者について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

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1、危険運転致死傷罪とは

(1)危険運転致死傷罪の条文

危険運転致死傷罪とは、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(略称:自動車運転死傷行為処罰法)第2条及び第3条に定められており、以下のような類型に分けられています。

①酩酊運転・薬物運転

アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

②準酩酊運転・準薬物運転

アルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったもの

③制御困難運転

その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

④未熟運転

その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為

⑤進路妨害運転

人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

⑥信号無視運転

赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

⑦通行禁止違反運転

通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

⑧病気運転

自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてその病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったもの

(2)危険運転致死傷罪が成立する要件(構成要件)

危険運転致死傷罪は、前記の①~⑧の状況下で自動車を運転し、人を負傷させたり、死亡させたりした場合に成立します。

危険運転致死傷罪が制定された当初は「四輪以上の自動車」だけが対象でしたが、平成19年5月の改正により「二輪車」も対象となりました。

なお、以前は、例えば、上記①のアルコールの影響による酩酊運転で人を負傷させたにもかかわらず、その場で警察等に連絡せず、アルコールの影響が抜けた後で出頭した場合、アルコールによる酩酊運転が立証できないことから、通常の業務上過失致死傷罪と道路交通法違反(報告義務違反、救護義務違反(いわゆる「ひき逃げ」))が成立するにとどまっていました。

そのため、事故後その場にとどまって危険運転致死傷罪で処罰されるよりも、その場から逃げた方が量刑が軽くなることから、「逃げ得」となるという批判がありました。

このような批判を受けて、自動車運転死傷行為処罰法では、飲酒等が発覚しないようにする目的で事故現場から離れる行為自体を、「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」として処罰することとしました。この過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪は、過失運転致死傷罪とは別に成立することから、実際は両罪が成立することとなり、量刑も非常に重くなることになりました。

2、危険運転致死傷罪の量刑

危険運転致死傷罪の法定刑は、被害者を死亡させたかどうか(致死か致傷か)及び危険運転の態様によって下記の通りとなっています。

また、運転者が無免許であった場合は、法定刑に一定の加重がなされる場合があります。

罪名

運転態様

被害者の状況

法定刑

無免許運転の場合の加重

危険運転致死罪

準酩酊・準薬物・病気運転

致死

15年以下の懲役

6月以上の有期懲役

その他

1年以上20年以下の懲役

6月以上の有期懲役

危険運転致傷罪

準酩酊・準薬物・病気運転

致傷

12年以下の懲役

15年以下の懲役

未熟運転

15年以下の懲役

加重なし(同左)

その他

1年以上20年以下の懲役

加重なし(同左)

発覚免脱罪

 

12年以下の懲役

15年以下の懲役

過失運転致死傷罪

 

7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金

10年以下の懲役

3、危険運転致死傷罪が作られたきっかけ

従来、自動車事故で他人を負傷させた場合、業務上過失致死傷罪という罪で処罰されており、法定刑の上限は懲役5年でした。

ところが、平成11年11月に、東名高速において飲酒運転のトラックが乗用車に追突する交通事故が発生し、乗用車に乗っていた幼児2名が焼死するという交通事故が発生しました。

また、翌平成12年4月には、神奈川県内において、無免許で飲酒運転をしていた乗用車が、歩道を歩行中の大学生2名を死亡させるという交通事故が発生しました。

このような交通事故の被害者遺族の方が、飲酒運転や無免許、大幅な速度超過といった状況で交通事故を起こし、結果として人を死亡させてしまった加害者への刑罰として、業務上過失致死傷罪の法定刑では軽すぎるという点について署名活動を行った結果、多くの署名が集まり、世論を動かした結果、平成13年に危険運転致死傷罪が制定されました。この当時、危険運転致死傷罪の法定刑の上限は15年と定められました。

当時、危険運転致死傷罪は刑法に規定されていましたが、現在は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)に規定されています。

4、自動車事故で危険運転致死傷罪が適用される場合とは

(1)飲酒運転と危険運転致死傷罪

飲酒運転は、危険運転致死錠剤の類型のうち、前記①の酩酊運転や②の準酩酊運転に該当する可能性があります。酩酊運転等にあたるかどうかは、事故前の飲酒量及び酩酊状況、事故前の運転状況、事故後の言動、飲酒検知結果等を総合的に考慮すべきとされています。

<裁判例>

・自動車の運転を開始する前に、相当多量に飲酒し、第三者から見て分かるほど平衡感覚を正常に保てない状態にあった上、本件自動車の運転を開始した後には、2か所の交差点で信号機を見落とし、右カーブで路外に接近してガードレールに衝突しそうになり、事故現場付近で緩やかな左カーブになっているほぼ直線の道路で自動車を左外側線側に進出させ、視認しやすい状況にあった被害者らに全く気付かないまま、自車を被害者らに衝突させたもの

→危険運転致死傷罪を適用(判例タイムズ1214号315頁)。

・午後6時頃から、食道で焼酎のお湯割り(340ミリリットル、アルコール度数25%)を3杯飲み、さらに、午後8時30分頃からワイン(アルコール度数12.5%)を約320ミリリットル飲んでいたうえ、飲んでいたスナックで、頭を下げてカウンターに突っ伏すようになったり、椅子の後ろにもたれかかり俯いて居眠りをしたりしており、スナックを出た後、午後11時頃、買い物をしたが、店内において、上体がふらつき、また、レジで支払いをするのに違った方向に行きかけるなど足下も多少ふらついていた状態で午後11時2分頃から運転を開始し、午後11時5分頃に事故を起こした事案。

→危険運転致死傷罪を適用(神戸地方裁判所平成24年12月12日判決:最高裁判所ウェブサイト掲載裁判例)。

(2)無免許運転と危険運転致死傷罪

危険運転致死傷罪の類型のうち前記の④未熟運転にあたるかどうかは、免許の有無で判断するのではなく、ハンドルブレーキなどの運転装置を捜査する初歩的な技能すら有しないような運転の技量がきわめて未熟なことをいう、とされています。

なお、無免許運転で危険運転致死傷罪に該当する行為を行った場合は、前記の表に記載のとおり、量刑に一定の加重がなされる場合があります。

(3)疾患と危険運転致死傷罪

特定の病気により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転することは危険運転致死傷罪の類型のうち前記⑧の病気運転に該当します。

ここでいう病気は、運転免許の欠格事由とされている病気の例を参考とした上で、

自動車を運転するには危険な症状に着目して、下記のような疾患が政令で定められています。

自動車の運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する統合失調症

意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り起こるものを除く。)

再発性の失神

自動車の運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症

自動車の運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう病及び鬱病を含む。)

重度の眠気の症状を呈する睡眠障害

(4)交通違反(速度超過・信号無視等)と危険運転致死傷罪

速度超過や信号無視を伴う危険運転は、前記類型の③制御困難運転や⑥信号無視運転に該当します。一般的に、速度違反については、そのような速度での走行を続ければ、車両の構造や性能など客観的事実に照らし、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになると認められる速度又はハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになると認められる速度での走行をいうとされています。制御困難運転に該当するかどうかの判断は、具体的な道路の状況すなわちカーブや道路の状態に照らして判断されるということになります。

また、信号無視については、赤色信号であることについて確定的な認識があり、停止位置で停止することが十分可能であるにもかかわらず、これを無視して進行する行為や、確定的な認識がなくても、信号の規制自体に従うつもりがないため、その表示を意に介することなく、たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為がこれに該当すると言われています。

<裁判例>

・制限速度50kmのカーブを時速90kmで走行させてセンターオーバーしたケース

→危険運転致死傷罪を適用(判例タイムズ1375号246頁)

・制限速度40kmのカーブを時速100kmで走行させてセンターオーバーしたケース

→危険運転致死傷罪を適用(判例タイムズ1108号297頁)

・制限速度40kmのカーブを時速90kmで走行させてセンターオーバーしたケース

→危険運転致死傷罪の適用を否定(判例タイムズ1159号118頁)

5、危険運転致死傷罪と免許の違反点数

交通事故を起こして人を負傷させてしまった場合、刑事罰を受けるのと同時に、行政罰を受ける可能性があります。それが、免許の違反点数の類型による免許取消処分(免取)や免許停止処分(免停)です。

危険運転致死傷罪に該当する交通違反を起こした場合に違反点数は45点です。

そして、被害者の受けた負傷の程度によって、下記の点数が付加されます。

種類

不注意の程度

点数

死亡事故

一方的不注意によるもの

20

それ以外

13

3ヶ月以上の怪我

一方的不注意によるもの

13

それ以外

9

30日以上3ヶ月未満の怪我

一方的不注意によるもの

9

それ以外

6

15日以上30日未満の怪我

一方的不注意によるもの

6

それ以外

4

15日未満の怪我

一方的不注意によるもの

3

(建造物損壊を含む)

それ以外

2

違反点数が15点を超えると、免許取消処分となるうえ、違反点数が45点となると、仮に交通違反の前歴がなくとも、5年間は免許を取得することができなくなります(欠格期間)。

ですから、危険運転致死傷は行政罰としても非常に重い処罰があるということになります。

6、危険運転致死傷罪におけるほう助犯について

平成25年4月、最高裁は、職場の後輩がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら、自動車を運転することを了解し、その自動車に同乗して後輩の運転を黙認し続けた行為について、危険運転致死傷罪のほう助犯が成立すると判断しました。

ほう助犯とは、自らが直接犯罪を行った場合でなくても、他人が犯罪を行うことを容易にしたり手助けしたりする場合に成立するもので、この事例においては、XがAの運転を了解し、かつ、自動車に同乗して運転を黙認し続けたことにより、Xは、Aが危険運転致死傷罪という犯罪を行うのを容易にした、と判断され、Xに危険運転致死傷罪のほう助犯が成立するとされたのです。

知人が飲酒をして運転をすることを許容したり、その自動車に同乗しているのに運転を静止させなかったりすることは、危険運転致死傷罪という重大な犯罪のほう助の罪に問われる可能性がありますから、十分に注意が必要です。

7、危険運転致死傷罪で逮捕された場合の流れ

危険運転致死傷罪の容疑で逮捕されてしまった場合、他の刑事事件で逮捕された場合と同様、警察が48時間以内に検察に身柄を送致する(送検)かどうかを決定し、身柄を送致された検察は、24時間以内(逮捕から72時間以内)に、裁判所に勾留請求するかどうかを決定します。裁判所が勾留請求を認めた場合は、その後最大20日間身柄を拘束され、その間に検察は起訴をするかどうかを決定します。

8、危険運転致死傷罪で逮捕された場合の対処法

危険運転致死傷罪の容疑で逮捕された場合であっても、危険運転致死傷罪が成立するかどうか争う余地がある場合も少なくありません。そして危険運転致死傷罪が成立しない場合、過失運転致死傷罪と道路交通法違反のみが成立するにとどまる場合もあります。危険運転致死傷罪の法定刑の上限が懲役20年であるのに対し、過失運転致死傷罪の法的刑の上限は懲役7年ですから、量刑に大きな差が生じることになります。また、行政罰としての免許の違反点数も異なってきます。

そして、危険運転致死傷罪が成立するかどうかについては、本人の供述が影響する場合も少なくありません。ですから、危険運転致死傷罪の容疑で逮捕された場合は、警察等の取り調べで不利益な供述調書が作成される前に、弁護士に相談することが重要です。

また、危険運転致死傷罪であっても過失運転致死傷罪であっても、被害者との間で示談が成立しているかどうかが、起訴されるかどうか、また起訴された場合に執行猶予が付くかどうかといった点に大きな影響を及ぼしますから、早期に示談を成立させることも大切です。

ただ、逮捕されて身柄を拘束されている状況で示談の話し合いはできませんから、被害者と示談交渉を行うためにも弁護士に依頼することが大切です。

9、危険運転致死傷罪に関する相談先

危険運転致死傷罪に関しては、その適用範囲が明確ではないことから、本当に危険運転致死傷罪が適用される事例なのか、過失運転致死傷罪に止まるのか、といった大きな問題があります。また、その事故によって生じた車両の損害や、負傷した方の損害についての示談交渉も必要になります。

危険運転による交通事故が発生した場合、加害者となってしまった場合も、被害者となってしまった場合にも様々な問題が生じる可能性がありますから、早い段階で、弁護士に相談されることをおすすめします。

まとめ

交通事故は誰でも加害者や被害者になり得る可能性があります。

そして、交通事故で相手を負傷させてしまったり、死亡させてしまったりした場合はパニックになってしまうこともあると思います。ただ、起きてしまったものは取り返せないことから、その後の対応をきちんと冷静に行うことが重要です。

被害者との示談はもちろん、危険運転致死傷罪が成立するかどうかで、刑事処分としての量刑や行政罰にも大きな差が生じますから、本当に危険運転致死傷罪が成立するかどうかを、加害者の側にたって検証してくれる専門家に相談することが大切です。

また、不運にも被害者になってしまった場合も、きちんと被害弁償を受けるために、法律の専門家である弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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