発達障害を持つ配偶者との結婚で、コミュニケーションや注意力の問題からストレスを感じることもあるかもしれません。
中には、発達障害を理由に離婚を考える人もいるでしょう。しかし、実際に発達障害を理由に離婚することはできるのでしょうか?
目次
1、夫・妻どちらかが発達障害だと離婚率は高くなる?
発達障害とは、生まれつき脳機能の発達がアンバランスなことから引き起こされる障害です。
様々なパターンがありますが、よく知られているのは主に次の3つです。
- 自閉症スペクトラム(ASD)
- 注意力欠如多動性障害(ADHD)
- 学習障害(LD)
自閉症スペクトラムは過去に「アスペルガー症候群」と呼ばれていたもので、そちらのほうが馴染みのある方も多いかもしれませんが、現在は高機能自閉症などと統合されてこちらの診断名に統一されています。
いずれにせよ、社会生活を送る上で人とコミュニケーションを取るのが難しい、落ち着きがなく急に不審な行動を起こすことがある…といのが発達障害の特徴です。
実際、アメリカではどちらか一方が発達障害の夫婦は、72%の高い確率で離婚しているというデータもあります。
全夫婦の離婚率が3割程度の日本に比べて、元々アメリカでは4~5割程度と高い数字にはなっているのですが、それをふまえても72%というのは多い割合です。
2、発達障害の夫・妻を持つ人が離婚を決断する理由
夫・妻が発達障害の場合、どのような理由から離婚に至るケースが多いのでしょうか。
よくある原因をピックアップしてみました。
(1)思い込みが激しく話が通じない
発達障害を抱えている人は、他人の話を正しく理解することができない・自分の中でズレた解釈をしてしまいやすいという特徴があります。
ひとつの事柄に強くこだわる傾向もあり、1度思い込むとどれだけ説明しても誤解を解くことができません。
そのため夫婦喧嘩が絶えず、仲直りをしようにも相手の頑なな態度や話の噛み合わなさにだんだん嫌気がさしてしまうでしょう。
(2)気に入らないことがあるとすぐにキレる
思い込みが激しい上に、自分の思い通りにいかないことがあるとパニックに陥りやすいところも発達障害の厄介なポイントです。
キレたときに物にあたったり暴力を振るったりするケースも多く、DVに発展してしまうパターンもあります。
(3)空気を読まない言動を繰り返す
発達障害を持つ人は、世間で言うところの「空気を読む」ことが苦手です。
人の言葉をそのままの文字通りに解釈してしまうので、その裏に含まれたニュアンスや本音を察することができません。
これによって思いがけず相手を傷付けてしまったり、とんちんかんな受け答えをしたりしてしまうことも少なくないでしょう。
それでもまだ夫婦間の会話であれば、そういった夫・妻の状態をこちらが理解することで対応することも可能ですが、第三者を交えた会話のシーンで夫・妻が空気を読まない言動を繰り返し、その度に肩身の狭い思いをすることが耐えられないというケースもあります。
(4)忘れっぽく約束を守れない
発達障害の中でも特に注意力欠如多動性障害の影響が強い場合、何かを約束してもすぐに忘れてしまう、予定を計画的に実行することが難しいという症状に悩まされます。
単純な「うっかり」と見分けがつきにくいこともあって、「どうして気を付けることができないの?」「結局私との約束なんて、あなたにとっては大して重要じゃないのね」と、夫婦の気持ちがすれ違う原因のひとつになりやすいでしょう。
(5)部屋を片付けられない
物事に集中することが苦手な発達障害の人は、テキパキと家事をこなすことも難しいケースが多いです。
何をどう進めていけば良いのか途方に暮れてしまい、結局ひとつも手が付けられないままで部屋が散らかり放題…ということも珍しくありません。
発達障害ではない人から見ると、単に「家事をサボっている」「だらしない」と配偶者に対して失望してしまいますし、家事が滞ることで生活にも余裕がなくなり、気持ちがギスギスしてしまいがちです。
3、夫・妻と考えにズレが生じてしまうのはなぜ?
先ほどの離婚理由のところでも部分的にご紹介しましたが、改めて3つの障害の特徴をまとめると次のようになります。
【自閉症スペクトラム】
- 相手の気持ちを察することが苦手
- その場の状況がどうなっているのかを判断することが難しい
- 物事の次の展開を想像したり、予測したりすることができない
- 同じ行動を繰り返すことにこだわる
- 突発的なトラブルへの対応が苦手
【注意力欠如多動性障害】
- 注意力が散漫
- ミスが多い
- 忘れっぽい
- 順番を待つことが苦手
- 相手の話をさえぎって自分の話を始める傾向がある
- 思いつきで突飛な行動を起こすことがある
【学習障害】
- 読み書きや計算など、特定の作業に困難を覚える
- 仕事の指示をなかなか理解することができない
これらの症状は生まれつきのものですが、思春期を迎えるまでに自然とおさまる人もいれば、療育を行うことで症状が軽減される人もいます。
ただ、元々障害のある人のうち全体の3割程度はそのまま大人になってしまうとも言われており、本人には自覚がないことも多いため、上手くコミュニケーションできないことがあっても「自分は正しい、おかしいのは他人のほうだ」と思い込んでいるケースが少なくないでしょう。
4、発達障害の向き合い方を変えて再構築も可能
これまで「夫・妻は発達障害だから」ということで自分が折れてきた人も多いかと思いますが、その我慢が限界に近付けば離婚も視野に入ってくるのは当然の話です。
ただ、「できれば別れたくない」「夫・妻のことはやっぱり好き」という気持ちがあるなら、離婚を選ぶ前にもう1度相手との向き合い方を見直してみるのも良いかもしれません。
ここからは、そんな発達障害の夫・妻との再構築を目指すみなさんが押さえておきたい、考えの切り替え方をご紹介していきます。
(1)「自分と同じ」ことを期待しない
人は無意識のうちに相手と自分の共通点を探してしまうものですし、共有できるものが多ければ多いほど嬉しい気持ちになるものです。
しかし、夫・妻が発達障害を抱えているかどうかに関わらず、すべての人間は根本的に1人1人が違う存在。
「同じで当たり前」なのではなく、「違うことが当たり前」をデフォルトにするだけで、日々のコミュニケーションがだいぶ楽になります。
(2)思っていることは省略せずに伝える
発達障害の夫・妻に対して、「言わなくても分かるでしょ」という感覚で向き合うのは無理があります。
怒っているときはもちろん、嬉しいときや悲しいときにも「私は今○○だから怒っている・嬉しい・悲しい」とハッキリ言葉にして伝えましょう。
その際、「○○だから」という理由の部分もなるべく具体的に、細かい物事でも省略せず伝えることで、より相手が理解しやすい形になります。
(3)相手にしてほしいこともストレートに伝える
発達障害を持つ人は、たとえ世間的に「Aが起こるとBが必要だ」という常識があったとしても、AとBの関連性をうまく想像できないことがあります。
しかしそれなら、Aという状況が発生するたびに「Bをお願いね」と声をかけてあげれば済む話です。
何か相手にしてほしいことがあるときには、その都度内容を具体的な言葉にしましょう。
(4)得意なことをやってもらう
たとえば発達障害の人は計画的に物事を進めたり家事をこなしたりするのが苦手な傾向がありますが、人によっては一般人よりもはるかに優れた能力を持っているケースも多いです。
発達障害でなくても、人には向き不向きというものがあります。
向いていないことを無理強いするより、相手が得意な方面で力を発揮してもらったほうが、ずっと気持ちよく実りある結婚生活を送ることができるでしょう。
(5)違いを楽しむ
同じ物事に遭遇しても、発達障害の人とそうでない人の間には受け止め方に大きな差が出てくることがあります。
その違いを「面白い!」と感じるか、「面倒くさい」と感じるかは結局のところあなた次第です。
どうしたってまったく同じになることなどできない人間同士なら、違いは積極的に楽しんでいったほうが建設的だと思いませんか?
無理にポジティブになる必要はありませんが、どんなことでも捉え方次第で前向きに考えることは可能なのです。
5、発達障害が原因で離婚しても生活はそのままという人たちも
こちらのブログの方のように、「発達障害の夫・妻と離婚して夫婦ではなくなったけれど、変わらず同居を続けている」というケースも実際にはあります。
「それなら離婚した意味がないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「結婚している」「夫婦である」という状況は、本人たちが考えている以上に目に見えない役割のようなものを自分や相手に課してしまうものです。
たとえば夕飯のときに自分からはひと言も口をきかない夫に対して、「子供の父親なのだからもう少し食卓が和やかになるよう気を遣ってほしい」と日頃から思っていた女性は、離婚して戸籍上他人になるや否や、そういった気配りを相手に求める気持ちが自然となくなったといいます。
ルーティンにこだわり融通がきかなかった元夫の性格も、同居人としてならむしろ扱いやすく感じたり、相手に家事をお願いするときにも「妻である自分がすべてこなすべきなのに、手伝ってもらって申し訳ない」という気持ちを感じずに済んだり、ほかにも離婚してよかったと実感するシーンは驚くほど多いそうです。
発達障害の配偶者との向き合い方に悩んでいるみなさんは、こういった例を参考にしてみるのもひとつの方法です。
6、発達障害を理由に離婚・慰謝料請求はできる?
一方、離婚して同居生活も完全に解消する場合、これまでの苦痛に対する慰謝料を請求したいと考えている人もいるでしょう。
しかし、実際のところ相手が発達障害であることだけを理由に離婚や慰謝料を求めることは難しいのが現実です。
相手の合意が得られた場合は理由が何であれ離婚可能ですが、相手が納得してくれない・話し合いに応じてくれない場合には離婚が成立するまで根気強く説得を続ける必要があります。
ただ、それが発達障害の症状の一部であっても、モラハラやDV、生活が困窮するほどの浪費癖がある場合には法的に離婚が認められる可能性も高いです。
詳しくはこちらの記事で解説していますので、あわせて参照してください。
7、答えが出ないときは専門家に相談してみよう
発達障害ゆえのトラブルや悩みにどこまで耐えるべきなのか、耐えられなくなったときにどう離婚を切り出せば良いのか、相手が発達障害だからこそ、自分の思いをきちんと相手に理解してもらうことができるか不安な方も多いでしょう。
考えが煮詰まってしまったときには、1人で抱え込まず次のような専門家に話を聞いてもらうのもおすすめです。
(1)カウンセラー
夫婦問題を専門とするカウンセラーなら、あらゆる夫婦の離婚や再構築を見てきた経験から、みなさんにとっても有効なアドバイスを行ってくれるでしょう。
とにかく今の苦しい気持ちを誰かに聞いてほしい、というときにもカウンセリングを受ければだいぶ気分が楽になります。
身近な人にはなかなか話しにくいことでも、第三者になら素直に打ち明けられることがありますので、ぜひ1度試してみてください。
(2)弁護士
離婚を検討しているなら、弁護士に相談を行うのが最もスムーズです。
今のみなさんが本当に納得できる形で問題を解決していくためにはどうすれば良いのか、考えを整理する際にも弁護士からの情報はとても役に立ちます。
初回の相談は無料で実施しているところもあるため、気軽に足を運んでみましょう。
まとめ
発達障害による相手の特性のみを理由に離婚することは難しいことが分かりましたが、相手の合意が得られている場合や、DVなどの法的な離婚事由に該当する場合は問題なく離婚を成立させることもできます。
また、発達障害の夫・妻とは向き合い方を少し変えてみることで再構築を目指すことも可能です。
今回ご紹介した内容を参考に、ぜひみなさんも自分の今の悩みを解消できる、ベストな結論を導き出してみてください。