もらい事故は一般的な交通事故とは違う!気をつけておきたい7つのこと

もらい事故とは、事故が発生したことについて被害者側に責任や賠償がない交通事故のことをいいます。

もらい事故のもっとも大きな特徴は、示談交渉をご自身で行わなければならないことです。特に大きな損害を負ってしまった場合、ご自身での示談対応はとてもきつく難しいものがあるでしょう。

今回は、

  • もらい事故にあった際の対処法
  • もらい事故に遭っても上手に損害を回復する方法
  • もらい事故の注意点として知っておきたい知識

をご説明します。ご参考になれば幸いです。

また、以下の関連記事では交通事故での被害者が損をしないための知識について解説しています。突然の交通事故でお困りの方は是非以下の関連記事もあわせてご参考いただければと思います。

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1、もらい事故とは

交通事故に遭った被害者は、加害者又は加害者の加入する保険会社等(以下併せて「加害者側」といいます。)に対し、損害の賠償を請求することができます。

しかし、被害者自身が当該交通事故発生原因の一部を作り出している場合は、その割合に応じて相手方に請求することのできる金額が減額されることになります。
例えば、四輪自動車同士の進路変更車と後続直進車との交通事故の場合、進路変更車は「進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない」とされています(道路交通法26条の2第2項)ので、主たる原因は進路変更車にあると考えられます。しかし、他方で後続直進車も進路変更車があらかじめ前方にいて、その相図等により進路変更を察知して適宜減速等の措置を講ずることにより衝突を回避することは一般的にさほど困難でないため、軽度の前方不注視が認められると考えられています。
そのため、四輪自動車同士の一般的に進路変更車と後続直進車との交通事故においては、進路変更車に70%の責任があり、後続直進車にも30%の責任があるとされ(これをいわゆる「過失割合」といいます。)、後続直進車の運転手は当該事故によって被った損害のうち70%しか加害者側に賠償請求できないことになります。

もらい事故とは、このように被害者にも責任があるといえる事故とは異なり、信号待ちで停車中に追突されたという交通事故など、被害者が当該交通事故発生について責任を負わない事故のことをいいます。

2、もらい事故は意外と多い?

警察庁交通局が発表した「平成27年における交通事故の発生状況」によると、平成27年における交通事故発生件数は53万6899件でしたが、その内車両相互の追突という事故類型の発生件数は19万6868件もあり、約3件に1件は追突事故であるということが分かります。

3、もらい事故とその他の交通事故との違い

ほとんどの場合、自動車保険の中には「示談代行サービス」が付帯されていますので、交通事故に遭った場合、自分の加入している自動車保険の保険会社の担当者が加害者側との交渉を担当してくれることがあります。

しかしながら、被害者に責任の無いもらい事故の場合は、被害者に賠償責任が生じないため、ご自身の保険会社は損害賠償金を支払う必要がありません。もし、被害者側の保険会社が、被害者に代わって加害者側との示談交渉をしてしまうと、弁護士法(72条 非弁活動の禁止)違反になってしまいます。

そのため、もらい事故の被害者になった場合は、ご自身が契約している保険会社が本人に代わって示談代行することができません。もらい事故の被害者となった場合には、ご自身で示談をしなければならないのが基本です。

4、もらい事故に遭った場合の対処法

もらい事故に遭った場合でも、その対処法はその他の交通事故の場合と大きく変わりません。

(1)交通事故被害者がまず行うべき事項

  1. 警察に連絡する
  2. 加害者の住所氏名、車両のナンバー、任意保険会社及び自賠責保険会社の確認する
  3. お互いの保険会社に連絡する
  4. すぐに通院を開始する

(2)事故後の警察とのやり取りの流れ

①警察は示談の手伝いはしない

ご存じない方もおられるかもしれませんが、警察は、交通事故の当事者の示談には関与しませんし、事故の過失割合を決めることもしません。警察は、現場検証したり、当事者から話を聞いた上で、加害者を刑事裁判にかけるかどうかの捜査をするだけです。

そうは言っても、警察が作成した資料の中には、当事者が示談する際に役立つ資料があります。示談交渉の際に警察が作成した資料を適切に入手できるように、警察とは綿密にやり取りをする方が良いでしょう。

②人身事故として届ける

交通事故には「物件事故」と「人身事故」の2種類がありますが、交通事故で負傷した場合には、きちんと「人身事故」扱いにしておきましょう。

というのも、警察は、物件事故の場合、実況見分をしっかり行わず、簡単な手続きで済ませてしまう場合がほとんどです。この場合、示談の段階で双方が過失割合で揉めている場合には、話がややこしくなります。なぜなら、警察がきちんと現場検証をした上で、その結果を実況見分調書にしていれば、その調書を開示してもらって、それを参考にして加害者と交渉できますが、物件事故報告書しかない場合には、事故の詳細が分からないために交渉の参考にする資料がない、という事態になってしまうからです。

一見すると被害者に責任のないもらい事故の場合でも、後述のとおり被害者の責任が争われることがありますので、警察には、きちんと「人身事故」として届けましょう。人身事故扱いにするためには、警察に医師の診断書を提出する必要があります。そのため、事故後早い段階で医師から診断書をもらい、警察に提出するようにしましょう。

(2)交通事故後の治療の流れ

交通事故で負傷した場合、加害者が契約している保険会社に連絡の上、すぐに医師の診断を受けるようにしましょう。事故からしばらくして病院に行った場合、保険会社から、本当にその症状が事故のせいで発生したものなのかどうか疑問に思われてしまいます。

そのため、まず第一に病院にすぐに行きましょう。その場合に、治療費を立て替えることになった場合には、病院からもらう領収書をきちんと保管しておきましょう。

また、人身事故扱いにするために、診断書を発行してもらうようにしましょう。

5、もらい事故の場合の慰謝料額

(1)交通事故の慰謝料には2つの種類がある

「慰謝料」とは、交通事故に遭ったことによって被った精神的苦痛を金銭的に償ってもらうものです。

交通事故の慰謝料には、①交通事故の被害により入通院させられたことに対する慰謝料(これを「入通院慰謝料」と言います)、②後遺障害等級が認定された場合に請求できる慰謝料(これを「後遺障害慰謝料」と言います)の2つがあります。

入通院慰謝料は、治療のために入通院をさせられた場合に、この入通院によって被害者が被った精神的な損害を賠償するためのものです。

他方、後遺障害慰謝料は、治療をしても最終的に症状が残ってしまい、その症状に関して後遺障害等級認定がなされた場合に、そのことに対する精神的な損害を賠償するためのものです。

(2)交通事故の慰謝料に関する3つの基準について

慰謝料は、前述したように、被害者の精神的な損害を賠償するという性質上、被害者一人一人損害は違うはずですので、慰謝料の金額も個別的に算定する必要があります。

しかし、可視化できない精神的な損害の大きさを被害者一人一人個別に算定するのは極めて困難ですし、同じような自己の被害者間で慰謝料の金額に大きな差が出てしまのも不公平です。

そこで、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料のいずれも、慰謝料を計算する際には裁判所も保険会社も一定の基準を設け、その基準に従って計算しています。

①自賠責保険基準

まず、自賠責保険は、人身事故に対する最低限の補償を目的として法律で加入が義務付けられている強制保険です。最低限の補償を目的としていることから、算定基準は低く設定されています。また、慰謝料の算定方法も法律で定められています。

②任意保険基準

次に、任意保険は、自賠責保険では補償しきれていない損害部分を補償するために加入する保険です。この任意保険基準は、各保険会社の社内基準ですので、具体的な算定方法は不明です。ただし、おおよその目安として、自賠責保険基準と裁判所基準の間ぐらいの金額で定められていることが多いです。

③裁判所基準

裁判所基準は、弁護士基準とも言われ、裁判所の考え方や、過去の裁判例で認められた金額を基準化したものです。この裁判所基準は、3つの算定基準の中で一番高い賠償額の基準です。

(3)交通事故の入通院慰謝料の計算方法

以下では、それぞれの基準に基づく慰謝料の計算方法についてご説明します。

①自賠責保険基準

自賠責保険の入通院慰謝料については、治療費や通院交通費なども合わせて120万円の枠の中で支給されることになります。

計算方法は、1日4200円で計算しますが、日数は「実通院日数×2」と「通院期間」のどちらか少ない方を基準にします。

②任意保険基準

前述のように任意保険基準は非公開ですので、その算定方法も明らかではありません。実際の交渉の際に保険会社から提示された金額が、任意保険基準によって算定された慰謝料の金額です。

③裁判所基準

入通院慰謝料に関しては、裁判所によって数種類がありますが、多くの場合『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』いわゆる「赤い本」による基準を使用します。この点について詳しくは、「交通事故の慰謝料獲得までの全手順について徹底解説」をご参照下さい。

6、もらい事故でも場合によっては損害賠償責任を負うことがある?

一見被害者に責任のないもらい事故であっても、具体的な事実をみていくと被害者側も責任を負うケースがあります。

(1)センターラインオーバーの加害車両と直進していた被害車両との交通事故

これは、近時注目すべき裁判例が福井地方裁判所で平成27年4月13日に出されました。この裁判で争われた事故は、居眠り運転でセンターラインをはみ出した乗用車が、直進してきた対向車と正面衝突したというもので、居眠り運転をした車両の同乗者が亡くなってしまった事故でした。

そして、この同乗者の相続人が、居眠り運転手と正面衝突をされた対向車両の保有者(運転手の勤め先の会社)に対して損害賠償を求めたのですが、注目すべき点は、この裁判では突っ込まれた対向車両の保有者にも賠償責任があるとされたという点です。

実は、自動車の運転手は交通事故発生において「故意又は過失」が認められると、相手方に発生した損害を賠償することになります(民法709条)。また、自動車損害賠償保障法は、被害者保護のから自動車の保有者(同法では「運行供用者」としていますが、分かりやすくするため「保有者」で話を進めます。)もその自動車の運行によって他人の生命又は身体を害したときは、その損害を賠償しなければならないとしています(自賠法3条)。

この裁判では、対向車両の運転手の過失の有無(衝突をさけるために具体的な行動を取る義務があったのか、なかったのか)が大きな争点となりましたが、最終的に裁判所は、この運転手に過失があると認めることはできないし、過失がないとも認めることはできないと判断しました。

少し難しい話になりますが、民法709条の責任は、損害賠償の請求をする方が相手方に過失があることを証明しなければならないとされていますが、自賠法3条の責任は損害賠償の請求をされた方が①保有者及び運転手が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、②被害者又は運転者以外の第三者に故意または過失があったこと、③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明しなければなりません。

そのため、運転手に過失があると認めることはできないとされていますので、対向車両の運転手は民法709条の責任を負いませんが、対向車両の運転手に過失がないとも認めることができないので、対向車両の保有者は自賠法3条の責任を負うということになったのです。

(2)走行中に追突されたケース

追突事故でも被追突者の過失が争点になることがあります。道路交通法24条は危険防止のためやむを得ない場合を除き急ブレーキをかけてはならないとされており、被追突者が急ブレーキをかけたという場合には追突の場合でも、被追突者にも30%程度の過失があるとされる場合があります。

そのため、被追突者が急ブレーキをかけたのか否かが争点となってしまうことがあるのです。

7、もらい事故での強い味方は弁護士

(1)示談から後遺障害手続きまでサポート

既に述べたとおり、もらい事故の場合には自分の加入する保険会社は自分の代わりに相手方と話をしてくれません。

交通事故被害者の方は、自分に生じた損害については適正な損害賠償を求めるべきですが、そのためには後遺障害の申請など専門的なサポートを必要とするものもあります。また、上記6で述べたケース等では、自分の保険会社は契約者(自分)が無過失だと思っているために間にはいってくれないが、相手方からはこちらにも過失があると言われていて賠償金を支払ってくれない、ということもあります。

そこで、被害者の方の強い味方になれるのが、弁護士です。

弁護士は、適正な損害を算出し、裁判所基準での示談交渉が可能です。また、後遺障害の申請においては、適切な等級を獲得するようつとめます。
治療に専念したい被害者の方には、強い味方になることでしょう。

(2)もらい事故に備えて!事前の対策法

もっとも、弁護士に依頼すれば当然弁護士費用を支払わなければなりません。場合によっては相手方に請求する金額より弁護士費用の方が高くなってしまい、費用倒れになってしまうこともあるでしょう。

その場合には、弁護士にも相談できず、自分の保険会社も助けてくれないので、自分で解決するしかありません。

このような状況になってしまうことを避けるために、事前に検討すべきなのは弁護士費用特約の加入です。

弁護士費用特約に加入していれば、弁護士費用の全部または一部を保険会社が負担してくれるため、弁護士費用の負担の心配なく弁護士にご依頼いただけます。

なお、一般的に事故に遭ってから弁護士費用特約に加入しても、加入前に発生した事故については弁護士費用特約を使うことができないとされていますので、事前の対策(加入)が必要です。

まとめ

今回は、もらい事故についてご説明しました。

この記事が少しでも多くの被害者又は被害者の関係者の方のためになればと願っています。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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