国民年金保険料の免除・猶予制度について弁護士が解説

国民年金 免除

国民年金保険料の免除や猶予制度があるのを知らない人も多いのではないでしょうか。

2021年8月現在、国民年金保険料金は月額1万6千円を超えます(国民年金の保険料は、毎年度見直しがおこなわれます)。決して安い金額ではありません。

学生なのに、失業中なのに、産前・産後の期間なのに、、、どうしても支払わなければならないの?

そんなことはありません!

今回は、

  • 国民年金保険料の免除と猶予の制度

について、弁護士がわかりやすく解説します。
皆様のご心配にしっかりお答えできれば幸いです。

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1、国民年金の免除方法の前に|国民年金は誰が加入するの?

国民年金保険料の免除・猶予制度〜社会保険料は無理なく支払おう!

国民年金は、20歳以上の全ての成人に加入の義務があります。

ただ、保険料を支払っているのは、サラリーマンとその扶養者を除いた方。

つまり、

  • 20歳以上の学生の方
  • 社会人のフリーランスの方
  • 自営業の方
  • フリーターの方
  • 無職の方

などです(国民年金の第1号被保険者(国民年金法第7条、第88条))。

というのも、いわゆるサラリーマンは厚生年金保険に加入するからです(国民年金の第2号被保険者)。
厚生年金保険が適用されている事業所に勤めれば自動的に国民年金に加入するのですが、国民年金保険料は、厚生年金保険が負担しているという仕組みになっているのです。

なお、厚生年金加入者に扶養されている方も国民年金の第3号被保険者として、ご自分では国民年金保険料を納める必要はありません。
結局、第2号被保険者は給与から天引きされ、第3号被保険者は保険料納付義務がないため、第1号被保険者のみが自ら支払う者であるということになります。

2、国民年金保険料の免除・猶予の制度

国民年金保険料の免除・猶予制度〜社会保険料は無理なく支払おう!

ではさっそく、国民年金保険料の免除と猶予の制度を具体的にみていきましょう。

(1)経済的に保険料が納められない方に「申請免除」制度

収入が少ないことから保険料を納めることが難しいとき、保険料の全額または一部が免除されるという制度があります。

所得によって「全額免除」か「一部免除」のいずれかが認められます。

もっとも、免除を受けることによって、その分、将来の老齢基礎年金額に影響が出ます。
(障害基礎年金・遺族年金については年金額に影響しません。満額支払われます。この点は、他の免除・猶予制度も同様です。)

①免除の要件と審査手続き

免除は、本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定額以下の場合や、失業したなどという場合に認められます(失業については後述(6)で解説しています)。

審査の際には、本人、配偶者、世帯主(親など他に世帯主がいる場合)のなかで最も所得が高い人の所得が審査の対象となります。

ご本人から申請書を提出し、承認されると、保険料の納付が免除になります。

なお、継続的に免除制度の適用を受けるためには、毎年、免除申請の手続きをする必要があります。

②年金額への影響(自己負担相当額の減額)

国民年金は費用の半額が国庫負担になっています。

保険料免除期間があると、その期間の免除分に応じて老齢基礎年金の自己負担に相当する額が減らされることになります。

下の表をご覧ください。

なお、全体の加入期間の内、一部期間のみ免除を受けた場合は、該当期間のみが減額の対象となります。
例えば、

  • 30年間は全額を納付
  • 8年間全額免除
  • 2年間半額免除

という方の場合、30年分は全額支給、8年分は半額支給 2年分は8分の6支給、となり、この合計で計算します(後述2、で計算例を示しています)。

免除の要件と年金額への影響】

種類

免除の要件

(前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内:

金額の目安は次表を参照ください)

年金額への影響

全額免除

(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円

保険料を全額納付した場合の年金額の2分の1

(国庫負担分である2分の1だけ支給される)

4分の3免除

78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等

同8分の5

(1/2+1/2×1/4:自分が負担すべき保険料の4分の1だけ支払っているので、その分を支給する、という考え方。以下同様です)

半額免除

118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等

同8分の6

4分の1免除

158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等

同8分の7

納付猶予制度

(扶養親族等の数+1)×35万円+22万円

支給されない

【免除の要件となる金額の目安:社会保険料控除額を29万円と仮定したもの】

免除の種類

単身世帯

2人世帯
(夫婦)

4人世帯
(夫婦+子ども2人)

全額免除

57万円

92万円

162万円

4分の3免除

107万円

145万円

261万円

半額免除

147万円

185万円

301万円

4分の1免除

187万円

225万円

341万円

つまり、たとえば4人世帯(夫婦+子ども2人)なら、前年所得が162万円以下なら国民年金保険料は全額免除、261万円以下なら4分の3免除、301万円以下半額免除、341万円以下なら4分の1免除される(社会保険料控除額を29万円としたケース)、ということです。

(2)50歳未満の方に「納付猶予」制度

保険料を納めるのが難しい50歳未満の方について、保険料を一定期間猶予する制度です。

要件や手続きは次の通りです。

①猶予の要件と審査手続き

猶予の対象となるのは50歳未満の方が対象です。
(学生は対象外で次項(3)の「学生納付特例」が適用されます。)

審査手続きとして、申請には、本人(結婚している場合は配偶者を含む)の前年所得などの審査があります。

前年所得の審査の基準は(1)の申請免除と同じです。

ただし、同居する世帯主(親)の所得は問いません。

②年金額への影響(納付猶予期間分の減額)

納付猶予の期間は、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金を受け取るために必要な受給資格期間としてはカウントされますが、老齢基礎年金額の受給額はその分減額となります。

後で追納すれば受給額に反映されます。

(3)20歳以上の学生に「学生納付特例」制度(ガクトク)

20歳以上の国民は国民年金保険料の納付義務がありますが、学生期間について保険料の納付を猶予し、社会人になってから納めることができる、という制度です。

①猶予の対象者と審査手続き

猶予の対象となるのは、学校教育法に定める、大学・大学院・短大・高等学校・専門学校などに1年以上通っている20歳以上の学生です。

*修業年数が1 年以上の課程に在籍している方に限られます。

審査手続きとして、アルバイトなどで得た前年の所得基準などの審査があります。

世帯主(親)、配偶者の所得は関係しません。

ご自分の所得だけで判定されます。

②年金額への影響(納付猶予期間分の減額)

ガクトクは学生のときに国民年金保険料の納付を猶予し、社会人になってから納める制度です。

猶予された分をちゃんと納めれば年金額には影響しませんが、納付していないとその分の年金額が減額されます。

(4)障害基礎年金や生活保護を受けている方に「法定免除」制度

障害基礎年金、障害厚生(共済)年金の1級・2級の受給権者、生活保護法による生活扶助を受けている方等は保険料が免除されます。

これは法定による免除です。

すなわち法律の定めにより、要件に該当さえすれば当然に保険料が免除されるものです。

これに対して、前述(1)から(3)は「申請免除」であり、要件に該当していても、本人が申請をしない限り免除が受けられません(別の言いかたをすれば、(1)から(3)の「申請免除」は、免除を受けるかどうかが本人の意思に任されている、と考えてもよいでしょう)。

免除対象者は次の通りです。

①生活保護の生活扶助を受けている方

生活保護を受け始めた日の含む月の前月の保険料から免除となります。

②障害基礎年金ならびに被用者年金の障害年金(2級以上)を受けている方

認定された日を含む月の前月の保険料から免除となります。

障害を負ったのが3年くらい前で、最近になってから障害年金が受給できると気が付いて裁定請求をする、といったことはよくあると思います。

そういう場合には、障害を負ったと認定されたときまでさかのぼって保険料が免除され、還付されることになります。

障害年金の手続きをしているときに、年金事務所などから法定免除についても案内されますので、それに基づいて手続きしてください。

(5)産前産後期間の免除制度(2019年4月より)

2019年4月から始まった制度です。

①免除の対象者と審査手続き

出産予定日又は出産日が属する月の前月から4か月間(以下「産前産後期間」といいます。)の国民年金保険料が免除されます。

多胎妊娠の場合は、出産予定日又は出産日が属する月の3か月前から6か月間の国民年金保険料が免除されます。

出産予定日の6か月前から届出可能です。

出産後の届け出も可能ですが、早めの届けをお勧めします。

国民年金被保険者関係届書(申出書)に該当項目を記載して提出します。

所得審査などはありません。

③年金額への影響(年金額は減らない)

産前産後期間の免除は、年金額を計算するときに免除期間も保険料を納付したものとして老齢基礎年金の受給額に反映されます。

(注)保険料を前納している場合は?

すでに保険料を前納している場合は、産前産後期間の保険料が還付されます。

(6)失業や事業所廃止の場合の特例

失業や事業所が廃止された場合も、申請することにより、保険料の納付が免除となったり、保険料の納付が猶予となる場合があります。

①免除の対象者と審査手続き

失業した人や事業所の廃止で職を失った人が対象です。

免除の要件(全額か一部かなど)の審査については、配偶者、世帯主の中で最も所得が高い人の所得で判定します。

②年金額への影響(自己負担相当額の減額)

(1)の「申請免除」と同様に、老齢基礎年金について自己負担相当額が減額となります。

以上を表でまとめました。

「(1)経済的事情」での申請免除と「(6)失業など」での申請免除は、表の中では「(1)申請免除」としてまとめています。

要件

年金受給資格期間への算入・年金額の減額

老齢基礎年金

障害基礎年金・遺族年金

受給資格期間

年金額への影響

受給資格期間

年金額への影響

納付

(原則の取り扱い)

算入

納付期間に応じた金額

算入

満額

(1)申請免除

所得基準

(本人、配偶者、世帯主の中で最も所得が高い人の所得で判定)

算入

減額あり

算入

満額

(影響なし:

免除期間分も減額なし)

失業・廃業(配偶者、世帯主の中で最も所得が高い人の所得で判定。本人の所得は考慮しない。)

算入

減額あり

算入

同上

(2)納付猶予

50歳未満

所得基準(本人または配偶者)

算入

減額あり

算入

同上

(3)学生納付特例

学生

(本人の所得基準要件あり)

算入

減額あり

算入

同上

(4)法定免除

障害年金受給

生活保護等

算入

影響なし(納付と法定免除期間に応じた金額)

算入

同上

(5)産前産後期間の免除制度

出産予定日又は出産日が属する月の前月から4か月間(多胎妊娠の場合はさらに長期)

算入

影響なし(納付と免除期間に応じた金額)

算入

同上

未納

不算入

(受給資格が得られないことも)

減額

(受給資格が得られないことも)

不算入

(受給資格が得られないことも)

減額

(受給資格が得られないことも)

3、国民年金保険料の免除や猶予を受けたらどうなるの?(「年金減額」と「追納制度」)

国民年金保険料の免除・猶予制度〜社会保険料は無理なく支払おう!

(1)免除や猶予の期間に応じて老齢基礎年金額が低額となる

保険料の免除や猶予の承認を受けた期間があると、保険料を全額納付した場合と比べて老齢基礎年金の年金額が低額となります(なお、障害基礎年金、遺族基礎年金については、免除等の期間があっても減額はされず、満額の年金が受けられます)。

【1年で受け取れる年金額のめやす (令和元年度の金額)】

老齢基礎年金

  • 40年納付した場合

 780,100円

  • 40年全額免除となった場合(国庫負担2分の1で算出した場合)

 780,100×1/2=390,100円

  • 30年納付し、8年間全額免除、2年間半額免除の場合

780,100×30/40+780,100×8/40×1/2+780,100×2/40×6/8

 =585,075+78,010+29,253=692,338円

(参考)

障害基礎年金(免除期間があっても満額支給されます)

 1級 975,125円  2級 780,100円

遺族基礎年金(免除期間があっても満額支給されます)

 子(1人)がある配偶者 1,004,600円

(2)保険料の追納が認められる

免除等の承認を受けた期間の保険料は、後から納付(追納)することができます。

追納により一定の範囲内で、保険料を継続的に納めていたのと同様の取り扱いを受けることができます。

すなわち、老齢基礎年金の年金額を増やすことができます。

また、社会保険料控除により、所得税・住民税が軽減されます。

経済的な余裕ができれば追納を行うことをお勧めします。

①追納ができる期間

  • 追納が承認された月の前10年以内の免除等期間に限られています(例えば、平成31年(2019年)4月分は令和11年(2029年)4月末まで。
  • 承認等をされた期間のうち、原則古い期間から納付されることになります。
  • 保険料の免除・納付猶予を受けた期間の翌年度から起算して、3年度目以降に追納する場合には、経過期間に応じた加算額が上乗せされます。早目の追納をお勧めします。

(参考)日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」

②追納の手続き

申請用紙(A4版)は、国民年金保険料に関する手続きからダウンロードできます。

「ねんきんネット」の画面上でも追納申込書を作成することができます。

年金事務所で申し込み、厚生労働大臣の承認を受けたうえで、納付書が交付されます。

この納付書で支払います(口座振替ならびにクレジット納付はできません)。

4、国民年金保険料各種申請手続きの方法

国民年金保険料の免除・猶予制度〜社会保険料は無理なく支払おう!

(1)申請手続きの概要(法定免除については次項(2)を参照)

次の通りです。

①申請先

住民登録をしている市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口に申請書を提出します。

郵送での提出も可能です。

②申請書類

申請用紙(A4版)は、国民年金保険料に関する手続きからダウンロードできます。([提出用]のみご提出ください。)

③添付書類(●必ず必要なもの、○場合によって必要なもの)

●年金手帳 または 基礎年金番号通知書

○前年(または前々年)所得を証明する書類((原則としては不要ですが、必要になる場合もあります。)

○所得の申立書(所得についての税の申告を行っていない場合)

○雇用保険受給資格者証の写しまたは雇用保険被保険者離職票等の写し(雇用保険の被保険者であった方が失業等による申請を行う場合)

④失業や事業所廃止の場合の取り扱い

失業や事業所廃止等により保険料の免除(特例免除)を受ける場合には、次のような書類も必要になります。

1.雇用保険の被保険者であった方

雇用保険受給資格者証の写しまたは雇用保険被保険者離職票等の写し

2.事業の廃止(廃業)または休止の届出を行っている方

  公的機関が交付する証明書等であって失業の事実が確認できる書類

(詳細については、日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」の「3.失業等による特例免除」を参照してください。)

(2)法定免除の手続き(日本年金機構「国民年金保険料の法定免除制度」

「国民年金保険料免除事由(該当・消滅)届」を市区役所または町村役場に提出します。

法定免除に該当しなくなった場合も「国民年金保険料免除事由(該当・消滅)届」を提出することになります。

なお、この期間についての老齢基礎年金の額は、前述「1、【免除や猶予の制度の一覧表】」の通り1/2で計算されます。

その期間に係る年金額を満額にしたい場合は、追納を行うこともできます。

前述の通り、障害年金等の裁定請求において、法定免除該当とわかることがあります。

年金事務所などの案内で手続きしますが、手続きの案内が漏れていたり、手続を忘れてしまっているといったこともあり得ます。

この場合は、わかってから手続きすれば過去にさかのぼって保険料免除による還付が受けられます。

請求による免除ではないので「時効」で権利がなくなってしまう等と心配する必要はありません。

5、国民年金保険料を未納のままにしているとどうなるか?

国民年金保険料の免除・猶予制度〜社会保険料は無理なく支払おう!

(1)未納のままでは年金が受けられないことがある

障害や死亡といった不慮の事態が発生した場合に、障害基礎年金・遺族基礎年金が受けられない可能性があります。

また、老齢基礎年金を将来的に受けられない場合があります。

特に、次のような場合に障害基礎年金や遺族基礎年金が支給されません。

よくある事態ですので特に注意が必要です。

①障害の場合は初診日(※)、死亡の場合は死亡日の月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が3分の2未満の場合

②初診日または死亡日の月の前々月までの1年間に保険料の未納がある場合

(※)初診日は、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日になります。

(2)強制執行される可能性もある

未納のままで放置していると、日本年金機構から「特別催告状」が送られてきて、場合によっては強制執行を受ける可能性もあります。

次の関連記事をご覧ください。

6、任意加入をされている方は、国民年金保険料免除猶予制度は利用できない

国民年金保険料の免除・猶予制度〜社会保険料は無理なく支払おう!

以上の免除・猶予制度は、任意加入をされている方には適用されません。

なお、任意加入とは、60歳までに老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合や、40年の納付済期間がないため老齢基礎年金を満額受給できない場合などで年金額の増額を希望するときに、60歳以降でも国民年金に任意加入できる、という制度です(厚生年金保険、共済組合等加入者を除く)。

7、国民年金保険料免除・猶予制度について困ったときは弁護士に相談

国民年金保険料の免除・猶予制度〜社会保険料は無理なく支払おう!

もし、このような社会保険料や税金を滞納し、借金も抱えているような場合はどうぞ弁護士にご相談ください。

借金は債務整理を検討することもできますし、公的支払いを今後どうしていくかのアドバイスもさせていただきます。

まとめ

「国民年金の保険料」というのは、その後の年金の受給資格や年金額にも影響する問題です。

「免除・猶予」という面だけで安易に考えると、前述のように様々な落とし穴があります。

しかし逆に、経済状態その他の様々な問題を考慮して、きめ細かな免除・猶予制度が整っていることもおわかりいただけたのではないでしょうか。

免除・猶予が必要なときには、専門の弁護士のサポートをしっかり受けて、適切な解決を図っていただくことを願っております。

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