子供に負担をかける親の借金問題|解決策と返済義務のあるケース

親の借金について、子供が返済しなければならない場合はあるのでしょうか?

法的には、親の借金は親自身の問題であり、子供が返済する必要はありませんが、例外的なケースも存在し、また、親を見捨てることはできません。

今回は、子供に支払い義務が生じる場合や親の借金を回避する方法、親の借金を調査する方法などを詳しく紹介します。

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1、親の借金が子供に返済義務のある場合

まずは、親の借金について子供に返済義務があるのか、あるとすればどのような場合かについて、正確に確認しておきましょう。

(1)原則として返済義務はないが例外がある

そもそも借金とは、「金銭消費貸借契約」に基づいてお金を借り、返済義務を負うことです。
返済義務は契約を結んだ借り主自身にあり、たとえ家族や親族であっても、契約の当事者ではない子供に返済義務はありません。

親の借金に関しては、子供に一切法的な責任はないのが原則です。

しかし、以下の3つのケースでは例外的に子供が返済義務を負うことになります。

(2)親が借金を残したまま亡くなった場合

親が亡くなると、子供は親の財産を相続します。

相続とは、亡くなった方に属していた一切の権利義務を承継することです。
権利だけではなく義務も承継しますので、借金の返済義務も承継することになります。

つまり、親が借金を残したまま亡くなった場合は、その借金を子供が相続し、返済義務を負ってしまいます

(3)子供が連帯保証人になっていた場合

借金の連帯保証人は、借り主本人と同一の返済義務を負っています(民法第454条)。

そのため、子供が親の借金の連帯保証人になっている場合は、子供にも返済義務があります

実際には親が返済を遅滞しない限り、連帯保証人が債権者から請求を受けることはありませんが、法律的には借り主と「同一の返済義務」を負っていることに注意が必要です。

したがって、債権者から請求を受けた場合には、「まず親に請求してください」「先に親の財産を差し押さえてください」と言って返済を拒むことはできません。

(4)親が子供の名義で借りた場合

実際に借金をしたのが親であっても、子供の名義で借りた場合は、法律上は子供に返済義務が生じる可能性が高いです。

例えば、親から頼まれて名義を貸した場合には、その借金は法律上は子供の借金そのものとなります。

また、親が子供の印鑑などを勝手に持ち出して無断で借金した場合でも、親と同居していて、印鑑などを容易に持ち出せるところに保管していた場合には、やはり子供が返済義務を負うと判断されることが多いでしょう。

ただし、名義を使用されることについて子供に落ち度が一切ない場合は返済義務を負わされるわけではありません。例えば、印鑑などを厳重に管理していたにもかかわらず、親が盗み出して借金した場合は「無権代理」となり、子供が追認しない限り、子どもが返済義務を負うことはありません(民法第113条)。

ただし、親に代理権がなかったことは子供が証明しなければならないため、債権者から請求された場合には裁判に発展する可能性が高いといえます。
トラブルを回避するためには、日頃から十分に注意しておくことが大切です。

2、返済義務がないのに返済を求められたときの対処方法

親の借金について、子供に返済義務がないにもかかわらず、債権者から返済を求められることもあるでしょう。

ここでは、その場合の対処方法をご紹介します。

(1)義務がなければ拒絶できる

当然ですが、返済義務がない以上は支払いを拒絶できます

たとえ家族であっても返済義務のない者に対して貸金業者が取り立て行為を行うことは、貸金業法等で禁止されています。

もし、消費者金融等から請求されて、拒絶しても執拗に要求された場合は、警察や弁護士に相談しましょう。

なお、悪質な業者や個人間の借金の場合、子供には親の扶養義務があることから、これを盾に、「親が困っているのだから助けるのは当然」などともっともらしいことを言って支払いを迫られることもあるかもしれません。

しかし、借金の返済は扶養義務の範囲ではありませんから、支払う必要がありません。

(2)任意に肩代わりするのはOK

とはいえ、親が貸金業者等から督促されているのをみかねて、とりあえず返済を肩代わりしてあげたいと思うこともあるでしょう。

子供の方から任意に親の借金を肩代わりして返済することは禁止されていませんので、自由にできます。

この場合、法律的には「代位弁済」が成立し、債権者が有していた一切の権利を引き継ぐことになります(民法第501条)。
つまり、債権者に支払った金額について、親に対して返還を請求できるということです。

とはいえ、お金に困っている親から、金融機関のように取り立てることは実際には難しい(心情的にも難しい)場合が多いと思います。

(3)肩代わりした後に注意すべきこと

肩代わりをしたときに、親が後でその分を払ってくれれば良いのですが、借金を抱えているような場合に、そんな余裕があるとは限りません。

親に家などの資産がある場合には、借金返済の対価として家の名義を親から子に移してもらうのも一つの方法でしょう。

ただし、借金を肩代わりした穴埋めとして財産を移転する場合でも贈与税の対象となることに注意が必要です。

また、親の借金を肩代わりしたことを、将来の相続に反映させることも考えられます。

ただ、相続の際にいきなり肩代わりした借金の件を主張すると相続トラブルが起こりがちなので、肩代わりする際に他の相続人にも事情を話して理解してもらうか、親に遺言書を作成してもらっておいた方がよいでしょう。

3、親が借金を残したまま亡くなったときの対処方法

次に、親が借金を残したまま亡くなってしまったときに子供がやるべきことについて、ご説明します。

(1)原則として親の借金を相続する

親の借金は子供には返済義務はない、といっても、親が亡くなってしまうと、相続が発生し、借金も相続してしまいます

借金を相続すると、当然ですが子供が返済しなければなりません。
相続後に返済を請求される場合、遅延損害金が加算されることも多いので注意が必要です。

なお、借金は法定相続分に従って相続します。

例えば、親が1200万円の借金を負っていて、相続人として子供が3人いる場合、各自が400万円(1200万円×3分の1)ずつの借金を相続することになります。

ここで注意しなければならないのは、相続人の間で、「相続人Aが財産も借金も全て相続する」という遺産分割をしたとしても、債権者との間では何の効力もないということです。

相続人間でそのような合意をしても、債権者は、全ての相続人に、法定相続分に従って分割した金額の請求ができるのです。

このような事態を避けるためには、「相続人Aが債務を全て相続する」ということについて、あらかじめ債権者と交渉して同意を得ておく必要があるといえます。

(2)相続放棄または限定承認をすれば借金を回避できる

親の借金の相続を回避するためには、2つの方法があります。それが相続放棄と限定承認です。

①相続放棄

相続放棄は、その名のとおり、相続自体を放棄し、相続人でなくなることです(民法第939条)。

これが認められると、遺産(プラスの財産)も一切相続できないかわりに、借金(マイナスの財産)も一切相続しないことになるので、親の借金を返済する必要はなくなります。

相続放棄をするには、相続開始後3ヶ月以内に家庭裁判所に申述をする必要があります。
申述の手続きは特に難しいものではないので、多くの場合は弁護士に依頼しなくても可能です。

プラスの遺産よりも借金が明らかに多い時や、そもそも遺産が無いような場合は、相続放棄を選択するのが良いといえるでしょう。

②限定承認

親に借金があっても、プラスの財産の方が多いのであれば相続したいところでしょう。
また、相続が開始した段階ではいくら借金があるかわからず、相続放棄した方がよいのかについてすぐには判断できない場合もあると思います。

そのような場合には、家庭裁判所に限定承認の手続きを申述することで、プラスの財産の範囲内でのみ借金などマイナスの財産も相続するという方法を選ぶことができます(民法第922条)。

例えば、プラスの財産が500万円あって、借金の額がわからない場合に、限定承認の申述をするとします。

調査の結果、借金が200万円しかなければ200万円の借金もあわせて相続することになり、借金が700万円あることが判明したときは、借金は500万円しか相続しないという結果になります。

限定承認は相続人にとってメリットの大きい制度ですが、相続人全員が共同して手続しなければならない(民法第923条)など、使い勝手が悪いことから、実務上はあまり活用されていないのが実情です。

(3)相続放棄する際の注意点

相続放棄にはいくつかの注意点があります。

まず、相続放棄は、原則として、被相続人が死亡してから3か月以内に、家庭裁判所で手続きを行わなければならないという点です。

なお、例外的に、被相続人が死亡して3か月経過した後に初めて借金の存在を知った場合には相続放棄ができる場合があるので、もし3か月経過した後に相続放棄を検討する場合は、弁護士等の専門家に相談するのがよいでしょう。

また、相続放棄は、相続人から外れるという手続きですから、被相続人の財産を一切相続することができなくなる点にも注意が必要です。

逆に、被相続人が亡くなった後に、被相続人の財産を少しでも相続してしまうと相続放棄が認められなくなる可能性があります。

例えば、親の死後に親の銀行口座からお金をおろして使ったり、亡き親名義の不動産の名義を子供に移したりしたときは、その時点で相続を承認したことになり、相続放棄はできなくなってしまいます。

また、親の死後に親の借金を一部でも返済したり、返済の猶予を求めた場合も、「相続を承認した」とみなされて相続放棄できなくなることがあるので注意が必要です。

なお、相続放棄をすると、借金も相続しない代わりに、遺産も相続できないことになりますが、生命保険金は相続放棄しても受け取れる場合が多いので、約款等で確認するか保険会社に確認するのを忘れないようにしましょう。

4、親の借金の連帯保証人になっているときの対処方法

子供が親の借金の保証人(連帯保証人)になっているときは、相続が発生するかどうかにかかわらず、親が借金を支払えなくなったら、これを支払う義務があります。

ですから、子供が親の借金の保証人(連帯保証人)になっている場合は、親がちゃんと返済できているかどうかを、常に把握しておくことが大事です。

もし返済が遅れたり、返済が困難になったりしている場合は、早い段階で債務整理等の対策を講じることを検討する必要があります。

5、親の借金が子ども名義である時の対処法

次に、親が子供の名義で借金をした場合に子供がやるべきことについてご説明します。

(1)支払いを拒絶できるケース

上記「1(4)」でご説明したように、無権代理によって親が借金した場合、子供は支払いを拒絶できます。

その他、親が子供の印鑑や身分証明書などを偽造して借金したような場合にも、子供は支払いの拒絶が可能です。

悪質な業者や法律を理解していない個人が執拗に請求してくる場合は、警察や弁護士に相談しましょう。

(2)支払いを拒絶できないときは債務整理等を検討

一方で、親に名義を貸すことを子供が承諾していた場合や、表見代理が成立する場合には、子供に返済義務が生じます。この場合は、返済可能な金額であれば、納得できなくても返済するしかありません。

返済するのが難しい金額であれば、債権者に事情を話して毎月の返済額を減らしてもらうことも考えられます。それでも返済が難しい場合は、任意整理や個人再生、自己破産といった債務整理を検討するしかないでしょう。

この場合、返済義務は親にはなく、子供にあるのですから、子供自身が債務整理をする必要があることに注意が必要です。

6、高齢の親が借金の返済に悩んでいたら

高齢の親が借金の返済に悩んでいる場合、子供に返済義務はないとはいっても、見捨てるわけにはいかないことが多いでしょう。

現実に親が苦しんでいる以上、肩代わりや生活費などの支援を頼まれるでしょうから、子供にとっても経済的な不利益が続くことになってしまいます。

このような不利益を回避するためには、親自身に債務整理を検討してもらうことがおすすめです。

(1)高齢の親におすすめの債務整理方法

高齢で収入が年金のみの方であれば、多くの場合は自己破産が適しています。

もっとも、持ち家などの財産があったり、子供が連帯保証人になっていたりして悩ましい場合もあるでしょう。

その場合は、任意整理や個人再生を選択して、減縮された借金の返済に子供が協力することも考えられます。

ただ、親の持ち家を残しても、子供が相続後に使う予定がないような場合には、いっそのこと高齢の親には自己破産をしてもらった方が、借金問題はスムーズに解決できます。

この場合、親の転居費用や当座の生活費などについて、必要に応じて子供が支援してあげるとよいでしょう。

(2)親が借金の詳細を教えてくれないときの対処方法

親は借金をしていても、「子供に迷惑はかけられない」と考えている場合が多く、返済に苦しんでいてもなかなか子供に相談したり、打ち明けたりしないという傾向にあると思います。

その結果、当初の借金よりも件数が増えたり、金利の高い業者から借りたり、遅延損害金が発生したりと、解決が困難な状態に陥ってはじめて発覚するということも少なくありません。

そうならないように、子供としては、早い段階で親の借金の存在を把握しておいた方が良いと思います。

親の借金を調べるには、信用情報機関から情報を取り寄せることが一番確実な方法です。

銀行からの借入れであればKSCに、消費者金融やクレジットカードを利用した借入れであればCICやJICCという機関に情報の開示請求を行うことで調べることが可能です。

なお、親が存命中は親の同意がなければこれらの調査はできないことにご注意ください。

また、これらの調査でわかるのは親が直接借り入れている借金のみであり、親が誰かの保証人(連帯保証人)になっている場合の保証の内容までは判明しないことにも注意が必要です。

ですから、可能な限り、生前に親から誰かの保証人(連帯保証人)になっていないかどうかを聞いておく必要があります。

7、親の借金に関してよくある疑問

その他にも、親の借金に関して様々な疑問があると思いますので、ここでまとめてお答えします。

(1)親の住宅ローンはどうなる?

親が住宅ローンを残して亡くなった場合は、相続放棄をしない限り、子供が残高を相続してしまいます。

ただ、親が団体信用生命保険(団信)に加入していれば、保険からローンの残高が支払われるので、子供がローンを相続することはありません

(2)離婚した親の借金はどうなる?

父親と母親が離婚し、疎遠となった父親に借金があるような場合にも注意が必要です。
この場合、母親は離婚によって父親と他人となるので、父親の借金とは無関係になります。

しかし、離婚した父親でも子供との親子関係は切れませんので、ここまでお話ししてきたことがそのまま当てはまります

特に注意が必要なのは、離婚した親が知らないうちに借金を残したまま亡くなった場合です。
この場合も、相続放棄をしなければ借金を相続してしまいます

ただ、親が亡くなってから3ヶ月以上が経過してから事実を知ることも多くあります。
亡くなった親に借金があることを知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄は可能です。

しかし、申述の手続きが複雑になりますので、この場合は弁護士に相談した方がよいでしょう。

(3)奨学金の連帯保証人である親が亡くなったらどうなる?

ご自身が奨学金を借りる際に連帯保証人になってもらった親が亡くなった場合でも、奨学金の残高を一括で請求されることはありませんので、ご安心ください。

ただし、通常は新たな連帯保証人を立てることを求められますので、指示に従って手続きを行いましょう。

(4)会社経営の親に借金があるときに注意すべきこととは?

会社の経営者には事業上の借金があることが多いので、親が会社経営をしている場合は借金について十分な調査を行う必要があります。

親の事業を継ぐ場合には、基本的に財産とともに借金も継ぐ必要があります。

では、会社の経営状況を調べて、借金過多のため返済が難しいと思われる場合は、どうしたら良いのでしょうか。

借金があっても会社にある程度の収益がある場合は、赤字の部門や採算性の低い部門を閉鎖するなどして事業を縮小したうえで経営していくことも考えられます。

あるいは、M&Aを検討するのもよいでしょう。M&Aとは、企業の「合併&買収」のことです。
つまり、親の会社を関連会社などに売却したり、吸収合併してもらうことを検討するのです。

条件次第では赤字の会社でも売却することで利益が出ることもありますし、合併後の会社で働くこともできるでしょう。

致し方なく廃業する場合もあるかもしれません。その場合は、親が存命中なら債務整理、親が亡くなった場合は相続放棄を検討しましょう。

(5)親にこれ以上の借金をさせない方法はある?

親に借金癖がある場合、子供としては「これ以上は借金をさせたくない」と思うことでしょう。
その場合は、「貸付自粛制度」を利用するとよいでしょう。

貸付自粛制度とは、日本貸金業協会が実施している制度で、同協会に申告すれば個人信用情報機関に貸付自粛を申告したことが登録されるため、その後は借金ができなくなると言うものです。

申告は無料で、ネットからでも簡単にできますが、本人が申告することが必要です。
したがって、この制度を利用するためには親とよく話し合いましょう。

8、親の借金で困ったときは弁護士へ相談を

親に借金がある場合は、子供に返済義務があるかどうか、債務整理や相続放棄をすべきかどうかなどを判断するために、専門的な法律知識が必要となります。

判断を誤ると不本意にも借金を承継してしまうおそれがありますし、悩んでいる間に借金が膨れあがる可能性もあります。

このような事態を回避するためには、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士から専門的なアドバイスを受けることで状況を正確に把握し、最適な解決策をとることができるでしょう。

債務整理や相続放棄が必要となった場合も、弁護士に依頼すれば複雑な手続きをすべて任せることができるので安心です。

まとめ

借金問題は、早い段階で相談した方が早く解決できる場合が多いと言えます。

親に借金癖がある場合はもちろん、真面目な性格であっても、「借りたお金は返さなければならない」「子供に迷惑をかけたくない」という気持ちから、何とかしようとしてかえって状況が悪化してしまう傾向にあります。
その結果、どうしようもない状態になるまで発覚しないことが多いのです。

ですから、子供としては、そのような親の気持ちを汲んだうえで、本当に子供に迷惑をかけないためには、早い段階での対処が必要であることを親子でしっかり認識し、早い段階で弁護士等の専門家に相談することが大切です。

そうすることで、単に、任意整理や個人再生や自己破産等の法的整理を選択するだけでなく、もし相続が発生したときに、放棄をするのか、相続するのかという先のことも踏まえた対応策を考えることができるからです。

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