自己破産手続きには「同時廃止」という用語が一般的に知られていますが、「異時廃止」という言葉についてはあまり耳にすることはありませんよね。しかし、「異時廃止」には興味深い意味が込められています。
タイムトラベルの概念に関連した「異時廃止」は、過去への干渉によって未来が変化し、結果として存在自体が消滅してしまう逆説的な現象を指します。これに対して、「同時廃止」とはどのような関係があるのでしょうか。個人の債務整理手続きに「異時廃止」が及ぼす影響はあるのでしょうか。
本記事では、「異時廃止」の謎に迫りながら、自己破産手続きにおける「同時廃止」との関係を明らかにします。さらに、タイムトラベルを連想させるこの複雑な現象が、個人の経済再生にどのような影響を与えるのかについても解説していきます。
目次
1、「異時廃止」とは?破産手続きの終わり方についての種類
まず、異時廃止という言葉がどのような意味なのか、関連する語句との関係も含めて確認しましょう。
(1)破産手続きはどのようなときに終了するか
自己破産手続きはどのように終了するかを確認しましょう。
弁護士や司法書士がする一般的な説明として、「破産手続きとは借金の支払い義務を免除する手続きである」と説明されます。
しかし、破産手続きは、本来、残り少なくなってしまった財産を債権額に応じて「平等に配当する手続き」をいい、個人に関しては別途借金を免責する「免責手続き」が別立てになっています。
よって、破産手続きの終了は、基本的には配当をし終わった段階で終了です。配当する財産がない場合にはその時点で終了します。
(2)同時廃止とは
同時廃止とは、破産法216条に規定されているもので、資産がなくて手続き費用をまかなえない場合に、破産手続き開始と同時に手続きの終了(廃止)の決定をするという手続です。
自己破産の申し立ては、管轄する地域の地方裁判所に申し立てをして行います。
この申し立て時に、申立書と一緒に資産や負債などについて説明する書類・証拠になる書類(疎明資料)が提出されます。
この資料から明らかに配当をすることができないような場合であり、かつ免責不許可事由がないときは、同時廃止で処理がされます。
簡易迅速な手続きで、管財人も選任されないのが同時廃止の特徴です。
(3)異時廃止とは
同時廃止は自己破産手続き開始決定と同時、という意味ですので、異時廃止はこれと異なる自己破産手続き開始決定とは異なる時期に手続きを終了(廃止)するものです。
同時廃止で処理をされない場合には破産管財人がつけられ、債務の額が一定額の場合の少額管財か、通常管財(特定管財)として処理されます。
調査の結果、
- 資産がなく手続きの費用をまかなえない
- 免責不許可事由があるが裁量免責相当である
といった場合に、その時点で異時廃止として手続きは終了することになります(破産法217条)。
(4)異時廃止と少額管財との関係
ここで疑問となるのが、自己破産についての情報を調べていると、同時廃止と少額管財があるという説明がされることが多いのですが、異時廃止と少額管財の関係はどうなっているのでしょうか。
まず、同時廃止ではない場合には、異時廃止として手続きが終了するか、配当が可能な場合には配当がされて終了することになります。
どちらの場合でも管財人がつくのですが、管財人がつく場合としては、少額管財と通常管財(特定管財)の二種類があります。
少額管財となった結果、
- 手続き費用がない場合には異時廃止
- 配当をすることができる場合には配当をする(少額管財)
ということになります。
(5)どのくらいの件数が同時廃止・異時廃止となっているのか
配当によらずに破産手続きを終了させる場合には、同時廃止と異時廃止の2種類があることになるのですが、どのくらいの件数が同時廃止・異時廃止となっているのでしょうか。
裁判所での手続きについては、司法統計という統計が作成されています。
令和元年に破産手続きの終了件数は、自然人・法人あわせて79,318件となっており、配当がされた破産手続きが、自然人・法人合わせて6,585件、破産手続廃止の件数は71,114件です。
配当があった自己破産手続きは、手続き全体の約8%にすぎず、残りの90%以上が廃止されています。
破産手続廃止の件数71,114件のうち、同時廃止が45,971件・異時廃止は25,141件となっており、約35%が異時廃止です。
(6)異時廃止になるか同時廃止になるかはいつ決まるのか
上述したように、破産手続きを申し立てた後、裁判所が同時廃止かどうかを決定します。
そして、同時廃止でなかった場合、管財人が異時廃止か配当かを決定するということになります。
なお、同時廃止にならず、管財人が選任されることになると、20万円~(東京地方裁判所の場合。裁判所により金額が異なります)の予納金の納付が必要です。
つまり、同時廃止で手続きを終えたいと思って申し立てをして、裁判所が同時廃止とすることはできないと判断した場合には、管財人がつきますので、予納金の支払いをする必要があります。
裁判所によって分割での納入も可能とされていますが、額が大きいので、何の準備もなく申し立てをすると、予納金の支払いができなくなるということにもなりかねません。
そのため、弁護士に依頼をした時点で、どちらの手続きになるか想定をして進めることが大切です。
2、異時廃止となる少額管財になると同時廃止と何が違うか
個人の自己破産については、同時廃止か少額管財によって異時廃止となることがほとんどです。
この2つの手続きでどのような違いがあるかを確認してみましょう。
(1)手続きの内容
同時廃止の場合には管財人が選任されない一方で、少額管財になると管財人が選任されます。
どちらの手続きでも裁判所での面談での手続きがあるのですが、少額管財の場合には別途管財人と面接をする手続きがあります。
(2)予納金の要否
管財人が選任されると予納金の納付が必要です。
少額管財の場合には、東京地方裁判所に申し立てをする場合には20万円~の納付をすることになります。
同時廃止の場合の場合には予納金の納付が不要となります。
(3)郵送物の転送の有無
管財人が選任されると、郵送物が一度管財人の事務所に送付され、管財人が中を確認した上で本人に送付されてくるという手続きとなっています。
一度管財人のもとに送られた郵送物は、一定程度たまった時点で本人に送られることになっています。
同居の家族に自己破産手続きを利用することを内緒にしたい場合に、管財人名義で送られてきた郵送物を見てしまう場合には、内緒にすることが難しい可能性が高くなります。
管財人が選任されない同時廃止の場合には、このような措置はありません。
(4)住居移転の制限
破産手続き中は、住居を離れることが制限されます(破産法第37条)。
引っ越しの場合はもちろん、出張や旅行のようなものも(東京地方裁判所の場合には2泊以上のもの)、裁判所の許可を必要とします。
この制限は破産手続き中ですので、破産手続きが開始されると同時に廃止される同時廃止では、この制限はありません。
(5)弁護士費用
自己破産手続きは弁護士に依頼して行います。
そのため、弁護士費用がかかります。
同時廃止の場合には管財人との面接手続きがないのですが、少額管財となる場合には管財人との面接手続きがあるので、どうしても弁護士がやることが増えます。
そのため、少額管財のほうが、かかる弁護士費用が高いことがあります。
3、異時廃止でも同時廃止でも変わらない点は?
異時廃止でも同時廃止でも変わらない点についても確認しましょう。
(1)債務が免責される
異時廃止でも同時廃止でも、個人については債務が基本的には免責されることになります。
仮に配当となった場合も併せて、債務が免責される点については変わりません。
(2)一部の債務は免責されない
税金・養育費・慰謝料の一部など破産法253条に規定されているものについては免責の対象となりません。
異時廃止だから免責の対象が増える・減るということはなく、異時廃止・同時廃止ともに変わりません。
(3)職業制限
破産手続きが開始してから復権するまでの間は、保険募集人・宅建士・警備員など一部の資格や登録を必要とする職業について欠格事由となります。
破産手続きが廃止されても、すぐに復権するわけではないので、どちらの場合にも職業制限があるということになります。
職業制限をすると仕事ができなくなるような場合には、任意整理や個人再生の利用を検討することになります。
(4)官報公告
自己破産手続きを利用する場合には、官報公告がされます。
官報公告とは、法律で公にするように規定しているものについて、国が発行している官報で行うものです。
破産法10条に官報公告が規定されており、異時廃止の場合でも同時廃止の場合でもいずれでも行われます。
(5)ブラックリスト
自己破産に限らず債務整理をしたり、長期間の延滞を行った場合、ブラックリストとなります。
ブラックリストとは信用情報債務整理や延滞の事実が記載された結果、新たな借入れやクレジットカードの作成ができなくなる状態のことをいいます。
異時廃止・同時廃止いずれにしても自己破産を弁護士に依頼して、債権者にその通知が送られた時点でブラックリストとなります。
もっとも、破産せざるを得ない状況であれば既に新たに借入れを行うのは難しいので、あまり気にする必要はないでしょう。
4、異時廃止によらなければ自己破産を利用できないケース
異時廃止によらなければ自己破産を利用できないのはどのようなケースでしょうか。
(1)一定額以上の財産がある
一定額以上の財産がある場合には、同時廃止はできません。
管財人が選任された上で、異時廃止になるか、あるいは配当をするような場合には配当が行われます。
どれくらいの財産があれば同時廃止はできないかは、裁判所によっても運用が異なるので注意しましょう。
東京地方裁判所が管轄の裁判所になる場合には、20万円以上の価値となる財産の有無が目安となります。
(2)免責不許可事由がある
破産法第252条1項に規定されている事情があると、免責許可の決定ができないことになっています。
代表的な例としては、
- 財産を隠匿した(1号)
- 特定の債権者に返済をした(偏頗弁済:3号)
- 借り入れの主な原因がギャンブルや風俗などの遊興である(4号)
といった場合です。
ただし、これらの事由に該当する場合でも、具体的事情に鑑みて、裁判所の裁量で免責をすることができる場合があります。この制度を裁量免責といいます(破産法252条2項)。
裁量免責が可能かどうかを調査する必要があるので、管財人を選任して調査を行い、裁量免責相当となったら異時廃止となります。
(3)複雑な調査が必要である
同時廃止は、配当まわす資産がないことが明らかな場合に行われるものであり、申立書と添付書類から判断をします。
提出した申立書・添付書類から判断した場合に、不明点を申立人に問い合わせ、その説明では判断ができずさらなる調査が必要となるような場合には、同時廃止ではなく管財人が選任されて異時廃止になることがあります。
例としては、預金口座について、銀行通帳のコピーを裁判所によって1年~3年分提出することが求められます。
ここに個人名義の取引がたくさんあるような場合で、その内容について申し立て書類で説明できていない場合には、裁判所は、必ずその内容を明らかにするように問い合わせます。
個人名義の取引がたくさんあるようなケースとしては、インターネットオークションで売買をしているような場合がありますが、個人間の貸し借りを頻繁に行っているような場合や、闇金融からの貸し借りがある場合も同様です。
個人間の貸し借りがある場合には、弁護士に依頼した後に借金をしたと認定されたり、返済をしたような場合には上述した偏波弁済に該当して、免責不許可事由となります。闇金融から借り入れをして返済した場合も同様です。
その内容を適切に説明できなければ、調査の必要ありとして、同時廃止ではなく、少額管財となって調査をした上で異時廃止をする流れになります。
このような、複雑な調査が必要となる場合には、同時廃止は利用できない可能性があります。
(4)本人が申し立てをする
裁判所によっては、同時廃止は弁護士が代理をして申し立てをした場合に限られ、本人が申し立てをした場合には少額管財・通常管財となる場合があります。
(5)司法書士が申し立てをする
司法書士も債務整理を行っていますが、司法書士が自己破産の申し立てをする場合には、申し立て書類の作成代行をするのみで、本人が申し立てをしたのと同じ取り扱いとなります。
そのため、本人が申し立てをした場合と同様に少額管財・通常管財となる場合があります。
5、異時廃止よりも簡単な同時廃止で手続きを終わらせるためのコツ
自己破産をするのであれば、弁護士費用も予納金の支払いも必要ではない同時廃止で終わらせたいのは当然です。
そのためのコツとしては次のようなものが挙げられます。
(1)司法書士ではなく弁護士に依頼をする
上述したように司法書士は自己破産をする場合には本人が申立てをするのと同様の取り扱いとなり、同時廃止が使えなくなる場合があります。
自己破産の相談・依頼は弁護士に行うのが良いでしょう。
(2)自己破産手続きに詳しい弁護士に依頼をする
弁護士であれば誰でも自己破産手続きに詳しいというわけではありません。
自己破産に詳しくない弁護士に依頼してしまい、裁判所への申し立て書類に不備があって少額管財となることがあります。
このような結果にならないためにも、自己破産手続きに詳しい弁護士に相談・依頼することが望ましいといえます。
弁護士の得意分野としては、会社に関する法律問題に取り組む企業法務と、個人に関する法律問題に取り組む個人法務に分かれており、債務整理は後者です。
ただし、借金に起因する問題で、中には露骨に避ける弁護士もいます。
債務整理に詳しい弁護士は、ホームページをきちんと整えて弁護士費用などの情報を発信しています。また、相談しやすいように相談料を無料としたり、夜間・土日も相談できるようにしています。個人が相談しやすいように適切な広告も行っているので、目についた相談無料の弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
(3)弁護士には包み隠さず打ち明ける
心配事があって弁護士には話していなかったことが、のちのち大問題となることがあります。
たとえば、会社から借り入れしていたものについて、給与天引きがされているので返済をしているものではないと判断して弁護士に伝えなかったところ、自己破産の申し立てをする際に給与明細に記載されているために判明する、という事例があります。
同時廃止・異時廃止問わず、いかなる債権者も破産手続きの中で処理をすることになり、会社についても同様です。
このような場合には上述した偏波弁済となって免責不許可事由になるほか、会社に対して返済した分を返還するように、管財人から請求されることになります。
たとえ希望にかなわなくても、別の対応方法があるかどうかを吟味することは可能ですが、申告がなければ弁護士はアドバイスをすることもできません。
どのような事情があるにしても、弁護士には正直に打ち明けるようにしましょう。
まとめ
このページでは、異時廃止についてお伝えしました。
異時廃止は簡易に手続きを終わらせることができる同時廃止と異なり、少額管財などの管財人がつけられるのが異時廃止でどうしても費用がかかります。
異時廃止ではなく同時廃止で終わらせたい場合には、早めに弁護士に相談をしましょう。