交通事故に妊婦さんが巻き込まれてしまったら、その後の対応はどうすればよいでしょうか。
妊婦さんであれば、誰もが出産が待ち遠しいのと同時に、「無事に生まれてくれるだろうか」という不安を少なからず抱かれるのではないかと思います。そんな妊婦さんが交通事故に巻き込まれてしまえば、母親の母体はなおのこと「母胎の子供が無事であるか」心配になるのではないでしょうか。
交通事故の影響で流産や早産になったりしないか、または障害を持って生まれてこないかどうしようかと、気になってしまいますよね。もちろん母胎への影響として後遺症が残ってしまわないかも心配な要素です。
取り返しのつかない事態が起こってしまう前に、今からきちんとした対処法を知っておきたいという人もいるかと思います。
そこで、この記事では、
- 妊婦さんが交通事故に巻き込まれた際の対応の注意点
- 妊婦さんが相手方と示談交渉するときに知っておくべき重要ポイント
- 交通事故が原因で出産・赤ちゃんに悪影響が出たときの補償の範囲
について解説します。
妊婦さんが交通事故に遭ってしまったときには、お腹の赤ちゃんのためにも最善の対応をとりましょう。
また、以下の関連記事では交通事故での被害者が損をしないための知識について解説しています。突然の交通事故に遭遇されお困りの方は、以下の関連記事もあわせてご参考いただければと思います。
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目次
1、交通事故に妊婦さんが巻き込まれてしまったら絶対気をつけるべき3つのこと
交通事故の被害に遭ったときには、初期対応がとても大事です。
初期対応をきちんとしなかったために後から余計なトラブルに見舞われるケースは、実際にも少なくありません。
妊婦さんの交通事故の場合には、お腹の赤ちゃんの今後のためにも、特に丁寧に対応していく必要があります。
とはいえ、いざ交通事故に遭ったときには、なかなか冷静な判断ができるものではありません。
もし、事故にあったらどうしようと不安になってしまう人は、初期対応としてしなければならないことをリスト化したメモなどをダッシュボードに入れておくなどの準備をしておくのも有効でしょう。
(1)すぐに医師の診察を受ける
交通事故で身体に何かしらの衝撃を感じたときには、必ずすぐに医師の診察をうけましょう。
軽い追突事故などのときには、「いまは痛くない」、「この後に用事がある」といった理由で通院を怠ってしまうケースが少なくありませんが、とても危険です。
交通事故に遭ったときには、精神的にも興奮状態にあるため痛みに気づかないということも珍しくないからです。
また、血管や内臓に損傷があるときには、事故から数日たって痛みがあらわれることもあります。
妊婦さんの場合には、腹部に衝撃を受けた可能性が少しでもあるときには、絶対に診察をうけるべきです。
「私は大丈夫」と思っていてもお腹の中の赤ちゃんには大きなダメージがあるかもしれません。
事故後に腹痛や出血が認められるときには、迷わずにすぐ救急車を呼ぶべきです。
救急隊員が到着したときには、自分が妊娠していること、妊娠週数、かかりつけの病院名を知らせてください。
医師の診察を受ける際にも、「交通事故に遭ったこと」に加えて「妊娠中であること」を告げるのも忘れないようにしましょう。
(2)妊娠中であることを事故の相手・警察官にも告げる
事故後に自分の身体の状況を確認したら、安全な場所に移動し、必ず警察に交通事故の届け出をしましょう。
規模の小さい交通事故などでは、「手続きが面倒だから」と警察に届け出ないケースもあるようですが、絶対にいけません。
特に、人身事故(ケガが生じてる事故のこと)の可能性があるケースでは、警察に届け出なかったことが、後に大きな不利益となって跳ね返ってくることもあります。
自分で電話できる状況にあるときには、相手方が電話してくれるのを待つのではなく、自分から110番通報することが望ましいでしょう。
念のため、警察にも妊娠中であることを告げておくとなお安心です。
また、交通事故の相手方にも、妊娠中であることを伝えておいてもいいでしょう。
産婦人科における治療費などの妊婦さん特有の費用を請求する場合に、「聞いていない」、「知らなかった」というトラブルを防止するためです。
(3)ケガの治療を受ける際にも細心の注意を!
妊婦さんが交通事故でケガをしたときには、通常の交通事故の場合以上に、慎重に対処しなければいけません。
ケガの治療を受ける際には、必ず医師に妊娠中であることを告げましょう。
妊娠していることが確認できていないときでも、少しでも妊娠の疑いがあれば、その旨を必ず伝えておくべきです。
妊娠中には行えない治療・検査や、服用が禁忌となる薬があるからです。
妊娠中であることを告げておけば、基本的には医師が、適切な治療・処方をしてくれます。
しかし、かかった病院によっては、妊娠中の患者の診察経験の浅い医師に出会ってしまうこともあるかもしれません。
また、医師のミスで、不適切な治療・処方が行われる可能性もゼロではありません。
したがって、妊婦さん自身も、自分が受ける治療や処方される薬についての知識をしっかりもっておくべきでしょう。
たとえば、交通事故でケガをしたときには、レントゲン検査などが実施されるのが一般的です。
しかし、放射線を浴びたことで胎児に悪影響が出ることを懸念して、レントゲン検査などは避けるべきという声もよく聞かれます。
過去には、妊娠していることに気づかずに腹部のX線CT検査を受け、胎児への悪影響が不安になったことで中絶を余儀なくされたとして、交通事故の加害者に通常よりも高額な慰謝料の支払いを認めた判決が出て話題になったこともあります。
また、ケガによる痛みを和らげるためのマッサージや電気治療も好ましくない場合が少なくありませんし、痛み止めなども副作用の強い薬は避けるべきということは、よくいわれることです。
他方で、妊婦さん自身のケガの治療のためには、レントゲン検査、CT検査などが必須という場合もあるかもしれません。
レントゲン検査を受けられないことで、損害賠償面で不利になることもあるかもしれません。
なお、レントゲン・CTなどの放射線ひばくについては、「胎児に対する影響はほとんどない場合も多い」という専門家の意見も示されています。
【参考】妊娠と医療での放射線について(日本放射線技術学会ウェブサイト)
最終的に、「どのような治療・処方を受けるか」については、お母さんである妊婦さん自身が判断するほかありません。
お腹の赤ちゃんのためにも、正しい知識を身につけ、医師とのコミュニケーションを普段よりも丁寧にとって、納得して、安心して治療をうけるようにしましょう。
「わからないこと、不安なことについては、医師に必ず確認する」という心構えが何よりも大切です。
上で紹介した不幸な中絶のケースも、医師との対話が十分であったなら回避できたケースだったかもしれません。
担当医による説明だけでは解決できないときには、セカンド・オピニオンも積極的に活用しましょう。
2、妊婦さんが交通事故の示談をするときに知っておくべき3つの重要ポイント
次に、交通事故の直接の被害者である妊婦さん自身が相手方と示談交渉を進める際に知っておくべき3つのポイントについて解説します。
(1)相手方(保険会社)との示談は出産が済んでから
妊婦さんが交通事故被害に遭ったときには、「出産が済むまで示談をしない」のが大原則です。
実際に赤ちゃんが産まれてくるまでは、交通事故による影響の有無はわからないからです。
したがって、相手方の保険会社の担当者にも、最初に、「自分が妊娠していること」、「出産までは示談できないこと」をハッキリと伝えましょう。
①しつこく示談を急かされたときの対処法
ところで、「出産するまでは示談できない」ことをきちんと伝えた場合であっても、出産前に「そろそろ示談できませんか?」と相手方の保険会社から打診されることもあるかもしれません。
「出産まで示談できないと伝えたのに」と憤りを感じることもあるかもしれませんが、保険会社の示談担当者のほとんどは、会社(上司)から「できるだけ早く示談をまとめるように」と指示されているのです。
「何度も繰り返し示談を急かされる」というときには、それぞれの保険会社の苦情相談窓口(お客様相談窓口)に問い合わせをしたり、担当者の営業所の責任者宛に、「現在妊娠中なので出産まで示談に応じたくない」ということを、文書(記録の残る方式)で伝えることも考えるべきでしょう。
また、自動車保険会社に対する苦情は、「そんぽADRセンター」という第三者機関でも受けつけています。
詳細は、下記ウェブサイトを参考にしてください。
【参考】そんぽADRセンター~苦情解決手続の申出をご希望の方へ~
②治療費の支払いが不安なときの対処法
ケガを治すための治療費は、基本的には加害者側に請求可能です。
しかし、初回の通院時までに保険会社の対応が間に合わず、一時的に立替払いを求められるケースもあります。
加害者の責任でケガを負ってしまったのに、被害者が治療費を立て替えなければならない場合には、相手に腹立たしい思いを感じたり、立替の負担が辛いと感じたるすることもあるかもしれません。
そのような場合には、次のような方法で対応していきましょう。
- 健康保険を利用する
- 自分の人身傷害保険を利用する
交通事故の被害に遭った場合でも健康保険を使えます。
また、自分の自動車保険に人身傷害保険をつけているときには、人身傷害保険から治療費等を支払ってもらうことも選択肢のひとつです。人身傷害保険はノーカウント扱いの特約なので、利用しても翌年の保険料が上がることはありません。
(2)仕事を休業している妊婦さん、専業主婦(産休中)の妊婦さんでも休業損害は支払ってもらえる
ケガによる通院・治療のために仕事を休まなければならなくなったときには、減収分を「休業損害」として相手方に請求することができます。
専業主婦(産休中)であっても休業損害を請求することは可能です。
その場合の休業損害は、自賠責保険の基準では1日あたり5700円の支給となります。
(3)通院のためのタクシー代を相手方に請求できる場合もある
通院のために支払った交通費も相手方に請求できます。
妊婦さんがケガをしたときには、通院ためのタクシー代も請求できるケースも少なくないでしょう。
特に、臨月に近い妊婦さんが交通事故被害を受けたときには、公共交通機関の利用よりもタクシーで通院した方が安全といえるケースも多いと考えられるからです。
また、ケガをしたことで、公共交通機関での買い物ができなくなってしまった場合などには、買い物のために利用したタクシー代を相手方に請求できる場合もあります。
ただし、交通事故の相手方に請求できるのは、「ケガをしたことが原因でタクシーを使わざる得ない」場合のみです。
「お腹が大きくて大変だから」という理由でのタクシー代は、相手方に請求できないので注意しましょう(ケガをしていなくてもタクシーを使ったと考えられるからです)。
3、妊婦が交通事故で早産・流産になった場合はどうなる?胎児に悪影響がでた場合の補償
妊婦さんが交通事故に遭ったときには、交通事故が原因で早産・流産となってしまうこともあり得ます。
また、交通事故が原因で、生まれてきた子供に障害が残ってしまうケースもないわけではありません。
このようなケースでは、相手方に治療費や慰謝料・逸失利益等の支払いを請求できる場合があります。
(1)交通事故が原因で流産してしまったときには補償してもらえるか?
交通事故が原因で流産してしまったときには、妊婦さん自身のケガに対する慰謝料の他に、流産したことそのものについても慰謝料を受け取ることができます。
受け取ることができる慰謝料の金額は、次のような事情を総合的に考慮して決められることになるでしょう。
- 初産かどうか
- 臨月に近いかどうか
- 妊婦さんの年齢など今後子を授かれる可能性や妊娠に至った個別事情
たとえば、不妊治療の末やっと授かった赤ちゃんを、臨月間近の交通事故が原因で流産してしまったというような場合には、「子を流産したことについての精神的な苦痛」は一般的な流産よりも重いと認められやすいでしょうし、慰謝料も高額になるでしょう。
この点については、出産予定日の4日前の事故により死産したと認められたケースで、800万円の慰謝料が認められた裁判例、妊娠36週の胎児が死亡したとして、母700万円、父300万円の計1,000万円の慰謝料が認められた裁判例があり、参考になります。
とはいえ、赤ちゃんを流産させられてしまった両親の悲しみは、簡単に計れるものではありません。
慰謝料で赤ちゃんが返ってくるわけではないのですが、「提示された慰謝料額が少なすぎる」と感じることも多いかもしれません。
このような稀なケースだと、保険会社も一体どのくらいの慰謝料額が妥当なのかが判断できず、裁判を起こさないと「子を流産したことについての精神的な苦痛」に対して慰謝料を支払おうとしないことも十分に考えられます。
そのような場合には、弁護士に交渉を依頼することもひとつの選択肢です。
弁護士に依頼することで、裁判による解決を視野に入れながら交渉することができるようになります。
(2)交通事故が原因で切迫早産したときには補償してもらえるのか?
交通事故によって身体に衝撃を受けたことが原因で切迫早産になってしまうことがあります。
この場合には、切迫早産のためにかかった治療費・入院費を相手方に請求することができます。
ただし、相手方保険会社から切迫早産と交通事故には因果関係がないと主張され、支払いを拒否されることも考えられます(詳しくは、「4」で解説します)。
(3)子供に後遺障害が発生したときには補償してもらえるのか?
生まれてきた赤ちゃんに「交通事故が原因」と考えられる症状が認められたときには、その症状についての治療費や慰謝料・逸失利益を相手方に請求することができます。
慰謝料・逸失利益の額は、生じた症状の程度によって異なりますが、数百万円から1000万円超の額が認められるケースもないわけではありません。
ただし、赤ちゃんの後遺障害についても、その程度や交通事故との因果関係の有無をめぐって、相手方保険会社と争いになることが少なくありません。
また、生まれてきた子供の後遺障害に対する慰謝料・逸失利益の請求では、消滅時効が争点となることも考えられます。
慰謝料等の損害賠償請求権は、「損害を知ったときから3年」で消滅時効が完成するからです(民法724条)。
「赤ちゃんの後遺障害に関する損害賠償請求権についての消滅時効の起算日をいつにすべきか」というのは、法律論としても難しい問題ですが、一般的には「赤ちゃんが生まれた日」、「赤ちゃんに症状があることが診断された日」がその候補日として考えられます。
妊娠中に交通事故に遭ったというときには、子供の様子にも細心の注意を払い、様子がおかしいと感じたときには、速やかに医師に相談するなどの必要な対処をすべきでしょう。
4、妊婦さんの交通事故は、早めに弁護士に相談しましょう
妊婦さんが交通事故被害に遭ったときには、通常のケースよりも弁護士に相談された方がよい場合が多いといえます。
その理由は次の2つです。
- 妊婦さん、赤ちゃんに何かあったときには、相手方保険会社と揉めるケースが多い
- 弁護士に示談を依頼すれば、出産育児に専念できる
(1)胎児の補償問題について保険会社と揉めることが多いのはなぜか?
交通事故の被害者が妊娠していることは、相手方の保険会社にとっては、「想定外の事態」ということができます。
また、交通事故後に早産・流産となった場合や、赤ちゃんに後遺障害が生じた場合でも「交通事故以外の理由」が原因である可能性も否定できません。
たとえば、(妊娠)糖尿病による羊水過多や、多胎妊娠(双子以上の妊娠)、子宮内感染症などが原因で、交通事故とは無関係に早産となってしまったということも考えられます。
赤ちゃんの後遺障害についても、さまざまな原因を想定できる場合が多く、「交通事故が原因」と言い切るのは、必ずしも簡単ではありません。
そのため、交通事故後の早産・流産などに対する慰謝料・逸失利益の支払いを求めたときには、保険会社から支払いを拒否されるケースも少なくありません。
これらのケースでは、最終的には裁判による決着を見据える必要がある場合も多いでしょう。
また、慰謝料・逸失利益の支払いを認めてもらうためには、医師の協力を取り付けることもとても大切です。
もっとも、医師は慰謝料・逸失利益の請求の専門家ではありません。慰謝料・逸失利益の請求の根拠として十分な診断書を作成してもらうためには、やはり法律家のサポートは必須といえます。
(2)弁護士に示談を依頼すれば妊婦さんの負担を減らせる
交通事故の示談交渉は、被害者の方にとって大きな負担となることも少なくありません。
弁護士に寄せられる相談では、「保険会社の対応の悪さ」に不満が述べられることも珍しくありません
生活の中でストレスを感じることは、早産や流産の原因となる可能性もあります。
また、出産まで示談をしないということになれば、出産後の育児に追われている時期に保険会社との交渉もしなければならなくなります。
夜間授乳で寝不足が続いているときに、昼間に難しい話題を処理しなければならないというのは、大きな負担です。
相手方との示談交渉を弁護士に依頼すれば、交通事故の処理のことは弁護士に任せて、ケガの治療や育児に専念することができます。
まとめ
妊婦さんが交通事故に遭ったときには、母胎の安全確保が何よりも大切です。できるだけ慌てず、落ち着いて、確実に対処しましょう。
また、相手方との示談においても、慌てて結論を出さず赤ちゃんが無事に生まれてくるまで結論を出さないことが大切です。
出産前に示談をしてしまえば、その後に何か起こっても賠償してもらえない可能性があるからです。
妊婦さんが交通事故でケガをしたときには、予想できない今後に対して、できるだけの準備をしておくことがとても大切です。不安なこと、わからないことがあるときには、弁護士に相談してみるのも有効な選択肢といえます。