刑務所からの脱走。
にわかには信じがたいことですが、実際にはこれまで幾度となくその事件が発生しています。
日本や海外では、これまでどのような刑務所脱走の事例があったのでしょうか?
また、刑務所からの脱走を行った人物にはどのような罪が科されるのでしょうか?
今回は、
- 実際に起こった刑務所からの脱走事例
- 刑務所からの脱走で科される罪
などについて、ご紹介していきます。ご参考になれば幸いです。
1、刑務所からの脱走は1年に1件のペースで発生している
法務省矯正局によれば、「全国の矯正施設(刑務所、少年院など)からの逃走は、今回を含め平成に入って29件36人です」とのことで、1年に1件のペースで発生しています。
引用元:livedoorNEWS
そのほとんどが数日以内に身柄拘束されていますが、1989年に起こった、熊本刑務所から逃走した婦女暴行事件の受刑者(懲役18年)に関しては、実刑確定から実に4年もの間逃げおおせ、最終的には680km離れた神戸市内で逮捕されました。
受刑者が罪を償わずに社会に戻ることは、そこに住む人々に大きな恐怖を与えることは間違いありません。
比較的新しい脱走のニュースとしては、2018年に松山刑務所大井造船作業場から脱走し話題となった平尾受刑者。
「塀のない刑務所」のような、刑務所の造りや構造も、逃走が生じる原因の一つとして考えられますが、それだけでなく、刑務所内の人間関係も、その大きな原因として考えられています。
周囲の人たちの恐怖を考えると、刑務所からの脱走が1年に1件のペースで発生しているということは、非常に多い数字といえるでしょう。
2、刑務所から脱走すると科される罪
刑務所から脱走した人物に対して問われる罪としては、「逃走罪」が挙げられます。
(1)単純逃走罪
単純逃走罪とは、
- まだ裁判の結果の出ていない、勾留中の人物
- 既に確定した判決によって刑事施設に拘禁されている人物
が刑事施設から脱走することをいいます。
単純に逃げ出したこれらの人物に対しては、単純逃走罪が適用され得ます。
その法定刑は、一年以下の懲役です。
裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、一年以下の懲役に処する。
引用元:刑法第97条
(2)加重逃走罪
加重逃走罪とは、
- まだ裁判の結果の出ていない、勾留中の人物
- 既に確定した判決によって刑事施設に拘禁されている人物
- 勾引状の執行を受けた人物
が、刑務所からの逃走に加え、以下の行為を犯した場合に問われる罪のことをいいます。
- 拘禁されている施設や器具を損壊し逃走した
- 暴行や脅迫を行い逃走した
- 2人以上で通謀して逃走した
こちらは単純逃走よりも罪が重い、加重逃走罪に問われ得ます。
その法定刑は、3ヶ月以上5年以下の懲役です。
前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は二人以上通謀して、逃走したときは、三月以上五年以下の懲役に処する。
引用元:刑法第98条
法令により拘禁された者を逃走させる目的で、器具を提供し、その他逃走を容易にすべき行為をした者は、三年以下の懲役に処する。
2 前項の目的で、暴行又は脅迫をした者は、三月以上五年以下の懲役に処する。引用元:刑法第100条
このように、逃走をした人だけでなく、逃走の手助けをした人も罪に問われます。
これは、逃走した人物から「助けてほしい」と依頼されたかどうかは関係ありません。
この罪が適用されると、3年以下の懲役刑に処されます。
また、刑務所に拘束をされている人物を看守する人、または護送する人であれば、その人物を逃走をさせることは容易ですよね。
そのような人物が逃走を援助した場合には、先ほどの罪よりも重い、1年以上10年以下の懲役刑に処されます。
法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者を逃走させたときは、一年以上十年以下の懲役に処する。
引用元:刑法第101条
3、刑務所から脱走した事例
始めに、日本で発生した脱走の事例について、以下で2つご紹介します。
この記事をご覧のあなたも、記憶に新しい事件ではないでしょうか。
(1)平尾被告の事例
愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から4月に脱走し、約3週間にわたる逃亡中に車や現金を盗んだとして、逃走や窃盗などの罪に問われた受刑者の平尾龍磨被告(27)に、松山地裁(末弘陽一裁判長)は28日、懲役4年(求刑懲役6年)の判決を言い渡した。
〜中略〜
判決によると、4月8日午後6時ごろ、作業場の寮1階の窓から脱走。逮捕される同30日までの間、今治市の住宅で現金約3万円や車を盗み、さらに潜伏先の広島県尾道市でミニバイクや健康保険証など約60点(計約31万円相当)を盗むなどした。引用元:THE SANKEI NEWS
2003年、福岡県で理髪店に侵入し、レジのお金を盗んだ罪で逮捕されていた平尾龍磨被告が、刑務所から脱走した事件です。
脱走し、逮捕されるまでの間、平尾被告は再び現金やバイクなどを盗むなどしていたそうです。
動機については、
検察側は論告で、規律違反をして刑務所の安全対策委員から外すと言われ、自尊心が傷つき挫折感を抱いたのが動機と指摘。
引用元:THE SANKEI NEWS
とされており、これについて検察官は、「身勝手な動機で酌量の余地がない」として、懲役6年を求刑しました。
(2)富田林署の事例
連続女性暴行や強盗傷害といった重大な嫌疑をかけられ、勾留中だったが、弁護士との接見後に面会室のアクリル板を蹴破り、逃走。
〜中略〜
前代未聞の逃走劇に大阪府警幹部らは、当初、大失態ではあるが、すぐに捕まえられる、と思っていたようだ。しかし、この希望は、はかなく消える。後になって、樋田容疑者が留置担当者の勤務シフトまで調べ上げていたことが分かったとき、少なくない捜査関係者が青ざめたことだろう。
引用元:THE SANKEI NEWS
このニュース記事にもあるように、樋田淳也容疑者の大阪府富田林署からの脱走事件は、樋田容疑者が、留置担当者の勤務シフトまで調べ上げるなど、脱走に向けての調査が徹底されていました。
この逃走方法は、刑務所からの脱獄を描いた映画「ショーシャンクの空に」に似た部分があると言われるほど、驚きの声が上がっています。
また、樋田淳也容疑者は脱走後、自転車で日本一周を目指すサイクリストとして、各地の人たちに気さくに話しかけ、まるで逃走している者とは思えない行動で、警察からの目をかいくぐっていました。
48日もの間、逃走を続けた樋田淳也容疑者は、山口県周南市の道の駅で万引きをしているところを目撃され、身柄を拘束されました。
(3)海外での脱走の事例
日本だけでなく、海外で発生した刑務所からの脱走事件は、以下のようなものがあります。
①フランスで起きたヘリハイジャックによる脱獄
パリ近郊レオのスド・フランシリエン刑務所で1日午前11時220分(日本時間同午後6時20分)ごろ、服役中のルドワヌ・ファイド受刑者(46)がヘリコプターをハイジャックして脱獄した。
ファイド受刑者は、アサルトライフルなどで武装した共謀者3人の助けを借りて脱獄した。受刑者の脱獄は2013年に続いて2回目で、警察は約3000人体制で捜索に当たっている。負傷者はなかった。
引用元:BBC NEWS JAPAN
フランスで発生した、ヘリをハイジャックしての脱獄事件です。
この受刑者の脱獄はなんと2回目で、3、000人の警察による捜査が行われました。
ヘリコプターやドローンなどを使った、入念な準備のもとに行われた非常に稀に見る脱獄劇です。
②メキシコで起きた世界を驚愕させた脱獄劇
刑務所の外から独房のシャワースペースの真下まで掘られた1.5キロのトンネルには電灯はもちろん換気装置も完備。最低1年の工期と500万ドル(約6億2000万円)の建設費が必要と推定されている。内部にはレールが敷かれ、ボスは軌道走行用に改造されたバイクにまたがり、わずか3分で逃げ去った。
引用元:産経ニュース
こちらも、日本では考えられない脱獄劇です。
刑務所の外から独房のシャワースペースまで掘られた約1.5キロのトンネルには、電灯や換気設備も備えられており、その工程期間はなんと1年だそうです。
警察の目を巧みに盗んだこの脱獄は、世界中を驚愕させました。
世界ではこのように、大胆な刑務所からの大脱走劇が発生しています。
それ以外にも、インドネシアで発生した大地震の際には、その被災地にある刑務所から、およそ1、400人(約半数)の受刑者が逃走する事件が起きました。
その後およそ300人は自ら刑務所に戻ってきており、『家族に会うために脱走した』と説明するなどしたそうです。
引用元:日本産経新聞
刑を逃れるために、念入りな計画と周到な準備を重ねて、刑務所から脱走する事件が後を絶ちません。
刑務所から脱走をしても、いずれは逮捕されるケースがほとんどです。
それでもなぜ、脱走を行う人は後を絶たないのでしょうか?
4、刑務所からの脱走はなぜ起きるのか?
罪を償い、再び社会に出るための更生施設であるはずの刑務所で、なぜ逃走を図る受刑者は後を絶たないのでしょうか?
これは、上記でご紹介した平尾被告の事例のように、「人間関係にギクシャクして」いたという問題を抱える受刑者が多いことが原因であると考えられます。
検察側は冒頭陳述で、規律違反をし、刑務所内の安全対策の委員から外すと刑務官に言われ、自尊心が傷つき「刑務所の中に居場所がなくなったと感じるようになった」と指摘。人間関係から逃れたいと考え、げた箱に「すみませんでした」と謝罪する手紙を置いて逃走した、と経緯を説明した。
引用元:THE SANKEI NEWS
刑務所からの逃走を防ぐためには、施設の警備を強化したり、逃げられない構造にしたりすることはもちろんのこと、刑務所内での人間関係を良好に保つための配慮が必要だと考えられます。
特に日本では、1年に1件というペースで刑務所からの脱走事件が発生していますが、これはとても多い数字だといえるでしょう。
これを防ぐためにも、国を挙げて何かしらの対策を強化する必要があると思います。
まとめ
今回は、刑務所からの脱走について、その事例をご紹介しました。
たとえ刑務所からの逃走に成功したとしても、完全に逃げ切るのはほぼ不可能だといえます。
そしてなにより、刑務所は罪を償うための場所ですから、罰則があるからというわけではなく、脱走するということ自体絶対にあってはなりません。
刑務所からの脱走を未然に防ぐための対策(施設の構造の強化や人間関係の改善)が、早急に求められます。