遺産分割調停の弁護士費用の目安は、旧報酬規定を確認すると良いでしょう。
現在、弁護士費用はそれぞれの事務所が自由に定めることになっていますので、旧報酬規定はあくまでも目安にすぎませんが、現在もこれに依拠している事務所は多いといわれています。
【遺産分割調停を依頼した場合の着手金】
依頼事件の経済的利益の額 | 着手金の額 |
300 万円以下 | 8%(最低額10万円) |
300 万円を超え3000 万円以下 | 5%+9 万円 |
3000 万円を超え3 億円以下 | 3%+69 万円 |
3 億円を超える場合 | 2%+369 万円 |
【遺産分割調停を依頼した場合の報酬金】
依頼事件の経済的利益の額 | 報酬金の額 |
300 万円以下 | 16% |
300 万円を超え3000 万円以下 | 10%+18 万円 |
3000 万円を超え3 億円以下 | 6%+138 万円 |
3 億円を超える場合 | 4%+738 万円 |
【日当】
半日(往復 2 時間を超え 4 時間まで) | 3万円以上5万円以下 |
1日(往復 4 時間を超える場合) | 5万円以上10万円以下 |
本記事では、遺産分割調停を弁護士に依頼する場合の弁護士費用について、詳しく解説していきます。
ご参考になれば幸いです。
相続の相談について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
1、遺産分割調停の弁護士費用
遺産分割調停を弁護士に依頼した場合の費用について、確認していきましょう。
(1)弁護士費用の内訳
弁護士費用は、最終的にはさまざまな費用項目の合計で算出されます。
弁護士費用を構成する費目としては、次のものがあります。
①相談料
弁護士に相談をする際には、相談料が発生します。
ただ、近年では、相続問題については初回相談無料といったサービスを行っている弁護士事務所も増えています。
②着手金
着手金は、弁護士に業務を依頼する際に支払う契約料のようなものです。
依頼することについて発生する報酬なので、依頼内容が失敗に終わった(満足いかない遺産分割の結果になった)場合でも返金されることはありません。
着手金は依頼時に一括払いするのが原則ですが、最近では分割払い可能という事務所も増えています。
③報酬金
依頼内容が成功におわった場合(利益を得られた場合)に発生するいわゆる成功報酬です。
④手数料
書面作成などの単発の業務について発生する費用ですが、依頼業務に付随して発生する書面作成業務(調停申立書の作成など)の手数料については、着手金に含まれるため別途費用として発生することはありません。
⑤日当
弁護士が事務所を離れて出張した場合に発生する費用です。
⑥実費
弁護士費用とは別に発生するいわゆる諸経費のことで、裁判所に納付する手数料(印紙代)などが該当します。
(2)遺産分割調停を弁護士に依頼した場合の費用の目安~旧弁護士報酬規定
現在では、弁護士費用はそれぞれの事務所が自由に定めることになっていますので、弁護士に依頼をした場合に負担する費用も事務所によってかなり違いがあるといえます。
ネットなどでアクセスできる弁護士の情報はかなり限定的といえますので、それだけで高い安いといった判断をするのは適当ではない場合も多いので注意する必要があります。
以下では、ひとつの目安として、かつて弁護士会が採用していた旧報酬規定における弁護士費用の計算方法について紹介します(現在は拘束力のないものですが、これに依拠している事務所が多いといわれています)。
①遺産分割調停を依頼した場合の着手金
弁護士費用は、基本的に依頼する事件の経済的な利益の額に比例して高くなっていきます。
遺産分割調停を依頼した場合の着手金は、旧報酬規定においては次のように算出されます。
依頼事件の経済的利益の額 | 着手金の額 |
300 万円以下 | 8%(最低額10万円) |
300 万円を超え3000 万円以下 | 5%+9 万円 |
3000 万円を超え3 億円以下 | 3%+69 万円 |
3 億円を超える場合 | 2%+369 万円 |
なお、遺産分割事件における経済的利益は、相続分の時価相当額を基準に算出することになりますが、相続人の間で争いのない部分については時価の1/3の額を基準とします。
また、調停事件(遺産分割協議)の依頼の場合には、上の額よりも減額して対応してくれる事務所も少なくありません。
※次の②の場合も同様の取り扱いになります。
②遺産分割調停を依頼した場合の報酬金
依頼事件の経済的利益の額 | 報酬金の額 |
300 万円以下 | 16% |
300 万円を超え3000 万円以下 | 10%+18 万円 |
3000 万円を超え3 億円以下 | 6%+138 万円 |
3 億円を超える場合 | 4%+738 万円 |
③日当
半日(往復 2 時間を超え 4 時間まで) | 3万円以上5万円以下 |
1日(往復 4 時間を超える場合) | 5万円以上10万円以下 |
(3)弁護士費用について注意すべきこと
遺産分割調停を依頼する場合の弁護士費用については、次の3つの点に注意しておく必要があります。
- 追加の着手金が発生する場合がある
- 「最終的な総額」がいくらになるかを意識する
- わからないことは必ず質問する
遺産分割について弁護士に依頼をする場合には、次の場合に追加の着手金が発生する場合が多いです。
- 遺産分割協議(私的な話し合い)から遺産分割調停に移行する場合
- 遺産分割調停から遺産分割審判に移行する場合
- 遺産分割審判に異議を申し立てる場合
弁護士に依頼する事件は、「手続のステージごと」に発生することになっている事務所が一般的です。
たとえば、訴訟事件の場合でも、控訴審に移行した場合には第一審とは別に着手金が必要となります。
ただし、継続依頼の場合には追加の着手金は半額程度に減額してもらえることの方が多いです。
また、日当などについても弁護士事務所ごとに発生基準が異なる場合も少なくありませんから、弁護士費用については、着手金が高いかどうかといった個別の要素だけでなく、最終的な総額を意識することが大切といえます。
さらに、一般の人にとって弁護士費用はとてもわかりづらいものです。
弁護士との間でトラブルにならないためにも、費用についてわからないことは依頼前に必ず質問して明確にしておきましょう(弁護士には依頼人に対して費用について誠実に説明する義務があります)。
2、遺産分割調停を弁護士に依頼するメリット
一定の費用を支払っても、弁護士に依頼する必要があるかどうか。
それは、依頼するメリットを考えて決めるべきでしょう。
遺産分割調停を弁護士に依頼するメリットとしては、次のようなことを挙げることができます。
(1)自分の言い分を正しく主張できる
遺産分割調停において自分の希望に近い結論を得るためには、自分の主張を明確な根拠に基づいて正しく主張することが重要です。
結論が正しくてもその根拠を示せない場合や、結論も根拠も正しくてもそれを正確に伝えられなければ、裁判所の手続には通用しないこともあるからです。
特に、遺産分割において相続人の間でトラブルになりやすい、特別受益(不公平と感じる生前贈与)や、寄与分(被相続人に尽くしたことの金銭評価)といった問題は、それを裏付けられるだけの法的な根拠を正しく示す必要があります。
弁護士に依頼をすれば、これらの主張についても過去の裁判例の分析などを通して、効果的に裁判所や他の相続人に主張できるようになるのです。
(2)裁判所に出頭する負担を軽減できる
裁判所での調停は平日の日中に期日が催されます。
また、遺産分割調停は、半年・1年以上の期間になることも多く、毎月1回程度の頻度であっても、何度も裁判所に出向く負担は決して小さくありません。
どうしても都合の付かないとき(や調停の結果に関心がないとき)には、期日を欠席することも可能ですが、欠席者がいるときには調停をまとめる(和解させる)ことはできません(そのため欠席者のいる状態が続くと審判で終結させることもあります)。
弁護士に依頼をすれば、期日に出席しなければならない負担をゼロにすることも可能です。
(3)不快な思いをすることを回避できる
調停に持ち込まれる遺産分割は、相続人の間に激しい感情的な対立があるケースも珍しくありません。
そのため、裁判所で他の当事者と顔を合わせることが苦痛ということもあるでしょう。
また、調停がいわゆる同席調停(すべての当事者が同時に同じ調停室に集まって行う調停の方法)で行われるようなケースでは、感情的な言い合いになり不快な思いをする可能性がないわけではありません。
別席調停(当事者が別々に調停委員と面談しながら調停を進める方法)の場合でも、同じ日時に同じ裁判所に出頭するのであれば、鉢合わせするリスクはあります。
弁護士に依頼をすれば、「第三者がいる」ということで、言動が乱暴になることを回避することもできるでしょうし、自分自身も冷静に対応できるようになるきっかけとなることがあります。
弁護士に任せておけばイヤなことを思い出すのは最低限でよくなるというのは、意外と大きなメリットといえるのではないでしょうか。
3、弁護士費用の支払いに不安があるときの対処方法
弁護士費用は高いと感じている人が多いことから、その工面に不安を感じている人は少なくありません。
しかし、「弁護士費用は高い」とすぐにあきらめてしまうのは大変もったいないことと言えます。
一括で弁護士費用を支払える余裕がない場合でも、弁護士費用を工面するための方法が用意されているからです。
たとえば、収入が少ないために弁護士に依頼することが難しい場合には、法テラスが行っている民事法律扶助を利用する方法があります。
また、最近では、着手金の分割払いに応じてくれる事務所も増えていますので、必ずしも着手金を一括で支払わなければならないというわけでもありません。
さらに、弁護士費用とは、依頼した事務の量に応じても額が左右されます。
ご本人ができることは依頼から外すなどすることにより、費用を調整することも考えられますので、相談してみると良いでしょう。
相続についての相談は、無料相談で対応してくれる事務所も増えています。
弁護士費用についての相談をすることもできますので、まずは無料相談を上手に利用するとよいでしょう。
まとめ
弁護士に事件を依頼するのは敷居が高いと感じている人は多いかもしれません。
しかし、裁判所が公開している統計資料などをみると、実際の遺産分割調停では、弁護士の代理人がついているケースの方が多いようです。
弁護士へ依頼することで得られるメリットには、金銭評価に変えられないものも多く含まれます。
また、弁護士への依頼業務は、それぞれのケースによって具体的にしてもらえる対応の程度にも違いがあることが多いでしょう。
「費用がいくら」という要素はたしかに重要な要素ではありますが、それだけを基準に弁護士を選ぶことは、弁護士選びに失敗する原因となることもあるので注意した方がよいでしょう。