アカデミックハラスメントとは?具体例や訴えるなどの対処法について

アカデミックハラスメントとは?灰色のキャンパスに光を取り戻す5つの知恵

アカデミックハラスメント(アカハラ)とは、研究教育に関わる優位な力関係のもとで行われる理不尽な行為をいいます(NAAHによる定義)。

大学などの構成員が権威を振りかざし他の構成員の学びや研究に大きな支障をもたらし、キャンパスを蝕むアカハラ。

アカハラはなぜ起こるのか、どのように対処すべきなのか。

灰色のキャンパスを再び輝かすための対策を、弁護士がご紹介します。

精神的苦痛に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご利用ください。

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1、アカハラとは何か

アカハラとは何か

はじめに、アカハラとはどのようなものかを確認しておきましょう。

(1)アカハラの定義

NPOアカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)では、アカデミックハラスメントについて「研究教育に関わる優位な力関係のもとで行われる理不尽な行為」等と定義しています。

さらに、具体例について、次のように説明しています。

「例えば、教員の場合では、上司にあたる講座教授からの研究妨害、昇任差別、退職勧奨。院生の場合では、指導教員からの退学・留年勧奨、指導拒否、学位不認定などがあります。」

東京大学では、アカハラについて更に詳しく次のように定義しています。

「大学の構成員が、教育・研究上の権力を濫用し、他の構成員に対して不適切で不当な言動を行うことにより、その者に、修学・教育・研究ないし職務遂行上の不利益を与え、あるいはその修学・教育・研究ないし職務遂行に差し支えるような精神的・身体的損害を与えることを内容とする人格権侵害」

(出典)東京大学アカデミックハラスメント防止宣言

要するに、力の優位を背景にした不適切な行為により、教育や研究活動を阻害することを広く指している、と考えておけば良いでしょう。

被害者は、学生や大学院生に限りません。教員や職員でも被害者になり得ます。

(2)具体例

誰に対してどのような被害が及ぶかにより、一通り分類してみました。

大変バラエティーに富んでいます。大学という閉ざされた社会での力関係が様々な局面でハラスメント行為に繋がっているように思われます(原因の分析は後述します)。

①学習・研究活動への妨害

・授業、ゼミ、学会など研究活動への参加を妨害する

・必要な資料や物品の購入や使用を妨害する

・学習や研究をさせず雑用を押し付ける

②卒業・進級・単位取得の妨害

・理由もないのに単位を与えない。留年させる

・自分の手伝いをしないと卒業させない等と脅す

③進路への選択権の侵害

・正当な理由なく就職活動を妨害する。必要な推薦状を出さない

・正当な理由なく、本人の希望する研究をさせない

・正当な理由なく、退職や退学を強いる

④指導の放棄・差別 

・提出された論文やレポートを見ようとしない

・特定の学生の質問を受け付けない

・学生や研究生が研究へのアドバイスを求めても応じない

・命じた作業についてその手順や理由を説明しない

・教授との共同研究なのに、行き詰まったときに本人にだけ責任を負わせる

・大学の教員が学生の発表中に聴こうともせずスマホばかり見ている

⑤不当な経済的負担を強制

・研究費から出すべき費用を個人負担させる

・実験に失敗したときに、それまでの費用を個人負担させる

⑥研究成果の横取り

・学生や若手研究者の未発表論文を自分の論文として盗用してしまう

・若手研究者の論文について指導教官がちょっと加除訂正をしただけなのに、自分を筆頭筆者にしてしまう

・自分の研究を実際には学生や若手研究者にさせておきながら、共同研究者として名前を挙げない

⑦暴言や過度の叱責 

・執筆論文を破り捨てる

・理由もなく人前で大声で怒鳴りつける

⑧不適切な研究教育環境の強制 

・深夜休日などに不必要な実験を強制する

・長時間にわたる研究実験を強制する

・指導の名目でホテルなど不適切な場所に呼び出す(後述のセクハラになりうることもあるでしょう)

⑨指導権限の濫用

・不適切なルールの強要(アルバイト禁止などプライベートな行動への制約、夏季休暇中の出勤強制、自分の研究より指導教官の研究の手伝いを不当に優先させる、など)

・不正行為の強制(研究データのねつ造、他人の研究内容の剽窃)

・不公平な評価(お気に入りの学生とそうでない学生とで不当な差別)

・セクシャルハラスメント(2人だけの会食、ドライブなどを強要)

⑩プライバシーの侵害 

・プライベートな事項をしつこく聞きだしたり、外部にバラしたりする

最近では、LGBTの問題を本人の了解もなく周囲に漏らして(アウティング)、本人の自殺を引き起こした痛ましい事件も起こっています。

(注)この事件では、アウティングしたのは同級の学生でした。力関係の上下があったわけではないので、厳密にアカハラの問題と言えないかもしれませんが、相談を受けた大学が適切な手を打たなかったことで、遺族から損害賠償請求訴訟を提起されています。

(参考)法務省「多様な性について考えよう。

⑪他大学の学生、留学生、ゲストなどへの不当な行為

・外部の人への差別的な言動や、排斥行為など

とりわけ人種、民族、国籍などにまつわるハラスメントは、現在の不穏な国際情勢の中で発生してくる可能性が十分考えられます。

(3)具体的な事例

①大学院生が自殺…博士論文、2年連続受け取り拒否されたもの

大学院生が指導教官の准教授に二度にわたり博士論文の博士論文の受け取りを拒否され、2年連続で博士号の取得に失敗した。遺族の申立てで、学内の調査委員会にて調査。

残された論文草稿やデータを見る限り、大学院生の研究は博士論文の審査水準に到達しており、准教授が、具体的な指示を与えず、適切な指導を行わなかったと判断した。

②大学院生の研究論文について指導教官らが自分との共著とするように幾度も強要

大学院生が拒否すると同じ研究室の大学院生の仲間を留年させるなどの対応を行った。

裁判所で「指導の域を超えた不当な行為があった」と述べ、アカハラを認定。

③女子大生4人に、教授が具体的指示なく繰り返し叱責を繰り返した

大学にてハラスメントを認定し停職処分。研究室に呼び出して非を認めるまで詰問したり、具体的指示もなく深夜まで研究室に残るよう強要した。

④発生後の対応次第で「二次加害」の問題まで認定されることも

東京高裁の判決で、セクハラの一時加害のみならず、正当な申立てを行った学生への修学上の不利益取り扱いがあった事案について、「二次加害」を認定したものがあります。この判決では、管理監督責任を負う大学や学校法人も使用者責任を負うことなるとしました。

本判決は、抽象的概念である「安全配慮義務」について、具体的事例においてどのように扱うべきかを判示したものと評価されています。

(出典:文部科学省

文科省等におけるハラスメント対策に関する取組(高等教育局大学振興課説明資料)損害賠償等請求控訴(平成15年11月26 日東京高等裁判所判決)

2、アカハラはなぜ起こるのか

アカハラはなぜ起こるのか

このようなアカハラは、なぜ起こるのでしょうか。

(1)大学の特殊性 

大学は自由な研究と教育の場であり、自律・自治が尊重されています。民間企業のように労働基準監督署など公的な機関がチェックをしてるわけではありません。

しかも、指導教官と若い研究者・院生・学生との間では圧倒的な力の差があります。

例えば、研究成果の評価や研究過程の貢献度の評価などについては、指導教官の判断が第一であり、指導教官ににらまれたら、若い研究者や学生は何も言えなくなります。

また、若い学生や研究者には社会的な経験が乏しいでしょう。それだけでなく、大学の教授なども専門的な世界に浸りきって社会常識を欠く人も見受けられるようです。

東京大学アカデミックハラスメント防止宣言では、このような事情を次のように明確に整理しています。大事な問題なので、このまま引用します。

「自由と自律性がこれほど手厚く保障されている大学では、構成員の間に一般社会とは異なる権力関係が生ずる。教員と学生およびそれに準ずる者との関係を例に取ると、そこには教育・指導・評価を与える者とこれを受ける者という、非対称的な力関係が存在する。教員は学生等に大きな影響力を及ぼす存在である。その権力は、当然のことながら、教育という目的の実現のために各教員に付託されたものである。教育には厳しさが必要だが、それは学生を対等な人格として認め、その人格を尊重することが前提である。教員が学生に与える、教育・指導・評価は、あくまで厳正・中立・公正・公平なものでなければならない。権力のあるところには常に濫用の危険が存在する。教育・研究のために多くの自由と自律性が保障されている大学においてはなおさらである。」

(2)文部科学省の積極的な対応

大学という閉ざされた空間の中では、実際には以前からセクハラ、パワハラなどが発生していたことでしょう。若い学生や立場の弱い若手研究者が声を上げることが難しかったのではないしょうか。

文部科学省は、平成11年頃よりセクハラ防止規程の制定を進めるほか、民間企業のハラスメント対策進展を追いかける形で様々な対策を打ってきています。

これにより、従来隠されていた問題が、徐々に明るみに出てきたと思われます。

3、アカハラへの対策

アカハラへの対策

アカハラに対しては、各大学などで様々な対策が取られています。

(1)具体例

①日本大学

日本最大の学生数の同大学のハラスメント対策です。

学内外に一次相談窓口を設置し、そこで解決しなければ上部の複数の委員会などでの調査が行われる体制になっています。

このような相談体制については、それぞれの大学がホームページで公表していますので、ぜひ一度ご確認ください。

相談案内

出典:日本大学ホームページ相談案内相談の流れ

②国立大学のハラスメント相談窓口

一般社団法人国立大学協会ホームページにて国立大学ハラスメント相談窓口のリンクが設けられています。各国立大学のウェブサイト内に掲載されているハラスメント相談窓口等の情報をご覧になれます。

(2)文部科学省の資料で掲載されている事例

文部科学省の資料で、外部機関を活用した防止取組例が3つ紹介されています。

(出典:文部科学省文科省等におけるハラスメント対策に関する取組(高等教育局大学振興課説明資料)

4、アカハラに遭ったときにどうすべきか

アカハラに遭ったときにどうすべきか

実際にアカハラに遭ったと思ったときにはどうすればよいでしょうか。

まず大切なのは、自分だけで抱え込まないことです。相談窓口を把握して早めに相談してください。適切な行動はあなただけでなく、大学を変えていくことにつながるでしょう。

(1)証拠を集める

証拠を集めることが第一です。暴言の類なら録音しましょう。

長時間研究室に拘束されたのなら、その日時や指導教官からの指示の内容等をともかくメモしておいてください。周りに目撃者がいるならば、いざというときに協力を求めましょう。

(2)大学の相談窓口・防止規定をしっかり見て、相談してみること

大学のホームページには、相談窓口などが記載されているはずです。なお、外部向けホームページでなく、学内関係者向けホームページに掲載されていることもありますので注意してみてください。その上で、ともかく早めに相談窓口に相談に行ってみてください。

すぐに解決に至ることは多くないかもしれません。しかし、少なくとも、問題が発生しているという状況を相談窓口に伝えておくことが、例えば、状況が悪化したときなどに大事な決め手になるかもしれません。自分の中で留めずに定められた機関に相談しておれば、それが後日の証拠にもなりうるのです。

我慢に我慢を重ねて耐えられなくなってから相談窓口に駆け込んでも、相談窓口としてはすぐに適切な行動は取れないでしょう。早めに相談しておれば、様々な選択肢を提示していただけるかもしれないのです。

(3)体調などの問題があれば病院を受診する

このような受診の結果もハラスメント認定の有力な証拠になります。多少の不調だからなどと我慢せずに、まず受診してみましょう。

例えば、ご自身の精神的な疾病等の問題でハラスメントと思い込んでいた、そのようなことも考えられます。要するに原因を第三者専門家の目で客観的に見てもらうことです。

(4)外部機関への相談

特定非営利法人アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)

大学、短期大学、高専、研究所など研究・教育活動の場や関連施設に在学、在籍、勤務する人に対して、ハラスメントのない環境を確保するための事業を行っている団体です。

アカハラについての有効な相談窓口です。

(5)弁護士の活用も視野に

以上のほか、弁護士との相談は非常に有効です。加害者あるいは大学との交渉、さらには損害賠償訴訟などを考えるなら、徹頭徹尾あなたの味方になりワンストップで対応できるのは弁護士だけです。

アカハラといっても、民間企業のハラスメントと本質的に代わることはなく、人事労務に詳しい弁護士が頼りになるでしょう。

5、1つご注意〜ピントはずれなアカハラもある

1つご注意〜ピントはずれなアカハラもある

(例)

授業中に私語をして教授に叱られた、あるいは、教授がアカハラを恐れて学生を叱らない。

このような事例があるようです。

アカハラはあくまで、大学の構成員による教育・研究上の権力の濫用により他の構成員に、修学・教育・研究や職務遂行上の不利益を与えたり、精神的・身体的損害を与える行為なのです。

授業中の私語を叱るのは修学・教育上の必要な行為であり、アカハラには該当しません。声を荒らげればアカハラだ、と錯覚している人も見受けられますが、間違いです。

もちろん程度にもよりますが、修学・教育・研究上の必要な行為を必要な限りで行うのであれば、ハラスメントにはなりません。

このあたりは民間企業でもパワハラ問題で、時折見受けられる初歩的な誤解です。

まとめ

大学など高等教育機関での研究教育活動は国家の礎です。

それを妨げる不適切なアカハラにはしっかりと対応する必要があります。大学の相談機関や外部機関、弁護士をためらわずに活用してください。

それがあなたを救い、大学を真の研究教育の場とし、この国の未来をひらくことに繋がります。

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