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運送業でも残業代を請求できる?正しい残業代の計算と請求方法を解説

運送業でも残業代を請求できる?正しい残業代計算と請求方法を解説

運送業では、長距離トラックの運転手のように長い距離を運転するという業務の性質上、一般の労働者に比べて労働時間が長くなる傾向にあります。また、インターネットショッピングやフリマサイトの普及により、運送業者を利用する需要が高まっている一方、運送業では人材が不足しているため、一人一人のドライバーにかかる負担が増えているのが実情です。

もっとも、運送業であっても所定労働時間を超過した分については、会社に対して残業代を請求することができる可能性があります。しかし、運送業では、みなし残業代制度や歩合制など特殊な賃金体系が採用されていることが多く、それによって残業代は請求できないと誤解している方も多くいます。

今回は、

  • 運送業で残業代が未払いになる理由
  • 運送業での各賃金体系における残業代の計算方法
  • 運送業で会社に残業代を請求する際のポイント

について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事が、運送業で働く労働者の方のご参考になれば幸いです。

また、残業代がもらえないかも…?とお悩みの方は以下の関連記事もご覧ください。

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1、運送業で残業代が未払いになるのは歩合制だから?その理由とは

運送業では、みなし残業代制度や歩合制度などの賃金体系が採用されていることが多いといえます。

以下のような賃金体系では、残業代を請求することができないと誤解している労働者の方が多いと思われますが、残業代を請求することが可能な場合もあります。

(1)みなし残業代制度をとっている

みなし残業代制度とは、一定時間分の時間外労働などに対して、毎月定額の残業代を支払う制度のことをいいます固定残業代ともいいます。たとえば、「基本給30万円、40時間分の残業代として8万円を支給する」という賃金体系がこれにあたります。

みなし残業代制度は、会社側には、面倒な残業代の計算を簡略化できるというメリットがあり、労働者側にもみなし残業代としての残業時間より労働時間が少なくても毎月定額の残業代を受け取ることができるというメリットがあります。 

しかし、みなし残業代制度をとっているからといって、一切残業代の支払いをしなくてもよいというのは間違った理解です。みなし残業代制度は、時間外労働があらかじめ予定している残業時間の範囲内であれば、残業代を支払わなくてもよいという制度であり、予定している残業時間を超えて時間外労働をした場合には、みなし残業代に加え超えた時間分の時間外労働に対して残業代を支払う必要が当然あります。

会社側から「みなし残業代を支払っているから残業代は支払い済みだ」と言われても、それは誤りです。

(2)歩合制をとっている

歩合制とは、個人の成績や売り上げよって給料の額が決まる制度のことをいいます。

歩合制の賃金体系には、以下の①と②の二つの形式が考えられます。しかし、②については、最低賃金を割り込む可能性がある賃金体系であるため原則違法とされています。

したがって、運送業でとられている歩合制としては、①の固定給+歩合給の賃金体系であるといえるでしょう。

①固定給+歩合給(固定給と成績に応じた歩合給が支払われる給与体系)

②完全歩合給(固定給はなく、成績に応じた歩合給のみが支払われる給与体系)

このような歩合制がとられていたとしても、1日8時間または週40時間の法定労働時間を超えて働いた場合には、残業代が発生します。歩合制だからといって残業代を支払わなくてもよいわけではありません。 

このことは、歩合給のタクシー運転手が残業代を請求した事案において、最高裁判所が会社に対して残業代の支払い義務があることを認めたことからも明らかです。

最判平成6年6月13日(高知県観光事件)

タクシー運転手に対する賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じて支払われている場合に、時間外及び深夜の労働を行った場合にもその額が増額されることがなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないときは、右歩合給の支給によって労働基準法(平成五年法律第七九号による改正前のもの)三七条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることはできない。

(3)事業場外みなし労働時間制をとっている 

事業場外みなし労働時間制とは、実労働時間の把握が難しい業務に従事している場合に、実際に働いた時間ではなく、所定労働時間働いたものとみなす制度のことをいいます(労基法38条の2)

たとえば、外回りの営業職などのように実労働時間の把握が難しい業務では、実際に6時間しか働いていなかったとしても、所定労働時間の8時間働いたものとみなして賃金が支払われる場合がこれに当たります。 

事業場外みなし労働時間制は、労働時間の算定が困難である業種でしか採用することができません。運送業については、運転日報や走行キロ数などから労働時間を算定することができるため、原則として事業場外みなし労働時間制を採用することはできないといえます。

そのため、運送業では事業場外みなし労働時間制をとっているという理由は、残業代を支払わない理由とはなりません。

(4)業務委託契約、請負契約である

使用者に対して残業代の支払いが義務付けられているのは、使用者と労働者との間に労働契約関係があるからです。業務委託契約や請負契約を締結している場合には、労働基準法の適用がある「労働者」にはあたりませんので、たとえ長時間労働を強いられていたとしても残業代を請求することはできません。

しかし、後述するように、形式的には業務委託契約や請負契約であっても、その実質が労働契約であるといえる場合には、残業代を請求することが可能です。会社側が残業代の支払いを免れる手段として、形式的に業務委託契約や請負契約という名称を使うこともありますので注意が必要です。

2、運送業における「残業」の概念〜これって労働時間?

トラック運転手の場合、荷待ち時間が休憩時間に含まれてしまい、荷待ち時間に対して給料が支払われないということもあります。

労働基準法上、「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。荷待ち時間は、荷物が生じたらすぐに対応しなければならない状態で待機しなければなりません。そのため、荷待ち時間は、使用者の指揮命令から完全に開放された自由時間ではなく、その時間も会社の命令によってその場に留まることを強いられているのですから、使用者の指揮命令下に置かれている時間と言え、労働基準法の労働時間に該当します。渋滞中の時間もその場に留まることを強いられていることから同様です。

したがって、荷待ち時間や渋滞中の時間も労働時間に含まれることになります。

3、様々なケースでの運送業の残業代を計算してみよう

採用されている賃金体系によって残業代の計算方法が異なってきます。各ケースでの運送業の残業代は、以下のように計算します。

(1)みなし残業代制度

月給20万円、月平均所定労働時間が160時間、みなし残業代として30時間分として5万円が支給されている労働者がいたとします

この労働者のある月の時間外労働が40時間(うち深夜労働20時間)、休日労働が8時間であった場合には、いくらの残業代を請求することができるでしょうか。なお、就業規則でみなし残業代は、深夜労働・休日労働を除く時間外労働にのみ適用されると規定されているものとします。

この労働者の場合、30時間分のみなし残業代が支払われていますので、月の時間外労働が30時間以内であれば、残業代を支払う必要はありません。しかし、上記の事例では、みなし残業代として予定されている30時間を超えていますので、以下のとおり残業代を支払う必要があります。

時間あたりの基礎賃金20万円÷160時間=1250円

時間外労働分1250円×10時間×1.25(割増率)=1万5625円

深夜労働分1250円×20時間×0.25(割増率)=6250円

休日労働分1250円×8時間×1.35(割増率)=1万3500円

なお、みなし残業代制度は、みなし残業代にあたる部分と固定給とが明確に区別されているなどの要件を満たしていない限り無効と判断される可能性があります。その場合には、みなし残業代が支払われていたとしても、別途残業分すべての請求をすることが可能になります。

(2)歩合制

固定給が20万円、歩合給が15万円、月平均所定労働時間が160時間、総労働時間が200時間、時間外労働が40時間であった場合には、いくらの残業代を請求することができるのでしょうか。

歩合制の賃金体系が採用されている場合の残業代については、固定給部分と歩合部分を分けて計算することになります。

①固定給部分

時間あたりの基礎賃金20万円÷160時間=1250円

残業代1250円×40時間×1.25(割増率)=6万2500円

②歩合給部分

時間あたりの基礎賃金15万円÷200時間=750円

750円×40時間×0.25(割増率)=7500円

③合計

6万2500円+7500円=7万円

(3)事業場外みなし労働時間制

運送業については、原則として事業場外みなし労働時間制を採用することはできません。そのため、事業場外みなし労働時間制を採用していることを前提に残業代が未払いとなっていた場合には、以下の計算で本来支払われるべきであった残業代を請求することが可能です。

1時間あたりの賃金(月給÷月平均所定労働時間)×残業時間×割増率

(4)業務委託契約、請負契約

業務委託契約や請負契約の名称で会社と契約を締結していたとしても、その実態が労働契約である場合には、労働基準法が適用され、残業代を請求することが可能になります。労働基準法が適用される「労働者」であるかどうかは、契約の形式ではなく、使用者との間に「使用従属関係のもとにおける労務の提供」があるかどうかで判断することになります。

たとえば、仕事の依頼や業務指示に対して諾否の自由がない、勤務場所・勤務時間が拘束されている、就業規則・服務規律の適用がある、機械・器具が会社負担で用意されているなどの事情がある場合には、使用従属関係があると認められやすいでしょう。

使用従属関係が認められた場合には、以下の計算で、本来支払われるべきであった残業代を請求することが可能です。

1時間あたりの賃金(月給÷月平均所定労働時間)×残業時間×割増率

4、運送業で会社に残業代を請求する際のポイント

運送業で会社に残業代を適切に請求するには、以下のようなポイントがあります。

(1)労働組合があればまずは労働組合へ相談

未払いの残業代がある場合には、会社に対して請求していくことになります。しかし、立場の弱い労働者個人が会社と交渉したとしても十分な成果が得られるとは限りません。そのため、労働組合がある場合には、労働組合に相談をすることをおすすめします。

労働組合であれば団体交渉によって会社と対等に交渉することができ、未払いの残業代だけでなく職場環境の問題についても改善を図ることが可能です。

ただし、最近は、企業別の労働組合の組織率や影響力が低下しているため、労働組合が機能していないところもあります。そのような場合には、同僚などと協力して複数人で会社と交渉するとよいでしょう。

(2)残業の証拠を揃える

残業代を請求する場合には、残業時間を証拠により立証することが重要となります。運送業の労働者が残業代を請求する場合には、以下のような証拠を集めるとよいでしょう。

  • タイムカード
  • 業務日報
  • デジタルタコグラフ、タコメーター
  • 車両無線の記録
  • 高速道路料金の領収書、ETCの利用明細
  • アルコール検知の実施記録
  • 業務報告のメール
  • ドライブレコーダーの記録
  • 始業時間及び終業時間のメモ、日記など

(3)残業代は法律に従った計算が重要

運送業の場合には、歩合制やみなし残業代など特殊な賃金体系がとられている場合が多いため、残業代の計算方法も通常の月給制の場合と比べて複雑なものになります。残業代と併せて深夜労働や休日労働もしている場合には、割増率も変わってきますので、さらに複雑な計算になります。

残業代の計算は、法律に従って正確に計算しなければなりませんので、ご自身で計算することができないような場合には、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。

(4)会社側の反論を想定し、再反論を用意

正確に計算した残業代を会社に請求したとしても、会社が素直に支払いに応じてくれるとは限りません。みなし残業代制度や歩合制を採用しているから残業代の支払いは不要だと誤解している経営者の方も多くいます。

そのため、会社側から予想できる反論を想定して、あらかじめ再反論を準備しておくことが重要です。会社側の主張を覆すだけの十分な再反論の材料をあらかじめ準備しておくことで、スムーズに話し合いを進めることができます。

(5)残業代請求権には消滅時効あり

一定期間権利を行使しない状態が続くと権利自体が消滅してしまいます。これを「消滅時効」といいます。残業代についても、未払いのまま放置していると一定期間で消滅し、会社に対して請求することができなくなります。 

従来は残業代の時効期間は2年であるとされていましたが、民法が改正されたことに伴い、労働基準法が改正され、2020年4月1日以降に支払われる残業代については、当面3年で時効になるとされています。

長期間未払いになっている残業代がある方は、早めに請求するようにしましょう。

(6)違法な長時間労働のケースも

働き方改革の一環として、2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)から36協定の特別条項による時間外労働の上限規制がスタートしました。しかし、人材不足や長時間労働が常態化している運送業に対しては、経過措置が設けられ、時間外労働の上限規制は2024年4月1日からスタートするとされています。

そうすると、現時点では、どれだけ労働時間を超過しても問題ないと考えてしまいますが、実は、厚生労働省の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」という告示で労働時間の上限が定められています。厚生労働省の告示によると、トラック運転手の場合、休憩時間や手待ち時間などを含んだ拘束時間は、原則として1日13時間、1か月293時間までが上限であるとされています。

運送業の労働時間の上限を超えて労働させられている場合には、残業代を請求することができることは当然ですが、それによって心身に重大な支障を来した場合には、慰謝料を請求することができる可能性もあります。

5、運送業での残業代請求は弁護士へ相談してスムーズに解決!

運送業で残業代を請求しようと考えている方は、弁護士に相談することをおすすめします。

(1)正確な残業代計算ができる

通常の賃金体系が採用されている会社であっても、残業代の計算はとても複雑です。みなし残業代制度や歩合給では、通常と異なる計算方法をする必要があり、正確な計算をするためには労働関係法規の正確な理解が不可欠となります。

長期間残業代が未払いとなっているケースでは、請求できる残業代も高額になっている可能性があります。曖昧な知識で計算をすると、本来請求できる残業代を見落としてしまう危険もあります。そのため、残業代を請求する際には、正確な残業代計算のできる弁護士に依頼することが最善の方法といえます

(2)会社との交渉を一任できる 

会社と比べて労働者個人は、非常に弱い立場にあります。労働者個人から会社に対して残業代を請求したとしても、まともに取り合ってくれないことも多くあります。

しかし、法律の専門家である弁護士が労働者の代理人として会社と交渉することによって、会社もきちんと交渉に応じてくれることが期待できます。弁護士から法的根拠に基づき説得的に労働者の権利を主張することによって、早期に残業代の支払いに応じてくれる可能性があります

もちろん、交渉で解決できないときでも労働審判や訴訟まで弁護士がすべて対応することができます。

労働者としては、会社と直接交渉する必要がなく、弁護士にすべて任せておくことができますので精神的負担も軽減され、とても安心です

(3)証拠収集を的確に行うことができる 

残業代請求をするためには、どのくらい残業をしたのかを証拠によって立証する必要があります。事案によって必要となる証拠は異なってきますので、どのような証拠が必要になるかについては、労働問題の経験が豊富な弁護士でなければ判断することが難しいです。

弁護士であれば、適切に証拠の選択を行うことができますし、会社側の証拠の隠滅のおそれがある場合には、証拠保全の手続きを行うこともできます

まとめ 

長時間労働が常態化している運送業では、会社に対して請求することができる残業代は、高額になっていることがあります。時効によって残業代を請求することができる権利を失う前に、早めに弁護士に相談をし、労働者としての正当な権利を実現しましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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