アスベストによる健康被害で給付金がもらえるの?
この記事をご覧になっている方々は、どこかでアスベスト被害に対する給付金の話を聞き、お調べになっているのではないでしょうか。
そもそもアスベストとは、石綿とも呼ばれる鉱物の一種で、熱や音、電気を遮断し、湿気や細菌にも強いなどの様々な特徴を持っていたことから、過去、多くの建築物に利用されていたものです。
今では、アスベストは、長期間吸い込むことによって種々の健康被害を起こすことが知られるようになり、新規に利用されることはなくなりました。
しかし、現実に、アスベストによる健康被害を受けた方やその遺族の方は多く、その方々に対して、一定の給付金を支払う制度として「アスベスト健康被害救済制度」が作られました。この制度を利用し、救済給付金を受給することによって、一定程度ではありますが、アスベストによる健康被害の回復を図ることができるのです。
今回は、
- アスベスト被害に関し受け取ることのできる給付金
- アスベスト健康被害救済制度による給付金の要件
- アスベスト健康被害救済制度による給付金の申請方法
などについて解説します。
この記事が、アスベスト健康被害救済制度の給付金の申請を検討している方のご参考になれば幸いです。
目次
1、アスベスト被害に関し受け取ることのできる給付金とは?
アスベストによる健康被害を受けたときに取りうる手段は複数ありますが、その中の一つに、アスベスト健康被害救済制度を利用して給付金の支払いを受けるという方法があります。この制度は、労災保険による支給が受けられない方を対象としています。
アスベスト健康被害救済制度とは、独立行政法人環境再生保全機構が管轄し、アスベストによる健康被害を受けた本人およびその遺族に対して、医療費などの給付金を支給する制度のことをいいます。
アスベストを原因とする中皮腫や肺がんなどの疾病は、アスベストにばく露してから数十年という長い潜伏期間を経て発症するものです。そのため、健康被害の発症の原因となった事業者を過去に遡って特定し、賠償を受けるということが非常に困難で、何ら補償を受けられないまま亡くなってしまうという方が多く存在していました。
そこで、そのような方や遺族を対象に、迅速な救済を図る目的で、平成18年3月27日から、「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づき開始された制度が、アスベスト健康被害救済制度です。
2、アスベスト健康被害救済給付金の対象となる指定疾病
健康被害救済制度の救済給付金の対象となる疾病は、アスベストを吸入することによって発症した以下の4種類の疾病です。
アスベスト健康被害救済制度による給付金を受けるためには、医師の診断書等によって、以下の指定疾病に該当することを証明しなければなりません。
(1)中皮腫
中皮腫は、内臓の表面を覆っている膜(中皮)を構成する中皮細胞から発生する悪性の腫瘍のことをいいます。
中皮腫であると判断することは容易ではないとされているため、エックス線検査、CT検査のほか、病理組織診断、細胞診断等の精密な検査を経て、医師に診断をしてもらうことが必要です。
(2)肺がん
肺がんは、アスベスト以外にも喫煙などの要因で発症することがあります。アスベスト健康被害救済制度の給付金を受けるためには、原発性肺がん(肺そのものから発生したがんのことをいい、他の臓器から転移したものでない肺がんを指します)であって、以下の①から③のいずれかに該当することが必要になります。
①胸部エックス線検査または胸部CT検査を行うことで、胸膜プラーク所見が確認され、かつ、胸部エックス線検査でじん肺法に定める第1型以上と同様の肺線維化所見があり、胸部CT検査においても肺線維化所見が認められること
②胸部エックス線写真や胸部CT写真から、広範囲の胸膜プラーク所見が認められること
③肺の内部に、一定以上の割合で石綿小体または石綿繊維の所見があること
(3)著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
石綿肺とは、アスベストの吸入によって肺が繊維化する「じん肺(肺線維症)」という病気の一種です。
アスベスト健康被害救済制度の給付金の対象となる石綿肺は、以下の①から④のすべてを満たすものが対象です。
①大量のアスベストばく露があること
アスベストばく露作業への従事状況を確認したり、石綿小体計測結果を確認したりして総合的に評価します
②胸部単純エックス線画像でじん肺法に定める第1型以上と同様の肺線維化所見があること
補助的に胸部のCT画像も用いることになります。
③著しい呼吸機能障害があること
呼吸機能検査の結果、肺活量の正常予測値から一定程度下回る結果が出た場合、著しい呼吸機能障害が認定されます。
④他の疾患と鑑別ができること
アスベスト以外の原因によるびまん性間質性肺炎・肺線維症などとの鑑別が必要です。
(4)著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
びまん性胸膜肥厚とは、臓側胸膜(肺を包む膜)の慢性線維性胸膜炎のことをいいます。
アスベスト健康被害救済制度の給付金の対象となるびまん性胸膜肥厚は、以下の①から④のすべてを満たすものが対象です。
①大量のアスベストばく露があること
アスベストばく露作業への従事状況などから大量のアスベストばく露があったかを確認します。びまん性胸膜肥厚の疾病では、アスベストばく露作業への従事期間が概ね3年以上あることが必要です。
②臓側胸膜に一定以上の肥厚の広がりがあること
胸部単純エックス線画像上で、側胸壁の1/2若しくは1/4以上の肥厚が確認できることが必要です。
③著しい呼吸機能障害があること
上記の石綿肺と同様の基準となります。
④他の疾患と鑑別ができること
アスベスト以外の原因による、感染症、膠原病、胸部手術後の後遺症などとの鑑別が必要になります。
3、アスベスト健康被害救済給付金の給付金額
アスベスト健康被害救済制度の指定疾病にかかり、アスベスト健康被害救済制度の認定を受けた場合には給付金の支給を受けることができます。
給付金の種類については、療養中かどうかによって、以下のとおり異なってきます。
(1)指定疾病で療養中の方への給付
①医療費
アスベスト健康被害救済制度の認定を受けた方が、認定疾病の治療を受けるにあたって支払った医療費が支給されます。対象となる医療費は、健康保険を利用し、自己負担が発生した部分です。
なお、医療費の請求は、医療費の支払いをした日の翌日から2年以内という請求期限がありますので注意が必要です。
②療養手当
医療費以外の入通院に伴う諸経費や近親者などによる介護費用が療養手当として支給されます。
療養手当は、療養を開始した日の翌月から、支給事由が消滅した日の属する月まで毎月10万3870円が支給されます。
(2)指定疾病で療養中の方が救済制度で認定後に死亡したときの給付
①葬祭料
アスベスト健康被害救済制度の認定を受けた方が、認定疾病で死亡した場合には、葬祭を行う方に対して、19万9000円の葬祭料が支給されます。
葬祭料は、死亡した日の翌日から2年以内という請求期限があります。
②未支給の医療費など
アスベスト健康被害救済制度の認定を受けた方が、認定疾病で死亡した場合において、本人に支給すべき医療費や療養手当が未支給となっていたときには、遺族に対して未支給の医療費などが支払われます。
対象となる遺族は、亡くなった方と生計を同じくしていた二親等内の親族のうち優先順位(①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹の順)の高い方です。
なお、未支給の医療費の請求は、医療費の支払いをした日の翌日から2年以内という請求期限があります。
③救済給付調整金
アスベスト健康被害救済制度の認定を受けた方および遺族に支給された上記医療費と療養手当の合計額が、280万円に満たない場合には、その差額が遺族に支給されます。対象となる遺族は、未支給の医療費支給の遺族と同じです。
なお、救済給付調整金の請求期限は、死亡した日の翌日から2年以内です。
(3)救済制度の申請前に中皮腫、肺がんにより死亡したときの給付
①特別遺族弔慰金・特別葬祭料(平成18年3月26日以前に死亡した場合)
「石綿による健康被害の救済に関する法律」が施行される前に指定疾病で死亡したときには、その遺族に対して、以下の給付金が支給されます。
- 特別遺族弔慰金 280万円
- 特別葬祭料 19万9000円
なお、特別遺族弔慰金・特別葬祭料の請求期限は、令和4年3月27日です。
②特別遺族弔慰金・特別葬祭料(平成18年3月27日以降に死亡した場合)
「石綿による健康被害の救済に関する法律」が施行後に、アスベスト健康被害救済制度の認定を受けずに指定疾病で死亡したときには、その遺族に対して、以下の給付金が支給されます。
- 特別遺族弔慰金 280万円
- 特別葬祭料 19万9000円
なお、特別遺族弔慰金・特別葬祭料の請求期限は、死亡した日の翌日から15年以内です。ただし、中皮腫または肺がんによって平成18年3月27日から平成20年11月30日までに亡くなった場合の請求期限は、令和5年12月1日です。
(4)救済制度の申請前に著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺やびまん性胸膜肥厚により死亡したときの給付
①特別遺族弔慰金・特別葬祭料(平成22年6月30日以前に死亡した場合)
「石綿による健康被害の救済に関する法律」の改正政令施行日より前に指定疾病で死亡したときには、その遺族に対して、以下の給付金が支給されます。
- 特別遺族弔慰金 280万円
- 特別葬祭料 19万9000円
なお、特別遺族弔慰金・特別葬祭料の請求期限は、令和8年7月1日です。
②特別遺族弔慰金・特別葬祭料(平成22年7月1日以降に死亡した場合)
「石綿による健康被害の救済に関する法律」の改正政令施行日以降に指定疾病で死亡したときには、その遺族に対して、以下の給付金が支給されます。
- 特別遺族弔慰金 280万円
- 特別葬祭料 19万9000円
なお、特別遺族弔慰金・特別葬祭料の請求期限は、死亡した日の翌日から15年以内です。
4、アスベスト健康被害救済給付金の申請方法
アスベスト健康被害救済制度の給付金の申請から認定までの具体的な流れは、以下のとおりです。
(1)申請から認定までの流れ
独立行政法人環境再生保全機構、保健所などの申請窓口に必要書類を提出して申請を行います。
申請にあたっては、アスベストばく露が原因であることを示す医学的資料の提出が必要になりますので、主治医に診断書や検査所見などの作成を依頼しましょう。
なお、申請に必要な書類については、独立行政法人環境再生保全機構のホームページ上で公開されていますので、それを利用するとよいでしょう。
認定を受けるにあたっては、環境大臣の医学的判定を経る必要がありますので、申請から認定までは、最短でも3か月程度はかかります。
(2)労災給付との関係について
アスベスト健康被害救済制度は、労災保険の対象とならない方に対して救済給付を行う制度です。そのため、労災給付制度による給付金の支給を受けている方は、アスベスト健康被害救済制度を利用することはできません。
アスベスト作業をしていた場所の周辺住民やアスベスト作業に従事する労働者の家族や、労災給付の時効期間が経過してしまって労災保険制度の利用ができない方などが、アスベスト健康被害救済制度の対象となります。
なお、亡くなられた労働者等の遺族で、労災保険の遺族補償給付の支給を受ける権利を時効で失ってしまった方には、最大1200万円の遺族特別一時金と、毎年240万円~330万円の特別遺族年金を支給するということも、このアスベスト健康被害救済制度の中に定められています。
5、アスベスト健康被害救済給付金以外の補償〜国への損害賠償請求
アスベストの健康被害が発生した大きな原因の一つは、国がアスベストの利用について適切な措置を怠ったことです。
そのため、アスベストによる健康被害が発生した方およびその遺族は、アスベスト健康被害救済制度による補償に加えて、国に対して損害賠償請求をすることが可能です。
アスベストによる健康被害が発生した方およびその遺族は、上記のとおり、アスベスト健康被害救済制度の給付金によって一定の補償を受けることができますが、上記の給付金だけでは、被害の救済として十分であるとはいえません。国に対しての損害賠償請求も、積極的に行うべきです。
国に対して損害賠償を求める訴訟を提起し、国が定める一定の要件を満たす場合には、病状に応じて、国から、以下の賠償金が支払われることになります。
アスベストの症状(疾病) | 賠償金額 | ||
石綿肺 (じん肺管理区分の管理2) | 合併症がない場合 | 550万円 | |
合併症がある場合 | 700万円 | ||
石綿肺 (じん肺管理区分の管理3) | 合併症がない場合 | 800万円 | |
合併症がある場合 | 950万円 | ||
石綿肺(じん肺管理区分の管理4) | 1150万円 | ||
肺がん | 1150万円 | ||
中皮腫 | 1150万円 | ||
びまん性胸膜肥厚 | 1150万円 | ||
死亡 | 石綿肺(管理2・3で合併症なし) | 1200万円 | |
石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚 | 1300万円 | ||
国に対する賠償請求といっても、特に難しく考える必要はありません。裁判という手続は必要ですが、上記のとおり手続要件も細かく決められています。
一度、アスベスト問題に詳しい弁護士に無料相談し、詳細を確認してみてはいかがでしょうか。
まとめ
アスベスト健康被害救済制度は、労災保険制度による給付金を受けられない方やその遺族に対して、一定の補償を行う制度です。労災保険の対象外となったとしても、アスベスト健康被害救済制度の給付金を受けることによって一定の被害の回復を図ることができます。
アスベスト健康被害救済制度の給付金は、あくまでも最低限度の補償ですので、アスベストの健康被害が生じた方やその遺族の方は、弁護士と相談しながら、国に対する損害賠償請求を検討するとよいでしょう。