アスベスト(石綿)健康被害を受けた方や、そのご遺族の方は、国や使用者、建材メーカーに訴訟提を起して賠償金を受け取ったり、国の救済制度を利用することで給付金を受け取れる可能性があります。
しかし、アスベスト関連の裁判や給付金制度は種類が多く、それぞれの受給要件や受給手続も異なるため、賠償金を請求あるいは給付金を申請したくても、どうしてよいか分からずにお困りの方も多いのではないでしょうか。
適切な救済が受けられず、泣き寝入りしている方々も少なくないと思われます。
アスベスト健康被害は、国や企業が適切な措置をとらなかったことで生じたものです。犠牲となった方々は、せめて金銭的に救済されるべきです。
そこで今回は、
- アスベスト健康被害で受けられる救済の種類
- アスベスト健康被害で受けられる救済ごとの受給要件
- アスベスト健康被害で受けられる救済ごとの受給手続
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。
アスベスト健康被害に苦しんでいらっしゃる方々にとって、この記事が参考になれば幸いです。
目次
1、アスベスト健康被害で受けられる救済の種類
アスベスト健康被害で受けられる救済は、国の救済制度による救済と、訴訟(裁判)による賠償金による救済の2種類に大別されます。
国の救済制度としては、(1)労災保険給付、(2)石綿健康被害救済給付、(3)建設型アスベスト給付金があります。
訴訟による救済としては、(4)工場型アスベスト国家賠償請求(国に対する訴訟)、(5)使用者や建材メーカーなど対する損害賠償請求(企業に対する訴訟)があります。
2、アスベスト健康被害で受けられる救済ごとの受給要件
それぞれの救済ごとの受給要件について解説していきます。
(1)労災保険給付
労働者(いわゆるサラリーマンのような会社と雇用契約を締結している場合)の方、労災保険に特別加入していた個人事業主の方、そのご遺族の方は、労災保険給付を受給できる可能性があります。
アスベスト関連疾患に罹患したことによる労災保険給付の受給要件は、概ね以下のとおりです。
- 石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水のいずれかに罹患したこと
※各疾病ごとに認定要件があります。
- 業務中に、アスベスト(石綿)にばく露する作業に従事したことによって、これらの疾病に罹患したと認められること(業務上の疾病であること)
- 時効が成立していないこと
労災保険給付の補償内容や時効期間などについては、こちらの記事で詳しく解説していますので併せてご参照ください。
なお、労災保険の遺族補償給付請求権を時効によりうしなった場合には、特別遺族給付金という制度もあります(令和4年8月現在)。
(2)石綿健康被害救済給付
石綿健康被害救済給付とは、アスベスト健康被害で労災保険給付を受けられない方を対象とする、石綿健康被害救済法に基づき設けられた給付金制度です。
労災保険に特別加入していなかった個人事業主の方や、労働者であったが時効の関係で労災保険給付を受けられなくなった方、仕事以外でアスベストにばく露したため労災保険給付の対象とならない方、そのご遺族の方も、次の要件を満たす場合は、この救済給付金の受給を申請できます。
石綿健康被害救済給付の受給要件は、概ね以下のとおりです。
- アスベスト(石綿)を吸ったことによって肺がん、中皮腫、著しい呼吸困難を伴う石綿肺、著しい呼吸困難を伴うびまん性胸膜肥厚のいずれかに罹患したこと
(※良性石綿胸水は対象外です。ご注意ください。)
石綿健康被害救済給付の補償内容等の詳細については、こちらの記事をご参照ください。
(3)建設型アスベスト給付金
令和3年6月9日に、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立し、令和4年1月19日に完全施工されました。この法律に基づく給付金は一般的に建設型アスベスト給付金と呼ばれています。
建設現場での作業が原因でアスベスト健康被害を受けた労働者の方、個人事業主(一人親方等)の方、そのご遺族の方は、建設型アスベスト給付金を受け取れる可能性があります。
建設型アスベスト給付金の受給要件は、概ね以下のとおりです。
- 昭和47年10月1日~昭和50年9月30日までの間に、アスベスト吹付作業に係る建設業務に従事したこと
または
昭和50年10月1日~平成16年9月30日の間に、一定の屋内作業場において、建設業務に従事したこと
- 上記の作業に従事したことにより、石綿肺、肺がん、中皮腫、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水に罹患したこと
- 給付金等の請求期限内であること
給付金の額は、550万円~1300万円です。
給付金額や請求期限など、詳細はこちらの記事をご参照ください。
(4)工場型アスベスト健康被害に関する国家賠償請求(国に対する訴訟)
アスベスト(石綿)工場での作業が原因でアスベスト健康被害を受けた方、そのご遺族の方は、国家賠償請求を行うことで、賠償金を受け取れる可能性があります。
工場型アスベスト国家賠償請求が認められるための要件は、概ね以下のとおりです。
- 昭和33年5月26日~昭和46年4月28日の間に、アスベストを取り扱う工場等で作業に従事したこと
※局所排気装置を設置すべきであった工場等であり、局所排気装置を設置することによって石綿粉じんにばく露することを相当程度防ぐことができたことが必要とされています。
- 上記作業に従事したことにより、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚に罹患したこと
(※良性石綿胸水は対象外です。ご注意ください。)
- 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること
賠償金額は550万円~1300万円(遅延損害金及び弁護士費用を除く)となっています。
賠償金額や時効期間等、詳細はこちらの記事をご参照ください。
(5)使用者や建材メーカーなど対する損害賠償請求(企業に対する訴訟)
上記(1)~(4)は、すべて国からの給付金・賠償金ですが、適切な措置をとることなくアスベストにばく露する危険性のある作業に労働者等を従事させた使用者や、アスベスト製建材を供給した企業(建材メーカー)に対しても損害賠償請求ができる可能性もあります。
企業に対する請求が認められる具体的な要件や賠償金の額は、確立しているわけではありません。
3、アスベスト健康被害で受けられる給付金・賠償金ごとの手続
最後に、アスベスト健康被害で受けられる給付金・賠償金ごとの手続について解説します。
(1)労災保険給付の請求手続
①請求に必要な書類を準備する
一般的には、労災保険給付の請求手続は勤務先の会社が行ってくれます。
しかし、会社が協力してくれない場合や会社が倒産している場合などには、被害者の方、ご遺族が、ご自身で必要書類を準備しなければなりません。
主に必要な書類は、各種の給付請求書とアスベスト健康被害に遭われたことを立証するための医学的資料です。
請求書の様式は、給付の種類ごとに異なり、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
医学的資料としては、医師の診断書のほか、レントゲン写真、CT・MRIの画像などが必要となることもあります。
また、じん肺健康管理手帳を持っていたり、じん肺管理区分決定を受けていれば、上記医学的資料の代替資料として提出できる可能性があります。
また、職歴を具体的に説明する書面等の提出も求められることがあります。
②労働基準監督署に申請書類を提出する
必要書類がそろったら、労働基準監督署長宛に申請を行います。
書類の提出先は、最後に石綿ばく露作業に従事した事業場を管轄する労働基準監督署です。郵送で提出することも可能です。
③認定されると給付決定
必要書類提出後は、労働基準監督署において、請求者の罹患した疾患が業務に起因するものかどうかについて、調査と審査が行われます。
審査の結果、請求者の罹患した疾患が業務に起因するものであると認定された場合は、労災保険給付の支給が決定されます。
一方、不支給決定となった場合でも、不支給決定があったことを知った日の翌日ときから3ヶ月以内であれば、労働者災害補償保険審査官に対して、審査請求をすることが可能です。
審査請求が棄却されてしまった場合でも、労働者災害補償保険審査官が作成した決定書の謄本が送付された日の翌日から2ヶ月以内に、労働保険審査会に対して再審査請求をすることが可能です。
これらの手続きを経ても結果が変わらない場合には、裁判(行政訴訟)によって不認定の決定の取消しを求めることも可能です。
個人で必要資料の収集を行ったり、労災給付不支給決定が下された場合に同決定を覆すことは、なかなか難しいこともあります。そのような場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
(2)石綿健康被害救済給付の申請手続
①必要書類を準備する
主な必要な書類は、労災保険給付と同様、各種の給付申請書とアスベスト健康被害に遭われたことを立証するための医学的資料です。
各種の給付申請書としては、「認定申請書」や「療養手当請求書」などがあります。
医学的資料としては、医師の診断書や検査結果報告書のほか、レントゲン写真、CT・MRIの画像などが必要となる場合もあります。
また、アスベスト(石綿)へのばく露状況に関する申告書などが必要となる場合もあります。
上記申請書、診断書、申告書などは、環境再生保全機構のホームページから書式をダウンロードできますので、ご利用ください。
参考:環境再生保全機構|アスベスト(石綿)健康被害救済給付の概要
②保健所等に必要書類を提出する
必要書類の提出先は環境再生保全機構ですが、最寄りの保健所や環境省地方環境事務所に提出して環境再生保全機構へ回付してもらうこともできます。
③認定されると給付決定
必要書類を提出した後は医学的事項について環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて判定を行います。
環境再生保全機構は、環境大臣による医学的判定結果に基づいて認定の可否を判断し、認定等がされた場合は、救済給付の支給が開始されます。
認定結果は、申請者・請求者に対して環境再生保全機構から書面の送付により行われます。
認定されなかった場合でも、その決定があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内に、公害健康被害補償不服審査会に対して審査請求をすることが可能です。
(3)建設型アスベスト給付金の請求手続
①必要書類を準備する
主な必要書類としては、所定の請求書、アスベスト関連疾患に罹患していることを証明する資料、被災者の就業歴やアスベストばく露作業への従事を証明する資料などがあります。
なお、アスベストに関連する疾病について労災の認定を受けている方は、厚生労働省の「労災支給決定等情報提供サービス」を事前に利用することで、必要書類の一部の提出が不要となます。
②厚生労働省へ請求書類を郵送する
必要書類がそろったら、厚生労働省へ給付金を請求します。
請求方法は、必要書類一式を以下の宛先へ郵送することとされています。配達状況や到着したことが確認できるように、簡易書留またはレターパックで送付しましょう。
【書類の送付先】
〒100-8916
東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館
厚生労働省労働基準局労災管理課
建設アスベスト給付金担当 宛
③認定されると給付決定
必要書類提出後は、厚生労働省において、請求が所定の要件を満たしているかの審査が行われます。
審査の結果、要件を満たすと認定された場合は、認定結果が書面で通知され、その後、労働者健康安全機構から指定の口座に給付金が支給されます。
(4)工場型アスベスト国家賠償請求(国に対する訴訟)
国家賠償請求は、裁判のため、訴訟を提起する必要があります。
①証拠を集める
工場型アスベスト訴訟国家賠償請求の場合、原告(労働者やその遺族)が証拠を集めて提出し、国が一定の和解要件を満たすと判断すれば、国は、裁判上の和解に応じ、疾病の種類などに応じて一定の解決金を支払うことになっています。
具体的には、アスベストに関連する疾病に罹患していたことを証明する医学的資 料(医師の診断書、意見書、レントゲン写真、CT・MRIの画像、または、じん肺健康管理手帳、じん肺管理区分決定通知など)や、対象期間内にアスベストを取り扱う工場で一定の作業に従事したことを証明する資料(アスベスト関連作業に従事していたことを証明する会社作成の書面、同僚の陳述書、労災の調査復命書などの資料)を収集することになります。
②訴訟を提起する(裁判を起こす)
訴訟を提起するには、訴状などの各種の書類を作成し、証拠とともに裁判所に提出します。
(5)使用者や建材メーカーなどに対する損害賠償請求(企業に対する訴訟)
国に対する請求や申請とは異なり、使用者や建材メーカーなどの企業に対する請求が認められる要件や、企業の責任が認められた場合にどのくらい賠償金が支払われるかの基準は未だ確立していません。
企業に対する請求は、国に対する請求や申請以上に難しい手続きとなる傾向にあります。
①証拠を集める
アスベストに関連する疾病に罹患していたことを証明する医学的資料や、対象期間内にアスベストを取り扱う工場で一定の作業に従事したことを証明する資料を収集する必要があることは、工場型アスベスト国家賠償請求と同様です。
②企業と交渉する
証拠が収集できたら、訴訟を提起する前に、企業と交渉をすることもできます。
企業の対応は様々で、責任を一切認めようとしない企業も少なくありませんが、一定の和解金を提示してくる企業もあります。
納得できる和解金額の提示があった場合は、裁判外の和解に応じ、賠償金の支払いを受けることもできます。
③裁判を起こす
交渉がまとまらなかった場合は、企業に対して損害賠償請求訴訟を提起することもできます。
訴状などの各種の書類を作成し、証拠とともに裁判所に提出することは、工場型アスベスト国家賠償請求と同じです。
しかし、企業に対する損害賠償請求には、確立した和解要件がなく、企業の対応も様々であることなどから、工場型アスベスト国家賠償請求以上に、責任の存否や賠償金額について激しく争われることが予想されます。
4、アスベスト被害の救済手続で不安があるときは弁護士に相談を
アスベスト健康被害に関する救済は、種類が多く、それぞれ受給要件や手続が異なります。
工場型アスベスト国家賠償請求や企業に対する損害賠償請求といった裁判手続による救済は特に高度な専門知識が要求されるため、弁護士に依頼しなければ的確に進めることは困難です。
また、建設型アスベスト給付金や労災給付金の請求手続も、追加の資料の提出を求められるなど、手続きが煩雑になることもあります。
自分は本当に救済受けられるのか、救済手続を滞りなく行うことができるのかなど、少しでも不安を感じたら、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
請求手続について具体的なアドバイスが受けることができ、依頼すれば請求手続を代行してもらうことも可能です。補償金を請求できるかどうかの調査を事前に無料で行ってくれる法律事務所もあります。
一人で悩んでいる間に、時効等が成立し、請求期限が過ぎてしまう可能性もあります。
国や企業が適切なアスベスト(石綿)対策を行わなかったことで生じた健康被害について、その救済を受けることは被害者の正当な権利です。
アスベスト関連疾患について不安やお悩みを抱えている方は、ぜひご相談ください。