アスベストは、髪の毛の直径よりも非常に細かい繊維であるため、それを吸い込んだ場合には、重篤な健康被害が生じることがあります。アスベストの健康被害に対しては、国の責任を認める最高裁判決も出ておりますので、国に対する賠償請求が可能です。
建設型アスベスト被害については、2020年12月14日の最高裁決定によって国の責任が確定したことにより、建設現場で働いていた労働者についても被害救済の道が開かれることになりました。
そこで今回は、
- 建設型のアスベスト被害とは
- 建設型アスベスト訴訟とは
- 建設型アスベスト被害の対象者・賠償額
などについて解説します。
この記事が、建設現場で働いていたアスベストの被害者の方やそのご遺族の方のご参考になれば幸いです。
目次
1、建設型のアスベスト被害とは
2020年12月14日の最高裁決定によって、建設型のアスベスト被害についても国の責任が認められることになりました。
以下では、従来の「工場型アスベスト被害」と今回新たに認められた「建設型アスベスト被害」について説明します。
(1)アスベスト被害は従来「工場型」
アスベストによって重篤な健康被害が生じることが、広く知られるようになってきました。アスベストの危険性や有害性については、以前から指摘されていたにもかかわらず、その利便性や経済性から国や企業が適切な措置をとらなかったため、多数のアスベスト被害者を生じさせることになったといえます。
そのため、2006年に大阪府和泉南地域のアスベスト工場の元労働者やその遺族の方などが国に対して、アスベストの健康被害によって被った損害の賠償を求める裁判を起こしました。そして、この裁判は、2014年10月9日の最高裁判決において、国がアスベスト規制を怠ったことが違法である旨認められたことによって、アスベスト健康被害に関する国の責任が認められることになりました。これが「大阪泉南アスベスト訴訟」と呼ばれているものです。
大阪泉南アスベスト訴訟では、救済を受けることができる対象は、局所排気装置を設置すべきであったアスベスト工場内において作業に従事していた労働者であったことから「工場型アスベスト被害」とも呼ばれています。
(2)2020年12月の最高裁決定により「建設型」へも広がる
上記の最高裁判決では、アスベスト工場内で従事していた労働者を対象として、賠償金が支払われることが認められました。最高裁判決を受けて、国は、工場型アスベスト被害者との間で具体的な和解要件を定め、和解要件を満たす被害者に対しては、その症状に応じて550万円から1300万円の和解金の支払いに応じています。
しかし、これは、あくまでも「工場型」のアスベスト被害者のみが対象であり、建設作業に従事していた労働者に対しての責任を認めたものではありませんでした。大工、電気工、内装工などの建設作業に従事していた方にもアスベスト被害は生じており、このような「建設型」のアスベスト被害者も、「工場型」のアスベスト被害者と同様に国に対する裁判を起こしていました。
そして、2020年12月14日の最高裁決定によって、2018年3月14日の東京高裁判決によって認められた国の責任が確定しました。これによって、「建設型アスベスト被害」についても、救済の道が開かれることになりました。
2、建設型アスベスト訴訟
建設型アスベスト訴訟とは、どのような内容の訴訟なのでしょうか。
以下では、建設型アスベスト訴訟の内容や、2020年12月14日の最高裁決定によって確定した国の責任内容について説明します。
(1)建設型アスベスト訴訟とは
アスベストは、戦後海外から大量に輸入され、その約8割が建材に使われていました。たとえば、鉄骨や鉄筋コンクリート造りの建物には吹き付け材やアスベスト入りのボードが使用されていました。そのため、アスベストによる健康被害は建設業に集中して発生しています。
アスベストによる健康被害が発生することが分かっている以上、国はメーカーに対して警告を義務付けるとともに建設現場の作業者に防塵マスクの着用をさせるなどの規制を行うべきでした。国がこのような義務をきちんと果たしていれば、建設現場の作業者は、防塵マスクをつけるなどして、アスベストによる健康被害を防ぐことが可能だったはずです。
国が適切な規制を行わなかったことや建材メーカーが警告をせずに危険なアスベスト建材を販売したことが組み合わさって、建設型アスベスト被害が発生したのです。
そこで、全国のアスベスト被害者が国と建材メーカーに対して損害賠償を求める裁判を起こしました。これが「建設型アスベスト訴訟」と呼ばれるものです。
(2)2020年12月の最高裁決定により認められた国の責任
2020年12月14日の最高裁決定は、2018年3月14日の東京高裁判決を不服とする国からの上告受理申立てを受理しないという決定です。これによって、東京高裁判決が確定することになったため、東京高裁判決によってどのような内容が認められたのかを知ることが重要です。
2018年3月14日の東京高裁判決では、以下の要件に該当する建設型アスベスト被害者に対して国の責任を認めています。1審判決で否定されていた一人親方も救済対象としたことが画期的な判決だと評価されています。
①1975年10月1日以降、2004年9月30日までの間に、屋内の建築作業現場で働いていた方(一人親方、中小事業主などを含む)
②石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水に罹患し、労災認定またはアスベスト救済法認定を受けた方またはその遺族
3、建設型アスベスト問題の被害者とは
建設型アスベスト訴訟において、救済の対象となったのは、「屋内」の建築作業現場で働いていた方です。そのため、「屋外」の建築作業現場で働いていた方は、上記最高裁決定の対象外です。
なお、対象となる屋内の建築作業現場で働いていた方の具体的な職種としては、以下のものがあります。
大工、内装工、電工、左官工、吹付工、塗装工、配管工、タイル工、ダクト工、空調設備工、鉄骨工、溶接工、保温工、ブロック工、鳶工、墨出し工、型枠大工、はつり工、解体工、築炉工、サッシ工、エレベーター工、シャッター工、電気保安工、現場監督など
4、建設型アスベスト被害でもらえる賠償金
建設型アスベストによる被害者は、国からどの程度の賠償金を貰うことができるのでしょうか。すでに具体的な救済枠組みのある工場型アスベスト被害と比較しながら説明します。
(1)工場型アスベスト被害の賠償金
工場型アスベスト被害では、国の責任を認める2014年10月9日の最高裁判決を受けて、国は工場型アスベスト被害者に対する救済枠組みを整備しました。
工場型アスベスト被害者に対する賠償金については、アスベスト被害者の症状に応じて、以下のとおり定められています。
アスベストの症状 | 賠償金額 | ||
石綿肺 (じん肺管理区分の管理2) | 合併症がない場合 | 550万円 | |
合併症がある場合 | 700万円 | ||
石綿肺 (じん肺管理区分の管理3) | 合併症がない場合 | 800万円 | |
合併症がある場合 | 950万円 | ||
石綿肺(じん肺管理区分の管理4) | 1150万円 | ||
肺がん | 1150万円 | ||
中皮腫 | 1150万円 | ||
びまん性胸膜肥厚 | 1150万円 | ||
死亡 | 石綿肺(管理2・3で合併症なし) | 1200万円 | |
石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚 | 1300万円 | ||
(2)建設型アスベスト被害の賠償金
2020年12月14日の最高裁決定によって、建設型アスベスト被害においても国の責任が認められましたが、工場型アスベスト被害のような具体的な救済枠組みは未だ整備されていません。今後、国やメーカーによって、建設型アスベストの被害者に対して、具体的な救済枠組みが整備されることが期待されます。
具体的な救済枠組みがない現時点では、建設型アスベストの被害者に対して、どのくらいの賠償金が支払われるかどうかについての明確な基準はありません。建設型アスベストについては、国の責任を認めるいくつかの高裁判決が出ていますが、損害額の認定については、各高裁判決で分かれており、今後、最高裁による統一的な判断が注目されるところです。
なお、建設型アスベスト被害が争われた2020年12月14日の最高裁決定では、症状に応じて以下の賠償額(国の負担分)が認められていますので、今後賠償請求する方の参考にはなるでしょう。
アスベストの症状 | 賠償金額 |
石綿肺(じん肺管理区分の管理2で合併症あり) | 約433万円 |
石綿肺(じん肺管理区分の管理3で合併症あり) | 600万円 |
肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水または石綿肺(じん肺管理区分の管理4) | 約733万円 |
石綿関連疾患による死亡 | 約833万円 |
5、建設型アスベスト被害での訴訟の進め方
建設型アスベストの被害者が国に対して賠償金の支払いを求めるためには、訴訟を提起していく必要があります。具体的な進め方としては、以下のとおりです。
(1)必要書類の収集
2020年12月14日の最高裁決定を踏まえると、建設型アスベストの被害者が1975年10月1日以降、2004年9月30日までの間に、屋内の建築作業現場で働いていたことを立証していかなければなりません。そのためには、「被保険者記録照会回答票」などが必要になってくるでしょう。
また、アスベストによる健康被害を被ったことを立証するためには、「じん肺管理区分決定通知書」、「労災保険給付支給決定通知書」、「診断書」などが必要になります。
加えて、建設型アスベストの被害者が既に亡くなっており、その遺族の方が請求するときには、身分関係がわかる「戸籍謄本」などが必要になります。
(2)裁判所への訴訟提起
上記の書類やそのほかの必要書類を準備したうえで、裁判所に訴訟を提起します。
建設型アスベスト被害では、工場型アスベスト被害のように具体的な救済制度が整備されていませんので、訴訟では、和解条件の確認という進行ではなく、通常の訴訟手続きとして進めていくことになります。
(3)判決
裁判所が国の責任を認める場合には、国に対して賠償金の支払いを認める判決を言い渡します。国側が不服申し立てをすれば、高等裁判所、最高裁判所と争われることになります。
判決が確定した場合には、国から判決内容に従った賠償金が支払われます。
6、建設型アスベスト被害での訴訟をご検討なら弁護士へ相談!
建設型アスベスト訴訟は、2020年12月14日に最高裁決定が出たばかりであり、未だ建設型アスベスト被害者に対する救済制度の枠組みが整備されていません。2021年1月28日の最高裁決定では、建材メーカーにも建設型アスベスト被害の責任があることを認めており、国とメーカーに対する責任が広く認められるようになってきました。
工場型アスベスト被害と異なり建設型アスベスト被害では、具体的な救済対象や期間などが未だ確定しているとはいえず、損害額や責任割合についての統一的な基準も存在していません。
そのため、建設型アスベスト訴訟は、工場型アスベスト訴訟のような定型的な裁判ではなく、個別事情に応じて主張立証が必要になってきますので、弁護士のサポートなく進めていくことは非常に難しいといえます。弁護士に依頼をすることによって、必要書類の準備から訴訟対応まですべて任せることができますので、難しい訴訟手続きに悩まされる心配はありません。
建設型アスベスト被害での訴訟を検討している方は、まずは弁護士に相談をしましょう。
まとめ
2020年12月14日の最高裁決定によって、建設型アスベストの被害者に対しても救済の道が開かれることになりました。建材メーカーの責任を認める最高裁決定も出ていますので、今後は、国とメーカーが一体となって、被害者に対する救済制度を整備することが期待されるところです。
これまで建設現場の作業員だったという理由で、国に対する賠償請求を諦めていた方にも、賠償金が支払われる可能性がありますので、まずは、弁護士に相談をして今後の対応を決めていくとよいでしょう。