アスベストにより生じる疾病の発症率は?補償制度についても弁護士が解説

アスベストにより生じる疾病や補償制度について弁護士が解説

以前仕事でアスベストを取り扱っていたが、アスベストによる疾病の健康被害はどういったものなのだろう。

数十年の時を経て発症するといわれるアスベストの病。過去にアスベストを扱う仕事に従事していた方は、「アスベストの健康被害はどのような内容なのか」「病気の発症率はどのくらいなのか」などが気になるところです。
アスベストを扱う仕事に従事していた場合には、どのようなリスクがあり、どのような救済方法があるのでしょうか。

今回は、

  • アスベストによる健康被害と発症率
  • アスベスト健康被害の補償制度

などについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

この記事が、過去にアスベストを扱う仕事に従事していた方や、そのご家族のご参考になれば幸いです。

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1、アスベスト健康被害の発症率

アスベストを扱う仕事に従事していた方は、アスベストを原因とした健康被害が生じ得ることが知られています。

以下では、アスベストを原因とする代表的な疾病と、その発症率について説明します。

(1)アスベストを原因とする各種疾病

アスベストは、人の髪の毛の直径よりもはるかに細い繊維でできています。そして、アスベスト繊維はとても丈夫で変化しにくい性質を有しているため、アスベストを吸った場合には、肺の組織内に長く滞留してしまいます。

その結果、滞留したアスベストが原因となって、呼吸器などに健康被害を生じることがあります。

アスベストを原因とする代表的な疾病としては、以下のものが挙げられます。

①中皮腫

中皮腫とは、胸膜(肺を包む膜)、腹膜(胃や腸などの腹部臓器を包む膜)、心膜(心臓などを包む膜)などにできる悪性腫瘍のことをいいます。中皮腫の原因のほとんどは、アスベストであるといわれています。この中でも、胸膜から発症する中皮腫の発症率が最も高いです。アスベストを吸い込んでから発症までの潜伏期間は、20年から50年といわれています。

②肺がん

アスベストが肺がんを引き起こすメカニズムについてはまだ十分には解明されていませんが、肺細胞に取り込まれたアスベスト繊維の主に物理的刺激によって肺がんが引き起こされるといわれています。肺がんは、喫煙やその他の原因によっても発症することが知られていますが、他の要因が複合的に重なって肺がんを発症したときでも、アスベストのばく露が肺がんの発生と相当因果関係があると判断できるときには、アスベストによる肺がんと認定されることがあります。

アスベストを吸い込んでから発症までの潜伏期間は、15年から40年といわれています。

③石綿肺

石綿肺とは、粉塵や薬品などによって肺が繊維化するじん肺という病気の一種です。じん肺のうち、アスベストのばく露によって生じたものを特に石綿肺と呼んで区別しています。

石綿肺は、アスベスト粉塵を10年以上吸引した労働者の発症率が高いといわれており、アスベストを吸い込んでから発症までの潜伏期間は、15年から20年といわれています。

④びまん性胸膜肥厚

びまん性胸膜肥厚とは、臓側胸膜(肺を包む膜)の慢性線維性胸膜炎のことをいい、壁側胸膜(胸壁を包む膜)にも病変が及び両者が癒着していることが多いのが特徴です。びまん性胸膜肥厚は、アスベスト以外にもさまざまな原因によって生じる疾病です。

びまん性胸膜肥厚は、アスベスト粉塵を3年以上吸引した場合の発症率が高いといわれており、アスベストを吸い込んでから発症までの潜伏期間は、30年から40年といわれています。

⑤良性石綿胸水

胸水とは、胸腔内に体液が貯留することをいい、アスベスト粉塵を吸入し、胸腔内に胸膜炎による胸水が生じる場合を良性石綿胸水といいます。

良性石綿胸水は、比較的高濃度のアスベスト粉塵を吸入することによって生じ、アスベストを吸い込んでから発症までの潜伏期間は、平均40年といわれています。

なお、良性石綿胸水は、胸水の消失とともに治癒する疾病であるため、石綿による健康被害の救済に関する法律による救済給付の対象疾病にはなっていません。

(2)各種疾病の発症率

アスベストによる疾病の発症率がどのくらいなのかについては、非常に気になるところです。

アスベストを吸い込んだ量と肺がんや中皮腫などの発病との間には相関関係が認められており、長期間・高濃度でより多くアスベストを吸い込んだ方の発症率が高い傾向にあります。

しかし、短期間の低濃度アスベストばく露による発がんのリスクについては、不明点が多いとされています。そのため、現時点では、アスベストをどのくらい吸引したら疾病が引き起こされるかという発症率については明らかではありません。

ただし、後述する労災保険の労災認定では、疾病によって、一定年数以上のアスベストばく露作業従事期間を要件とすることもあるため、アスベストの対策が充分になされていない環境で一定年数仕事をしていた場合には、各疾病の発症のリスクが高まるものといえます。

2、アスベスト疾病の発症率は未知数〜アスベスト従事者たちがしておくべき対応策

上記のとおり、アスベスト疾病の発症率については不明な点が多く、具体的な発症率については明らかではありません。

そのため、過去にアスベストを扱う仕事に従事していた方は、将来の健康被害発生に備えて、以下のような対策をしておくことが重要です。

(1)定期的に健康診断

アスベスト疾病は、アスベストのばく露から発症までの潜伏期間が非常に長く、数十年後に発症するということも珍しくありません。そのため、現時点で、健康被害が生じていない場合であって、過去にアスベストを扱う作業に従事していた方は、医師に相談しながら、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。

(2)アスベスト疾病の症状を知っておく

アスベスト疾病の症状を知っておくことで、早期に異常に気付くことができる場合があります。ただし、アスベスト疾病の中には、症状がないケースもありますので、症状がないから大丈夫だと安易に考えるのではなく、定期的な健康診断は続けるようにしましょう。

①中皮腫

胸膜中皮腫の症状としては、胸痛や息切れといったものが多くみられます。しかし、無症状であることもあり、胸部エックス線検査の異常として発見されることもあります。そのほかにも、咳、発熱、体重減少、全身倦怠感などが症状としてみられますが、中皮腫に特有の症状というわけではなく、早期発見が難しい疾病とされています。

腹膜中皮腫の症状としては、腹痛、腹水貯留、腹部膨満感などがみられます。

②肺がん

肺がんの症状としては、咳、痰、血痰といったものがよくみられます。しかし、無症状であることもあり、胸部CT検査や胸部エックス線検査の異常として発見されることもあります。

③石綿肺

石綿肺の症状としては、労作時の息切れ、咳、痰があります。石綿肺は、肺がんや中皮腫などを合併することもありますので、早期の発見が重要になります。

④びまん性胸膜肥厚

びまん性胸膜肥厚の症状としては、呼吸困難、反復性の胸痛、反復性の呼吸器感染などがみられます。アスベストばく露に関連するびまん性胸膜肥厚は、石綿肺との合併症や、良性石綿胸水の後遺症として生じることが多くあります。

⑤良性石綿胸水

良性石綿胸水の症状としては、呼吸困難や胸痛などがみられます。このような自覚症状がなく、健康診断時の胸部エックス線検査で良性石綿胸水が見つかることもあります

(3)症状が出たらすぐに受診

アスベストの症状が疑われたときには、保健所、各都道府県産業保健総合支援センター、労災病院などに相談をし、治療を行うようにしましょう。

アスベスト疾病の中には、早期に発見をし、治療を開始することによって治癒することも可能な疾病もあります。病気が進行していたり、他の疾病との合併症を発症していたりするなどの場合には、根治的な治療も困難になってきますので、早期の発見が何よりも重要となります。

初期症状も気づきにくいものがありますので、過去にアスベストを扱う仕事に従事していた方は、定期的に健康診断を受診し、発症の兆候が見られたときには、直ちに治療を開始するようにしましょう。

3、アスベスト疾病が発症したら〜3つの補償を検討

アスベスト疾病が発症してしまったとしても、補償や賠償を受けることが可能な場合があります。

アスベスト疾病が発症した方やそのご遺族の方は、以下の3つの補償を検討するとよいでしょう。

(1)労災保険制度

労災保険とは、業務上の事由又は通勤によりに怪我や病気になった労働者やその遺族に対して一定の補償を行う国の公的保険制度のことをいいます。

アスベストを原因とする中皮腫や肺がんなどの疾病を発症した方は、労災保険制度による認定を受けることによって、労災保険による補償を受けることができます。

なお、時効により遺族補償給付を受給することができなくなった遺族の方には,特別遺族給付金が支給されることがあります。

①労災対象の疾病

労災保険の対象となり得るアスベスト疾病は、以下の5つです。

  • 石綿肺
  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 良性石綿胸水
  • びまん性胸膜肥厚

②労災対象のアスベストばく露作業の種類

労災認定基準に定められているアスベストばく露作業は、以下のとおりです。

なお、以下の作業と同程度以上にアスベスト粉塵のばく露を受ける作業および以下の作業の周辺等で間接的なばく露を受ける作業も該当します。

  • 石綿鉱山又はその附属施設において行う石綿を含有する鉱石又は岩石の採掘、搬出又は粉砕その他石綿の精製に関連する作業
  • 倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業
  • 一定の石綿製品の製造工程における作業
  • 石綿の吹付け作業
  • 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業
  • 石綿製品の切断等の加工作業
  • 石綿製品が被覆材又は建材として用いられている建物、その附属施設等の補修または解体作業
  • 石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修又は解体作業
  • 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク等)等の取扱い作業

③労災保険給付の内容

一般に、労災保険で受けられる可能性のある保険給付としては、例えば、以下のものがあります。

  • 療養補償給付:療養の給付又は療養の費用の支給
  • 休業補償給付:休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の60%支給
  • 傷病補償年金:年金支給
  • 障害補償給付:年金または一時金支給
  • 介護補償給付:介護費用支給
  • 遺族補償給付及び葬祭料(葬祭給付):遺族に年金または一時金及び葬祭料の支給

(2)アスベスト健康被害救済制度(石綿による健康被害の救済に関する法律による救済給付)

アスベスト健康被害救済制度とは、アスベストによる健康被害を受けた本人およびその遺族に対して、医療費などの救済給付をする制度のことをいいます。アスベスト健康被害救済制度に関する業務は、独立行政法人環境再生保全機構が実施しています。

アスベストを扱う仕事に従事していた方に対する補償は、基本的に前述した労災保険制度によってなされます。しかし、アスベスト作業をしていた場所の周辺住民やアスベスト作業に従事する労働者の家族などが発症した場合は、労災保険制度の対象外です。

このような労災保険の適用対象外となった被害者を救済する制度が、アスベスト健康被害救済制度です。

①救済の対象となる指定疾病

健康被害救済制度の救済給付の対象となる疾病は、アスベストを吸入することのよって発症した以下の4種類の疾病です。

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

②救済給付の内容

上記の疾病により療養中の方に対しては、医療費の自己負担額全額と療養手当として月額10万3870円が支給されます。

対象者が指定疾病に起因して死亡した場合には、遺族に対して葬祭料として19万9000円と特別遺族弔慰金として最大280万円が支給されます。

(3)国等への賠償請求〜アスベスト訴訟

アスベストによる健康被害については、労災保険制度やアスベスト健康被害救済制度によって一定の補償を受けることができます。しかし、それらの補償だけでは、アスベスト被害者の被った損害のすべてを回復することができません。

そこで、労災保険制度やアスベスト健康被害救済制度による補償に加えて、国等に対して損害賠償請求をすることができる可能性があります。

例えば、石綿工場内においてばく露した方やその遺族の方については、国に対して損害賠償を求める訴訟を提起し、国が定める一定の要件を満たす場合には、国から病状に応じて550万円から1300万円の賠償金(和解金)が支払われることになっています。その他の場合も、国等に対して賠償請求ができる可能性があります。

4、アスベスト訴訟は弁護士へ相談を

アスベスト疾病が発症し、国等に対する損害賠償請求を検討している方は、弁護士に相談することをおすすめします。

(1)賠償金対象となり得るかどうかの判断が複雑

国等に対する損害賠償請求をして、賠償金の支払を受けることができる可能性があるのは、国が定める一定の和解要件を満たす(いわゆる工場型の場合)等、一定の場合に限られます。

過去にアスベストを扱う仕事に従事していたというだけでは足りず、いつ、どこで、どのような仕事に従事していたかということを細かく判断していかなければなりません。法律に詳しくない方では、自分が国等に対する賠償請求ができる可能性があるかどうかを正確に判断するということは非常に困難であるといえます。

自分一人で悩んでいても請求期限が経過してしまうおそれがありますので、まずは、弁護士に相談をし、賠償金支給の対象となる可能性があるかどうかを判断してもらいましょう。

(2)面倒な手続きは弁護士に任せることができる

国等に対する損害賠償請求については、裁判外での請求には応じてもらえない可能性が極めて高いため、必ず訴訟を提起する必要があります。

訴訟を提起するにあたっては、裁判所に提出する訴状の作成や、賠償金の支給要件を満たすことを立証する証拠を収集し、提出していかなければなりません。裁判では、国側が損害賠償請求のための証拠収集をサポートしてくれるわけではありませんので、アスベストの被害を受けた方がすべて行っていかなければなりません。これまで裁判を経験したことがない方が、いきなり裁判での主張立証を行うというのは非常に難しいことですので、それらの手続きは弁護士に任せるのがよいでしょう。

専門家である弁護士であれば、必要な証拠収集をサポートし、迅速かつ適切な訴訟対応を行うことができます。適切な賠償金を獲得するためにも、面倒な手続きは弁護士に任せてしまうのが安心です。

(3)国から弁護士費用を一部負担してもらえる可能性がある

弁護士に依頼しようと考えてはいるものの、弁護士に支払う費用が準備できるかどうか心配に思っている方もいるでしょう。

ベリーベスト法律事務所では、国等から一定の支払が見込めるなどと判断できる事案については、原則として着手金は無料で対応していますので、裁判を進めるにあたっての経済的負担は最小限に抑えることができます。

また、いわゆる工場型の場合には,和解要件を満たし国から賠償金が支払われる方に対しては、弁護士に依頼した場合に、国からの賠償金に弁護士費用相当額(ただし、実際に必要となる弁護士費用全額とは限りません。)が加算されます。そのため、アスベスト被害者が支払う弁護士費用の負担は相当軽減されるはずです。

まとめ

アスベスト疾病の発症率については、いまだ明確な数値が明らかになっていません。しかし、長期間アスベストにばく露していた方は、アスベスト疾病の発症率が高いと考えられています。ご自身やご家族が過去にアスベストを扱う仕事に従事していたという場合には、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。 

もし、健康被害が生じてしまったというときでも、労災保険制度やアスベスト健康被害救済制度を利用しつつ、アスベストばく露作業の内容によっては国等に対する損害賠償請求を行うことで被害を回復することが可能な場合があります。

国等に対する損害賠償請求を検討している方は、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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