自転車の傘さし運転が犯罪だということを、みなさんはご存知でしょうか。警察庁の発表によると、平成30年中、自転車関連事故(自転車が第一当事者又は第二当事者となった交通事故)の件数は8万5641件で、年々減少傾向にあるようです。
とはいえ、平成30年の自転車関連事故が全交通事故に占める割合は約19.9%で、ここ10年間の推移を見る限りさほどの変化はなく、依然としてかなりの割合を占めています。
自転車関連事故に至る原因は様々だと思いますが、今回は、その中でも皆さんが普段よく街中などで見かける自転車の「傘さし運転」について焦点を当て解説したいと思います。
この記事が皆さまの生活にお役に立てれば幸いです。
交通事故の加害者について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、自転車の「傘さし運転」をしてしまう原因とは
何となく「ダメ」と分かっていても、どうして傘さし運転をしてしまうのしょうか?
(1)自転車以外に足がない
目的地までが遠く、歩いて行ける距離ではない。
職場や学校、スーパーや子どもの幼稚園など、日々通う場所がそういう場所にある方は、自転車を使うことが日常になっているはず。
電車でのアクセスができず、かつ遠方である場所への移動手段は「バス」が主流だと思いますが、バスが通っていないとか、本数が少なく不便ということも珍しくありません。
こういう場合はもはや自転車しか移動手段がなく、雨だからといって仕事などに行かないわけにはいかず、やむなく傘さし運転をしてしまうことになります。
(2)レインコートの脱着が面倒、レインコートに対する偏見
急な雨のとき、折りたたみ傘をバッグに入れている人はいるかもしれませんが、レインコートを持ち歩いている人は少数派なのではないかと思います。
また、濡れても傘立てに置いておけばいい傘と違って、ずぶ濡になったレインコートを脱いで片づけるのは大変です。
そんな大変な思いをするくらいなら、「近場だし傘さし運転でいいか」となってしまう方が多いのでしょう。
また、「ダサい」「かっこ悪い」など、レインコートを着たときの見た目を気にされる方もいらっしゃると思います。
(3)雨の日の通学、通勤の対策を考えていない
梅雨時を除いてそうそう雨の降ることのない地域にお住まいの方の中で、雨が降ったときのことまで対策をしている方は少ないのではないでしょうか。
そういう方が雨に降られた場合、普段の行動を大きく変更することが考えられず、「今日だけ」というその場しのぎの気持ちで傘をさして目的地に向かってしまうことになるのでしょう。
2、自転車の傘さし運転は「危険」-道路交通法に違反する
そんな「なんとなく」で行ってしまう傘さし運転ですが、実は法律違反であり、違反すれば罰則を科されるおそれもあるので、以下説明していきます。
(1)どうして自転車の傘さし運転は危険なのか
①前方注視がおろそかになる、視界が妨げられる
そもそも、傘をさしていることに自体により前方への注意がおろそかになりますし、前方から降ってくる雨を避けようと前に傘を傾けるなどすると、さらに前方の視界が妨げられます。
前方注視がおろそかになったり視界が妨げられると、当然ながら人や車両と衝突してしまう可能性が高まります。
②バランスが取りにくい
傘さし運転時は片手で自転車を運転することになりますので、両手運転時よりも自転車のバランスが取りにくい状況なっています。
自転車のバランスが取りにくいと、雨で路面が濡れている状態であればなおさらですが、マンホールなどに滑って転倒しやすくなったり、人や車両と衝突、接触してしまう可能性も高くなるでしょう。
③片手運転によるブレーキの限界
また、自転車は右ハンドルのブレーキで前輪を制動し、左ハンドルのブレーキで後輪を制動するのが一般的で、両ブレーキを一緒にかけることで減速するように作られています。
そのため、片手運転だと片方の車輪にしかブレーキをかけられず、雨で濡れた路面だとなおさら、制動距離(ブレーキをかけ始めてから停止までの距離)も長くなり、障害物にぶつかったり、人や車に接触してしまう危険性も高まります。
(2)自転車の傘さし運転は道路交通法違反
道路交通法71条では、「車両等(自転車も含まれます)の運転者は次に掲げる事項を守らなければならない」とされ、その6号で次のように規定されています。
6号 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項
そして、この規定を受け、各都道府県の公安委員会は、自転車の傘さし運転に関する規定を設けています。
たとえば、東京都公安委員会は、東京都道路交通規則(以下、規則)8条で「法(道路交通法)71条6号の規定により、車両又は路面電車の運転者が遵守しなければならない事項は、次に掲げるとおりとする。」とし、その3号で
3号 傘を差し、物を担ぎ、物を持つ等視野を妨げ、又は安定を失うおそれのある方法で、大型自動二輪車、普通自動二輪車、原動機付自転車又は自転車を運転しないこと。
と規定の規定を設けています。
(3)自転車傘さし運転自体に罰則あり
罰則は「5万円以下の罰金」です。
道路交通法120条
次の各号のいずれかに該当する者は、5万円以下の罰金に処する。
9号 第71条(運転者の遵守事項)(略)第6号(略)の規定に違反した者
3、自転車の傘さし運転で人に傷害を負わせた・死亡させた場合の責任
この場合は単なる道路交通法違反にとどまりません。
(1)刑事責任
過失により人に傷害を負わせた場合は刑法上の過失傷害罪(209条、30万円以下の罰金)、人を死亡させた場合は過失致死罪(刑法210条、50万円以下の罰金)に問われる可能性があります。
また、重過失により人に傷害を負わせたり、人を死亡させた場合は重過失致死傷罪(刑法211条後段、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)に問われる可能性があります。
(2)民事責任
民法709条により、不法行為に基づく損害賠償責任を負います。
傘さし運転は、上記のとおり危険な運転方法であるため、過失割合(交通事故に対する責任の割合のことで、数値が大きければ大きいほど相手方に支払うべき損害額が大きくなります)が傘を差していない場合に比べて不利に認定されることになります。
4、自転車傘さし運転をしないためにはどうすべき?
以上、自転車傘さし運転によって様々な責任を負うおそれがありますから、自転車傘さし運転は絶対にやめましょう。
では、どうすべきでしょうか?
(1)雨の日の通勤・通学の手段についてきちんと考えてみる
雨の日の通勤、通学手段を今一度考えてみましょう。
ご家族の送り迎えは可能か?多少不便であっても公共の交通機関を利用できるないかなど、自転車以外の通勤、通学方法を検討しましょう。
(2)雨の日に自転車を乗るためのグッズを買いに行ってみる
他の手段を検討しても自転車しか交通手段がないという場合は、レインコート、カッパを着用するしかありません。
最近はアウトドア用のおしゃれなで機能性の高いレインコートなども販売されています。
見た目にこだわる方は購入を検討されてみてはどうでしょう。
(3)自転車に傘を取り付けたらどうか
では、自転車に傘を固定して両手で運転できるようにしたらどうか?と考えられる方もおられるでしょう。
そんなグッズが販売されていることも確かです。
しかし、そのようなグッズを利用した運転も、お住まいの地域の公安委員会の定めにより違法となっていることが多いのが実情です。
端的に車体に固定した形での自転車の傘差し運転を禁止している都道府県もありますし、東京都のように、傘を固定するグッズを違法な「積載物」とみなして規制しているところもあります。
結論として、こういったグッズを使用した自転車運転も避けるべきといえるでしょう。
まとめ
自転車は自動車と異なり運転免許が必要でないことから、「厳格な交通ルールは自動車に対してのもので、自転車には関係ない」などと誤解されている方もおられます。
しかし、道路交通法上、自転車は「車両」の一部であり、交通ルールを遵守して運転しなければならないことはいうまでもありません。
自転車の傘さしに関するルールはもちろん、その他のルールもこの機会に見直していただき、参考にしていただきたいと思っております。自転車は「車両」の一部だということを念頭に置き、安全運転を心がけましょう。