犯罪の実行行為に直接関与しなくても、犯行について話し合えば「共謀共同正犯」が成立して罪に問われることがあります。
自分では意図していなかったものの、いつのまにか「共謀共同正犯」になってしまっていたというケースもあるかもしれません。
冗談や思い付きで話しただけの犯罪のアイデアだった場合も、共謀共同正犯が成立して罪に問われてしまうのでしょうか?
今回は、
- 共謀共同正犯とは
- 共謀共同正犯と実行共同正犯・教唆犯・幇助犯の違い
- 共謀共同正犯を疑われたときの対処法
などについて、弁護士がわかりやすく解説します。共謀共同正犯が問題となった事例もご紹介します。
この記事が、何も犯罪を実行していないのに罪に問われた方や、問われそうな方の手助けとなれば幸いです。
1、共謀共同正犯とは
2人以上の者が犯罪の実行を共謀し、それによって形成された共同の意思に基づいて一部の者が犯罪を実行した場合は、実行行為に加担しなかった者も含めて全員が「共同正犯」として罪に問われます。この場合において、実行行為に加担しなかった者は「共謀共同正犯」となります。
共同正犯とは、2人以上の者が共同して犯罪を実行した場合を指します(刑法第60条)。日常用語では「共犯」と呼ばれる場面ですが、法律上は「正犯」となります。
共謀共同正犯では、犯罪を実行していない者まで正犯としての罪責を問われる点に大きな特徴があります。実際の犯罪行為に加担していないとしても、犯罪のアイデアや計画の段階で参加し、犯罪を実行する「共同実行の意思」を形成した以上、共同の意思に基づいて犯罪が実行された場合には、実行者と同じく正犯として扱われるのです。
2、共謀共同正犯の成立要件
それでは、具体的にどのようなケースで共謀共同正犯が成立するのでしょうか?
共謀共同正犯が成立するのは、次の3つの要件をすべて満たす場合です。
(1)共同実行の意思があること
まず1つ目の要件として、「正犯の意思がある」ということが挙げられます。
「正犯の意思がある」とは、自らの犯罪として遂行する意思があったということです。実際に手を下すのは他の人であったとしても、自らの犯罪として遂行する意思があった場合には、共謀共同正犯となる可能性があります。
一方で、何らかの犯罪をたくらんでいる他人に対して実行方法をアドバイスしたり、心理的に励ましたにずぎないような場合は、正犯の意思がないため共謀共同正犯には該当しません。ただし、これらの場合は後でご説明する「教唆犯」や「幇助犯」として罪に問われる可能性はあります。
(2)犯罪の実行を共謀したこと
共謀共同正犯が成立するためには、正犯の意思に加えて「犯罪の実行の共謀」が要件となります。「共謀」とは、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議です。
仲間内の冗談として「コンビニ強盗でもやろうか」と発言したとしても、通常は犯罪の実行を共謀したことにはなりません。ただし、会話の流れや発言したときの口調等を客観的に見て、実行者に共同実行の意思を抱かせるようなものであると認められる場合には共謀が成立する可能性もあります。ですので、冗談であっても物騒な発言は控えた方がよいでしょう。
なお、共謀は会話や書面、メールのやりとりといった明確なものに限らず、暗黙の了解でも成立することがあります。暗黙の共謀が成立するかどうかは個別の事案ごとに判断されますが、怪しいやりとりにはできる限り参加しない方が無難であるといえます。
(3)共同実行の意思に基づき犯罪が実行されたこと
犯罪の実行を共謀したとしても、そのうちの誰かが共同実行の意思に基づき実行行為をしなければ、共謀共同正犯は成立しません。
共謀した内容とは異なる犯罪が実行された場合でも、共謀内容と犯行内容が重なる限度において共謀共同正犯が成立することがあります。
例えば、特定の人を痛めつけることを共謀したにも関わらず実行者が相手を殺害した場合、実行者は殺人罪に問われますが、共謀しただけの人は傷害致死罪の限度で共謀共同正犯として罪責を問われます。
一方、空き巣の実行を共謀したにもかかわらず実行者が盗撮を犯した場合、盗撮行為は共同の意思に基づくものとはいえませんので、共謀しただけの人が盗撮の罪に問われることはありません。
3、共謀共同正犯と区別すべき3つのもの
共謀共同正犯と混同されやすい犯罪形態で、「実行共同正犯」や「教唆犯」「幇助犯」が存在します。
それぞれの犯罪形態と共謀共同正犯との違いについてご説明します。
(1)実行共同正犯
実行共同正犯とは、本来的な「共同正犯」のことで、犯罪行為の実行を共同することを指します。共謀共同正犯とは異なり、実行共同正犯は犯罪行為の実行に関与しています。そのため、共犯関係を疑う余地はほとんどないと考えられます。
刑罰については正犯と同様の扱いになります。
(2)教唆犯
教唆犯とは、他人を唆して犯罪行為を実行させたものを指します。まだ犯行を決意していない人を唆して犯行を決意させ、その決意に基づいて犯罪が実行されることで教唆犯が成立します。例えば、非行少年のグループ内で先輩が後輩に対して「万引きをして度胸をつけてこい」と唆して万引きが実行された場合には、先輩が窃盗罪の教唆犯となります。
共謀共同正犯では「共同実行の意思」が形成されるのに対して、教唆犯では単独での犯行を決意させるという点に違いがあります。
教唆犯も他人に犯行を決意させて実行させるという点で正犯と同等に悪質なので、正犯の刑が科せられます(刑法第61条1項)。
(3)幇助犯
幇助犯とは、正犯者の犯罪実行を容易にする行為をする者のことです。
例えば、実行に必要な道具を用意したり、逃走のための車を準備するなど、犯罪行為を助けるような行為が該当します。その他にも、資金の提供や、激励・アドバイスなどの精神的援助によっても、幇助犯が成立することがあります。
犯罪の実行行為がないという点は共謀共同正犯と共通しますが、幇助犯は共同の意思を形成するのではなく、正犯者の実行を助けるだけという点が異なります。
幇助犯は正犯ではなく「従犯」として扱われます(刑法第62条1項)。そして、従犯に対する刑罰は正犯に対する刑罰よりも減軽されます(同法第63条)。
4、共謀共同正犯が問題となった事例
ここでは、共謀共同正犯が実際に裁判で問題となった事例をご紹介します。
それぞれの事例から共謀共同正犯における考え方について理解を深めましょう。
(1)練馬事件(最高裁昭和33年5月28日判決)
東京都練馬区で発生した、現職の警察官が殺害され、拳銃を奪われた事件です。
練馬区にある工場で起こっていた組合と会社の労働争議の際に、組合員の不法行為に対する検挙を行った巡査への報復として、組合員11人が事前に襲撃・殴打・拳銃強盗の犯行の役割を決めた上で実行しました。
この事件では、被告人らが一堂に会して共謀したわけではなく、まずAとBが共謀し、次にBとCが共謀するという形で順次共謀が行われていましたが、裁判所はこのような場合でも「共謀」が行われたものとして全員について共謀共同正犯の成立を認めました。
その他にも、
- 共謀共同正犯が成立するためには2人以上の者が特定の犯罪の実行について、共同意思のもとに一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すこと共謀し、そして犯罪が実行されていなければならない
- 共謀に参加した以上は、実行行為に直接関与しない者も他人の行為を自己の手段として犯罪を行ったという意味で共同正犯の罪責を負う
などと判示しており、この判例が現在の共謀共同正犯の代表的判例になっています。
参考: 裁判所 判例検索
(2)スワット事件(最高裁平成15年5月1日判決)
暴力団組長である被告人が、自身のボディーガード達に拳銃などを所持させていた事件です。
被告人は拳銃の所持を直接指示していなかったものの、警護するためにボディーガード達が拳銃を所持することを認識して許容し、共に行動をしていました。
拳銃を所持していたボディーガード達は銃砲刀剣類所持等取締法等に違反したことになりますが、この裁判では自身で拳銃を所持しなかった被告人に対して共謀共同正犯を認めています。
被告人は終始警護を受ける立場にあり、指揮命令する権限を有している地位なども考えると、黙示的に意思の連絡があったと考えられます。
そのため、被告人がボディーガード達に拳銃などの所持を指示していたと評し得るという判断です。
参考:裁判所 判例検索
(3)陸上自衛隊幹部候補生試験問題漏洩事件(札幌高裁昭和60年3月20日判決)
陸上自衛隊に勤務していた被告人5名が複数回にわたって自衛隊幹部候補生選抜筆記試験問題を窃取してコピーし、有償で交付したという事件です。
この事件では、主犯Aが試験問題の窃取方法の相談や打ち合わせをしたことはなく、共同で窃盗行為をするという意思を持っていなかったと判断され、共謀共同正犯は認められないとされました。
ただ、結果的にはその他の被告人4名の各窃盗行為が容易になるように助長したと判断され、幇助犯が成立されることになったのです。
この事例からも、共同の意思に基づいて犯罪が実行されなければ、共謀共同正犯は成立しないことが分かります。
参考:判例研究
5、共謀共同正犯を疑われたら弁護士に相談を
共謀共同正犯を疑われた場合には、早急に弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談するメリットには、次のようなものが挙げられます。
(1)取り調べでの対応についてアドバイスが受けられる
共謀共同正犯を疑われて警察で取り調べを受ける際には、不安や焦り、混乱などさまざまな感情でパニックになってしまってもおかしくありません。警察での取り調べが初めてであれば、なおさら不安なものになるでしょう。
弁護士に相談すれば、あらかじめ取り調べへの対応についてアドバイスが受けられます。
どのような質問をされるのか、その質問に対してどのように答えればいいのかなど具体的な助言を得られるため、不安を解消できるでしょう。
(2)被害者との示談交渉を任せられる
特定の被害者がいる場合には、起訴される前に示談交渉をすることが重要です。示談が成立すれば、被害届や刑事告訴の取り下げが期待できます。そうなれば、不起訴処分として刑事罰を科せられることなく事件を終えることもあります。
しかし、被害者と直接ご自身で交渉することは難しいため、弁護士に交渉を任せるようにしましょう。弁護士が被害者に対して謝罪の意を伝え、被害の弁償を提案します。
(3)不起訴や釈放に向けて活動してもらえる
逮捕・勾留されている場合、少しでも早く釈放してもらいたいと考えるものです。
弁護士は意見書の作成や勾留決定に対する不服申し立てを行うなど、早期釈放に向けて活動します。
早期の段階から弁護士に依頼すれば、逮捕・勾留されることを未然に防ぐように働きかけてくれるため、在宅事件になる可能性も期待できます。
また、検察に起訴されてしまえば刑事裁判に発展するため、不起訴になるように弁護士が主張を行ってくれます。
(4)起訴されても処分の軽減が期待できる
共謀共同正犯が成立すると、正犯と同等に厳しい刑罰が科せられます。
しかし、たとえ無実ではないとしても状況によっては共謀共同正犯ではなく幇助犯に該当するケースもあります。弁護士は起訴されても軽い処分になるように証拠を示し、弁護活動を行います。
共謀共同正犯に関するQ&A
Q1.共謀共同正犯とは?
共謀共同正犯では、犯罪を実行していない者まで正犯としての罪責を問われる点に大きな特徴があります。実際の犯罪行為に加担していないとしても、犯罪のアイデアや計画の段階で参加し、犯罪を実行する「共同実行の意思」を形成した以上、共同の意思に基づいて犯罪が実行された場合には、実行者と同じく正犯として扱われるのです。
Q2.共謀共同正犯の成立要件とは?
- 共同実行の意思があること
- 犯罪の実行を共謀したこと
- 共同実行の意思に基づき犯罪が実行されたこと
Q3.共謀共同正犯と区別すべき3つのものとは?
- 実行共同正犯
- 教唆犯
- 幇助犯
まとめ
犯罪の実行行為をしていなくても、共謀関係があると判断されれば共謀共同正犯になってしまう恐れがあります。
共謀共同正犯が成立すれば、実行犯と同等に正犯として厳しい刑罰が科せられます。
共謀共同正犯の疑いがある場合は、弁護士へ早急に相談するようにしましょう。弁護士に依頼すれば被害者と示談交渉することで不起訴が期待できますし、起訴された場合でも弁護活動によって軽い刑罰が期待できます。