「名誉毀損の時効は何年?」
このように気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
面白半分でインターネット上に誹謗中傷の書き込みをしてしまった場合、後になってから名誉毀損で訴えられるのではないか、逮捕されるのではないかと心配する人がいます。名誉毀損の時効が完成していなければ、忘れた頃に訴えらたり逮捕されたりすることもあるので注意が必要です。
また、名誉毀損の被害者から慰謝料を請求されることもあります。
そこで今回は、
- 名誉毀損の時効は何年?
- 刑事責任と民事責任で時効期間は異なる?
- 名誉毀損を時効完成まで放置することによるリスクとは?
などについて、弁護士がわかりやすく解説していきます。
本記事が、名誉毀損に該当するような行為をしてしまい、法的責任の時効が気になる方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、名誉毀損の時効が気になる方へ~そもそも名誉毀損とは?
誹謗中傷等をしてしまったことにより名誉毀損の時効が気になっている人は、そもそも名誉毀損がどんな罪でどのような要件のもとに成立する犯罪なのかをはじめに確認しておきましょう。
(1)名誉毀損罪の成立要件
名誉毀損罪は刑法第230条1項に定められており、成立要件は以下の3つとされています。
①「公然と」
「公然と」とは、不特定多数の人が認識しうる状態のことをいいます。インターネット上に書き込みをしたり大勢の人に向けて話したりすることはもちろん、少数の人に話しただけでも、その少数の人から不特定多数の人に伝播する可能性があるのであれば「公然と」の要件を満たします。
②「事実を摘示」
「事実を摘示」とは、人の社会的評価を害するに足る事実を示すことをいいます。前科の存在や過去の不倫関係の暴露、過去の犯罪歴等、社会的評価を害するものであれば「事実を摘示」に該当します。
③「人の名誉を毀損」
「人の名誉を毀損」とは、人の社会的評価を害するおそれのある状態を生じさせたことをいいます。社会的評価を害するおそれのある状態を生じさせた時点で「人の名誉を毀損」したことになるので、現実に社会的評価をどの程度害したか、現実的な被害が出たか等は関係ありません。
たとえば「〇〇さんは不倫をしている」という事実で現実的にどの程度社会的評価が害されるかは人によって異なりますが、このような発言を不特定多数の人にすること自体、社会的評価を害するおそれがあります。そのため、このような発言は名誉毀損に該当すると考えられます。
(2)名誉毀損罪で発生する法的責任
名誉毀損罪で発生する法的責任には、刑事責任と民事責任の2つがあります。
名誉毀損罪として刑罰を言い渡されるのは刑事責任ですが、慰謝料等金銭的な賠償義務が発生するのは民事責任となります(民法第709条、第710条)。
(3)名誉毀損罪は親告罪
名誉毀損罪は親告罪です(刑法第232条)。親告罪とは、告訴がなければ検察官が公訴提起できない犯罪のことです。期間内に告訴をしなければ、名誉毀損行為による被害が生じていたとしても、加害者が名誉毀損罪で刑罰を言い渡されることはなくなります。
2、名誉毀損罪で逮捕されなくなるのはいつ?刑事責任の時効期間
過去に誹謗中傷の書き込み等をした人は、名誉毀損罪で逮捕されるのではないか?時効はいつになったら完成するのか?と怯えているかもしれません。名誉毀損罪で逮捕されなくなるタイミングを把握するには、名誉毀損罪の時効期間を確認しておくことが大切です。
(1)告訴期限は6ヶ月
名誉毀損罪は上述のように、被害者からの告訴を前提とする親告罪です。被害者からの告訴はいつまでも認められるわけではありません。告訴できる期間には制限が設けられており、「犯人を知った日から6ヶ月以内」とされています(刑事訴訟法第235条)。犯人が誰なのかわかっているにもかかわらず6ヶ月を超えても放置している場合、その後に告訴することはできなくなります。
「犯人を知った」とはどの程度犯人について把握していれば良いのかが問題となることがありますが、犯人の氏名、住所、生年月日等正確な情報を把握できていなくても「あの人が犯人だ」と特定できる状態になっていれば「犯人を知ったとき」に該当します。
もっとも、インターネット上の書き込みによる名誉毀損罪では、書き込みを削除しない限り不特定多数の人が閲覧できる状態が残りますので被害が発生し続けていることになります。そのため、書き込みが存在し続ける限り告訴の期間制限が開始せず、次の公訴時効を迎えるまでは告訴が可能です。
(2)公訴時効の期間は3年
名誉毀損罪の公訴時効は「犯罪行為が終わったとき」から進行し、公訴時効の期間は3年となります(刑事訴訟法253条、250条2項6号)。
インターネット上に名誉毀損の内容を書き込んだ場合、書き込みがされたときから3年が経過すると名誉毀損罪の公訴時効が完成し、検察官は起訴することができなくなります。そのため、公訴時効である3年が経過するまでの間に犯人を特定しなければなりません。
3、名誉毀損で慰謝料を請求されなくなるのはいつ?民事責任の時効期間
上記「2」の時効期間は名誉毀損の刑事責任に関するものです。名誉毀損では刑事責任を問う方法以外に民事責任を追求し慰謝料を請求するという方法があります。
ここからは、民事責任の時効期間について確認していきましょう。刑事責任の時効が完成し逮捕される可能性がなくなったとしても、その後に民事責任を問われる可能性があるので注意が必要です。
(1)損害賠償(慰謝料等)請求権の消滅時効期間は3年
名誉毀損に関して民事責任を問われる場合、民法第709条および第710条の不法行為に基づく損害賠償請求権を行使し慰謝料などの請求を受けることになります。
この損害賠償請求権は、①被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、②不法行為の時から20年間行使しないときに消滅時効により請求権が消滅します(民法第724条)。
3年で時効が成立するというと短いと思われるかもしれませんが、ここにいう「加害者を知った時」というのは、加害者の住所・氏名を知った時と考えられています。なぜなら、加害者の住所・氏名が分かるまでは被害者が損害賠償請求権を行使することは不可能だからです。
したがって、被害者に住所・氏名を知られるまでは時効期間が進行しないことに注意しなければなりません。
(2)消滅時効期間のリセットに要注意
上記の消滅時効期間が経過したら一切訴えられないかというとそうではありません。民法上の請求権には、時効の完成猶予及び更新という消滅時効期間がリセットする制度が適用されるからです。
まず、時効成立前に被害者から内容証明郵便などで慰謝料請求を受けた場合は、そのときから6ヶ月が経過するまで時効は成立しません。
そして、被害者に対して慰謝料の支払いを約束したり、慰謝料請求の裁判を起こされたりすると、その時点で時効が更新され、それまで進行していた時効期間はゼロに戻ります。
時効期間が経過したことで安心していても、実は被害者が裁判上の請求をしていたことによって時効期間がリセットされている可能性もありますので注意しましょう。
(3)損害賠償(慰謝料等)請求権の除斥期間は20年
消滅時効に似た概念として「除斥期間」というものがあります。
除斥期間とは権利行使の期間制限であり、除斥期間内に権利行使をしないと権利が消滅します。権利が消滅するという点では消滅時効と除斥期間は共通しています。もっとも、除斥期間は権利が発生したときが起算点となる点や、権利が消滅した効果が遡及しない点、時効の完成猶予及び更新が適用されない点で消滅時効と異なります。
損害賠償請求権の除斥期間は不法行為の時から20年であり(民法第724条2号)、名誉毀損の書き込み等をした時から20年以上が経過すると、その間の事情を問わず、慰謝料請求を受けることはなくなります。
4、名誉毀損は時効が完成するまで放置してもよい?正しい解決方法とは
名誉毀損行為をした場合、時効の制度があるからといって時効が完成するまで放置しておいてよいかというとそんなことはありません。時効が完成するまで何もせずに放置しておくと訴えられるリスクが高まりますし、ご自身の精神的負担が重くなることでしょう。ご自身の不安を解消するためにも以下の解決方法を検討していきましょう。
(1)まずは行為を止める
名誉毀損行為を続ける限り被害は拡大しますし、時効が完成する時点もどんどん先延ばしになる可能性があります。名誉毀損行為を既にしてしまった人は、まずはその行為を続けるのをやめましょう。インターネット上に書き込みをした人は、書き込みやサイト等を削除しましょう。
(2)示談によって責任の軽減も可能
加害者との間で示談をする余地がある場合、示談により責任が軽減される場合があります。刑事事件では刑罰を決める際に示談の有無が考慮され、示談が成立していることが加害者に有利に働くことがあります。
また、民事上の慰謝料請求においては示談が成立すれば、裁判を起こされることもなくなります。裁判となると時間やお金がかかりますので、示談できそうな場合は示談を目指すことが得策といえるでしょう。
(3)場合によっては自首も検討しよう
場合によっては自首を検討しても良いでしょう。自首は刑の任意的減軽事由の一つですので、捜査機関が犯人や犯罪事実を特定する前に捜査機関に対し罪を自発的に申告すれば、自首が認められ刑が減軽される可能性があります。
なお、捜査機関が犯人・犯罪事実を特定した後に罪を申告した場合には自首は成立しません。それでも、自ら捜査機関に出頭して罪を申告することは、刑罰を決める際にプラスの事情として取り扱われる可能性が高いので、無駄なことではありません。
5、名誉毀損で時効完成前に逮捕されたらどうすればいい?
名誉毀損で時効完成前に逮捕されそうな場合や逮捕された場合、刑事事件の流れを確認しておくことが大切です。
逮捕されると警察から取調べを受けることになりますが、逮捕から48時間以内に検察官に送致され、24時間以内に勾留の必要性が判断されます。勾留が認められた場合、そこから最大で20日間の勾留が続き身体拘束を受けることになります。その間に起訴・不起訴の判断がなされ、起訴される場合は被疑者勾留から被告人勾留にそのまま切り替わり、引き続き身体拘束を受けることもあります。それから刑事裁判が開かれ、有罪の場合には判決で刑罰を言い渡されます。
このように、一度逮捕されると身体拘束が続く可能性がありますので、まだ逮捕されていない場合は早急に弁護士に相談し、今後の流れや対応を確認しておくとよいでしょう。
既に逮捕されている場合は、すぐに弁護士に依頼して接見に来てもらい、取調べでの対応についてアドバイスを受けたり、弁護士を通じて被害者と示談交渉を進めてもらったりする等、少しでも刑罰が軽くなるようにサポートを受けましょう。
6、名誉毀損をしてしまったら弁護士に相談を
一度逮捕されてしまうと上記のように身柄拘束が続く可能性があります。身柄拘束が続くと通常の日常生活が送れないことはもちろん、会社にも出勤できませんので仕事に支障が生じる人がほとんどでしょう。既に名誉毀損をした場合、それをなかったことにはできないので、逮捕される前に弁護士に相談し、自首や示談の話を含め弁護士からアドバイスをもらうようにしましょう。
弁護士に相談することで刑事手続の流れや今すぐやるべき行動についてアドバイスをもらうことができます。また、弁護士に依頼をすれば加害者との示談交渉や裁判手続きで弁護士に動いてもらうことが可能になります。
逮捕されると自由に動くことができなくなるので、名誉毀損をしてしまった人はできるだけ早い段階で弁護士に一度ご相談ください。
名誉棄損の時効に関するQ&A
Q1.名誉毀損罪の成立要件とは?
名誉毀損罪は刑法第230条1項に定められており、成立要件は以下の3つとされています。
- 公然と
- 事実を摘示
- 人の名誉を毀損
Q2.名誉毀損罪で逮捕されなくなるのはいつ?刑事責任の時効期間とは?
- 告訴期限は6ヶ月
- 公訴時効の期間は3年
Q3.名誉毀損罪で発生する法的責任とは?
名誉毀損罪で発生する法的責任には、刑事責任と民事責任の2つがあります。
名誉毀損罪として刑罰を言い渡されるのは刑事責任ですが、慰謝料等金銭的な賠償義務が発生するのは民事責任となります。
まとめ
名誉毀損行為をしてしまった人の中には、時効が完成するのをひたすら待とうと考えている人がいますが、何年もの間、逮捕や裁判の可能性に怯えながら過ごすことは精神衛生上良くありません。これ以上被害者に迷惑をかけないためにも、名誉毀損行為をやめたり示談の話を進めたりするなど、弁護士と相談しながらできることをやっていきましょう。