夫婦関係において、浮気や不倫、価値観の不一致など、離婚に至る原因や理由は様々です。
そこで、離婚の原因や理由、男女間での違いについて解説します。
1、離婚原因・理由ランキング
我が国の民法では、夫婦が合意で離婚する場合、つまり「協議離婚」が成立しない場合は、家庭裁判所で話し合い(調停)を行い、それでも解決できない場合は、裁判で決着を図ることになっています。
では、家庭裁判所に持ち込まれた離婚に関する事件において、離婚調停を申し立てる原因として多かったのは、どのような原因があるのでしょうか。申立人が妻の場合と夫の場合にわけて見てみましょう。
(1)妻からの離婚原因ランキング
全国の家庭裁判所に申し立てられた離婚調停のうち、妻から申し立てがなされたものにおける申し立ての原因は、下記の表のとおりとなっています。
1位 | 性格が合わない | 38.02% |
2位 | 生活費を渡さない | 28.91% |
3位 | 精神的に虐待する | 26.12% |
4位 | 暴力を振るう | 18.51% |
5位 | 異性関係 | 12.87% |
6位 | 浪費する | 8.52% |
7位 | 性的不調和 | 6.34% |
8位 | 家庭を捨てて省みない | 6.09% |
9位 | 酒を飲みすぎる | 5.75% |
10位 | 家族親族と折り合いが悪い | 5.60% |
11位 | 病気 | 1,61% |
12位 | 同居に応じない | 1,44% |
【出典:令和5年度 司法統計年報 家事編】
最も多いのが「性格が合わない」で、次に多いのが「生活費を渡さない」、3番目に多いのが「精神的に虐待する」、その次が「暴力を振るう」という順位になっています。
「生活費を渡さない」というのが妻側に多い事情というのはわかりますが、それを除いても、「異性関係」が上位3つに入っていないというのは、意外と思われる方も多いのではないでしょうか。
(2)夫からの離婚原因ランキング
次に、夫から申し立てられた離婚調停の原因は下記の表のとおりとなっています。
1位 | 性格が合わない | 59.92% |
2位 | 精神的に虐待する | 21.41% |
3位 | 異性関係 | 11,96% |
4位 | 浪費する | 11.51% |
5位 | 家族親族と折り合いが悪い | 10.98% |
6位 | 性的不調和 | 10.48% |
7位 | 同居に応じない | 8.81% |
8位 | 暴力を振るう | 8.69% |
9位 | 生活費を渡さない | 4.86% |
10位 | 家庭を捨てて省みない | 4.74% |
11位 | 病気 | 3.90% |
12位 | 酒を飲みすぎる | 2.47% |
【出典:令和5年度 司法統計年報 家事編】
こちらも、「性格が合わない」が1位となっているのは妻が申立人の場合と同じですが、2位の「精神的に虐待する」の3倍以上と、妻が申立人の場合よりも圧倒的に割合として多いのが特徴です。また、妻の場合は10位だった「家族親族と折り合いが悪い」が、男性では5位になっている点も特徴的です。
2、スピード離婚に多い離婚原因・理由
では、短期間で離婚をする夫婦に多い離婚原因は何があるでしょうか。
お互い好きで結婚する場合が多いと思うので、結婚してすぐに浮気、なんていう場合はあまり多くないでしょう。
むしろ、性格の不一致や価値観の違いとか、そもそも結婚に対する意識が低いこととか、相手の借金問題などが多いようです。
以前、スピード離婚の一つの事例として「成田離婚」なんていう言葉も流行りましたね。
新婚旅行で長い時間一緒にいて初めて相手の素の部分を見てしまい、それで嫌になって成田に帰ってきた時には離婚、なんていうのは究極のスピード離婚といえます。
相手を気に入って好きになって結婚したものの、結婚して、相手と長い時間一緒にいて初めて相手の欠点に気づいたり、相手が隠していた借金が発覚したり、そもそも結婚自体がスピード結婚だったために相手のことをよく知らなかった等、スピード離婚の場合は、結婚前に思っていたものと結婚後の現実との間にギャップがあった場合が多いようです。
3、裁判で認められる法定離婚原因とは?
我が国の民法では、夫婦の話し合い(協議離婚)や家庭裁判所での調停(調停)で離婚が成立しない場合は、裁判所で離婚が認められない限り離婚することはできないとされています。
そして、裁判所で離婚が認められるためには、下記の事由(法定離婚原因)が必要とされています(民法770条1項)。
- 配偶者に不貞行為があったとき
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
上記の中では、「5.」の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」が最も範囲が広く、裁判における離婚原因としては最も多いと言われています。
4、このような原因・理由で離婚が認められる?
では、下記のような場合、裁判で離婚が認められるのでしょうか?
(1)借金などのお金問題は離婚原因として認められる?
借金などの金銭的な問題は、前記の法定離婚原因の「1.」~「2.」には該当しません。
ですから、その金銭問題が、「婚姻を継続し難い」といえる程度のものでなければ、離婚原因としては認められないことになります。借金の原因や額から考えて、夫婦としての生活を維持するのが困難な状況であると判断されない限り、単に借金があることを理由に離婚を求めることはできないことになります。
なお、金銭問題の中でも、「生活費を一切渡さない」というのは、前記「2.」の「配偶者から悪意で遺棄されたとき」に当たる場合があります。
(2)同居などの嫁姑問題は離婚原因として認められる?
嫁姑問題は、多かれ少なかれどこの夫婦にも起こり得る問題です。ですから、それだけで、前記「5.」の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」と認められることはほとんどないといえます。
ただ、嫁姑の関係が相当悪化しているのに、夫がその仲裁を全く果たそうとしない場合や、嫁姑問題が原因で夫婦が別居し、その別居が長期間に渡っているような場合には、例外的に、「婚姻を継続し難い重大な事由がある」と判断される場合もあるようです。
(3)産後クライシスは離婚原因として認められる?
産後クライシスは、出産を契機として、夫婦の愛情が冷めてしまうことによって起こります。ただ、愛情が冷めたというだけでは、離婚原因として認められないのが一般的です。
ただ、産後クライシスによって互いの愛情が冷え切り、夫婦のどちらか又は双方が浮気するに至ったような場合は、前記「1.」の「不貞行為」として離婚が認められる場合があるでしょう。
(4)浮気・不倫はどこからが離婚原因として認められる?
「浮気」や「不倫」の定義は人によって様々でしょう。どこからが「浮気」にあたるか、という問題については、厳しい人であれば「手を繋いだら」とか「二人きりで食事にいったら」と考える方もおられます。ただ、裁判所は、法定離婚原因である「不貞行為」にあたるかどうかは、「性的行為」があったかどうか、という基準で判断することが一般的です。
なお、「性的行為」そのものの証拠はなくとも、メールの内容などから「性的行為があったこと」がうかがわれる場合は、「不貞行為があった」と認定される場合もあります。
[nllink url=”https://best-legal.jp/unchaste-act-4103/”]
(5)子供ができないことは離婚原因として認められる?
晩婚化が叫ばれる現在、子供ができないことに悩まれている方も多いと思います。しかし、子供ができないことだけでは前記の法定離婚原因があるとはいえません。
確かに、夫婦の一方が強く子供を望んでいるが他方がそこまでではない、といったように夫婦間に温度差がある場合は、子供ができないことが原因ですれ違いが生じることは少なくないと思います。ただ、そうは言っても、子供ができないことだけを理由に裁判所が離婚を認めることはほとんどないといえるでしょう。
(6)性の不一致は離婚原因として認められる?
夫婦というのは、男女の肉体的・精神的結合と考えられており、「性の不一致」は婚姻の根幹をなすものとして、前記「5.」の「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たると判断される場合が多いといえます。ただ、病気や高齢等が原因の場合は、夫婦間に性的関係がなくても、例外的に離婚原因とは認められません。
また、そもそも性的関係を重視しないことを双方があらかじめ合意していたような場合には、離婚したくなったからといって突然「性的関係がないこと」を持ち出して離婚を求めるようなことはできないと考えられています。
(7)夫が子育てしないことは離婚原因として認められる?
夫婦の一方が子育てをしなかったり、協力しなかったりすることが、それだけで離婚原因となることは少ないといえます。
ただ、それが子供への虐待に発展したような場合は、前記「5.」の「婚姻を継続し難い重大な事由がある」と判断されることもあるでしょう。
(8)モラハラは離婚原因として認められる?
モラハラは、比較的最近の概念であるため、裁判例もまだまだ多くないといえます。ただ、前記の「1.」~「4.」には該当しませんので、やはり、「5.」の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたるかどうかが問題となるでしょう。
モラハラの程度が、「3年以上の生死不明」や「強度の精神病」などと同程度に重大であると認められるような場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由がある」と判断される可能性も十分あります。ただ、モラハラは、DVと異なり、証拠が残りにくいという側面があるので、相手の言動等を録音したりメモをとったりするなどして、記録をしておくことが大切です。
まとめ
夫婦としていったん双方の合意のもとに結婚した場合は、双方の合意がなければ離婚できないというのが日本の法律の原則です。配偶者に対して様々な不満があることも多いと思いますが、選んだ方にもその相手を選んだ責任があるということです。
ただ、そうはいいつつも、日本の裁判所は、夫婦関係が破綻してしまっていて修復不可能な状態に陥ってしまった場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」と認めてくれる傾向にあります。
離婚したくても相手が離婚に同意してくれなさそう、というような場合は、いざという時に裁判で離婚を認めてもらうためにも、夫婦関係が破たんしてしまっているということを証明する証拠を集めておくことも必要といえるでしょう。