雇用保険における傷病手当とは、失業後に病気やケガをして働けなくなった人が、一定の要件を満たした場合に支給を受けることのできる給付金です。
失業中であるにもかかわらず病気やケガで働けなくなってしまったら、仕事復帰への気持ちが焦るだけでなく生活が成り立つかどうか不安に感じる人が多いですよね。
このような場合でも傷病手当を受け取ることができれば、生活の助けになるでしょう。
そこで今回は
- 傷病手当の内容や受給条件
- 支給額
- 支給期間等
について解説します。
本記事がお役に立てば幸いです。
雇用保険と社会保険の違いについては以下の関連記事をご覧ください。
1、雇用保険の傷病手当とは?
雇用保険における傷病手当とは、失業後に病気やケガをして働けなくなった人が、一定の要件を満たした場合に支給を受けることのできる給付金です。
(1)傷病手当の受給条件
傷病手当を受け取るには、以下の条件を満たしていることが必要となります。
①雇用保険の基本手当を受け取る資格(受給資格)があること
傷病手当は雇用保険に関する手当の制度ですから、傷病手当を受け取るには、雇用保険の基本手当を受け取る資格があることが必要です。
基本手当の受給資格は、
- 離職日以前2年前に雇用保険の被保険者期間が通算通算12ヶ月以上あることあること(*倒産、解雇等の理由により離職した離職した場合は離職前の1年間に雇用保険の被保険者期間が通算6ヶ月以上でも可)
- 休職の申込みをしており、働く意思と能力があるにもかかわらず働くことができていない状況にある
という2点を満たす場合に認められます。
なお、紹介された職業に就くことを、正当な理由なく拒むなどして、基本手当の受給資格が制限されている期間は、傷病手当の支給を受けることもできません。
②失業後に公共職業安定所(ハローワーク)に求職の申込みをしていること
雇用保険における傷病手当を受け取るには、失業後にハローワークに求職の申込みをしていることも必要です。
雇用保険における傷病手当は、働く意思があるにもかかわらず、病気等によって働くことができなくなってしまった場合の救済のための制度ですので、事前に求職の申込みをして、働く意思があることを示しておく必要があります。
③病気やケガのため、15日以上仕事に就くことができない状態であること
雇用保険における傷病手当を受給するには、15日以上病気やケガのために仕事に就くことができない状態が必要です。
なお、失業後の14日以内のちょっとした病気やケガの場合は、傷病手当ではなく雇用保険の基本手当の支給を受けることになります。働けなくなった期間に応じた手当についての詳細は後述します。
④③の病気やケガが、②の求職の申込み後に発生していること
病気やケガは求職の申込み後に発生していることが必要です。
在職中に病気やケガが発生した場合は、傷病手当の対象にはなりません。
業務中のけがであれば労働災害で、業務外でのけがであれば健康保険上の傷病手当金の申請をすべきことになります。
(2)傷病手当の支給額
傷病手当の支給額は、
(離職前6か月の給与の総支給額の合計÷180)× 給付率 |
という計算式で算出します。これは基本手当の額と同額です。
給付率は、離職時の年齢、賃金日額の状況により45〜80%のうちのいずれかの割合になります。
たとえば、離職前6か月の給与の総支給額が180万円で給付率50%の場合は
(180万円÷180)×50%=5000円
となります。
なお、離職時の年齢区分により手当の上限額は決まっています。
30歳未満 | 6760円 |
30歳以上45歳未満 | 7510円 |
45歳以上60歳未満 | 8265円 |
60歳以上65歳未満 | 7096円 |
(令和3年8月1日現在~)
(3)傷病手当の受給可能時期
雇用保険の傷病手当の受給開始可能時期は、求職の申込み後に病気やケガのため仕事につけなくなった日から15日目以降です。
受給できる期間は、基本手当の所定給付日数から、基本手当がすでに支給された日数を差し引いた日数となります。
(4)傷病手当と傷病手当金の違い
雇用保険の傷病手当に似たものとして、健康保険での「傷病手当金」という給付制度があります。
雇用保険の傷病手当と健康保険の傷病手当金は似ている制度ですが、以下の点に違いがあります。
①ケガや病気をした時期が異なる
雇用保険の傷病手当は、失業をして休職の申込みをした後にケガや病気で15日以上仕事に就くことができないときに受け取れるものですので、傷病手当の場合、ケガや病気をした時期は「失業して求職の申込みをした後」である必要があります。
これに対し、健康保険の傷病手当金は、「在職中に」業務とは関係のない要因で病気やケガをして、4日以上勤務ができないときに受け取れるものです。
病気やケガをした時期が、傷病手当は失業中であるのに対し、傷病手当金は在職中という点で両者には違いがあります。
②申請先が異なる
雇用保険の傷病手当の受給を希望する場合は、ハローワークに申請をすることになります。
傷病手当を申請する際はすでに失業しておりますので、退職前の会社や健康保険組合に申請することはありません。
これに対し、健康保険の傷病手当金を申請する際は、自分が加入している健康保険組合や協会けんぽ等に申請をすることになります。
2、働けない期間に応じた手当について
働けない期間が何日であるかによって、受け取れる手当の種類や手続きが変わってきます。
以下、働けない期間ごとに受け取れる手当の違いを確認していきましょう。
(1)働けない期間が15日未満
上記のとおり、雇用保険の傷病手当の対象となるのは、求職の申込み後に病気やケガのため仕事につけなくなった日から15日目以降です。
病気やケガで働けない期間が15日未満のときは、傷病手当の対象とはならず、基本手当の対象となります。
基本手当については、指定された認定日にハローワークに来所しないと、その認定日前日までの認定を受けられず、基本手当が支給されません。
ケガや病気でハローワークに来所できない場合は、事前にハローワークに連絡し職員の指示を受けましょう。
認定日の変更を受ける場合は、後日医師の診断書等が必要になります。
(2)働けない期間が15日以上30日未満
働けない期間が15日以上30日未満の場合は傷病手当が支給されます。
雇用保険の傷病手当の対象となるのは求職の申込み後に病気やケガのため仕事につけなくなった日から15日目以降ですので、上述の他の要件が満たされていれば傷病手当の支給対象になります。
(3)働けない期間が30日以上
働けない期間が30日以上の場合は、傷病手当を受けるか、もしくは基本手当の受給期間を延長するという2つの選択肢があります。
基本手当は離職日の翌日から原則1年以内しか受給できません。この1年の受給期間を超えると、基本手当や傷病手当は受給できなくなるのが原則です。
ただし、病気やケガをした場合、その期間働けないのはやむを得ないことですから、30日以上働けない場合は、働けない期間を当初の基本手当の受給期間に加算することが認められています。
基本手当の受給を延長できる期間は最大3年間となっており、原則の1年間と合わせて離職日の翌日から最大4年まで延長可能です。(この扱いは期間の延長があるだけですので、基本手当の所定給付日数が増えるわけではありません。すなわち、4年間途切れることなくずっと受給できる訳ではなく、病気やケガで働けない期間は受給せず、治った後に延長した期間が満了するまで受給できます。)
延長措置を受ける場合には、「受給期間延長申請書」に「受給資格者証」を添えて、延長後の受給期間の最後の日までにハローワークに申請をする必要があります。
3、雇用保険の傷病手当を申請する方法
ここからは、雇用保険の傷病手当を申請する方法について見ていきましょう。
(1)申請に必要な書類
傷病手当を申請する際は、「傷病手当支給申請書」という書類を作成して提出する必要があります。
「傷病手当支給申請書」はハローワーク窓口で書類を受け取ることもできますし、ハローワークインターネットサービスでダウンロードすることもできます。
傷病手当支給申請書には、以下の情報をそれぞれ記載していきます。
- 申請者の情報(氏名、性別、生年月日)
- 診療担当者の証明(傷病の名称及びその程度、初診年月日、傷病の経過、傷病のため職業に就くことができなかったと認められる期間、診療担当者の証明)
- 支給申請期間(同一の傷病により受けることのできる給付、この給付を受けることのできる期間、傷病手当の支給を受けようとする期間、内職若しくは手伝いをした日又は収入のあった日とその額等)
(2)申請先
傷病手当は、住所地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)へ申請します。申請の際は、「傷病手当支給申請書」に「受給資格者証」などを添えて申請します。
「受給資格者証」は、ハローワークに離職票を提出し、求職の申込みをした後、公共職業安定所が受給資格の決定をしたときに発行されるものです。
(3)申請できる期限
傷病手当の支給を受けるには、病気やケガが治った後の最初の認定日までに、「傷病手当支給申請書」を提出して申請する必要があります。
傷病の期間が1か月を超えるような場合は、代理人(委任状が必要)または郵送により提出することができます。
詳細はハローワークに確認しましょう。この場合でも、遅くとも受給期間の最後の日から起算して1か月を経過する日までに手続きをする必要があります。
(4)主治医の記入は早めに依頼する
傷病手当支給申請書の中の「傷病の名称及びその程度」「初診年月日」「傷病の経過」「傷病のため職業に就くことができなかったと認められる期間」については、自分で記載することはできず、診療担当者の証明が必要となります。
診療担当者である主治医はあなた以外にもたくさんの患者を診察していますから、すぐに傷病手当支給申請書を記載してくれるとは限りません。
申請書を提出する際は期限が決まっていますから、主治医への記入の依頼は早めに行いましょう。
4、こんなときは雇用保険の傷病手当をもらえる?
以下では、雇用保険の傷病手当をもらえるかどうかケースごとに見ていきましょう。
(1)基本手当をもらっているときに傷病手当を同時にもらえる?
失業後、雇用保険に基づく基本手当を受け取っている際、失業手当に加えて傷病手当も受け取れるのではないか?と考えている人がいますが、基本手当と傷病手当を同時に受け取ることはできません。
基本手当は、働く意思・能力があるにもかかわらず働くことができない人のための手当です。
しかし、病気等になると、労働能力が欠けたものとして基本手当の支給対象から外れてしまうことになります。
このような場合の救済のための制度が傷病手当なので、両方を同時に受け取ることはできないのです。
(2)パートやアルバイトも傷病手当をもらえる?
パートやアルバイトの場合は、雇用保険に加入しているか否かで傷病手当を受け取れるかどうかが異なります。
雇用保険に加入していれば、パートやアルバイトも傷病手当の支給対象となる可能性がありますので、加入の有無を確認しましょう。
ハローワークで求職の申込手続を済ませておきましょう。
(3)退職前に怪我をした場合、傷病手当をもらえる?
退職前に怪我をした場合、傷病手当を受けることはできません。傷病手当は離職後に受給できる制度ですので、在職中は適用除外となります。健康保険の傷病手当金や労災の申請を検討しましょう。
まとめ
失業中は「早く次の仕事を探さなければ…」と焦る人が多いですが、病気や怪我をしてしまった場合は焦らず回復に努めましょう。
基本手当も傷病手当も、ただ黙っているだけで受け取れる手当ではなく、申請等の手続きは自分で行う必要があります。
雇用保険の傷病手当の制度を理解して、申請の方法やその時期については事前に確認をし、期限内に申請をするようにしましょう。