ジェンダーハラスメントに立ち向かうための基本的な5つの視点

ジェンダーハラスメントに立ち向かうための基本的な5つの視点

ジェンダーハラスメントとは、性別により社会的役割が異なるという固定的な概念(ジェンダー)に基づいた差別や嫌がらせのことです。

我が国の職場では、「男らしい」「女らしい」など、固定的な性別役割分担意識に基づいた言動がいまだに蔓延しています。

「女のクセに」「男のクセに」といった物言いに代表される「ジェンダーハラスメント」はいじめや嫌がらせを意味する「ハラスメント」の一類型です。

しかし、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどのように法令指針などで明確に規制されているわけでなく、どのように対応するか戸惑っている方も多いでしょう。

この記事では

  • ジェンダーハラスメントの基本知識と具体例
  • ジェンダーハラスメント防止策
  • ジェンダーハラスメントに遭ったときの対応策

などを弁護士がわかりやすくまとめました。

古風な考えを持つ社員の言動に苦しめられているあなたに、この記事はきっと参考になるでしょう。

それだけではありません。
あなた自身が無意識のうちにジェンダーハラスメントの加害者になっているかもしれません。男女というだけでなく、LGBTの問題も含めて、自らの言動を見直し、仲間とともによき職場風土を築くために、この記事がお役に立てば幸いです。

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1、ジェンダーハラスメントの基本知識

(1)そもそもハラスメントとは

まず、そもそもハラスメントとは何かを確認しておきましょう。

ハラスメントは「嫌がらせ」や「いじめ」行為を指します。

職場においては、上司や同僚の言動が本人の意図とは関係なく、相手を不快にさせたり、傷つけたり、不利益を与えたりすることで、就業環境を害する行為がハラスメントに該当します。

「言動によって就業環境が害される」ということが職場のハラスメントの本質と考えておけばよいでしょう。

(2)ジェンダーハラスメントの定義

冒頭でもご説明した通り、「性別により社会的役割が異なるという固定的な概念(ジェンダー)に基づいた差別や嫌がらせのこと」等と定義されています。

例えば、「男(女)のくせに」という発言で相手を叱責すること、女性従業員だけにいわゆる「お茶くみ」等の雑用をさせる、一方で、力仕事は男性社員しかできない、として、女性にはやらせない。このようなことなどが当てはまるでしょう。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の前会長森 喜朗氏の「女性は話が長い。会議に時間がかかる。」云々といった発言は、根拠もなく女性を愚弄するもので、ジェンダーハラスメントの典型例ともいえるでしょう。発言の背景に、「女は男に従うものだ、でしゃばるべきではない。」という、性別による社会的役割の固定的観念があるのはないかということで問題となりました。

(3)セクシャルハラスメントとの違い

ジェンダーハラスメントはセクシャルハラスメントと似ているように見えますが、次のように区別されています。

セクシャルハラスメントは「性的な内容の発言および性的な行動」です。

すなわち、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗(しつよう)な誘い、必要なく身体へ接触すること、などです。このような言動により、労働者が不利益な取り扱いを受けたり、就業環境を害されたりすることに対して、会社に防止措置義務があることが明確に定められています(男女雇用機会均等法第11条)。

これに対して、ジェンダーハラスメントは「(性的でないが)性別に関係する不快な言動」であるという点で、セクシャルハラスメントとは区別されます。

現在のところ、ジェンダーハラスメントそのものについては、防止措置義務などの定めは設けられていません。

とはいえ、「男らしい」「女らしい」など、固定的な性別役割分担意識(※)に基づいた言動は、セクシャルハラスメントの原因や背景になってしまう可能性があります。

そもそも「性的であるかないか」でセクシャルハラスメントとジェンダーハラスメントを明確に区別できるとも限りません。

広く性に関する言動などで就業環境を害する行為は、職場で働く者として許されない、と考えておいた方が良いでしょう。

※性別役割分担意識:「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」といった性別に基づく役割意識

(図解の出典)厚生労働省   管理職向け職場のハラスメント対策セミナー2018

2、職場でのジェンダーハラスメントの具体例

ジェンダーハラスメントの具体例をいくつか挙げてみましょう。

注意すべきは、本人の主観的な意図とは必ずしも関係しないことです。本人に悪気やハラスメントの意図がなくても、該当することが少なくありません。

またこれらの例を見れば、セクハラ、マタハラ、パワハラに該当する例も少なくないと思われます。

(1)職場での男女別の役割の違いを押しつけられる

勤務先でのお茶出しや清掃などの雑務は女性の仕事とする慣習がよく見られます。

「来客にお茶を出すのは女性の仕事だ。管理職でも必ず女性がすべきだ」
「会社内の掃除は女性がやるべきだ」
「飲み会でのお酌は女性にやってほしい」
「女に大事な仕事は任せられない」

逆に男性に対して

「男なら残業するのは当たり前だ」
「力仕事は男がやれ」

(もちろん、母性保護の観点から女性に無理に肉体労働を押しつけることも許されませんが、これも程度問題でしょう。)

(2)言動などに男女差別がある〜服装や振る舞いなどに「女性らしさ」を押し付けられる

「女性社員だけ〇〇ちゃんと呼ばれる」
「男性は名前で呼ぶのに女性は『女の子』と言われる」
「女性には年上であってもタメ口で話されていた」
「女性が少し年を取ると『お局様』と呼ばれる」
「女性だから可愛らしさを出せ、と言われた」
「女なら、会議に出席しても余計なことは言うなと言われた」

容姿、化粧、髪型に対する介入や軽口も問題になりえます。少し前に問題になった#KuTooで、女性に履きにくいパンプスを強いる、というのもこの一例でしょう。

なお、厚生労働省のパンフレットでは、この問題は場合によってはパワハラにも該当すると指摘されています。

Q.一定の服装の着用を労働者に対して強制することもパワーハラスメントになるのでしょうか。

A.(抜粋)

「例えば、足に怪我をした人に対してヒールのある靴の着用を強制するような言動などは、職場におけるパワーハラスメントに該当し得ます。」

(厚生労働省パンフレット

「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました ~ セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに対応をお願いします ~」(以下「厚労省ハラスメントパンフレット」)5頁より

(3)キャリアアップや昇進に差別を感ずる

「女性だから仕事をがんばらなくても良いと言われた」
「女性の上司に仕えるのは嫌だ」
「女はどうせ結婚で辞めるから、当てにならない」

(4)プライベートな事柄への干渉や軽口

「結婚はまだなの?」
「若いうちが花だね」
「子供はまだできないの?」
「女は家事が大変だから、無理に仕事をしなくても良いよ」(女性への気づかいのつもりであっても、家庭の状況や本人の気持ちを考えて発言しないと、女性の就業意欲を減ずる可能性があります。)

(5)LGBT問題

ジェンダーハラスメントは男性女性に関する問題だけではありません。

LGBTなど性的少数者に対して、気持ちが悪いなど、陰口をいうこともジェンダーハラスメントの一つと考えておくべきでしょう。

3、ジェンダーハラスメントの防止策

(1)基本的には他のハラスメントと同様に考えるべき

基本的には、他のハラスメントと同様に考えるべきです。

これまでの政府のハラスメント対策は、様々なハラスメント類型のうち、特に問題となったものを取り出して防止対策を図ってきました。

就業環境を害して労働者の能力発揮を著しく阻害し、甚だしきは解雇、降格、減給といった不利益処分を課すことがあり、国家として放置できなくなったのです。

国家が介入する以上は、要件を明確にして最低限度の規制とせざるを得ません。そのためにセクハラ、マタハラ、パワハラといった類型ごとに順次規制を行ってきたものです。

しかし、2020年6月のパワハラ防止法施行を契機に、セクハラ、マタハラなどを取り纏めて、ハラスメント防止対策として整理されてきました。

ジェンダーハラスメントも、本来はこの規制に準じて、対策を考えるべきでしょう。

(参考)

厚労省ハラスメントパンフレット」より

「はじめに -なぜハラスメント対策が重要なのか-職場のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント等の様々なハラスメントは、働く人が能力を十分に発揮することの妨げになることはもちろん、個人としての尊厳や人格を不当に傷つける等の人権に関わる許されない行為です。
また、企業にとっても、職場秩序の乱れや業務への支障が生じたり、貴重な人材の損失につながり、社会的評価にも悪影響を与えかねない大きな問題です。」

「事業主の方は、これまで職場におけるセクシュアルハラスメント等の防止措置を講じてきた経験を活かしつつ、パワーハラスメント防止対策についても必要な措置を講じてください。
また、働く人自身も、上司・同僚・部下をはじめ取引先等仕事をしていく中で関わる人たちをお互いに尊重することで、皆でハラスメントのない職場にしていくことを心がけましょう。」

(2)具体的な対策の骨子

厚労省ハラスメントパンフレット」では、事業主(会社)、労働者双方にハラスメント対策の責務があることが明記されています。

責務の概要は次の通りです。

ジェンダーハラスメントも基本的には、この責務の対象として他のハラスメントと同様に取り扱っていくべきものと考えられます。

【事業主の責務】

1) 職場におけるハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるハラスメントに起因する問題に対する自社の労働者の関心と理解を深めること

2) 自社の労働者が他の労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うよう、研修その他の必要な配慮をすること

3) 事業主自身(法人の場合はその役員)が、ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うこと

【労働者の責務】

1) ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、他の労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うこと

2) 事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること

※ 取引先等の他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれます。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(パワハラ防止法)30条の3、男女雇用機会均等法11条の2等にも、以上のような規定があります。

(3)ジェンダーハラスメントについては、特に労働者の意識改革が求められる

ジェンダーハラスメントそのものが、まだ多くの人に十分意識されていない問題です。

会社が積極的に差別的な対応をしているとか、不適切な対応をしている、というよりも、管理職その他職場の多くの個人の無意識な言動が、働く仲間に不快な思いをさせ傷付けているのです。ハラスメントに該当する言動をしている人は、特段の悪気もないことが多いでしょう。

前述「2」で示したような言動が、皆さんの周りで見かけられないでしょうか。

職場の仲間で話し合ったり、セクハラやパワハラの研修などの場でジェンダーハラスメントについても取り上げたり、といった問題の共有がまずは望まれるでしょう。

4、ジェンダーハラスメントに遭ってしまった場合の対処法

(1)社内外の相談窓口活用

ジェンダーハラスメントもハラスメントの一つですから、ハラスメントに関する社内外の相談窓口を、まずは活用すべきです。セクハラ・マタハラ・パワハラに関しては、社内相談窓口が設けられているはずです。ジェンダーハラスメントについても相談してみましょう。

前述の通り、そもそもセクハラ・マタハラ・パワハラとジェンダーハラスメントは明確に区別できるものでもなく、それぞれのハラスメントが重なりあって関連していると考えるべきです。ご自分でジェンダーハラスメントと思っていても、実は、セクハラ、マタハラ、あるいはパワハラであることも十分考えられます。

ともかく相談してみることです。
なお、社外相談窓口としては次がお勧めです。

都道府県労働局「総合労働相談コーナー」

労働局は、会社と労働者との間に発生したトラブルについて、助言や解決の場の提供を行う機関です。そのはじめの窓口が、総合労働相談コーナーです。

(2)訴えの提起ができるか?

「法令や指針で定めるハラスメントでなければ訴えることはできない。」

そんな誤解をしていませんか。

どのような類型のハラスメントであれ、職場環境を害し、本人の心身の不調などにつながるならば、民事上の損害賠償請求などを求められる可能性はあります。

元々様々なハラスメントも、このような問題事例や裁判例の積み重ねを経て、法令で明確化され各種指針として、対応策が確立してきているものです。

①会社への訴え提起

会社には労働者に対する安全配慮義務があります。職場環境を守り、労働者の心身の健康を守る健康配慮義務もその一つです。

例えば、会社の相談窓口に相談したのに何もしてくれず、遂に体調を崩してしまった、そのような実害があるなら、安全配慮義務違反として会社への訴え提起も可能でしょう。

②加害者への訴え提起

これも故意または過失により本人に損害を加えたのであれば、不法行為としての損害賠償請求なども考えられます。

ただし、ジェンダーハラスメントの場合、加害者がほとんど加害意識もなく、また、特定の1人ではなく、職場全体で問題が発生しているということも多いでしょう。

特定の加害者の「故意過失」と「心身の不調」の因果関係の立証が可能かどうか判断は容易ではありません。まずは、弁護士に相談してみましょう。

③厚生労働省の法令・指針はハラスメント認定の明確化のため

厚生労働省がセクハラ、マタハラ、パワハラについて法令や指針で明確化を図っているのは、ハラスメントの中で特に問題となっている類型について、国としての共通の判断基準を明確にするためです。

国により判断基準が明確化されれば、被害者として問題を立証することは容易になるでしょう。

会社であれ加害者であれ「自分は知らなかった。気がつかなかった。」という言い訳もできなくなります。

ジェンダーハラスメントについては、国家としての明確な法令指針がありません。

セクハラ、マタハラ、パワハラよりも訴えの提起は容易ではないとも思われます。

5、ジェンダーハラスメントなど「ハラスメント」でお困りの場合は弁護士へ相談を

ジェンダーハラスメントは最近注目が集まりだしている問題です。

現実にジェンダーハラスメントで苦しんでおられる場合や、ご自分の周りで苦しんでいる方がおられる場合、ぜひ一度弁護士に相談してみてください。

各種のハラスメント事例を扱っている弁護士ならば、どのような対応が現実に望ましいのか適切なアドバイスをしてくれるでしょう。

突然、社内相談窓口に持ち込んでも、「自意識過剰だ、おかしなやつだ」と見られてしまう可能性さえあります。

公的な相談窓口でも、様々な案件を山のように抱えている中で、真摯に向き合ってくれるとは限りません。

ハラスメントをはじめ、労働問題に詳しい弁護士が、あなたに向き合って真剣に対応してくれるでしょう。

まとめ 

ハラスメントは、その人の意識に関わる問題であり、会社の風土にも根差した問題です。容易に解決できる事ではありません。
本来は、国家としてもセクハラ、マタハラ、パワハラといった個別のハラスメントをもぐらたたき的に対応するのではなく、ハラスメント行為全般を俯瞰した対応が望まれるところです。

ただし、現実に問題があるのなら、行動に移すことが好ましいです。
各種相談窓口に寄せられて来ている問題から、最近、ジェンダーハラスメントに注目が集まりだしているのです。あなたの声が会社を変え、世の中を変えていくきっかけになるかもしれません。

お一人の力で対応が難しくても、弁護士を味方につけてください。
そのような積み重ねがあなたを守り、あなたの仲間を守り、あなたの会社を発展させ、この国の姿を変えていくことに役立つでしょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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