B型肝炎ウイルスの検査は、血液検査や健康診断を通じて感染状態を確かめることがあると思います。
また現在では、女性は出産の際にB型肝炎ウイルスへの感染の有無を検査することとなっています。
B型肝炎の検査では、抗原が陽性又は陰性であるとか、抗体が陽性又は陰性であるといったかたちで検査結果が出ますが、これらの検査結果は何を表しているのでしょうか。
「肝臓は沈黙の臓器」とも呼ばれ、自覚症状がないまま病態が進行したり、気づいた時には肝臓がんになっていたりするなど、病気の発見が遅れやすい臓器です。
自覚症状がないままに病態が進行しやすい肝臓に関する病気だからこそ、B型肝炎の検査を受けたときは、検査結果をしっかり理解し、自分の体の状況を把握すること、また、必要な場合は早めに対策を講じることが大切です。
これまで6万人以上のB型肝炎に悩む方々からの相談に応じてきたベリーベスト法律事務所のB型肝炎専門チームの弁護士が、B型肝炎ウイルスの血液検査で陽性反応が出たときのための8つの知識を説明します。
この記事が、B型肝炎ウイルスに関する正しい知識を身に着け、検査結果に応じた適切な対処を行うための助けとなれば幸いです。
目次
1、B型肝炎の血液検査を知る前に|B型肝炎とは
(1)B型肝炎の原因
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染することにより発症する肝臓の病気の一つです。
B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して人に感染し肝細胞に侵入します。B型肝炎ウイルスに感染すると、ウイルスを異物と判断した免疫がウイルスを攻撃します。その際に、ウイルスに感染した肝細胞も一緒に破壊してしまい肝炎が起こってしまうというのがB型肝炎の構造です。
(2)B型肝炎ウイルスへの感染原因
B型肝炎ウイルスは強い感染力を有するウイルスであり、C型肝炎ウイルスやエイズウイルスの10~100倍程度の感染力を有するといわれています。
B型肝炎ウイルスへの感染原因は大きく分けて2つあります。
一つは、出産の際に母親から子供に感染してしまうという感染経路です。胎内で動くことにより胎児にできたわずかな傷口が、出産の際に母親の血液等と接触してしまい、子供に感染してしまうのです。これを母子感染(垂直感染)といいます。
母親がB型肝炎ウイルスに感染していると、母子感染を防止する必要な処置を講じなかった場合、ほぼ100%の確率で生まれてきた子供も感染してしまいます。
なお、昭和61年以降は、母子感染防止策の一環として、妊婦検診で母親のB型肝炎ウイルスへの感染状況を確認するとともに、感染がある場合は、出産直後の乳児にワクチンを打つという対策が採られているので、母子感染はほとんど起きていません。
B型肝炎ウイルスに感染するもう一つの原因は、他人の血液や体液を通じて感染するというもので、予防接種時の注射器の使い回しや違法薬物の使用に伴う注射器の使い回し、輸血に伴う感染、性交渉等が考えられます。このような感染の仕方を水平感染といいます。
(3)B型肝炎の症状
B型肝炎ウイルスの感染の仕方には、一過性感染と持続感染の2つの種類があります 。
成人してから感染した場合の多くは、一過性感染となります。成人後であれば、免疫が発達しているため、通常半年以内に、自己の免疫機能によってウイルスを体外に排除できます。一過性感染の場合、70~80%の方は、何の症状も起きませんが、20~30%の方は、急性肝炎を発症し、全身倦怠感や食欲不振、黄疸等の症状が現れてしまいます。
これに対し、出産時や乳幼児期に感染すると、持続感染となります。乳幼児期は免疫が発達していないので、この時期にB型肝炎ウイルスに感染してしまった場合、その後も持続的に感染してしまいます。持続感染の場合、数年から10数年間は肝炎の発症が起きない方が多いのですが、10代から30代の頃にかけて強い肝炎を起こす場合があります。
肝炎を起こした場合であっても、ほとんどの方は、一定期間で鎮静化する場合が多いのですが、一部の方は慢性肝炎の状態になり、その中から肝硬変や肝臓がんに発展する場合があります。
2、B型肝炎の血液検査を知る前に|B型肝炎ウイルスに関する抗原と抗体の種類
(1)HBs抗原とは
HBs抗原とは、B型肝炎ウイルスの外殻を構成するたんぱく質の一つです。B型肝炎ウイルスが増殖する際に、粒子として血液中に出てきます。
B型肝炎ウイルスに感染しているかどうかを判定するために、血液中のHBs抗原の有無及び量を調べることがあります。
(2)HBe抗原とは
HBe抗原は、B型肝炎ウイルスの内側にあり、ウイルスが過剰増殖する際に可溶性タンパク質として血液中に出てきます。HBs抗原と同様、B型肝炎ウイルスに感染しているかどうかを判定するために、血液中のHBe抗原の有無及び量が調べられることがあります。
HBe抗原の量が多いときは、B型肝炎ウイルスが体内で活動力を高めているといえ、感染力が強い状態にあるといえます。
(3)HBs抗体とは
抗体とは、免疫グロブリンというたんぱく質です。生体内でつくられる分子で、特定の異物に存在する抗原と結合して、その異物を生体内から除去する働きをもっています。
HBs抗体は、HBs抗原に対する抗体で、B型肝炎ウイルスへの感染を防御する機能を有しています。HBs抗体は、B型肝炎ウイルスに一過性の感染をしたり、B型肝炎ウイルスのワクチンを接種したりすると、体内に作られます。
(4)HBe抗体とは
HBe抗体とは、HBe抗原に対する抗体です。B型肝炎ウイルスへの感染自体を防ぐ機能はありませんが、HBe抗体が体内に作られると、B型肝炎ウイルスの増殖力が弱くなり、血液中のB型肝炎ウイルスの量も減ってくることから、感染力が弱くなります。
(5)HBc抗体とは
HBc抗体とは、HBc抗原に対する抗体です。HBc抗原自体は、B型肝炎ウイルスの外殻に包まれていてウイルス粒子の内部に存在することから、通常の状態では検出することができません。
HBc抗体には、IgM-HBc抗体とIgG-HBc抗体があり、B型肝炎ウイルスに感染した場合、前者はB型肝炎ウイルスへの感染初期にあらわれるのに対し、後者は、IgM-HBc抗体に遅れて現れ、ほぼ生涯に渡って、血液中に存在することになります。
3、B型肝炎ウイルスに感染しているかを血液検査で調べる
B型肝炎ウイルスに感染しているかどうかは血液を検査することで調べることができます。
一般的には、血液検査において、HBs抗原の有無を検査します。
血液検査において、HBs抗原が検出された場合(HBs抗原陽性の場合)、肝臓の中にB型肝炎ウイルスが存在すること、また、血液中にもB型肝炎ウイルスが存在していることを示しています。
また、血液検査において、HBe抗原が検出された場合(HBe抗原陽性の場合)も、HBs抗原陽性の場合と同様B型肝炎ウイルスに感染していることを示しています。
4、B型肝炎ウイルスの血液検査(抗体検査)で分かること
では、B型肝炎ウイルスに対する抗体が体内に存在する場合、どのようなことがいえるのでしょうか。抗体の種類別にみてみると下表のようになります。
抗体の種類 | 陽性の場合にいえること |
HBs抗体 |
|
HBe抗体 |
|
HBc抗体 |
|
以下、それぞれについて詳しく説明します。
(1)HBs抗体が陽性の場合
HBs抗体が陽性の場合は、B型肝炎ウイルスに対する免疫を獲得していることを示しています。B型肝炎のワクチンを接種して体内に抗体ができた場合や、一度B型肝炎ウイルスに感染したけれどもウイルスを体外に排除してしまった場合に、HBs抗体が陽性となります。
HBs抗体には、B型肝炎ウイルスからの感染を防御する力があるため、仮にこの状態でB型肝炎ウイルスが体内に入ってきても、基本的には肝炎を発症することはありません。
(2)HBe抗体が陽性の場合
HBe抗体が陽性の場合は、過去にB型肝炎ウイルスに感染したけれども、今は血液中のウイルス量が少なく、他人への感染力が低いことを示しています。HBe抗原が陰性で、HBe抗体が陽性の場合をセロコンバージョンといい、免疫機能によって、B型肝炎ウイルスの状態が抑え込まれた状態を意味します。
以前は、この状態をもって、B型肝炎は治癒したものと考えられていましたが、近年の研究では、このセロコンバージョンに至った後の方でも慢性肝炎や肝硬変を発症する場合があることが判明しているので注意が必要です。
(3)HBc抗体が陽性の場合
HBc抗体が陽性の場合、それが高力価(数値が高い場合:CLIA法による検査で10以上が目安とされています)であれば、現在B型肝炎ウイルスに持続感染しているということを示しています。
他方で、低力価(数値が低い場合:CLIA法による検査で10未満が目安とされています)であれば、過去に感染したことがあるということを示しています。
HBs抗原が陰性で、なおかつHBc抗体が低力価であっても、体内にわずかなB型肝炎ウイルスが潜伏している場合があります。通常そのようなわずかなB型肝炎ウイルスは、体の中の免疫と均衡を保っているため問題になることはありません。しかし、何らかの理由で免疫力が低下すると、B型肝炎ウイルスが再増殖し、肝炎が再燃してしまうことがあります。
ですから、他の病気の治療のために免疫を抑制するような薬を使用する際は、HBs抗原とともにHBc抗体を測定し、体内にわずかであってもB型肝炎ウイルスが存在していないかどうかを検査することが推奨されています。
5、B型肝炎ウイルスの血液検査(抗体検査)で陽性となった場合の対処法
対処法をまとめると下表のようになります。
抗体の種類 | 対処法 |
HBs抗体 | 定期的な血液検査 |
HBe抗体 |
|
HBc抗体 |
|
以下、それぞれについて詳しく説明します。
(1)HBs抗体が陽性の場合
HBs抗体が陽性の場合、今後B型肝炎ウイルスが体内に侵入しても、基本的に肝炎を発症することはありません。
ただ、HBs抗体が陽性であっても、HBc抗体が陽性の場合、過去に感染したB型肝炎ウイルスが体内に潜伏している可能性があるので、定期的に血液検査を受けることが大切です。
(2)HBe抗体が陽性の場合
HBe抗体が陽性であっても、それは単にB型肝炎ウイルスの感染力が低いことを示しているにすぎません。ですから他人に感染させてしまう可能性も十分ありますし、肝炎を発症する可能性もあります。
そのため、継続して血液検査を受けてウイルス量等を測定することが大切ですし、ウイルスが増えてきた場合等には、投薬等の治療が必要になります。
(3)HBc抗体が陽性の場合
HBc抗体が陽性の場合、それが高力価であれば、現在B型肝炎ウイルスに感染していることを示していますから、常に継続して血液検査を受けて、ウイルス量や肝機能の数値をチェックし、ウイルス量が増えてきたり、肝機能の数値が異常値を示したりした場合は、積極的な治療を受ける必要があります。
HBc抗体が陽性であっても、それが低力価の場合は、過去にB型肝炎ウイルスに感染していたことを示しているに過ぎないため、基本的には治療は必要ありません。
ただ、ウイルスが潜伏している可能性があり、免疫力が低下すると再びウイルスが増殖する可能性があることから、免疫を抑制するような薬を使用する際は、定期的に検査を受けてウイルスが再増殖していないかどうかを調べたり、場合によっては、抗ウイルス薬の投与を受けたりするなどの対処が必要となってきます。
6、血液検査からB型肝炎ウイルスの感染が発覚した場合の対処法
(1)病状を進行させないために
B型肝炎ウイルスに感染しても、症状の出ない方はたくさんおられます。また、慢性肝炎などを発症しても、自覚症状がない場合も多く、知らず知らずのうちに肝臓の状態が悪化しているという方もおられます。
ですから、B型肝炎ウイルスへの感染が判明した場合に、自覚症状がないからといって放置するのは危険です。
HBs抗原が陽性の方はもちろんですが、陰性の方であっても、HBc抗体が陽性でかつ高力価の場合は、定期的に血液検査やエコー検査等を受けて、ウイルスが活動していないか、肝臓が炎症を起こしていないかを調べることが大切です。
そして、ウイルスが活動している場合には、インターフェロン(注射薬)や核酸アナログ製剤(内服薬)等による治療を検討する必要があります。
なお、インターフェロンや核酸アナログ製剤による治療に対しては、自己負担額が月1~2万円程度の医療費助成制度が利用できる可能性が高いので、自治体に確認してみるとよいでしょう。また、後述するとおり、最高3,600万円の給付金の請求ができる場合があります。
(2)他人に感染させないために
B型肝炎ウイルスは、空気感染や経口感染はしませんが、感染者の血液や体液を通じて他人に感染します。
ですから、自分がB型肝炎ウイルスに感染していることが判明した場合は以下のような点に注意して他人に感染させないようにすることが大切です。
- 献血は行わない
- 髭剃りやカミソリなどは家族と共有しない。
- 自身の血液が衣類等に付着した場合は、よく洗い流す。
- 乳幼児等に口移しで食べ物を与えない。
- パートナー等の家族にワクチンを接種してもらう。
- 他の病気で医療機関を受診した際には、医療関係者等への感染を防止するために事前に申告をする。
7、B型肝炎に対する抗体をつくるワクチンについて
B型肝炎ウイルスはいったん感染してしまうと、体内から完全に排除することが難しいウイルスです。ですから、感染する前にワクチンを接種して、体内に抗体(HBs抗体)をつくっておくということが最も確実な予防方法です。
B型肝炎ウイルスに感染している母親が出産する場合は、母子感染防止事業の一環として、生まれてきた子供に無料でB型肝炎ウイルスのワクチンを接種させることになっています。また、平成28年10月より、0歳児に限り、ワクチンの接種が無料でできることになりました。
このような制度を利用してワクチンの接種させることで、将来B型肝炎ウイルスに感染することを防ぐことができます。
また、成人の場合は有料にはなりますが、家族にB型肝炎ウイルスに感染している方がいる場合等には、積極的にワクチンを接種しておくことで、感染を防止することに繋がります。
8、集団予防接種でB型肝炎ウイルスに感染した場合の給付金制度について
B型肝炎ウイルスへの感染原因は複数ありますが、その感染原因の一つとして、集団予防接種による注射器の使い回しが挙げられます。国が集団予防接種に際して注射器の交換を指導しなかったために、B型肝炎ウイルスが蔓延してしまったのです。そのため、国がその責任を認め、給付金を支給するという制度があります。
この給付金を受けることができるのは、満7歳までの間に受けた集団予防接種において、注射器の使い回しがあったとされる、昭和16年7月2日から昭和63年1月27日までに生まれた方で、現在B型肝炎ウイルスに持続感染していると認められる方だけです。
給付金の額は、下記の通りで、症状によって異なります。
現在の症状 | 給付金額(※1) |
B型肝炎が原因で死亡された方 | 3,600万円(900万円) |
肝がん、肝硬変(重度) | 3,600万円(900万円) |
肝硬変(軽度) | 2,500万円(600万円/300万円) |
慢性肝炎 | 1,250万円(300万円/150万円) |
無症候性キャリア(※2) | 600万円(50万円) |
※1 括弧内の金額は、その症状が発症してから20年以上経過している場合の金額で、そのうち肝硬変(軽度)及び慢性肝炎について、左側は現在も症状が出ている方や特定の治療(インターフェロン、核酸アナログ製剤(ラミブジン、アデホビル、エンテカビル、テノホビル))を受けた方、右側がそのほかの方が受け取れる金額になります。
※2 無症候性キャリアとは、B型肝炎ウイルスに持続感染しているが、何の症状も発症していない方をいいます。
なお、上記金額以外にも給付金を受けるために必要な検査にかかる費用などが支給される場合がありますし、無症候性キャリアの方の場合は、給付金の支給を受けた後も、定期的に受ける検査費用について給付を受けることができます。
給付金の支払いを受ける場合には、国を相手方として裁判(いわゆるB型肝炎訴訟)を起こす必要があるので、手続きを進めたい場合は弁護士に相談されると良いでしょう。
なお、手続きを弁護士に依頼して費用が発生した場合には、国から、上記の給付金に加えて、訴訟手当金として一定額が支払われます。
詳しくは「50万円〜3600万円!肝臓に病を抱えるあなたが国からもらえるかもしれない給付金とは?」をご確認ください。
まとめ
B型肝炎ウイルスは、感染してもすぐに症状が出ることが少ない反面、肝硬変や肝がんといった死亡リスクのある病気の原因となる可能性のあるウイルスです。
献血や職場の健康診断等で、B型肝炎ウイルスに関する検査が陽性と出た場合は、たとえ症状が出ていなくとも、専門の医療機関を受診して、詳しい検査を受けること、また、その後も定期的に検査を受けることが大切です。
また、検査結果の見方等が分からない場合には、医師に相談をすることをおすすめします。
加えて、B型肝炎ウイルスへの感染原因について、パートナーや家族に感染者がおらず、輸血等の経験もない等、心当たりがない場合は、幼少期の集団予防接種が原因であるとも考えられます。
その場合は、給付金の支給を受けられる可能性があることから、弁護士に相談をされることをおすすめします。