B型肝炎訴訟の請求期限は2027年(令和9年)3月31日までです。※1
この期限を過ぎると、B型肝炎の感染者に対する国からの給付金(特定B型肝炎ウイルス感染者給付金)を受け取ることはできなくなってしまいます。
B型肝炎訴訟の提起を検討されている方や、既に訴訟提起のために資料収集を始められている方においても、給付金の請求に期限があることをご存知でない方は多いのではないでしょうか。
もし、B型肝炎訴訟の提起等を検討されているのであれば、その請求期限について正確に理解することが重要です。
そこで今回は、
- B型肝炎訴訟の期限とは
- B型肝炎訴訟の期限までに何をすればよいのか
- B型肝炎訴訟の期限が迫ってしまったときはどうすればよいのか
について解説していきます。
今後の対応の参考にしていただければ幸いです。
※1:2021年6月11日、「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」の一部が改正され、それまで2022年1月12日までとされていた請求期限が、2027年3月31日まで延長されました
目次
1、B型肝炎訴訟の期限とは
B型肝炎訴訟の期限というのは、B型肝炎ウイルスに感染した方が国に対して給付金(特定B型肝炎ウイルス感染者給付金。以下、単に「給付金」といいます。)を請求できる期限のことです。
まずは、給付金の請求期限と、その期限までに何をしなければならないのかについてご説明します。
(1)給付金の請求期限は2027年3月31日まで
結論から申しますと、給付金の請求期限は、2027年(令和9年)3月31日までです。
給付金は「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」(以下、単に「特措法」といいます。)という法律に基づいて支給されるのですが、この法律に上記の請求期限が定められているのです。
特措法は2012年(平成24年)1月13日から施行されましたが、当初は給付金の請求期限は施行から5年以内、つまり2017年(平成29年)1月12日までと定められていました。
その後に法改正によって請求期限が「施行から10年以内」に延長され、その結果、2022年(令和4年)1月12日が請求期限となっていました。
更にその後、2021年6月11日に特措法の一部が改正され、請求期限が、2027年(令和9年)3月31日まで延長されました。
(2)期限までにしなければならないこと
給付金を請求するというのは、B型肝炎訴訟を提起することを意味します。したがって、給付金を受け取るためには2027年3月31日の期限までにB型肝炎訴訟を提起しなければなりません。
訴訟を起こしさえすれば、その後に訴訟がいかに長引いても問題ありません。とりあえず提訴が期限までに間に合えば、もう期限を気にする必要はなくなります。
ただ、訴訟を起こすためには準備が必要なので、すぐに訴訟を起こせるものではないことに注意が必要です。
訴訟の準備にかかる時間は、人それぞれの状況によって様々ですが、平均して6ヶ月~1年ほどは見ておく必要があります。
早い人なら1ヶ月程度の人もいますが、人によっては数年を要する場合もあります。
そのため、給付金の請求を考えている方は、期限間近に焦ることがないようある程度の余裕を持ってB型肝炎訴訟を提起する準備を進めましょう。
2、B型肝炎訴訟の準備に時間がかかるケース
B型肝炎訴訟の準備には、さほどの時間がかからない人と、長い時間がかかってしまう人とがいます。
準備に時間がかかるのは、次のようなケースです。
(1)必要な家族の協力が得られない場合
給付金を受給するための条件の一つに、「母子感染していないこと」という条件があります(一次感染者の場合)。
母子感染していないことを訴訟で証明するためには、母親の検査結果を提出する必要があります。したがって、母親にも検査を受けてもらうよう協力を依頼しなければなりません。
母親が既に亡くなっている場合は兄や姉の血液検査で代用できますが、その場合兄や姉の協力が必要となります。
スムーズに協力が得られるのであれば問題は少ないですが、なかには協力を得ることができない、あるいは難しいというケースもあります。
協力が必要な親族との関係性が良好でなかったり、疎遠となっていて連絡先もわからないという場合もあるでしょう。消息不明、行方不明の場合、既に亡くなっている場合もあると思います。
これらの場合でも、弁護士に依頼すれば、親族の所在を調査したり、弁護士から協力を依頼することなどによって必要な資料を入手できる場合があります。
しかし、そのためには相応の時間を要しますので、早めに準備に取りかかる必要があります。
(2)二次感染者の場合
二次感染者の場合は、さらに時間がかかるケースが多いです。なぜなら、二次感染者が給付金を請求するためには、その母親が一次感染者として給付金の支給条件を満たしていることが必要となるため、準備すべき証拠の量が一次感染者の場合よりも多くなるからです。
証拠が揃えば、親子同時に提訴することもできます。
ただ、給付金を受給できるかどうか不安がある場合には、まず母親が提訴してみて、給付金を獲得できたら二次感染者である子どもも提訴する、という流れで請求することもよくあります。
しかし、請求期限が迫っている場合はこのような形をとっていては間に合わないため、早期に証拠を収集して、二次感染者に関してもできる限り早期に提訴する必要があるでしょう。
3、B型肝炎訴訟は期限にかかわらず早期に準備すべき理由
給付金の請求期限までまだ時間があるので平気だと先延ばしした結果請求期限を忘れて期限ギリギリになってしまった……というケースもあるかもしれません。そのため、準備は早めに進めるべきですが、請求期限の問題以外にも早期に準備を進めた方がよい理由があります。
(1)準備を効率よく進めるため
B型肝炎訴訟の準備には、ケースによっては非常に手間がかかる場合があります。
書類を取り寄せるだけで準備が整う人がいる一方で、新たに医療機関で検査を受けなければならない人もいます。
なかには、母親が亡くなっているために兄や姉など年長の兄弟姉妹に血液検査を依頼しなければならない人もいますが、そのことがわかった時点で兄や姉などの連絡先がわからないという場合もあるでしょう。
早期に準備を始めることで次にやるべきことが明らかになるので、効率よく準備を進めることができるようになります。
(2)発症してからの期間によって給付金が大幅に減額されるため
給付金の額は病態や症状に応じて定められていますが、発症してから20年が経過すると、受給できる金額が大幅に減額されてしまいます。
例えば、死亡・肝がん・肝硬変(重度)の給付金額は3,600万円ですが、発症後20年を過ぎると900万円に減額されてしまいます。
その理由は、民法で不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為の時から20年経過した場合、消滅するとされているためです(改正前民法第724条後段)。
この20年という期間に関しては、改正前民法についての判例においては「除斥期間」とされていましたが、改正民法においては、「時効期間」であると明示されました。
時効期間と除斥期間の違いに関しては、専門的な法律上の話になるため詳細は割愛しますが、簡単に説明すると、原則として時間の経過により当然に権利が消滅する除斥期間から、「中断」や「停止」の手段がある時効期間に統一されたため、より被害者が救済されやすくなることが期待されています。
そして、B型肝炎の給付金も、国の不法行為に基づく感染者に対する損害賠償金の性質があります。そのため、発症から20年が経過すると、本来なら感染者はもう、一切の賠償金を受け取ることができないことになるはずです。
しかし、国はB型肝炎の感染者の救済のために、発症から20年を過ぎた人に対しても金額は下がりますが、給付金を支給することとしているのです。
つまり、B型肝炎給付金における20年の期間は、権利が消滅するわけではないため、民法でいう時効期間や改正前民法下での旧・除斥期間と全く一緒ではないものの、その考え方を基にした、期間設定であると考えられます。
発症してから年数が経っている方の場合、請求期限よりも先に20年の期間が経過して給付金が大幅に減額される可能性があるので、ご注意ください。
(3)請求を先延ばしにしても意味がない
給付金は病状に比例して額が確定するので病状が軽いうちに訴訟を提起しても損をするのではないか……と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかしB型肝炎の和解給付金には受け取った後に病状が悪化すると、給付金を追加請求することができる「追加給付金制度」が備えられています。
そのため請求の先延ばしをあえて選択する必要はありません。
また、多忙であるために手続きが後回しになってしまう方は弁護士に依頼すると良いかもしれません。弁護士に依頼すれば手続きを一任することができます。
裁判所への提訴はもちろん、書類を揃えることから全て任せることができる法律事務所も増えています。まずは無料相談をご検討されてはいかがでしょうか。弁護士への依頼をしつこく勧めてくるようなことはありませんので、安心して問い合わせをされると良いでしょう。
4、B型肝炎訴訟の期限は再度の延長もあり得る?
2021年6月11日に特措法の一部が改正され、請求期限が、2027年3月31日まで延長されたことは繰り返し説明してきましたが、この請求期限がさらに延長されることはあり得るのでしょうか?
結論から申しますと、延長される可能性はあると考えられます。しかし、延長されるという保証は全くないことに注意が必要です。
(1)特措法が制定された背景
特措法が制定される以前は、集団予防接種等が原因でB型肝炎ウイルスに感染した方は、国を相手に本格的な勝ち負けを争う訴訟をして勝訴しなければ、賠償金を獲得することはできませんでした。
現に、1989年(平成元年)、5人の感染被害者が国を相手どって訴訟を起こし、2006年(平成18年)に至ってようやく最高裁で勝訴判決を勝ち取りました。
しかし、国は5人以外の感染被害者に対する救済策の実施をしませんでした。そのため、感染被害者らにより、2008年(平成20年)からいっせいに全国各地で集団訴訟が起こされました。
この集団訴訟において、裁判所からの和解勧告を踏まえて原告団・弁護団と国とで協議を行い、B型肝炎ウイルスの感染被害者を救済する責務を盛り込んだ「基本合意」が2011年(平成23年)6月28日に結ばれました。
そして、その翌年の2012年(平成24年)1月、感染被害者に給付金を支給するための特措法が施行されたのです。
要するに、感染被害者の救済を目的として制定されたのが特措法ということになります。
(2)期限が延長された理由
当初の請求期限は2017年(平成29年)1月12日までとされていました。
しかし、全国に45万人いると推計される感染被害者のうち、平成28年3月の時点でB型肝炎訴訟を提起したのは約3万名に過ぎませんでした。
大半の方が感染に気付いていないか、感染に気付いてはいても救済制度を知らないというのが実情でした。これでは、B型肝炎ウイルスの感染被害者を救済するという特措法の目的が果たされたとは到底いえません。
そのため、より多くの感染被害者の救済を図るために、請求期限が5年間延長されたのです。
しかしそれでもまだB型肝炎訴訟を提起したのは被害者のうちの一部にとどまっていました。
2021年(令和3年)1月31日時点では,原告数の累計は85,218名、そのうち67,541名の原告と和解が成立済みと政府は発表しています。
参考:法務省
このように既存の請求期限では推計されている被害者を救済することが困難であったため、2027年3月31日まで期限が延長されました。
(3)再度延長される可能性も高い
とはいえ、現時点においてもB型肝炎訴訟を提起したのは感染被害者全体のうちのごく一部にとどまっています。
この現状が今後も続けば、請求期限が再度延長される可能性は十分にあるとも考えられます。
(4)ただし、早期に準備すべき
とはいっても、楽観視することは許されません。請求期限を延長すべきだとはいっても、その要望に国が何度も応じるとは限らないからです。
現在の法律では、請求期限は2027年3月31日までと定められているため、これを前提にB型肝炎訴訟の準備を早期に進めていくべきです。
また、特に患者が亡くなっている場合や、母子感染の否定のために血液検査が必要な母親又は年長きょうだいが亡くなっている場合には、生前の資料を病院等から取得する必要があります。
しかし、医療記録はいつまでも保存されているわけでは無く、法律上保存の義務が定められているのは、5年間だけです(医師法第24条第2項)。5年を越えると、病院の判断で破棄することができるため、亡くなってから時間が経ち、5年をすぎると、時間が経つほど医療記録が破棄されてしまい、必要な資料がそろわなくなる恐れが高まってしまうのです。
そのため、すでに亡くなっている方の資料が必要となる場合には、請求期限が延長されるか否かにかかわらず、できるだけ早期に準備を始め、病院等から必要な資料を確保する必要があるのです。
もちろん、5年間の保存義務期間が過ぎれば即座に廃棄すると決まっているわけではなく、10年やそれ以上の長期にわたり保存している病院もあるため、5年以上経過しているからといって直ちにあきらめるのは誤りです。
ただ、どちらにしても、できるだけ早く病院に問い合わせをした方が良いのは、確実です。
5、B型肝炎訴訟の提起は弁護士に相談を
B型肝炎訴訟の提起は、弁護士に相談されることをおすすめします。
ご自身で行うと時間や手間がかかる証拠収集も、B型肝炎訴訟の経験が豊富な弁護士に任せることで依頼者の方の手間が大幅に減り、ストレスなく手続きを進められることが期待できます。
また、そもそも訴訟の提起方法や書類の作成方法がわからないという方も弁護士を頼ることで手続きを専門家に一任することが可能です。
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まとめ
B型肝炎訴訟による給付金の請求期限について、ご理解いただけましたでしょうか。必要な資料を収集して、給付金の請求期限までに訴えの提起等をするためには、お早めに弁護士にご相談されることが重要です。今回の内容がB型肝炎に関する問題解決のご参考になれば幸いです。