遺産分割の証明書とは、遺産分割協議の内容を示した書面のことをいいます。
遺産分割協議の内容を書面に残しておくことにより、後々相続人間で揉めることを防ぐことができます。また、不動産の名義変更や預金口座の払戻し手続き、相続税の申告の際などに利用する事ができます。
本記事では、
- 遺産分割協議証明書とは何か
- 遺産分割協議証明書と遺産分割協議書との相違点
- 遺産分割協議証明書作成のポイント
等を解説いたします。ご参考になれば幸いです。
遺産分割協議について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、遺産分割協議証明書とは
遺産分割協議証明書とは、遺産分割協議の内容を証明する書面のことをいいます。それぞれの相続人が遺産分割協議の内容を確認して間違いがないと証明したものをいいます。証明は、実印による押印と署名により行います。
亡くなった方に遺産がある場合は、相続人がどの遺産をどのように相続するのかについて話し合い(遺産分割協議)、合意内容を遺産分割協議書にします。遺産分割協議書は、相続財産の中に不動産がある場合には登記を、預金がある場合には口座の名義変更や払戻し手続きを行う際に提示して利用します。
その他にも、自動車の名義変更、株式の名義変更、相続税の申告の際にも、遺産分割協議書の提示が求められます。
このように、相続後の様々な手続きで必要となる遺産分割協議書ですが、1つの書類にすべての法定相続人が署名押印しなければならないため、相続人が離れて住んでいる場合には、郵送で持ち回さなければならず、そのために時間がかかり、紛失のリスクもあります。
その場合に、検討しうるのが、遺産分割協議証明書です。
2、遺産分割協議書との相違点
遺産分割協議証明書と遺産分割協議書は、どちらも遺産分割協議の内容を証明する書類ですが、
その作成方法や内容に相違点がありますので、その点について解説をいたします。
(1)遺産分割協議証明書は相続人の数だけ必要
遺産分割協議証明書と遺産分割協議書で最も異なる点は、作成する書面の通数です。
遺産分割協議書では、1通の書面に全ての相続人が署名押印をします。他方で遺産分割協議証明書は、各相続人に対応して1通ずつ作成し、それぞれが自身の遺産分割協議証明書に署名押印するため、相続人の数だけできあがることになります。
(2)相続人が相続する財産の記載のみとする方法もある
遺産分割協議証明書と遺産分割協議書の異なる点の2点目としては、遺産分割協議証明書では、全ての相続内容を記載しない方法もあるという点です。
遺産分割協議証明書では、各相続人が自ら相続する財産について確認をし、署名押印をすることで構いません。
Aさん→甲銀行の預貯金を相続→その記載がある遺産分割協議証明書に署名押印
Bさん→乙銀行の預貯金を相続→その記載がある遺産分割協議証明書に署名押印
ただし、相続財産に不動産がある場合には、相続登記をするにはすべての書面内容が同一である必要があります。また、預貯金口座の払戻し手続きを行う場合にも、金融機関によっては全ての書面内容が同一であることを求めることがあります。そのため、基本的には、全ての遺産分割内容を記載し、相続人全員が同一の内容の証明書に署名押印するかたちで作成しましょう。
3、遺産分割協議書ではなく証明書で対応される主なケース
では、どのような場面で遺産分割協議証明書を作成することを検討するのかについてご説明します。
先ほどご説明しましたが、遺産分割協議書と遺産分割協議証明書の最大の違いは、作成する通数です。そのため、遺産分割協議証明書が有効なのは、1つの協議書では手間がかかるケースです。
すなわち、遺産分割協議書は1つの書面に全ての相続人の署名押印が必要ですが、一同に集まって書類を作成するケースでは問題ありません。
しかし、共同相続人全員が一同に集まることができないケースでは、協議書を相続人間で郵送で持ち回して署名押印をもらう必要があり、その分時間がかかったり、紛失のリスクがあったりするなど煩雑になります。
以下では、遺産分割協議証明書を利用することが有効となる具体的な場面について詳述いたします。
(1)相続人が複数いる場合
相続人が複数いる場合は、証明書で対応をすることを検討する主なケースといえます。
特に代襲相続が生じているケースでは、相続人が多数にわたる場合もあります。相続人が多数になると、相続人全員で集まることは大変難しくなります。そのため、遺産分割協議書を作成する場合には、各相続人に署名押印をもらうために郵送で持ち回すことになります。
1つの遺産分割協議書を持ち回すと、全ての相続人が署名押印し完成するまでに、長い時間がかかってしまいますし、署名押印の際に誤って実印以外のものを使用してしまったなど1人にミスがあっただけで改めて一から作り直す必要が出てきます。
したがって、このような場合には、遺産分割協議証明書を各相続人に送付し、署名押印をして返送をしてもらう方法が簡便です。
(2)相続人が遠方にいる場合
相続人の一部が遠方にいる場合も、相続人全員が集まることが難しいため、相続人が複数いる場合と同様の理由から証明書の方が簡便です。遺産分割協議証明書の方が短時間で完結をさせることができます。
4、遺産分割証明書作成のポイント
次に、産分割証明書を作成の際のポイントを紹介します。
ひな形を紹介し、*により注意点を解説しております。
(1)遺産分割証明書の例
遺産分割協議証明書 ㊞*4
被相続人 : 甲野太郎(昭和30年1月1日生) 死亡日 : 令和1年1月1日 最後の住所 : 東京都千代田区●●町●-● 最後の本籍地: 埼玉県和光市●●町●丁目●番
被相続人甲野太郎(以下「被相続人」という。)の共同相続人である甲野一郎、甲野二郎、甲野三郎は、令和●年●月●日、遺産分割協議を行い次のとおり合意したことを証明する。 1 甲野一郎は、別紙遺産目録記載の土地及び建物を取得する。*1 2 甲野二郎は、別紙遺産目録記載の預貯金を取得する。 3 甲野一郎は、第1項記載の不動産を相続する代償として、甲野三郎に対し、100万円を支払う。 4 別紙遺産目録に記載のない新たな遺産や債務が発見された場合は、別途協議する。
令和3年●月●日 住所 署名 ㊞ *3
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(2)遺産の特定をしっかりとする(*1)
何について遺産分割を行ったかを明示するため、遺産分割協議証明書においても、遺産の特定・明示が必要です。
証明書のひな形では、遺産目録を添付するという方法を前提に記載をしましたが、証明書の中に直接、土地建物や預貯金の記載をしても構いません。
不動産については、登記簿謄本(登記事項証明書)の記載のとおりに記載します。未登記家屋の場合は、固定資産税評価証明書などの記載を参考にして下さい。
具体的には、以下のとおりです。
1 土地
所在 埼玉県和光市南2丁目
地番 3番8
地目 宅地
地積 100平方メートル
2 建物
所在 埼玉県和光市南2丁目3番地
家屋番号 ●●●番●●
種類 居宅
構造 木造瓦葺建
床面積 90平方メートル
また、預貯金や有価証券についても、具体的に記載をすることが求められています。
預貯金については以下のような表示をします。
金融機関 ●●銀行
支店名 ●●銀行
種別 普通預金
口座番号 ●●●●●●
名義人 被相続人
有価証券についても、どの証券会社の何支店なのか、口座番号、株式会社の種類、数などを記載して、しっかりと特定します。
(3)実印による押印及び印鑑登録証明書が必要(*3)
署名の横には、実印での押印が必要となります。認め印では駄目です。
また、相続人全員の印鑑登録証明書を添付することが必要です。
(4)捨て印(*4)
単純な誤字・脱字などが全員の署名押印後に判明することもあります。その際に訂正印をもらうために再度郵送をするのは大変です。文書の余白に捨て印をもらっておくと、後の処理がとても楽になります。
(5)割印
証明書が複数にわたる場合には、割印が必要となります。忘れがちですので注意しましょう。
(6)自分の取得する財産のみを証明する書き方
遺産分割協議証明書では、全ての相続を記載せずに、各相続人の取得する財産を記載する方法もあります。
しかしながら、この方法で作成したものでは、登記手続きが行えませんので、相続財産に不動産が含まれる場合には使えません。
また、金融機関の預貯金についても、この方法で作成した証明書では払戻し手続きを行えない場合があります。
そのため、遺産分割協議証明書を作成される際は、全員が同じ内容の遺産分割協議証明書にそれぞれ署名押印するという方法をとられることをお勧めします。
5、遺産分割協議証明書の効果を最大限に!専門家のアドバイスを求めよう
ひな形などを参考に、遺産分割協議証明書をご自身で作成する方法でも良いかと思います。
しかし、その効果を最大限受けるためには、ぜひ専門家にご相談されることをお勧めします。相続には細かなルールがありますので、気付かない間に不利な条件になっていることもあります。
また、弁護士に依頼をした場合、遺産分割協議証明書の作成はもとより他の相続人との間の交渉を代理してくれますし、相続財産に不動産がある場合には、相続登記についてもサポートを受けられる場合があります。
何から初めて良いか分からないと考えている方も、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
まとめ
遺産分割協議が整った際、原則としては、遺産分割協議書を作成すべきです。
しかしながら、相続人が多い場合や、遠方に住む相続人がいるという場合には、遺産分割協議書を作成することが困難なこともあるでしょう。
そのようなときには、遺産分割協議証明書の利用も検討されるとよいでしょう。
作成されるにあたっては、内容が自身の考えているものと異なっていないか、相続登記などその後の手続きに使えるかなど、事前に弁護士にご相談されることをお勧めします。
トラブルのない相続手続きを進めましょう。