在宅起訴(ざいたくきそ)とは、被疑者が拘束されることなく起訴されることです。逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断された場合に、この在宅起訴が選択されます。
現に、インサイダー取引などの経済犯罪では、しばしば在宅起訴が行われています。
「〇〇氏が書類送検された」といったニュースは、よく耳にされているのではないでしょうか。
今回は、そんな在宅起訴について、
- 在宅起訴の特徴
- 在宅起訴になる条件
- 在宅起訴をされた場合の対策
について、解説していきます。ご参考になれば幸いです。
1、在宅起訴の特徴
(1)身柄事件との違い
一般的に知られる「罪を犯した後の流れ」は、
犯罪 → 逮捕 → 送検 → 勾留 → 起訴 → 裁判
というものです。
これは、逮捕から起訴までの間身柄を拘束されますので、「身柄事件」と呼ばれます。
一般に、刑事手続きで想像される流れはこちらでしょう。
これに対し、在宅起訴が行われる「在宅事件」の場合は、
犯罪 → (逮捕なし) → 書類送検 → 在宅起訴
又は
犯罪 → 逮捕 → 釈放 → 書類送検 → 在宅起訴
又は
犯罪 → 逮捕 → 送検 → 釈放 → 在宅起訴
のケースで、そもそも逮捕されないか、送検の前後で釈放されることにより、身柄を拘束されることなく通常通りの生活を送りながら刑事手続きが進められます。
刑事手続き上の身柄の拘束の有無。
これがよく知られた「身柄事件」と在宅のまま起訴される「在宅事件」の大きな違いです。
(2)在宅事件の特徴
在宅事件の大きな特徴としては、私生活への影響が少ないことが挙げられます。
起訴後も判決までいつもどおりの生活を送ることができます。
2、在宅起訴になる条件
(1)在宅起訴になりやすいケース
在宅起訴となるのは、逮捕や勾留の身柄拘束が必要ないと判断される場合です。
身柄拘束は、人権を大きく制約することになるため、一定の理由がある場合に(原則として逮捕状を発付された上で)行うことができます。
法律上、刑事手続において身柄拘束ができる場合とは
- 30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない
- 逃亡するおそれがある
- 罪証を隠滅するおそれがある
です。
他方、これらの条件に当てはまらない場合、身柄拘束をうけずに済む可能性があります。
では、「逃亡するおそれがある」「罪証を隠滅するおそれがある」と判断されやすい(身柄事件の可能性が高いケース)のは、どのようなケースでしょうか。
具体的には以下のようなケースが挙げられます。
①刑罰が重い
大きな犯罪で法定刑が重い場合、刑罰から逃れるため、逃亡のおそれがある・罪証を隠滅するおそれがあると判断され、逮捕・勾留がなされる可能性が高まります。
②前科・前歴がある
前科・前歴がある場合も、逃亡のおそれがある・罪証を隠滅するおそれがあると判断されやすいでしょう。
③罪を認めない
やってもいないことを認めないことは当然ですが、罪を認めない場合、逃亡のおそれがある・罪証を隠滅するおそれがあると判断されやすいと言わざるを得ません。
④同居人(家族)がいない
家族とともに暮らしているケースでは、家族を捨ててまで逃亡するおそれが低いと判断されやすい反面、一人暮らしで家族などとの関係が希薄であり自由に居所を移すことのできるケースでは逃亡のおそれがあると判断されやすいでしょう。
⑤職が安定していない
会社の役員である、職業上テレビなどにも顔が知れているなどというケースでは、逃亡のおそれがないとされるケースが多い反面、日雇いや無職など職場にしばられていない場合には、それだけフットワークが軽く、逃亡のおそれがあると判断されやすいでしょう。>
(2)逮捕をされたが在宅事件を望む場合は、弁護士に依頼を
逮捕をされたケースでそのまま勾留に進まずに在宅事件にしてもらうためには、積極的な働きかけが必要でしょう。
弁護士に依頼をして、身柄拘束の必要性が低いことや、身柄拘束をすべきではない事情を当局に訴えかけていくことが重要です。
被疑者の事情(健康状態が悪い、結婚・就職などに直面している、職場から解雇されるおそれが高いなど)も説明するとともに、被害者との示談を進めるなどもして、勾留の必要性・有益性が乏しいとして被疑者の釈放を目指します。
3、在宅起訴をされたら
(1)弁護士に依頼し、減刑、執行猶予を目指しましょう
在宅起訴であれ、通常の起訴であれ、起訴された場合の有罪率は99.9%です。もちろん、冤罪である場合には「無罪」を目指すことになります。
しかしそれ以外のケースでは、起訴後に目指すのは「減刑」・「執行猶予」です。いずれの場合にも、弁護士に依頼し効果的に動いてもらうことが非常に重要です。
(2)略式起訴である場合は
100万円以下の罰金や科料が科されるような事件では、「略式起訴」であるケースも多いでしょう。
略式起訴とは、手続きを簡略化した起訴で、正式裁判を行わないものをいいます。
正式裁判を行わないため、裁判所が捜査結果から略式命令(判決と同じ)として罰金・科料の金額を示し、これで終わります。
もしも略式裁判で行われること自体に反対であったり、略式裁判の内容に不服があれば、正式裁判を請求することができます。
(3)前科はつくのか?
在宅起訴であっても、またその中で略式起訴がなされた場合であっても、何らかの刑罰を言い渡された場合は前科がつきます。
起訴された場合に前科がつくことを避けるためには、正式裁判で無罪を争う他はありません。
ただ、起訴前であれば、不起訴を求めていくことで起訴自体を避けられる可能性があります。
この意味でも、早期に弁護士に依頼しておくことが非常に重要です。
4、在宅起訴の注意点
(1)長期化する可能性がある
身柄事件の場合、逮捕・勾留の期間が定まっているため、ある程度、起訴・不起訴の判断が出るまでどれくらいの日数がかかるか見込みが立ちます。
一方、在宅事件の場合は、身柄拘束をうけないものの、長期間にわたって捜査が続くこともあります。
いつ呼び出されるのか不安になりながら毎日を過ごすことは、大変ストレスです。
精神的な支えにもなりますので、弁護士に相談されることをお勧めします。
(2)前科がつくことにはかわらない
前述の通り、在宅起訴で、しかも罰金のみの刑罰であったとしても、当然前科がつきます。
交通規則違反(駐車違反やスピード違反)などでお金を支払うことがありますが、そちらは行政罰としての支払いであり前科にはなりません。刑事罰の罰金・科料とは異なります。
まとめ〜必ず弁護士への相談を〜
今回は、在宅起訴の説明や、実際に在宅起訴されてしまった場合にとるべき対策についてご案内しました。
在宅起訴をされても通常通りの生活を送ることができますが、罪を犯したことには変わりないので気を抜かず、必ず弁護士に相談しておくことをお勧めします。