遺産分割協議の進め方は、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。
故人が残してくれた遺産を、誰にどのように分けるかということは、遺言がある場合を除いては、相続人が自分たちで話し合って決めていかなければなりません。
そのための話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
しかし、相続は人生の中でも何度も経験することではありませんから「遺産分割協議をどう進めたらよいかわからない」という人も多いと思いますし、「以前相続を経験したときにどうやったか忘れてしまった」ということもあるでしょう。
そこで、今回は、
- 相続開始から遺産分割協議が終わるまでの流れ
- 遺産分割協議を進めるときの注意点
などについてまとめてみました。
遺産分割協議について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
1、遺産分割協議の進め方~相続開始から遺産分割協議が終わるまでの大まかな流れ
相続の開始(被相続人の死亡)から遺産分割協議が終わるまでの大まかな流れは下記のとおりです。
1 相続の開始
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2 遺言の有無の調査
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3 相続人・相続財産の調査
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4 遺産分割協議の実施方法について協議
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5 遺産分割協議
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6 相続人(および受遺者)全員が同意した内容で遺産分割協議書を作成
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7 遺産分割の実施・相続税などの申告
(1)「相続の開始」とは
「相続の開始」は、相続手続きのいくつかについて期限の基準となる時点です。
一般的には、「被相続人が亡くなったとき」ですが、次のようなケースでは自分が相続人となった(ことを知った)ときが相続開始のときとなります。
- 遠方などに住んでいるなどの事情で被相続人の死亡を知ることができなかった場合
- 第二順位以下の相続人の場合(先順位の相続人の相続放棄を知ったときが相続開始時期)
(2)遺言の有無を調査する
相続が開始されたときには、まず遺言の有無を調査する必要があります。
遺言が残されていたときには、その内容にしたがって遺産分割を行う必要があるからです。
公証役場以外のところに遺言が保管されていた場合(自筆証書遺言・秘密証書遺言)には、見つかった遺言を勝手に開封してはいけません。
これらの場合には、遺言の開封・確認は、「遺言の検認」という家庭裁判所の手続きで行われなければならないからです。
また、遺言に「特定の人を遺言執行者とする」旨の記載があったときには、すぐに遺言執行者に連絡する必要もあります。
※令和2年7月以降、法務局に保管されていた自筆証書遺言については検認手続きを省略することができます。
(3)相続人・相続財産の調査
相続人の間で遺産を分割するために行う話し合いは、「すべての相続人(および受遺者)」が揃って、すべての遺産(相続財産)を対象に行われる必要があります。
「相続人が誰であるか」ということは事前からきちんとわかっていることが一般的ですが、兄弟姉妹が相続人となる場合や、被相続人(亡くなった人)に離婚歴があるような場合などには、知られていない法定相続人がいる可能性もあるので注意する必要があります。
相続財産についても、不動産などのわかりやすい財産は問題がない場合が多いですが、いわゆるへそくりの類いや、事業をしている場合の売掛債権などの存在に注意する必要があります。
また、マイナスの資産も相続の対象となるので、借金などの有無についてもきちんと調査しておく必要があります。
相続財産が全体としてマイナスの場合には、相続放棄などの対応をした方がよい場合もあるからです。
相続放棄は、原則として相続開始から3ヶ月以内に手続きする必要があるので、それまでの期間に相続財産を漏れなく調査しなければなりません。
(4)遺産分割協議の実施方法を相続人で決める
相続人を漏れなく把握することができたら、相続人同士の話し合いで遺産分割協議の実施方法を決める必要があります。
特に、相続人同士が近くに住んでいるわけではないというときには、特定の相続人だけの負担が大きくなりすぎないような配慮をすることも大切でしょう。
(5)遺産分割協議
遺産分割協議それ自体は、法律などでやり方が決まっているわけではありません。
ただし、詳しくは、次の「2」で解説するように、すべての相続人の同意を得られる方法である必要があります。
(6)遺産分割協議書の作成
遺産分割協議で相続人全員の同意を取り付けることができたら、その内容を「遺産分割協議書」としてまとめます。
遺産分割協議書は、遺産分割のための手続き(不動産などの名義変更)の際に必要となります。
遺産分割協議書の作り方については、下記の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
(7)遺産分割の実施・相続税などの申告
遺産分割協議書が作成されれば、遺産分割協議は終了です。
その後は、それぞれの相続人(もしくは遺言執行者)によって遺産を相続するために必要な手続き(名義変更など)が行われます。
なお、相続税の申告は、遺産分割協議の結果に関係なく、「相続開始から10ヶ月以内」に行う必要があります。
相続税の申告期限までに資産分割協議がまとまらなかった場合には、減税措置を受けられないなどの不利益が生じることがあります。
2、遺産分割協議の進め方
遺産分割協議をする際に必要になるのは、遺産分割の内容・方法についての最終決定は、「相続人(および受遺者)全員の同意が必要」ということだけです。
つまり、どのような方法で、相続人全員の同意を獲得するかは、それぞれの相続人が抱える事情などに応じて、自由に決めることができます。
たとえば、相続人(受遺者)の全員が一カ所に集まって直接話し合いをする方法は、最も古典的で、誰から見てもわかりやすい協議の仕方といえます。
遠方に住む相続人がいるといった事情があって、全員が集まるのは負担が大きいというときには、電話・メール・SNSなどを活用して話し合いを進めることも有効です。
重要なのは、いかなる内容・方法で遺産を分割することになったとしても、相続人(受遺者)全員がその結論に同意しているということです。
3、遺産分割協議を進めるときに特に注意すべきこと
遺産分割協議では、「相続人全員が納得(同意)できる結論」を出さなければなりません。
また、一部のケースでは、話し合いを行う際に特に注意しなければ、遺産分割協議が無効となってしまうことがあります。
(1)「公平な話し合い」を行う
遺産分割協議で相続人全員の同意を得るためには、「結論」だけでなく、結論に至るプロセスもフェアであることが重要です。
たとえば、「特定の相続人だけ下交渉から除外された」というようなことがあれば、「のけ者にされた」と感じた相続人が(感情的な憤りを抱えて)遺産分割案に反対するということもあるでしょう。
また、多数派の意見を少数派に押しつけるような交渉や、他の相続人の事情に配慮のない分割方法を提案することも、遺産分割協議がもめる原因となりやすいので注意が必要です。
遺産分割協議がまとまらずに、裁判所に持ち込まれれば、最終的には「法定相続分」での遺産分割になる可能性がかなり高いことは頭に入れておくべきでしょう。
(2)特に注意が必要な3つのケース
以下で説明するケースの場合には、遺産分割協議を無効とされないために、特に慎重に対応する必要があります。
①未成年者の相続人がいる場合
被相続人に未成年の子がいるような場合には、「特別代理人」の選任が必要となります。
未成年者は単独では法律行為をすることができないからです。
通常の法律行為であれば、親権者が法定代理人となって対応しますが、相続の場面では親権者と子は、利害関係が対立する可能性があるため、親権者(法定代理人)とは別に「特別代理人」を選任する必要があります。
場合によっては、「未成年者が成人するのを待ってから遺産分割協議を行う」ということを考えても良いでしょう。
②被相続人の妻が妊娠しているとき
被相続人の妻が妊娠している場合にも注意が必要です。
通常は、まだ生まれていない胎児は法律行為をすることはできませんが、相続などの一部のケースについては、「胎児は既に生まれたものとみなす」という取扱いをすることになっているからです(相続について民法886条)。
胎児が遺産分割協議に加わるためには、未成年者の場合と同様に「特別代理人」の選任が必要となります。
③成年被後見人とされている相続人がいる場合
相続人に認知症の高齢者や、知的障害のある相続人がいるケースでも注意が必要です。
意思能力のない者の行った法律行為は無効となるからです。
これらの場合には、成年後見人を選任し、その者によって遺産分割協議を行う必要があります。
また、母親の成年後見人を長男が務めている場合のように、成年後見人が相続人にもなる場合には、①②の場合と同様に、特別代理人を選任する必要があります。
(3)遺産分割協議後に新たな遺産がみつかった場合
遺産分割協議が終わった後に、新たな遺産が見つかることは決して珍しいことではありません。
新しい遺産が見つかった場合には、その新しい遺産について再度遺産分割協議を実施するのが原則的な対応となります。
しかし、遺産分割協議後に見つかった財産は、経済的な価値が乏しいもの多いので、わざわざ相続人全員が集まって話し合いをするコストの方が大きいことも考えられます。
そこで、実際の遺産分割協議では、「事後に遺産が見つかった場合の取扱い」についても予め協議し合意を得ておく(遺産分割協議書に記載しておく)ことが一般的です。
4、不安があるときは早めに弁護士に相談
遺産分割協議は、他の相続人への配慮が足りないなどのちょっとしたことが原因でもめてしまうことがあります。
また、特別代理人の選任忘れなどがあれば、遺産分割協議それ自体が無効となり、再度同じ手間をかけなければならなくなります。
自分たちだけで無事に遺産分割協議を終えることができるのが理想といえますが、ちょっとでも「きちんとできるだろうか」、「意見が分かれてまとまらないのではないか」といった不安があるときには、早い段階で弁護士からアドバイスをもらっておくとよいでしょう。
また、特別代理人への就任や、相続人の代理人として遺産分割協議を取り仕切ってもらうことを依頼することも可能です。
弁護士が間に入れば、感情的な議論を回避して、公平かつスムーズな遺産分割協議を行うことが可能となります。
まとめ
遺産分割協議は、相続人全員の同意を得られるのであれば、どのような方法で行ってもかまいません。
しかし、遺産分割協議は、経済的な価値の大きな財産の帰趨を決めるとても重要な話し合いです。
また、遺産分割協議の進め方がまずかったことで、親族同士の人間関係に亀裂が入ってしまうことも珍しくありません。
相続について不安なこと、わからないことがあるときには、相続問題の経験豊富な専門家の力を借りることで、相続争いを回避できるだけでなく、ご自身にとっても安心・納得できる相続を実現することができるでしょう。