相続人の調査はどのように行われるのでしょうか。
相続を開始するには、最初に「相続人が誰であるのか」全ての相続人について確定する必要があります。
なぜなら、相続人が不確定なまま遺産分割協議を行うと、相続人全員でしなかった遺産分割は無効になってしまい、話し合いをまた最初から始めなければいけなくなるからです。
今回は、
- 相続人の調査・確定方法
- 相続人の調査・確定を相談することができる専門家は誰なのか
について、ベリーベスト法律事務所の弁護士がご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。
相続に関して詳しく知りたい方は以下の記事に掲載されていますのでご覧ください。
1、相続人調査とは?~相続人調査が必要なワケ
相続人の調査とはいったいどのようなことを調査するのでしょうか?
ここでは相続人調査とはどのような調査であるのか、またなぜ相続人調査が必要なのかをご説明していきます。
(1)相続人調査とは
相続人調査とは、相続人が誰であるのかを戸籍謄本等で調べて確定する手続きのことです。
言い換えれば、被相続人の出生から死亡までの全部の戸籍を取り寄せ、そこから法定相続人を調べていく作業ということになります。
(2)相続人調査が必要なワケ
相続人調査を行い、相続人を確定しない場合、どのような弊害が生じるのでしょうか?
①遺産分割協議ができない~相続人全員でしなかった遺産分割は無効になる
相続をするためには、まず相続人全員で遺産分割協議をしなければいけません。
もし一部の共同相続人を除外して遺産分割協議を行った場合、その遺産分割協議は「無効」になってしまうからです。
②相続税が支払えない~延滞税のリスクとは?
相続財産には、一定の金額以上の場合、相続税の支払い義務が発生します。
相続税の申告は基本的に被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければいけません。
また申告期限までに申告をしなかった場合や、実際に取得した財産の額より少ない額で申告をした場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる可能性があります。
加えて、申告期限までに申告しても、税金を期限までに納めなかった場合、延滞税がかかる可能性があります。
2、相続人調査は自分ですることができる?~相続人調査方法
相続人の調査・確定は自分でも行うことが可能です。ここでは相続人の調査手順をご紹介していきます。
(1)被相続人の最新の戸籍を取得する
被相続人の最新の戸籍を入手することから相続人の調査がスタートします。
被相続人の最新の戸籍は被相続人の本籍地で入手することができます。
また被相続人の本籍地が不明の場合は、被相続人の住民票を本籍地入りで取得することで本籍地の情報を入手することができます。本籍地が遠隔地の場合、戸籍は郵送でも取得可能です。
(2)最新の戸籍から昔の戸籍へと順を追って追跡する
戸籍に書かれている内容を確認します。
その時に今見ている戸籍よりも古い戸籍が存在する場合、その古い戸籍を取得しなければいけません。
この古い戸籍はその戸籍上の市町村の役所で取得します。
これを繰り返し行い、被相続人のすべての戸籍を取得していきます。
(3)戸籍から相続人を判断する
被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて確認して、相続人が誰なのかを判断します。
3、相続人調査で注意すべきポイント
自分で相続人の調査をする場合の注意点をご紹介していきます。
(1)戸籍とは
戸籍は日本人の国籍に関する事項と、親族的な身分関係を登録・公証する公文書のことです。
現在の戸籍は夫婦とその未婚の子を単位として編成されています。
戸籍には届出等に基づいて氏名、生年月日、父母との続柄及び出生、婚姻、離婚、死亡、その他の重要な事項が記載されています。
①戸籍の3つの種類
ⅰ 戸籍謄本
戸籍謄本は現在の戸籍情報を書き写したものです。
ⅱ 改製原戸籍の謄本
改製原戸籍の謄本は現行以前の戸籍制度による戸籍のことです。
ⅲ 除籍謄本
除籍謄本はすでに除籍(廃止)された戸籍の情報を書き写したものです。
②謄本と抄本の違い
戸籍謄本は戸籍に書かれた全員分の情報が記載されている戸籍です。
また、戸籍抄本(しょうほん)は戸籍に書かれた1人分または複数人の情報が記載されている戸籍のことになります。
(2)相続人調査で必要になるもの
相続人調査で必要になる戸籍は誰のものであるのかをご紹介していきます。
ⅰ 被相続人に子供がいない場合
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の父母または祖父母の誰かが存命中の場合は既に死亡した父母または祖父母の死亡記載の戸籍謄本
- 被相続人の父母または祖父母が全員先に亡くなっている場合は被相続人の父母双方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と被相続人より先に死亡した兄弟姉妹についての出生から死亡までの連続した戸籍謄本
ⅱ 被相続人に子供がいる(いた)場合
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人より先に死亡した子についての出生から死亡までの連続した戸籍謄本
(3)相続関係説明図を作成しよう
参考:法務省HP
上記は相続関係説明図の一例です。
上記のような相続関係説明図を作成することで、銀行や法務局、遺産分割、税務署などのいろいろな場所で活用することができて大変便利です。
(4)例外のケースに注意
相続人調査では以下のレアケースに注意しましょう。
①被相続人に認知した子がいたケースや、孫や甥姪と養子縁組していたというケース
ⅰ 被相続人に認知した子がいたケース
被相続人に認知した子がいた場合、具体的には愛人に産ませた子どもや隠し子がいた場合には、その子どもに相続権が認められます。
また以前は非嫡出子であれば相続割合で差別がなされていましたが、現在は非嫡出子・嫡出子同じ割合になっています。
問題になるケースは被相続人に認知していない子がいた場合です。
こうしたケースでは基本的に認知していない子に相続権はありません。
しかし、父親が認知せずに亡くなった場合、子どもは認知の訴えを起こすことができます。
死後認知の訴えの後に認知を受けると、認知していない子でも相続権を得ることができます。
ⅱ 孫や甥姪と養子縁組していたというケース
孫や甥姪と養子縁組していた場合は孫や甥姪も法定相続人になるので注意が必要です。
②行方不明の相続人がいる時の対処方法
相続人に行方不明や音信不通で連絡を取ることができない人がいる場合は、下記の2つの方法を利用することで、遺産分割協議を進めることが可能です。
ⅰ 不在者財産管理人を選出する方法
行方不明者に代わり財産を管理する不在者財産管理人を選任することで、遺産分割協議を進めることが可能になります。
しかし、不在者財産管理人選任の申立てをする際、管理費用が発生することがあります。
また、行方不明の相続人の法定相続分を下回るような内容の遺産分割協議案に対しては、裁判所は原則として許可を出さない傾向があるため、注意が必要です。
ⅱ 失踪宣告の申立てを行う方法
裁判所から失踪宣告を受けることで、行方不明者を除いた相続人で遺産分割協議を進めることができるようになります。
しかし、申立てをしてから失踪宣告されるまでに1年ほどの時間がかかるため、相続税の申告期限をオーバーしてしまいます。
よって、不在者財産管理人を選出し、遺産分割協議を行う方が現実的であるといえます。
4、相続手続きに関して、相談すべき専門家とは?
以上見てきた通り、相続人調査もイレギュラーがある場合や、なんらかのトラブルを抱えている場合は、個人で相続人を調査・確定することが困難になります。
こうしたケースでは、どこか専門機関に相談することをお勧めします。
どの専門家に相続に関する相談をするのがベストなのでしょうか?
(1)相続を扱っている主な専門家と業務範囲
相続を扱っている主な専門家には、弁護士、司法書士、税理士、行政書士があり、それぞれできる業務の範囲が異なります。
①行政書士
行政書士は遺産分割協議書の作成、有価証券・預貯金口座の名義変更、戸籍謄本の取得などの業務を行うことができます。
行政書士に依頼することのメリットは手数料などの費用が安く済む点です。
しかし、相続でもめ事を抱えている場合や、相続人の確定が難しいケースなどでは行政書士では問題を取り扱うことができないので、注意が必要です。
②司法書士
司法書士は登記のエキスパートです。
相続財産に不動産物件が多い場合などは司法書士に頼むと手続きをスムーズに行うことができます。
しかし司法書士も行政書士同様に相続でもめ事を抱えている場合や、相続人の確定が難しいケースなどでは事例を解決することができないため、注意が必要です。
③税理士
税理士は相続税の申告の代理を行うことができます。
よって相続税の申告が必要なケースは税理士に依頼すると、スムーズに手続きを行うことができます。
④弁護士
弁護士は相続に関して、相続人の代理人としての交渉や訴訟などすべてを行うことができます。
ですから、トラブルを抱えている相続問題や、遺産分割でもめている遺産分割協議などは弁護士に相談することで、「すべてお任せ」することができるため大変便利です。
(2)弁護士に相談するのがベストな選択である理由
弁護士に相続問題を相談することで、相続人の調査確定作業だけでなく、遺産相続に関するトラブルの仲介や、訴訟になった時の代理人まで幅広い業務を依頼することができます。
当初はピンポイントで依頼するつもりで弁護士以外に相談することもありますが、最終的に複数の問題点について対応が必要となった場合などでは二度手間となる場合があり、費用も倍かかってしまうといったことになりかねません。
相続人が分からない、遺産分割でもめそうだ、遺言書があるなど、相続問題は複雑に問題点が絡み合いますので弁護士に依頼するのがベストな選択であるといえます。
まとめ
今回は、相続人の調査・確定方法と相続人の調査・確定を相談することができる専門家は誰なのかをご紹介してきました。
相続人の調査・確定作業は、相続関係が簡単でかつ問題がない場合であれば自分で行っても問題ありません。
しかし、相続に関するトラブルを抱えている場合は、専門家である弁護士に相談することがベストな選択であるといえます。