警察官からの職務質問を経験したことがある方も、職務質問を受けたことはないけど、テレビなどで誰かが職務質問をうけ、警察官とやりとりをしている場面を見たことがある方も、「職務質問は拒否できるのか?」「もし職務質問を受けたらどう対処すればいいのか?」といった疑問を持たれた方もいらっしゃることと思います。
そこで今回は、職務質問とは具体的に何なのか、どの法律に基づいているのかについて詳しく解説します。
また、職務質問を断ることは可能なのか、もし職務質問を受けた場合、適切な対処法や注意すべき点についてもご紹介します。
こちらの「刑事事件と民事事件の違い」の記事も参考にしていただけたら幸いです。
1、 職務質問とは?その法的根拠は?
職務質問は、「警察官職務執行法(以下、警職法)」という法律の第2条の規定に基づいて行われています。
警職法2条1項には次のように書かれています。
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。
この警職法2条1項に基づいて行われる質問を職務質問といいます。
警察官は、「異常な挙動その他周囲の事情」を総合的に判断して、何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑われる人などに対し、職務質問を行います。
例えば、窃盗事件が多発している地域において、帽子を深々と被り、両手を上着の両ポケットに入れて歩いている場合は職務質問を受けやすいでしょう。
他方で、そのような地域ではない場合は、職務質問を受ける可能性は低くなるでしょう。
2、職務質問を拒否することはできるのか?
職務質問を拒否することは可能なのでしょうか?
以下では、この点についてお答えします。
(1)職務質問の一般原則
職務質問は、任意で、すなわち対象者の意思に基づいて行われることが基本となります。ですから、職務質問に応じたくなければ「嫌です」といって拒否することは可能です。
(2)建前としては「拒否できる」が実際は難しい
しかし、実際に拒否することは難しいところがあります。理由は次のとおりです。
① 警察官も簡単には諦めない、引き下がらない
職務質問をした警察官は、犯罪の予防・鎮圧といった重責を担っています。
また、職務質問対象者が、特定の犯罪を行ったと考えた場合には、捜査を行っていくことになります。
仮に、対象者が犯罪を行おうとしており、または、犯罪を行っていたにもかかわらず、警察官が、対象者の言い分に従って簡単に引き下がっていたのでは、犯罪の予防・鎮圧を実現できず、また、犯罪の捜査をしていくこともできないでしょう。
そこで、警察官はあの手この手を使って対象者を引き留めようとします。
職務質問を拒否すれば拒否するほど、警察官は「何か隠し事があるからだろう」「何か理由があるからだろう」と疑ってかかりますから、そうなればますます警察官は引き下がりません。
② 最高裁が一定程度の実力行使(有形力の行使)を認めている
最高裁は、職務質問を実効的なものとするために、強制にわたらない範囲内における有形力の行使(手をかけるなどの物理的な行為)を認めています。
どの程度の有形力の行使が認められるかについて、最高裁は、「職務質問の必要性、緊急性なども考慮した上、具体的状況の下で相当と認められるかどうか」を基準としています。
以下、最高裁判例で許容された有形力の行使の例と違法な有形力の行使の例をご紹介いたします。
ア 最高裁判例で許容された有形力の行使の例
a 警察官が、自転車で疾走してきた男の挙動・外見等に不審を抱いたため、職務質問をしたうえ駐在所に同行したところ、その男が駐在所から突然逃げ出したため、約130メートル追跡し、背後から腕に手をかけて停止させた行為
b 信号無視の自動車を停車させた際、下車した運転者から酒の匂いがしたため、運転免許証を出させたが、同運転手が警察官からこれを奪って車に乗り込み発進させようとしたため、運転席の窓から手を差し入れ、車のエンジンキーを回転してスイッチを切った行為
c 交通整理等の職務に従事していた警察官につばを吐きかけた通行人の胸元をつかみ歩道上に押し上げた行為 など
イ 違法な有形力の行使と考えられる行為の例(※職務質問における行為なので、逮捕状がなく、現行犯逮捕、緊急逮捕の要件をみたさないことが前提)
a 手錠をかけて警察署に連行する行為
b 数人で無理やり引っ張って警察署に連行する行為
c 対象者の住居、敷地内に無断で立ち入る行為 など
これらはあくまで例にすぎず、その行為が行われたときの個別の事情を前提に判断されるものです。
対象者が犯罪を行ったと強く疑われるなど、職務質問をする必要性が高ければ、対象者に対して警察官が行うことのできる行為の範囲も広がることになります。
3、職務質問にあった場合の拒否よりも賢い対処法
以上ご説明したとおり、職務質問を拒否しても警察官は簡単に引き下がってはくれませんし、警察官には一定程度の有形力の行使が認められているため、警察官の職務質問を拒否することは容易ではありません。
そこで、この項では、職務質問にあった場合の賢い対処法についてご紹介いたします。
(1)職務質問には応じる
まずは、特段問題となることがなければ、職務質問に素直に応じることも検討すべきです。
必要以上に拒否すればするほど、警察官に「何かやましい点があるのではないか」という思いを抱かせ、かえって時間と労力を要してしまうだけです。
また、その場から逃げようとしても、警察官が数人がかりで追跡し職務質問に応じるよう求めることもあるでしょう。
ただし、答えたくない質問には無理に答える必要はありません。
(2)所持品検査について
職務質問の際には、所持品検査がされることもあります。
こちらもあくまで任意で行われるものですから「所持品検査には応じない」ときっぱり断ってもいいわけです。
ただし、所持品検査についても、職務質問と同様、警察官には一定程度の有形力の行使が認められています。
例えば、強盗の疑いが濃厚な者が、質問に対し黙秘したうえ、何度もバッグを開けるのを拒否した場合に、その者が持っているバッグの鍵がかかっていないチャックを開けて中をちらっと見る行為などは最高裁判例において適法とされています。
(3)警察官には手を出さない
突然、警察官からの職務質問を受け、抵抗したくなる気持ちはわかりますが、そこは気持ちをグッと抑えましょう。
間違っても、警察官の顔を殴ったり、足を蹴ったりすることはもちろん、胸ぐらをつかんだり、腕を押さえつけるなどして警察官に手を出してはいけません。
ここで警察官に手を出すと、公務執行妨害罪の現行犯として逮捕されるおそれがあります。
(4)職務質問の状況を記録に残す
職務質問にあったら、スマートフォンやボイスレコーダーなどで現場の状況や音声を記録しておくことも方法の1つです。
威圧的態度をとる警察官に対する抑止効果を期待できますし、のちのち裁判で職務質問の適法性が争われた場合、証拠にもなり得るからです。
警察官から記録を止められそうになった場合は、「職務質問の状況を記録に残すため」などといってはっきり拒否しましょう。
この時点で、あなたの承諾がない限り、警察官がスマートフォン等の記録機器をあなたから取り上げる権限はありません。
(5)弁護士を呼ぶ
自分1人での対応では不安だという方は、職務質問の現場に急行してくれる弁護士を呼ぶことも方法の1つです。
適当な弁護士を知らない場合は、ご家族などに電話して対応してもらいましょう。職務質問の際に、警察官が外部の方との連絡を遮断する法的根拠はありません。警察官からスマートフォンを手放すよう言われても何ら応じる必要はありません。はっきりと拒否しましょう。
弁護士が警察官との間に入れば、違法・不当な職務質問を抑止することなどが期待できます。
まとめ
職務質問の目的はあくまで犯罪の予防・鎮圧です。
警察官もその目的を達成するために職務質問を行っているのであり、だれかれ構わず職務質問を行っているわけではありません。
警察官の職務質問を受けたというのであれば、周囲で事件があったなど、一応何らかの理由があるからです。
これまで職務質問を受けた際の対処法についてご紹介してきました。
しかし、ご自身に何ら犯罪への関与がないのであれば、素直に応じればすぐに済むことです。
何らかの理由で職務質問に応じたくないというのであれば、上記でご紹介した対処法をご参考にしていただければと思います。
この記事が職務質問の対処法に興味をお持ちの方のためのご参考となれば幸いです。