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仮眠時間は労働時間に該当する?未払賃金の請求方法も紹介

仮眠時間 労働時間

警備員や看護師など、主に夜勤を含む長時間の勤務シフトがある仕事では、途中に仮眠時間が設けられていることがあります。
仮眠時間は、休憩時間と同じように扱われ、賃金が支払われていない場合も少なくありません。

しかし、仮眠時間も労働時間に該当するとして、賃金支払いの対象となる場合があります。

そこで今回は

  • 仮眠時間はどのような場合に労働時間に該当するのか?
  • 仮眠時間以外に労働時間に該当する可能性のある時間
  • 仮眠時間に対する未払賃金の請求方法

などについて解説します。

この記事が、長時間の勤務シフトのあるお仕事をされている方のための手助けとなれば幸いです。

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1、仮眠時間は労働時間に該当するのか?

仮眠時間は労働時間に該当するのか?

(1)そもそも労働時間とは

労働基準法では、使用者(会社)は、労働者に、休憩時間を除いて、1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないとされています(32条)。
これを、法定労働時間と言います。

使用者は、労働者と36協定と呼ばれる労使協定を結んでいればこの時間を超えて労働させることも可能ですが、法定労働時間を超えて労働させた時間については、割増賃金を支払わなければなりません。

そこで、未払賃金があるかもしれない、請求したい、という場合には、労働者が実際に働いた時間、つまり労働時間が問題となりますが、どのような時間が労働時間にあたるかについて、労働基準法では定義されていません。

例えば、警備員が実際に警備にあたっている時間など、本来の業務をしている時間が労働時間にあたることは明らかです。

しかし、仮眠時間や準備時間のように、本来の業務をしているわけではなく、かといって職場から離れて自由に過ごせるわけではない時間についてはどうでしょうか。

労働時間の定義を示したのが、三菱重工長﨑造船所事件最高裁判決(最高裁平成12年3月9日)です。

この判決では、労働基準法上の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であるとしました。

したがって、本来の業務とはいえないような時間についても「使用者の指揮命令下に置かれている」といえれば労働時間に該当することになります。

(2)実際に作業した時間は労働時間に該当する

仮眠時間とされている時間のうち、実際に作業にあたった時間は労働時間に該当します。

例えば、看護師が仮眠時間中に、容体が急変した患者の対応をしたような場合です。

たとえ仮眠時間であったとしても、対応が必要となって実際に作業をしたのであれば、その時間が労働時間に該当するのは当然といえます。

(3)実際に作業していなくても労働時間に該当する可能性がある

問題となるのは、特別な対応が必要とならず、作業をしていなかった仮眠時間(不活動仮眠時間)が労働時間に該当するかどうかです。

不活動仮眠時間が労働時間に該当するかの判断基準を示したのが、大星ビル管理事件最高裁判決(最高裁平成14年2月28日)です。

この判決は、泊まり込みでビル設備の管理業務を行う労働者が、仮眠時間は設けられていたものの、その時間中に突発の事態が起こった場合は対応しなければならないとされていた事例で、「不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。
したがって、不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。」として、仮眠時間全体を労働時間と認めました。

このように、仮眠時間中に実際に作業していなくても「労働からの解放が保障されていない」といえれば、労働時間に該当することになります。

(4)仮眠時間が労働時間に該当するかの判断基準

では「労働からの解放が保障されていない」といえるかはどのように判断されるのでしょうか。もう少し具体的にみていきます。

大星ビル管理事件最高裁判決では上告人(労働者)のビル警備員について、

  • 仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられている
  • 実作業の必要が生じることが皆無に等しいといった事情はない

として、「労働からの解放が保障されていない」と結論づけました。

この判決では、

  • 仮眠場所に待機している義務があったか(場所の拘束の有無)
  • 仮眠時間中の対応が義務付けられていたか(業務への義務付けの有無)
  • 作業の必要が生じることがあるのか(作業の頻度)

といった点が判断基準となっていることがわかります。

したがって、

  • 仮眠場所から外に出ることが許されていない
  • 警報や電話が鳴った場合に対応しなければならないとされている
  • 実際に対応の必要が生じる可能性がある

といった場合には、実際には睡眠していたとしても労働時間に該当することになります。

仮眠時間が労働時間に該当するか否かは、個別の事案により異なり、明確な基準があるわけではありません。
自分の場合どうなのかが気になる場合には、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

2、仮眠時間以外の労働時間に該当する可能性のある時間

仮眠時間以外の労働時間に該当する可能性のある時間

仮眠時間以外についても、「指揮命令下に置かれている」といえれば労働時間に含まれます。
問題となるのは以下のような場合です。

(1)着替え

単に私服を制服に着替える程度であれば、労働時間に該当するとはいえないでしょう。
しかし、労働者が実作業に当たり作業着や保護具の装着を使用者から義務付けられており、これを怠ると懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりするような場合には、着替えや装備の時間も「使用者の指揮命令下に置かれている」といえ、労働時間に該当します。

(2)準備・後片付け

実作業の前後の、準備や後片付けについても、実作業と不可分一体のものとして使用者から義務付けられている場合には、労働時間と認められます。

(3)朝礼・体操

朝礼や体操は、使用者から参加することが義務付けられている場合は、労働時間に該当します。

(4)手待時間

手待時間とは、作業と作業の合間の待機時間のことです。
例えば、店員が客を待っている時間が手待時間にあたります。
この場合、店員は、実際に客の対応にあたっていなくても、店内にいることが義務付けられており、客が来たら直ちに対応することを使用者から義務付けられているといえるため
、労働時間に該当します。

(5)移動時間

移動時間については、その内容が様々であるため、個別具体的に判断する必要があります。

就労場所への出勤のための時間、いわゆる通勤時間は、労働時間には該当しないのが通常です。

一方、出勤した後で、業務上の必要があって移動する時間については、労働時間とみなされる傾向が強いです。
例えば事務所で自動車に資材を積み込んで作業現場に移動し、そこで作業するような場合や、訪問介護サービスなど、ユーザーの下へ移動すること自体が業務に含まれる場合は、移動時間も労働時間に該当するといえるでしょう。

3、仮眠時間分の残業代を請求する方法

仮眠時間分の残業代を請求する方法

仮眠時間が労働時間に該当するのであれば、その時間分の賃金が発生するので、これが支払われていない場合は、未払賃金を請求できます。

給料は出ないとされてしまっている場合であっても、あきらめる必要はありません。

(1)証拠を集める

請求の第一歩として、まずは証拠を集めましょう。

①残業のルールや実際に支払いがあった金額についての証拠

未払賃金を請求する際には、自身が実際に働いた労働時間や、給与計算についての使用者側の定め、実際の支払額を確認しなければなりません。

労働時間についての証拠としては勤務予定表やタイムカード・出勤簿・勤務記録(日報)等、賃金計算に関する会社の定めを示す証拠としては就業規則、賃金規定や労働契約書、実際の支払額を確認する証拠として給与明細書といったものが挙げられます。

このうち就業規則は、労働者が10人以上いる職場では作成・周知が義務付けられています(労働基準法第106条1項)。

雇用契約書など労働関係に関する書類や、労働時間管理に関する書類については、使用者にはこれらを※3年間保存する義務がありますから、自身で請求して開示されない場合は、弁護士を通じて開示請求することが、未払賃金請求の第一歩といえます。

※将来的に5年となる見込みです。

②労働時間についての証拠

労働時間を立証するための証拠は、これでなければならない、と決められているわけではなく、様々なものが証拠になり得ます。

最も一般的なのはタイムカードですが、使用者が実際の労働時間に関わらず決まった時間に打刻させているケースもありますから、そのような場合は、自身でスマートフォンのアプリなどで出退勤時刻を記録したりするなどの自己防衛策を取っておくのがよいでしょう。

また、パソコンで出退勤を管理している場合は、その記録が重要な証拠となりますし、ログイン・ログアウトの記録だけでも証拠となり得ます。
このほか、業務日報や、職場の入居しているビルの警備記録なども有用です。

③労働内容についての証拠

仮眠時間に実際に作業をした場合には、その内容についての記録も残しておきましょう。

仮眠時間が労働時間と認められるには、実際に対応する可能性があるといえなければなりません。

実際に対応した際の記録も残しておくと、対応する可能性の有無が争いになった場合に有力な証拠になります。

(2)残業代を計算する

次に、記録をもとに未払賃金を計算しましょう。
残業代は、「1時間あたりの賃金×残業時間×割増率」で計算されます。

①1時間あたりの賃金

1時間あたりの賃金は、月給制の場合「月の基礎賃金÷1ヶ月の所定労働時間」で求めます。

おおまかに時給と考えるとわかりやすいです。
より正確にいうと、月の基礎賃金は、基本給と一部の手当を合わせたものから計算されますが、労働の対価としてではなく、個別の労働者の事情に応じて支給される手当は、基礎賃金に含めません。

このとき重要なのは、手当の名称ではなく実質で判断するということです。
たとえば「家族手当」であれば、扶養家族一人につき何円、というように規定されているのであれば基礎賃金に含まれませんが、扶養家族の人数に関係なく一律定額を支給するような場合は、基礎賃金に含まれることになります。
「通勤手当」も同様で、実費至急の場合は基礎賃金に含まれませんが、一律一定額が支給されている場合は基礎賃金に含まれることになります。

また、臨時に支払われた賃金や、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は、基礎賃金に含まれません。

②残業時間の種類と割増率

残業時間の種類は、時間外労働、深夜労働、休日労働です。

残業時間の種類

内容

時間外労働

法定時間(1日8時間、週40時間)を超えた労働

深夜労働

午後10時から午前5時までの労働

休日労働

法定休日(週1日もしくは4週4日)にした労働

残業時間の種類によって割増率が定められています。
深夜労働と時間外労働・休日労働が重複している場合には合算されます。

残業時間の種類

内容

時間外労働

法定時間(1日8時間、週40時間)を超えた労働

深夜労働

午後10時から午前5時までの労働

休日労働

法定休日(週1日もしくは4週4日)にした労働

仮眠時間が労働時間と認められる場合には、時間外労働かつ深夜労働となっていることも多いでしょう。

その場合、割増率は50%です。
例えば、1時間あたりの賃金が1500円であれば、1時間あたりの残業代は1500円×(1+0.5)=2250円になります。

※現状、中小企業には適用されていない規制ですが、令和5年4月1日以降は、中小企業も対象となります。

(3)未払賃金を勤務先に請求する

未払賃金額がわかったら、勤務先に請求します。

使用者が未払賃金があることを認識している場合は、交渉で支払われる可能性もあります。

もっとも、勤務先が「仮眠時間は労働時間に含まれない」として支払いに一切応じないことも考えられます。
その場合、内容証明郵便を勤務先に送付しましょう。内容証明郵便で請求しておけば、無視されたとしても請求をしたという証拠になり、一定期間内に労働審判の申立又は訴訟を提起することにより、未払賃金が※消滅時効にかかってしまうのを防ぐことができます。

※未払賃金は、支払日から2年(令和2年4月1日以降に支給された賃金は現状3年)が経過すると、消滅時効にかかってしまい、請求をしても認められなくなってしまいます。

勤務先が断固として支払いに応じない場合には、労働審判や訴訟といった法的手段を検討してください。労働審判は非公開の手続きで、訴訟に比べると解決までの期間が短く早めに支払いを受けやすいというメリットがあります。

4、仮眠時間が労働時間に該当するかが争われた判例

仮眠時間が労働時間に該当するかが争われた判例

上述した大星ビル管理事件は、仮眠時間が労働時間に該当するかが争われた代表的な判例です。

(1)事案の概要

事案の概要は以下の通りです。

  • 原告はビル管理会社で働く従業員
  • 会社が管理しているビルにおいて、ビル設備の点検・整備やビルの巡回などの業務に従事していた
  • 24時間勤務の途中に7~9時間の仮眠時間が与えられていたが、その時間は労働時間に含まれないとされていた
  • 仮眠時間中は、仮眠室において電話や警報への対応などが求められていたが、対応の必要がなければ睡眠をとってよいとされていた
  • 仮眠時間中の外出は原則禁止、飲酒も禁止
  • 実際に仮眠時間中に業務が必要となることもあった
  • 仮眠時間について支払われていたのは、2300円の泊り勤務手当と、実際に業務した場合の残業代のみ
  • 原告は仮眠時間すべてが労働時間にあたると主張して、残業代の支払いを請求した

(2)判決の概要

判決の概要は以下の通りです。

  • 労働時間とは「労働者が使用者の指揮監督下に置かれている時間」をいう
  • 不活動仮眠時間であっても「労働からの解放が保障されていない場合」には労働時間にあたる
  • 仮眠時間中も、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに対応することが義務付けられていた(Ⅰ)
  • 実作業の必要が生じることが皆無に等しいといったことはない(Ⅱ)
  • Ⅰ、Ⅱの事情から、労働からの解放が保障されていたとはいえず、仮眠時間は労働時間にあたり、残業代を支払わなければならない

判決によると、仮眠時間が労働時間に該当するといえるためには、仮眠時間中も業務対応が義務付けられていたといえる必要があります。

そのうえで、実際に対応の必要が生じる可能性があったことも重視されました。

対応の必要が「皆無に等しい」というわけでなければ労働時間にあたる可能性があると読めるので、労働時間に該当する仮眠時間の範囲は広いと考えられます。

5、残業代の請求は弁護士に相談を

残業代の請求は弁護士に相談を

「仮眠時間について残業代が発生していそうだが自分で請求できるか不安」という方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。

仮眠時間が労働時間に該当するか否かは事案ごとに異なり、画一的な基準がないため、労働者が個人で請求するには限界があります。

弁護士に依頼すれば、証拠の収集、残業代の計算、会社との交渉や法的手続きなど、未払賃金の請求に関するすべての手続をお任せいただくことができます。

ご自身が実際に働いた時間に対して正当な対価を得るために、ぜひ弁護士にご相談ください。

まとめ

この記事では「仮眠時間が労働時間に該当するのか」「未払賃金の請求はどのようにするのか」を中心に解説しました。

業務対応が必要な仮眠時間は、労働時間に該当するとされる可能性が高く、賃金支払いの対象となります。

特に、仮眠時間が深夜・早朝にかかる場合は、未払賃金は高額に上ることも考えられます。
ご自身の仮眠時間について少しでも気になった方は、お早めに弁護士にご相談ください。

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