新型コロナウイルスの影響による景気悪化のあおりで、派遣切りや従業員の解雇を行う企業が急増しています。
2020年5月の時点で、解雇や雇い止めに遭った人は、派遣社員や契約社員、アルバイトやパートなどの非正規労働者が中心のようです。
2008年のリーマン・ショックの際に大量の派遣切りが行われたように、不況になると非正規労働者の解雇や雇い止めが多発します。
労働者の側も「非正規だから仕方ない」と諦めがちですが、実は不況のさなかでも違法な解雇や雇い止めが行われているケースもあります。
特に、派遣社員を解雇や雇い止めとする派遣切りには問題が多く、不当な解雇や雇い止めに該当するケースも少なくありません。
そこで今回は、
- 派遣切りは不当な解雇または雇い止めかどうか
- 不当解雇、不当な雇い止めを争うにはどうすればいいか
- やむを得ず解雇または雇い止めとされた場合、生活を守るにはどうすればいいか
といった問題について解説していきます。
派遣切りに遭った方や、派遣切りに遭いそうで不安な方のお役に立てば幸いです。
目次
1、コロナで派遣切りが急増|そもそも派遣切りとは
そもそも「派遣切り」とはどういう意味なのでしょうか。
「解雇」や「雇い止め」とは意味が違うのでしょうか。
まずは、派遣切りの正確な意味を確認しておきましょう。
(1)「派遣切り」とは
派遣労働者は、派遣会社(派遣元)と労働契約を結んで働きます。
実際に働く場所は派遣先ですが、派遣元と派遣先との間では労働者派遣契約が結ばれます。
「派遣切り」とは、一般に、この2つの契約のうち派遣元と派遣先との間の労働者派遣契約が打ち切られること、または派遣契約の終了に伴って派遣元が派遣労働者との雇用契約を解雇もしくは更新拒否(雇い止め)とすることを指して使われます。
本コラムでは、特に断りのない限り、派遣切りという言葉を、後者である「派遣元が派遣労働者との雇用契約を解雇または雇い止めによって終了させること」を意味するものとして用います。
(2)コロナ禍での派遣切りの実情
コロナ騒動の発生後に「派遣切り」が全国で何件発生したかに関するデータは見つかりません。
しかし、厚生労働省によると、やはり非正規労働者を中心に解雇や雇い止めが急増しています。
2020年3月までに既に1,000人を超える人たちが解雇や雇い止めに遭っており、政府による緊急事態宣言が発令された4月以降はさらに急増する見込みです。
リーマン・ショックのときには製造業での派遣切りや雇い止めが中心でしたが、今回のコロナ禍では製造業以外にもさまざまな業種に影響が及んでいるのが特徴的です。
2020年の1年間で失業者が100万人以上増えるという経済専門家の予測もありますが、コロナ騒動が長引くとさらに失業者が増える可能性もないとはいえません。
今後は正社員の解雇も増えてくる可能性がありますが、それに先だって派遣切りや雇い止めはさらに増えると予想されます。
(3)「安易な派遣切りはしないように」政府からの要請
不況のときに派遣切りが行われやすい実情をふまえて、政府も対策をとっています。
厚生労働省・都道府県労働局から全国の派遣先の事業主に対して、「労働者派遣契約の安易な中途解除はしないでください」と題するリーフレットを配布するなどして、派遣労働者の雇用の安定を図るように要請しています。
とはいえ、コロナの影響で経営状態が急激に悪化する企業も多く、やむを得ず派遣切りを行う企業が少なくないのが実情です。
2、コロナ禍での派遣切りを違法だと主張できる?
(1)有期雇用契約の派遣社員に対する契約期間中の派遣切り
有期雇用契約を結んでいる派遣社員について、有期雇用契約を契約期間中に解雇する形での派遣切りが適法と認められるためには、正社員を整理解雇(リストラ)するときよりも厳しい条件があります。
期間を定めて雇用契約を結んでいる以上、その期間は雇用を保障する必要があるため、「やむを得ない事由」がなければ解雇はできないことが労働契約法に定められています。
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
引用元:労働契約法
なお、期間の定めのない雇用契約を締結している社員の整理解雇が適法かどうかの判断は、以下の要素(整理解雇の四要素)を総合的に考慮して判断されます。
- 人員を削減する必要性があること
- 解雇を回避するべく努力を尽くしたこと
- 解雇する人員の選定に合理性があること
- 解雇する者への事前の説明と協議・交渉を尽くしたこと
(2)有期雇用契約の派遣社員に対する契約期間満了時の派遣切り
一方で、有期雇用契約の派遣社員の契約期間が満了したときに行われる派遣切り(雇い止め)は、その適法性の判断の仕方が変わってきます。
有期雇用契約は期間の満了により終了することが原則であり、それを更新しないことが違法になるのは限定的な場合だからです。
労働契約法19条は、①有期雇用(労働)契約が過去に反復して更新されたことがあり無期雇用契約と同視することができる場合や、②労働者が有期雇用(労働)契約が更新されると期待することについて合理的な理由があるときは、雇い止めについて客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であるとしています。
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
引用元:労働契約法
したがって、コロナ渦による営業悪化を理由に有期雇用契約が期間満了で打ち切られてしまった場合でも、上記の①または②に該当するときは、整理解雇の四要素に照らして雇い止めの違法性が判断されることとなります。
(3)派遣切りに必要な手続き
派遣先は、派遣労働者と直接の契約関係にはありません。
したがって、派遣先が契約期間中にある派遣労働者についての労働者派遣契約を解除するためには、その旨を派遣元に申し入れる必要があります。
派遣元と派遣先との交渉の結果、両者間の労働者派遣契約が解除され、派遣元が派遣労働者を解雇したり雇い止めにしたりすると派遣切りとなります。
この派遣切りの際に、上記の要素を考慮してその適法性が判断されることとなります。
(4)不当解雇を争う方法
派遣切りが不当解雇に該当する場合は、解雇の無効を主張することができます。
解雇が無効であれば派遣元との雇用契約は継続していることになるので、不当解雇後に支払われなくなった賃金の支払いを求めることもできます。
不当解雇を自分で争う場合は、労働組合や労働基準監督署に相談したり、都道府県労働局に「あっせん」を申請するなどの方法が考えられます。
ただし、これらの方法には強制力がないため、派遣元が応じない場合は解決することができません。
そんなときは、労働審判や訴訟といった裁判所を利用する手続きが必要になります。
労働審判や訴訟をする場合は専門的な知識が必要になるため、弁護士に依頼した方がいいでしょう。
3、派遣切り後の生活を守る方法
やむを得ない事情で派遣切りに遭った場合は、今後の生活費を確保しなければなりません。
新しい仕事を探すことも大切ですが、当面の生活費が足りない場合もあるでしょう。
そんなときに利用できる制度をご紹介します。
(1)失業保険の受給
派遣切りで仕事を失ったら、次の仕事につくまでの間、失業保険を受給することができます。
会社の業績悪化を理由とする派遣切りの場合は「会社都合」での退職となるので、過去1年間に6ヶ月以上雇用保険に加入していれば受給資格を満たします。
詳細は、最寄りのハローワークで確認できます。
(2)生活福祉資金の借入
休業や失業によって生活が困窮する場合は、都道府県社会福祉協議会から「生活福祉資金」の借入を受けることができます。
この制度は従来からありましたが、コロナの影響で減収や失業した方を対象に以下の特例貸付が実施されています。
どちらも無利子・無担保の貸付で1年間据え置き、償還期限が来ても所得の減少が続いている場合には償還の免除を受けることもできます。
審査がありますが、詳細はお住まいの都道府県の社会福祉協議会へ相談するとよいでしょう。
①緊急小口資金(特例貸付)
主に休業者向けの貸付で、最大20万円を借り入れることができます。
派遣切りに遭った場合、まずは緊急小口資金を借り入れ、続けて次の総合支援資金を借り入れることもできます。
②総合支援資金(特例貸付)
主に失業者向けの貸付で、最大で3ヶ月にわたって60万円を借り入れることができます。
緊急小口資金貸付と総合支援資金貸付を併用すれば、最大80万円まで借りられます。
(3)住宅確保給付金の受給
コロナの影響で収入が減り、家賃が支払えない場合はお住まいの自治体から「住宅確保給付金」を受給することができます。 最大で9ヶ月まで家賃が補助されます。
(4)税金や公共料金の減免や支払い猶予
派遣切りに遭って収入が途絶えると、税金や公共料金の負担が重くなることでしょう。
税金については一定の要件のもとに減免の制度があります。
国民年金保険料や国民健康保険料にも、それぞれ減免の制度があります。
電気代やガス代、上下水道代なども一定の期間、支払い猶予が認められる可能性があります。
いずれも、減免や支払い猶予を受けるには申請が必要です。
詳細はそれぞれの支払先に問い合わせてみましょう。
(5)生活保護の申請
以上にご紹介した制度を利用できないか、利用してもなお生活費が足りないときは、生活保護の申請も視野に入れることをおすすめします。
カードローンなどで借金をする前に、生活保護を検討してみるといいでしょう。
4、派遣切り後に次の仕事を探す方法
派遣切りが合法な場合はその派遣会社に戻ることはできないので、次の仕事を探す必要があります。
コロナ禍で求人数が激減している状況でも、仕事を見つけやすい方法をご紹介します。
(1)複数の派遣会社に登録する
コロナ禍では正社員の求人だけではなく、派遣の求人も減っています。
派遣の仕事を希望する場合は、複数の派遣会社に登録して派遣先を紹介してもらえる確率を上げましょう。
(2)教育訓練給付制度を活用する
教育訓練給付制度とは、さまざまな資格を取るためにかかる専門学校などの受講費用が給付される制度のことです。
雇用保険に一定期間加入していた方が対象となります。
この機会に資格を取得したりスキルを身につけたい場合は、利用することをおすすめします。
詳細は、最寄りのハローワークに問い合わせてみましょう。
(3)需要が高まっている職種に応募する
コロナ騒動のなかで派遣切りにあったということは、あなたが働いていた業種は求人数が減少している可能性が高いということです。
したがって、今後もしばらくは同じ業種で仕事を見つけることは難しいかもしれません。
しかし、「コロナ特需」といわれるように、逆に求人数が増えている職種もあります。
生活を守るためには、需要が高い職種で仕事を探すのもいいでしょう。
(4)在宅ワークを始める
今後しばらくは外で働くと感染リスクもありますし、在宅ワークを始めてみるのもおすすめです。
テープ起こしやデータ入力といった簡単な仕事から、デザインや翻訳といった専門的な仕事まで、さまざまな在宅ワークがあります。
まずはさまざまな仕事を探してみて、気になる在宅ワークが見つかったら気軽に始めてみるとよいでしょう。
5、派遣切りに納得できないときは弁護士に相談を
派遣切りは、違法で無効な不当解雇または違法な雇い止めである可能性があります。
不当解雇や違法な雇い止めに該当するときは、派遣元に対して金銭的な請求をすることができます。
ただ、派遣切りが合法な場合もあります。
その場合は、派遣元と争うことで時間と労力を無駄にすることを避けて、自分の生活を守ることを第一に考えなければなりません。
弁護士に相談すれば、不当解雇を争う余地があるかどうかを見極めた上で、事情に応じた適切な対処法についてアドバイスを受けることができます。
一人で悩んでいると時間がどんどん過ぎてしまい、経済的にも苦しくなってしまうでしょう。
派遣切りに納得できないときは、早めに弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
派遣社員として働いてきた方なら、友人や知人のなかにも派遣切りに遭った方がいらっしゃるかもしれません。
そういうこともあって、コロナ禍での派遣切りは仕方ないことだと思ってしまいがちです。
しかし、この記事でお伝えしたように、派遣切りは違法なこともあるのです。
派遣切りに遭ったら、弁護士にご相談の上、正しい道を選択されることをおすすめします。