公務執行妨害は公務員に暴行や脅迫をした場合に成立する犯罪で、飲酒して警察官を殴ってしまうケースなどがその典型例です。現行犯逮捕されることもありますが、逮捕された方のご家族は突然の事態に途方に暮れてしまうのではないでしょうか。
そこで今回は
- 公務執行妨害とはどのような犯罪か
- 公務執行妨害はどのような場合に成立するか
- 公務執行妨害で逮捕された場合の流れ
などについて解説します。
この記事が、身近な人が公務執行妨害で逮捕された方のための手助けとなれば幸いです。
1、公務執行妨害とはどのような犯罪か
(1)職務中の公務員に暴行・脅迫をすると成立する犯罪
公務執行妨害とは、職務にあたっている公務員に対して、暴行や脅迫をした場合に成立する犯罪です。公務が妨害を受けずに円滑・適正に遂行されることを保護するため規定されています。
公務執行妨害にあたる具体例は以下のものです。
- 職務質問を受けている際に警察官に対して暴力をふるう
- 役所の窓口で職員に「殺すぞ」などの暴言を吐く
(2)3年以下の懲役・禁固または50万円以下の罰金が科される
公務執行妨害で有罪となると「3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金」が科されます。
罰金で済むことがあり、懲役となっても執行猶予がつくケースが多く、量刑が重い部類の犯罪ではありません。もっとも、有罪となれば前科がつくため、様々な社会的不利益が生じます。
さらに、他の犯罪も併せて成立する場合には、より重い刑が科される可能性もあります。例えば、公務員に暴行した結果ケガをさせてしまうと傷害罪が成立することになりますが、傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
2、公務執行妨害はどのような場合に成立するか
公務執行妨害が成立する要件(構成要件)は以下のとおりで、すべての要件を満たすと成立します。
(1)対象は「公務員」
まず、暴行・脅迫が「公務員」に対してなされることが要件になります。
刑法における公務員の定義は「国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員」です。具体的には、役所に勤務している国家公務員・地方公務員はもちろん、警察官、議員、公立学校の教員なども含まれます。
(2)「職務を執行」している際に妨害した
公務員が「職務を執行」している最中に暴行・脅迫をしたことも要件です。
公務員に暴行・脅迫をしても、職務と無関係のときであれば公務執行妨害は成立しません。例えば、プライベートで街を歩いていた公務員に対して暴行をした場合、公務執行妨害は成立せず、単なる暴行罪が成立するに過ぎません。公務員の休憩時間中についても同様です。
もっとも、職務と密接に関連する場合は「職務を執行」していると判断されます。例えば、県議会の委員長が休憩を宣言して退席しようとした際に暴行があった事例では、職務の執行中と判断されました。
また、公務員がしている職務が適法なものであることも必要です。違法行為をしている公務員に暴行・脅迫をしても公務執行妨害は成立しません。
例えば、警察官が税金の徴収という職務権限に含まれない行為をしている場合や、明らかに違法な職務質問をしている場合などに暴行・脅迫をしても公務執行妨害とはなりません。
(3)「暴行又は脅迫」を加えた
「暴行又は脅迫」は、一般的なイメージよりも広い範囲で認められ、公務員の身体に直接向けられたものはもちろん、間接的なものも含まれます。
例えば、以下のケースでも公務執行妨害が成立します。
- 駐車違反を取り締まっている警察官に石を投げる
- 職務質問中に警察官の自転車を蹴る
- 現行犯逮捕された際に、押収された覚せい剤が入った小瓶を踏みつける
- 役所窓口の職員の近くで棒を振り回す
3、公務執行妨害で逮捕された場合の流れ
(1)すぐに釈放されることもある
法律上は、逮捕から48時間以内に警察から検察に送られるかどうかが決まり、検察に送られると24時間以内に勾留請求をするかどうかについて判断されます。
公務執行妨害の場合、逮捕されてもすぐに釈放してもらえるケースがあります。一時の感情の高ぶりによって生じることが多い犯罪であるため、重大な被害が生じておらず、犯行を認めて反省し、証拠隠滅や逃亡のおそれがないと判断された場合、拘束期間は短くなる傾向にあります。
(2)最大20日間の勾留
勾留請求がなされて裁判所に認められた場合、まずは10日間勾留され、その間に取調べなどの捜査が行われます。10日間経っても追加の捜査が必要とされて延長が認められれば期間が延長され、さらに最大10日間勾留されます。したがって、勾留期間は最大で20日間です。逮捕は最大72時間(3日間)されるため、合計で最大23日間にもわたって、身体を拘束されてしまう可能性があります。
(3)検察官が起訴するかを判断する
勾留されれば、通常、勾留期間の間に、検察官が起訴して裁判にかけるかどうかを判断します。
勾留されずに在宅で捜査が進められた場合は、検察に呼び出しを受けて取調べがなされるなどした後、起訴するか否かについて判断されます。
いずれにせよ、起訴するかどうかを決定する権限を持つのは検察官です。検察官は犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の重さ、様々な情況を総合的に考慮して起訴するかを決めます。
(4)裁判で判断を受ける
起訴されると裁判が開かれ、審理を通じて有罪か無罪か、有罪なら刑はどのようにするかが判断されます。上述したように、公務執行妨害で科される刑は「3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金」で、執行猶予をつけることも可能です。
なお、略式起訴の場合には書面審査となり、法廷は開かれません。略式起訴とするには被疑者の同意が必要で、判決で科すことができる刑罰は罰金刑のみになります。
4、公務執行妨害で弁護士に依頼するメリット
(1)逮捕直後から接見できる
逮捕されてしまうと、初めの72時間は家族ですら会うことができないのが一般的で、その間に接見できるのは弁護士だけです。様子を知ったり伝言をしたりするには、弁護士に依頼するしかありません。
また、逮捕直後は、その後の対応を考えるにあたって大事なタイミングになります。弁護士は逮捕直後から接見に出向き、事情を聞いたり取調べのアドバイスをしたりするため、適切な初動対応をとることが可能となります。
(2)早期の身柄解放も可能
身体拘束が長引くと、職場にばれてしまう、取調べに対して不利な供述をしてしまうといった危険があるため、早期に身柄解放されるのが理想的です。
弁護士は、依頼を受ければ直ちに身柄解放のための活動に着手します。被疑者の反省の意思を書面化したり、身元引受人がいることを示したりすることで早期解放を求めます。また、もし勾留されてしまっても、勾留が不当であるとして争うことが可能です。
(3)不起訴を目指せる
公務執行妨害の場合、初犯で被害が軽く反省もしているようなケースでは不起訴処分を狙うことができます。起訴されて有罪判決がくだされると、刑罰が科されるのみならず、前科がつき様々な社会的不利益も生じるため、不起訴処分の獲得は非常に重要です。
公務執行妨害で保護されているのは、暴行や脅迫を受けた公務員自体ではなく、国や地方自治体の公務そのものであり、示談交渉は困難です。したがって弁護士の活動としては、被疑者の反省をアピールしたり、被害の軽微性を示したりすることが中心となります。不起訴となるためには、検察官とのやりとりに慣れている弁護士に依頼するのが得策でしょう。
(4)裁判になっても最後までサポート
もし起訴されて裁判が開かれることになっても、弁護士は最後までサポートします。
法廷での質問への答え方のアドバイスや、有利な事情の主張を行います。事実を認めていて有罪判決が出るケースでも、できるだけ軽い刑となるように活動します。
(5)無実の場合は徹底的に争う
「暴行がなかった」「公務員の行為に違法な点があった」などとして無罪を主張する場合には、逮捕直後から裁判段階まで徹底的に争います。
不利な供述調書を作成されてしまうと後から覆すのが困難であるため、逮捕直後から弁護士に取調べについてのアドバイスを受けるのが重要です。また、公務の違法性が争いになると、法律的に難しい問題となるため、弁護士の力が不可欠になります。
無実の場合には必ず早いうちに弁護士に相談してください。
まとめ
ここまで、公務執行妨害の成立要件や逮捕されてしまった場合の流れなどを紹介してきました。
一時の感情の高まりから、思わぬ形で逮捕されてしまうことがあるのが公務執行妨害の特徴です。もしご家族が逮捕されてしまったらすぐに弁護士にご相談ください。