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過労運転とは|行政処分、刑事責任について弁護士が徹底解説

過労運転

過労運転による悲惨なトラック事故…。トラックは一般の車と比べてとても大きく、重量も比較にならないほど重たい車両。そんなトラックが他車と衝突すれば、悲惨な結果が待っていることは誰の目から見ても明らかでしょう。より一層注意が必要となります。

他方で、トラック業界の労働環境は未だに改善されておらず、いつ、どこで過労運転による事故が起ってもおかしくない状況にあるといっても過言ではありません。

そこで、この記事では、

  • 過労運転による交通事故を起こすと、どんな行政処分・刑事責任を受けるのか
  • 過労運転に対する最近の行政の取り組みはどうなっているのか

などについてご説明したいと思います。
この記事が皆さまのお役に立てば幸いです。

交通事故の加害者について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

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1、過労運転によるトラックの交通事故

過労運転とは?~行政処分、刑事責任から国の取り組みまで徹底解説~

過労運転によるトラックの交通事故はときに重大な結果を招きかねません。

平成29年8月、徳島県鳴門市の徳島自動車道で、男性が運転する大型トラックが故障で路側帯に止まっていたマイクロバスに追突し、マイクロバスに乗っていた高校生ら16人を死傷させる交通事故を起こしました。(事業用事故調査委員会(以下、調査委員会)が公表した報告書によれば、事故前の連続運転による疲労の蓄積が「居眠り運転」につながったとしています)。

また、平成28年3月には、広島県東広島市の山陽道下り八本松トンネル内で、男性が運転する中型トラックが渋滞で停車中の車列に追突し、2名を死亡させ、4名に軽傷を負わせる多重追突事故を起こしました(調査委員会の報告書によれば、これも事故前の連続運転による居眠り運転などが事故につながったとしています)。

2、「過労運転」は道路交通法違反

過労運転とは?~行政処分、刑事責任から国の取り組みまで徹底解説~

過労等による運転は道路交通法で禁止されていて、罰則も設けられています。

(1)過労運転と刑事罰

道路交通法66条には、「何人も、(略)、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」との規定が設けられ、さらに、同法117条の2の2第7号では、これに違反した場合、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処すると規定されています。

(2)過労運転と行政処分

過労運転をした場合は、上記の刑事罰のほかに交通違反点数制度により点数が付加されます。

過労運転により付加される点数は25点と極めて高いです。処分歴0回でも15点以上で免許取消しですし、過労運転で25点が負荷されれば、免許取消し(欠格期間2年)となる可能性が極めて高くなります。

3、過労運転の「過労」とは

過労運転とは?~行政処分、刑事責任から国の取り組みまで徹底解説~

では、「過労」とは状態をいうのでしょうか?

「過労」はどんな要素から判断されるのでしょうか?
まず、「過労」とは、読んで字のごとく、過度な疲労による必要とされる行動がとれない心身の状態をいいます。

原因としては、

①睡眠の量的・質的な不足

 →慢性的な睡眠不足や、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害、徹夜など

②生体リズムの乱れ

 →日勤夜勤、交代勤務など

③長時間・高負荷の活動

 →作業が長すぎたり、きつすぎたりする

といったものが考えられます。

疲労が蓄積すると、

①外見上の徴候

 →表情がなくなる、ほほがこけている、血色が悪い、皮膚につやがないなど

②主観的徴候

 →頭がぼんやりする、考えがまとまらない、イライラするなどといった精神的徴候
 →目が疲れる、ぼんやりする、動作が鈍く無器用になる、外界の刺激に対する反応が遅く、かつ、不正確となるなどの神経的徴候、頭が重い、身体の力が抜けたようになる、足が重いなどの身体的徴候

が顕れるといわれています。

参考:厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」

4、過労運転による交通事故

過労運転とは?~行政処分、刑事責任から国の取り組みまで徹底解説~

前記のように過労運転そのものが禁じられ、それに対する罰則も設けられていますが、過労運転により人に怪我をさせたり、死傷させた場合は次の罪で処罰される恐れがあります。

(1)運転手本人

人に怪我をさせた場合は過失運転致傷罪、死亡させた場合は過失運転致死罪(ともに、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)に問われます。

また、過労とは異なりますが、「重度の眠気の症状を呈する睡眠障害」等の影響により、運転中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態でトラックを運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合は、準危険運転致死傷罪(人を負傷させた場合は12年以下の懲役、人を死亡させた場合は15年以下の懲役)に問われる可能性があります。

(2)使用者、運行責任者

刑事責任を追及されるのは運転者本人だけとは限りません。

道路交通法75条1項4号では、自動車の使用者(安全運転管理者等その他自動車の運行を直接管理する地位にある者)の自動車運転者に対する過労運転の下命・容認を禁じています。

そして、同法117条の2の2第10号では、これに違反した場合、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処すると規定されています。

なお、前記1でご紹介した平成28年の東広島市内の山陽自動車道での交通事故では、トラック運転手に懲役4年(過失運転致死傷罪、過労運転罪)の実刑判決、統括運行管理者に懲役1年6月、執行猶予3年(過労運転下命罪等)の有罪判決が下されています。

5、過労運転防止に向けた取り組み

過労運転とは?~行政処分、刑事責任から国の取り組みまで徹底解説~

トラック運転手の労働環境の悪化、それを原因とする過労運転による悲惨な交通事故の防止に向けて様々な取り組みが行われています。

(1)国交省がICT(情報通信技術)を紹介するガイドブックを作成

国土交通省は、令和元年6月、「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」に基づき、過労運転などによる重大事故発生につながる運転者の長時間労働是正、運送事業者における適切な運行管理等に役立つICTを紹介するガイドブックを作成・公表しています。

同ガイドブックでは、運行管理を適切に行うために運送事業者が実施するべきことを明確化し、運行管理を適切、効率的に行うための手段を提示しています。

これによって適切な運行管理、作業時間削減、燃料費削減、安全性向上などの効果があるとしています。

(2)行政処分の強化

国土交通省(各地方運輸局及び各運輸支局)は、自動車運送に係る事故防止の徹底を期すとともに、運輸の適正を図り、利用者利便を確保するため、運送事業者に対する監査を実施しています。

監査の結果、法令違反が判明した場合には、貨物自動車運送事業法や通達に基づく文書警告、自動車の使用停止、事業停止、許可取消など行政処分を行っています。

そして、平成30年7月1日から、上記行政処分が強化されています。

過労防止関連違反に係る車両停止等の処分量定が引き上げられ、また、トラックの行政処分に際し使用を停止させる車両数の割合が最大で5割まで引き上げられています。

(3)荷主の配慮義務の新設

トラック運転手の長時間労働の原因の一つに、荷主庭先での長時間の荷待ち時間・荷役時間があると指摘されており、荷主企業と運送事業者が一体となって、荷待ち時間の削減、荷主作業の効率化等長時間労働の改善に取り組むことが重要とされています。

そこで、貨物自動車運送事業法が改正され、荷主関連部分の規定につき令和元年7月1日から施行されています。
改正法では、荷主は、トラック運送事業者が法令を遵守して事業を遂行できるよう、必要な配慮をしなければならないことが義務付けられています。

また、荷主勧告制度の対象に、貨物軽自動車運送事業者が追加されるとともに、荷主に対して国交省が勧告を行った場合、その旨を公表するとしています。

さらに国土交通大臣は、トラック運送事業者の法令違反の原因となるおそれのある行為をしている疑いのある荷主に対して、荷主所管省庁と連携して「働きかけ」を行ったり、荷主が違反原因行為をしていることを疑うに足りる相当な理由がある場合、「要請」や「勧告・公表」を行うとしています。

まとめ

以上、過労運転による交通事故を起こした場合の処分などについてお分かりいただけましたでしょうか?

過労運転が起こる背景には業界の構造上の問題が横たわっており、個人の問題だけでは済まされない要素があります。
今後、行政の取り組み等によって、少しでも過労運転による悲惨な交通事故被害が減っていくことを期待したいと思います。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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